「あっっ!」
 俺はテレビ画面を見ながら、そう叫んだ。
 う〜、だってさ。
 だって、俺・・・消しちまった。

 く、久保ちゃんのセーブデータ。

 今さ、おんなじゲームしてたんだよな。
 発売されたばっかのヤツだから。
 しかも、どっちが早くクリアするか競争なんてしてたりして。

 やばい、コレはかなりヤバイ。

 他のことはワリとこだわんないケド、久保ちゃんってゲームに関しては結構うるさいんだよなぁ。
 殺されるとまではいかない、とは思うけど・・・半殺しぐらいにはされちゃうかもしんなかったりしてさ。
 あっ、なんか考えてたら、すっげぇ怖い顔した久保ちゃんが浮かんできた。
 うっ、胃まで痛くなってきたような気がっ。

 ピンポーン。
 
 「ただいま〜、時任開けて」

 ス、スベシャルグッドタイミング!!

 「時任〜」

 とにかく行くしかないよな。
 とりあえず、ゲームの電源は消してっと。

 「いちいち呼ぶなってのっ!」
 「まあ、そう言わないで」
 「おかえり、久保ちゃん」
 「ただいま、時任」

 あっ、コンビニ袋に新発売のポッキー発見!
 ちょっとラッキー。
 とか思いつつ久保ちゃんを見ると、久保ちゃんはコンビニ袋テーブルに置いて、テレビの前のソファーに座ってた。

 「久保ちゃん。今から何すんの?」
 
 俺が恐る恐る尋ねると、久保ちゃんはぼーっとした顔して、
 「ああ、ダンジョン途中だったから、夕食前にちょっと終わらせとこうと思って」
 なんて言いやがった!

 「く、く、久保ちゃん」
 「何?」
 「俺、早く晩飯食いたいっ」
 「まだ早いっしょ?」
 「食いたいって言ったら、食いたいのっ!」

 俺が食いたいって連呼すると、久保ちゃんはじっと俺の顔を見てから、フッと微笑んだ。

 「覚悟はできてるよね?」

 久保ちゃんの声がいつもより低いっ。
 微笑みがなんか怖いっ。

 「覚悟って何の?」
 俺がそう言い返すと、久保ちゃんは片手を俺の肩に置いた。

 「消したよね?」
 「な、な、なにを!?」
 「そりゃあ、決まってるデショ」

 久保ちゃんの顔が間近に迫ってくる。
 
 「セーブデータ」

 耳に囁かれた言葉に、俺は心の中でぎゃ〜っと悲鳴を上げた。
 その後、その日にあったことは、あんま話したくない。

 俺はとうぶん、そのゲームをしなかった。



           
 

                            『ゴメンね』 2002.2.20更新

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