花見。
満開の桜の下で、久保田は煙草に火を点けた。
その傍を、笑いさざめきながら、入学式を終えたばかりらしい学生の群れが過ぎていく。
それぞれの思いを抱えながら、新しい道へと踏み出す人々を、眼鏡越しに眺める。
いつしか、縁のなくなっていた世界。
普通に過ごしていれば、今頃は自分も、あの中に居たのだろう。
周りから年相応に見られる感覚とは、どんなものなのだろう――と考えて、久保田は口の端に、皮肉気な笑みを乗せた。
組、という特殊な世界に、何故か足を踏み入れて、死が自然に隣にあるようになったのは、いつからだっただろう。
猫を拾ってからは、巨大な権力とやらも絡んでいそうな、「謎」も背負うことになった。
それを苦だとは思わない。
ただ、同年代の人間との隔たりが、不思議な気になるだけだ。
「久保ちゃん、お待たせっ」
探していたオマケ付きの菓子が、ここにはありそうな気がする、といって、通りがかりのコンビニに飛び込んでいった時任が、袋を下げて戻ってくる。
煙草を吸うために外で待っていた久保田は、吸い込んだ煙を吐き出して、背中を浮かせた。
「買えた？」
「ふっふ〜ん。俺様の勘はスゲェだろ！」
自慢気に言って、時任はパッケージを二つ取り出した。
最近人気らしいそれは、どこにいっても売り切れ続出で、なかなかお目にかかることができないのだ。見つけては棚を空にする勢いで買っているために、マンションの部屋は、ちまい玩具で溢れることになった。
「違う種類だといいねぇ……」
「だーから、同じヤツだったら、捨てようって言ってるじゃんっ」
「んー。だってなんか、勿体無くない？」
「――久保ちゃんて、見かけによらず貧乏性だよなっ」
「エコロジーを愛する男って言ってくれる？」
「そんなヤツが、暖房ガンガンかけるかよっ」
「……」
桜が咲いて、春になったとはいえ、やはりまだ夜には冷え込む。久保田は暑いのは平気なくせに、寒いのは苦手らしく、そういう時には設定三十度以上で、暖房をかけていた。
言われて、久保田は何かを考えるように上を向き、ややあって、時任の肩を引き寄せた。
「…時任が、一緒に寝てくれたら、エコロジーになれるかも？」
「――却下っ！」
「なんで？」
「寝不足になるからっ」
「つまんないなぁ……」
「つまんながるなっ」
がうっ！ と牙を向く時任に、久保田は楽しそうに笑った。
自分に懐いた猫を、その存在ごと欲しくて、傷も回復した夏の、うだるような暑さの中――抱いた。
恥ずかしいらしくて、滅多に触れさせてはもらえないけれど、それでも、寂しさに敏い時任は、必要なときに必要な暖かさで、自分を抱きしめてくれた。
「なぁなぁ、久保ちゃんっ」
「ん？」
「せっかく外へ出たんだし、その辺で花見、して帰ろうぜっ」
「そおね。その玩具も、早く見たいことだし？」
花見が口実だということを見抜かれた時任は、ぷくりと頬を膨らませた。
久保田は、その様子を愛しそうに見つめた。
すると、なぜか、先程見た学生の群れを思い出す。
桜――ではなく、玩具を開ける場所を求めて、歩き出した時任の背中を追いながら、久保田は口から小さく息を吐く代わりに、灰色の煙を吐き出した。
「お互い、たぶんだけど…。どこが分岐点だったかなんて、わからないだろうしね」
そんな呟きと煙を吐き出した唇に浮かぶのは、やっぱり皮肉な笑み。
おそらく、さっきの群れも自分達も、母親と呼ばれる人の腹から、生まれたはずだ。
だが、両者の間には、不思議な事に隔たりがあり――、それが無くなる事は無い。
この世に同じように生を受けながら、何かが違ってしまった。
その結果が、今、目の前にある。
「えっ、今、なんか言ったか？」
「ソレの中身が同じ種類だったら、今日、一緒に寝ようかなぁって」
「な、なんでっ、そーなんだよっ！オマケの中身と一緒に寝るのと、何の関係がっ」
「あー、それはねぇ。勿体無いコトしたから、更に勿体無いコトして、もったいないオバケが出ないようにってね。おまじない」
「つか、もったいないオバケって何だよっ！」
「んー…、エコロジー推進派のオバケ。無駄なコトをすると、もったいないとかって出てくるらしい」
「らしいってっ、らしいってなんだよっ」
「まぁ、居るのは居るらしいんだけどね。見たコトないし」
「うっわっ、めちゃくちゃ胡散臭ぇーっ」
適当に歩いている内に、そんな会話をする二人の頭上を、ピンク色の花びらが舞い始める。
そして、春の桜の季節に笑いさざめいていた、学生の群れのように、久保田も時任も笑う。
だが、両者の間は隔たり――、まるで違う世界の住人。
それが不思議な気がしても、苦しくも哀しくもなく、あるがままに居るだけ。
しかし、今はその隔たりを、時に愛おしいとさえ思う。
その原因は、夏のうだるような暑さの中で確認した。
