「げっ…、なんもねぇじゃんか…」

 そんな風に冷蔵庫を開けて俺が呟いたのが、真夜中の午前三時。
 飲もうとした牛乳も買ってあったはずのコーラもなくて、食べようと思ってたプリンもいつの間にかなくなってた。
 自分で食ったのか久保ちゃんに食われたのか、いまいち記憶薄いけど…、買いモノに行かなきゃ何も飲めないし食えないってのは事実で…、
 俺は仕方なくサイフ握りしめて、24時間営業中なコンビニに行くことにした。

 「コンビニで、牛乳とか買ってくる」
 「なら、俺も一緒に行くから…」
 「…って、べつに行かなくても俺が買ってきてやるけど?」
 「近麻、セッタ、ポカリとアイスの新作…、それから…」
 「だぁぁっ!! なんでいっつもそんなに多いんだよっ!!」
 「優しい時任クンがおつかいして来てくれるって言うから、ついついね?」
 「ついついで頼むなっつーのっ!」
 「あ…、そういえばハミガキ粉もなくなってたったけ?」
 「・・・・・・・一緒に来い」

 「ほーい」

 一人で牛乳とか買って帰るつもりだったのに、結局、こんなカンジでいつもみたいに二人で真夜中のコンビニに行くことになったけど…、
 実は久保ちゃんはいつも俺が買いモノに行くっていうと、なんかすっげぇいっぱい頼むから、特に夜は一人でコンビニに行ったことがなかった。

 …ったく、ちっとはエンリョしろってのっ。

 けど、そんな風に呟いてても、ホントは久保ちゃんとコンビニに買いモノに行くのは結構好きだったりする。
 それは一つのカゴの中に、二人で必要なモノを詰め込んでくのが楽しいからだった。
 一人で必要なモノもあるけど二人で必要なモノもあって…、それを一緒に選びながらカゴに入れると…、一緒に暮らしてんだなぁって…、
 いまさらなカンジだけど…、カゴにシャンプーとか入れながら思ったりするから…、
 だからそのキモチを詰め込むみたいに…、いつもいっぱいになるまでカゴに詰め込んでしまうのかもしれなかった。

 「ぜってぇっ、今日は妙なモン買うなよっ」
 「同じモノ買うのはいいけど、食える分だけ買いなね?」

 コンビニに到着した俺達は同時にそんなコトを言い合いつつ、食料の買出しをするために自動ドアをくぐる。
 すると、さすがにこの時間帯にはあまり客は来てなかった。
 店員もヒマそうにしてて…、ぼんやりと雑誌の整理とかしてる。
 俺はそんな店内を長めながら、いつもみたいにオレンジ色のカゴを取ったけど…、
 雑誌のある行こうとしてる久保ちゃんを見た瞬間に、ピシッと凍りついた。
 
 う、うわぁぁぁっ!!!!

 ココロの中でそう叫びながらダッシュして腕を引っ張ると…、久保ちゃんはのほほんとした顔をして俺の方を見る。けど、その理由も言えなくて、俺は強引に久保ちゃんを引っ張ったまま誰もいないお菓子コーナーまで逃げ込んだ。

 「どしたの?」
 「・・・・・・・く、首っ!」
 「首って?」
 「き、き……」
 「き?」
 「首んトコのキスマークが見えてんだよっ」
 「ああ…、そういえば練習だって時任がつけてくれてたもんねぇ?」
 「うわぁぁっ、こんなトコでそんなコト言うなっっ」
 「なんで?」
 「明日から、ココにこれなくなるじゃんかっ」
 「べつにそんなコトないと思うけど?」
 「と、とにかくシャツの首んトコを上にあげろっ」
 「うーん、Tシャツの首引っ張ったら伸びるんだけどなぁ」

