今日も一日お疲れサン。

 …ってカンジにウチに帰りついて、玄関入ってリビングに向かう。
 今は深夜も過ぎて明け方近くだけど、時任はゲームしてるかテレビ見てるかのどっちか。いくら先に寝てなって言っても、ゲームしてるだけだっつーのとか言って起きてる。
 そして、コレくらいの時間になるとコントローラー握ったまま寝潰れてたりしてて…。だから、今日もそんなカンジのつもりでリビングのドアを開けた…んだけど、そこで俺が見たのは時任の寝顔ではなく、ある意味ホラーだった。
 未だ夜が明けてないから、電気を点けてない部屋は真っ暗。
 ゲームしてないから、テレビも真っ黒。
 そんでもって唯一の明りは…、なぜかロウソク。
 しかも、ロウソクは一本や二本じゃない。
 そんなロウソクの前でイスに座って頬杖をついている時任は、揺らめく炎にぼんやりと照らされて、電気のスイッチに手を伸ばしかけた俺の行動にストップさせた。
 アレ…、こういうのってどこかで聞いたコトあるような気がしなくもない?
 今は夏だし、一応まだ夜だし? ロウソクがいっぱいってコトは…、

 「・・・実は、俺の知り合いの知り合いの知り合いから聞いた話なんだけど。横浜のどこかにある元雀荘、つぶれちゃって廃屋になってる某所で…、夜になると音がするらしいんだ。前を通ると誰もいないのに牌をジャラジャラ混ぜる音が…」
 「ま、まさかソレ…っていうか、なんで帰ってきていきなり怪談話とかしてんだよ!」
 「だって、雰囲気的にそういうカンジだし。コレって百物語デショ?」
 「雰囲気的にって、どんな雰囲気だっっつーか、ひゃくものがたりって?」
 「百本ロウソク付けて一つ話をして終わるごとに一本ずつ消して、全部消えると妖怪が出るとかってヤツ」
 「ロウソク百本もねぇしっっ。それにケーキにロウソクで妖怪召喚って、どういう誕生日だよっ!」

 ・・・・・・・誕生日。
 時任がそう言ったのを聞いて、あらためてロウソクの下を見る。
 すると、苺が可愛らしく乗ったホールケーキがあった。
 そして、溶けたロウソクがポトリと落ちて一部文字を隠しちゃってるけど、チョコ板に書いてあるのは、たぶんマコトくんおたんじょうびおめでとう?
 …だとすると、もしかしなくてもこのケーキって。

 「・・・確かに百本はなさそうだけど、俺ってこんな歳だったっけ?」
 「ケーキ屋のオッサンが好きなだけくれるって言うから、適当に一握りもらってきた。いっぱいの方がキレイだし景気良いだろ?」
 「ケーキだけに景気良さそうかも? このままだとクリームじゃなくて、溶けたロウでコーティングされそうだし?」
 「へっ?…って、うわっっ、マジでケーキがぁぁっ!!!」
 「素敵なデコレーションだぁね」
 「とかノンキに言ってねぇで、早く吹き消せよっ! ケーキが死ぬぅぅぅっ!!」

 いや、ケーキは死なないし。
 そー言えばなんとなくキャンプファイヤーにも似てるのかなぁと思いつつ、時任に言われるままにロウソクの炎を吹き消す。すると、ロウ塗れになったケーキを見て、時任があーあとガッカリしたように肩を落とした。

 「せっかくだし、いっぱいの方か良いと思ったんだけどな…」

 そう言って可愛くぷぅっと頬を膨らませてる時任は、ホントにすごくガッカリしてる様子で…。そんな時任とロウ塗れケーキを見つめながら、きっと俺が帰って来るのをずっと待ってて、帰ってきたのを見計らってロウソクに火を点けたんだろうって…、
 その様子を脳裏に思い描くと、自然に口元に笑みが浮かんだ。
 ゆっくり伸ばした指先で、時任が俺のために用意してくれたケーキのクリームをすくい上げて口に含む。すると、程良い甘さが口内に広がった。
 