熱い欲望を感じながら、それを時任の中に吐き出しながら心の中で笑った。
二人きりの世界をくれるのなら、どんな隔たりだって構わない。
組だろうと特殊な権力だろうと、利用されるのではなく、利用する。
そうして、限りなく二人きりに近い世界で――、こうして毎年桜を眺められればいい。
「ねぇ、時任。オマケの中身は何？」
やがて、辿り着いた満開の桜の下、久保田がそう尋ねる。
すると、時任はうきうきした顔で、手に入れた菓子のパッケージを、開け始める。
一つ目を開け、次に二つ目を開け、それから、ちまい玩具を手にガックリと項垂れた。
「あ〜あ〜、俺様の花見気分をかえせ」
「ソレって、満開の桜を前に、言うセリフ？」
「ちなみに一緒に寝るとかも、花見気分と一緒に、飛んでっちまったから」
「アレ、最初から、そんな気分なかったんじゃなかったっけ？」
「う、う、うっせぇっ！」
また、がうっ！と牙を剥く時任に、久保田は吹く風のように、捨てられるのを防ぐために、手のひらの上のちまい玩具を奪い去る。
だが、時任は奪い去ろうとした玩具ごと、久保田の手を握りしめた。
「捨てるっつったのは、ジョウダン。ちゃんと飾る」
「どういう心境の変化？」
「そんなのはヒミツに決まってんだろっ。こーなったら、二つずつ集めてダブルコンプしてやる」
「ふーん、心境はヒミツで、ダブルでしちゃうんだ？」
「おうっ、全部二つずつな」
久保田の問いかけに、元気に返事した時任の笑顔。
その表情は年相応なのか、不相応なのか。
それとも、それは久保田が年相応に見られない事に似て――、何かの隔たりなのか。
どちらしても、隔てられた世界からは出られない。
望もうと望むまいと、とっくの昔に分岐点は過ぎてしまった。
「で、ちなみに、ダブルコンプってエコロジー？」
「うぅっ」
「もったいないオバケ…、でちゃうかも？」
「ううぅぅぅっ」
「今日は一緒に寝ようね？」
「だぁっもうっ！ オバケも寝不足も大嫌いだぁーっ！」
隔てられた二人きりの世界。
二人の重さで沈むベッドと、シーツの波に溺れていく身体。
時任が集めた、ちまい玩具も二人きりの世界を示すように、二つずつ在る。
しかし、時任の心境の変化の秘密を知ったのは、もっとずっと後の事。
その頃には、時任が楽しそうに並べていた、ちまい玩具は、何かを大切に愛しむように、プラスチックケースの中に――、ちゃんと二つずつ丁寧に全て揃えられていた。
【Comment 鳴木沢】
このお話は、な、なんと！！！vv
相方であり、友人である『Ｓｉｔｅ qwanno』のqwannoさんとコラボさせて頂いてしまったvvvv
お話なのですっ！！！vvvv***ヾ(≧∇≦)ノ"***きゃあぁあっ♪vv
私にとっては初っ、初コラボですっ！vv
原案？はqwannoさんなのでvv私が台無しにしていないかどうかっっ、
物凄く心配で心臓がドキバク、ドキバクですっ！！(＠Д＠;vv
でもでも、コラボさせて頂く事ができて幸せが大爆発なのですっ！！！vvvv
ゎぁぃ♪ ヾ(*⌒∇⌒)八(⌒∇⌒*)ツ ゎぁぃ♪vv
・・・・・さて、ココで問題ですvv
どこをqwannoさんが書かれて、どこを私が書いたのでしょう？
(ΦωΦ)ふふふ・・・・vvvv
くーさんっ！！！vvvv
本当に素敵なコラボを提案くださってありがとうございますっ！！vvvv
もうもうっ、心臓がバクバクでドキドキな上にvvvv
うれしさ無限大ですっ！！！vv(〃д〃)きゃ〜♪vv
気分は共同作業でvv五段ケーキカットなのですっ！！！！！vvvv←おい。
多謝vv(*>3<)人(>3<*)vv
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【Comment qwannoさん】
自分でも自分がどこを書いたのか分からないqwannoです。初めまして、こんにちは。
こんな体たらくで、よくもまあ、コラボりましょうｖｖ というか、書いてくださいネｖ なんて言えたものだと思います。それについては反省頻り。ヾ(_ _。)ハンセイ…したので、私の図々しさについては、お許し頂くとして(笑)
こんな素敵な五段ケーキを作って下さった鳴木沢さんには、感謝感謝感謝なのですっ！！
もういっそ、感謝感激雨嵐を歌いたい！♪(*´○｀)ｏ¶~~♪（要りません）
こちらこそ、本当に素敵な結婚（違）をありがとうございました！！ｖｖｖ(o*。_。)oペコッｖｖ
で、披露宴の後はハネムーンですよねｖ(゜ー゜)ニヤリ（おい）
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2009.5.2 |
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