 「そんなこと言ってる場合かっ!」

 そう言いながら久保ちゃんの着ているTシャツの襟首を、ぐいっと強引に上に引き上げるとキスマークが見えなくなる。
 けど…、はっきり言ってかなり不自然だった。
 それに付けた時にはなんとも思ってなかったけど…、明るいトコで見るとキスマークはかなり派手についてたりする。
 自分でつけたことを後悔しながらとりあえず店員に注意しながら買いモノをして、ダッシュでコンビニから出ようかと思ってると、店内に新しい客が入って来たのが見えた。
 だから俺がこそこそとカゴにお菓子とか入れながら、外に出る機会ををうかがっていたけど…、久保ちゃんは平然とした顔でカゴを持ってレジに行こうとする。
 しかも、キスマークを少しも隠さないままで…、
 だから俺はまたココロの中で叫びながら、久保ちゃんのそでをぐいっと引っ張った。

 「な、なに考えてんだよっ」
 「べつにキスマークくらい見られたっていいっしょ?」
 「良くないっ」
 「じゃ、虫刺されってコトで…」
 「見えるかってのっ」
 「そうねぇ」
 「ううっ…」
 
 「けど、俺についてるキスマーク見て時任がつけたなんて誰も思わないだろうから、そんなに心配しなくても平気だと思うけど?」

 たぶん…、カゴにアイス入れながらそう言った久保ちゃんの言葉は合ってる。
 こんなカンジで二人が買いモノしてても、そういうカンケイには見えないの同じように…、久保ちゃんの首筋とか鎖骨についてるキスマークも…、
 
 きっと、俺じゃない誰かがつけたように見えるに違いなかった…。
 
 男同士でって…、そういうのを知られたくないのは恥かしくてイヤだったけど…、
 それよりも、俺のつけたキスマークが他の誰かがつけたように見えるコトの方が…、何十倍もイヤだった。
 久保ちゃんがキスマークつけるのうまくて、だからなんとなくくやしくて…、それで一生懸命練習したのに…、
 いくら練習しても俺が付けた痕に見えないなんて…、そんなのは絶対にイヤだった。

 「久保ちゃん…、あのさ…」
 「なに?」
 「・・・・・・帰ったら、もっかい練習する」
 「うん」

 「だから…」

 だからの続きは久保ちゃんに言えなかったけど…、隠れないでそのまま手をつなぐみたいにカゴを二人で持ってレジに行った。
 たくさんたくさん…、カゴに久保ちゃんの好きな新製品とか、俺の今凝ってるヤツとか色々つめて…、
 そしたら店員にジロジロ見られたけど楽しい気分になって、コンビニを出てから俺は久保ちゃんの手と手をつないだ。

 「明日から、べつのコンビニに行く?」
 「目の前にコンビニあるのに、わざわざべつのトコに行くわけねぇじゃんっ」
 「だぁねぇ」
 「…って、なに笑ってんだよっ」
 「忘れちゃってるみたいだけど、キスマーク付けたのって時任だけじゃないんだよねぇ?」
 「へっ?」
 「俺の付けたキスマーク…、しっかり見えてるんですけど?」
 「げ…っ!!」
 「ま、一人じゃわからなくても、二人そろってれば一目瞭然でしょ?」
 「こ、こ…、これはただの虫刺されだっつーのっ!!!」
 「見えないって、自分で言ったクセに」
 「前言撤回っ!!!」

 「それはないっしょ?」

 帰ってから鏡を見たら、久保ちゃんが言った通りしっかりキスマークが見えてた。
 だから、ちょっとだけ他のトコに行こうかって思ったけど…、でもやっぱり今日も明日も俺と久保ちゃんはマンションの前にあるコンビニに行く。

 二人で一緒に…。
 
 近麻買って、セッタ買って…、そして時にはゴム買って…、
 そんななんでもない日々が、続けばってココロのどこかで想いながら…、
 
 だから今日も…、君と一緒に手をつないでコンビニに行こう。

                            『コンビニ』 2003.6.18更新

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