 「ねぇ、時任」
 「・・・・・なんだよ」

 呼びかけると返ってきたのは、不機嫌そうな声。
 でも、カオを見ればすぐに不機嫌じゃなくて、照れ臭いだけだってのがわかる。何か言おうとして口をモゴモゴさせてるのに、俺が帰るなり怪談なんかしちゃったせいでタイミング逃して言いづらくなっちゃったカンジで、少しぷぅっとふくれた頬も耳も少し赤かった。
 そして、俺が小さく笑うと、ふくらんでた頬が更にふくらんで…、
 その可愛い頬をつつく代わりに、また指にケーキのクリームをすくい取る。
 それから、今度はソレを自分の方にではなく、時任の方に向かって差し出した。

 「ねぇ、時任…、言ってくれないの?」
 「い、言うって何をだよ?」
 「板チョコだけじゃなくて、お前の口から聞きたいから」
 「・・・・・・・っ」
 「ねぇ、言って?」

 赤くなっていく時任のカオを見つめながら、オネガイしてみる。
 ホントは誕生日なんて忘れてて、ケーキを見るまで思い出しもしなかったし、今だってそんなのどうでも良いと思ってるけど、時任が言ってくれるなら…、
 時任かそう思ってくれてるなら、カタチだけの笑みを浮かべるコトなく言えそうだった。

 「・・・たんじょうびおめでとう、久保ちゃん」
 
 カオは赤いまま、でもハッキリと聞こえた時任の声。
 照れ臭さの残るカオで、それでも笑顔で俺に向けられたコトバ。
 望んでも望まれても産まれては来なかったけど、ソレだけでもういい…。
 もういいんだと思うと、自然に自分のカオに笑みが浮かぶのをカンジた。

 「ありがとう…、時任」
 「おうっ」
 「産まれて今までで、一番うれしいかも」
 「…って、ケーキくらいで大げさだって」
 「でも、ホントのことだし?」

 いつもの調子を取り戻した時任は、すくったクリームごと俺の指をパクっとくわえる。
 そして、そのまま上目づかいで俺を見たりするから、思わずなんか俺のモノくわえてエロいよね…って言ったらパシっと思い切り頭を叩かれた。
 
 「あの…、俺って今日誕生日なんですけど」
 「たんじょうびでも何でもっ、エロいのは俺じゃなくてお前の脳内だっっ!!」
 「あ、ついでに参考までにもっかい…」
 「何の参考だよっ!!つか誰が二度とするかっっ!」
 「えー、色々と使えそうだったのに…」
 「なんっに使う気だっっ! このエロ親父っっ!!」

 結局、一回しか俺のモノくわえてくれなくて、後はフツーに二人でケーキを食べた。
 溶けたロウソクでコーティングされかかってても、ケーキは今まで食べた中で一番おいしいかったし。だから、そう素直に言うと照れ屋サンな時任が、また少し赤くなって黙って食えって言った。
 そんな時任を眺めつつ、カンジる甘さはひたすら甘く甘くなっていって…、
 時任の視線がケーキに向いてる隙に、声には出して言えないコトバを唇だけでカタチづくる。そんなもう逃げられない甘くて甘い今に、手離せない甘さに身もココロも浸しながら…、
 俺は時任の右手を手袋を見つめ、明日を見るように目を細めながら…、
 これから先も何度も何度も引き金を弾くだろう自分の指に、さっき時任がくわえてた指にキスをした。
 
 まるで在りもしない永遠を…、誓うように…。

                                   『甘くて甘いモノ』 2012.8.26


保ちゃんっっ!!!!!!おたんじょうびおめでとうですo(>_< *)vv
(*^^)//。・:*:・°'★,。・:*:♪・°'☆オメデトォvv
み、ミニになってしまいましたのですが、ラブだけはむぎゅっと込めましたっっvv




季節小説TOP