始まりと終わりに…。
一年が始まるとか終わるとか…、そういうのは何をしてても来るモノだから、べつに待つ必要もなければ見送る必要もない。
早くても遅くても…、長くても短くても…、あまり関係ないっていうか気にしたことがなかった。
けど、今は隣りで寝転びながらボーっとテレビを見てるウチの猫を見てると、少し前まではこの部屋には俺以外誰もいなかったことを思い出す。
まだこの部屋がただひたらすら静かだった時のことを…。
でもそれは断片的な記憶でしかなくて、はっきりと思い出すことはできなかった。
「なぁ、年越しソバっていつ食うんだ?」
「うーん…、年越しって言うくらいだから12時近くなんでない?」
「・・・・ハラ減った」
「ちゃんと晩メシ食ったっしょ?」
「それはそうかもだけど…、ソバはソバなんだからいつ食っても一緒じゃんっ」
「つまり…、今、食いたいワケね?」
「当たりっ!」
今はまだ九時過ぎだったけど、時任の希望でソバをゆでるために鍋でお湯を沸かし始める。
ソバはコンビニの即席麺じゃなくて、大掃除が終わってから時任と一緒に正月用品を買いに行った時に買った生麺のヤツだった。
こういうのはメンドいから、たぶん一人なら即席で十分だからやらない。
だから、一人だったらやらないことも、二人だったらやる気になるから不思議だった。
いつもは何もしなかった玄関のドアの上にしめ縄を飾って…、テレビの上に鏡餅置いて、こうやってソバを作ってる自分が…。
けど、時任の顔を見てるとそれでいいんだって気がした。
「なぁ?」
「ん?」
「鏡餅って食えんの?」
「ああいうのは、中に小さい餅が入ってるから食えるよ?」
「鏡餅の中に?」
「餅の形してるけど、良く見るとプラスチックでしょ?」
「あ、ホントだっ」
「鏡開きになったら、それでおしるこ作ってあげるから」
「鏡開き?」
「1月11日」
「ふーん…、それより前はダメ?」
「ダメ」
「ケチっ」
「…作るのやめよっかなぁ」
「ウソっ、ウソに決まってるだろっ」
「なんてのはジョーダン、ちゃんと作ってあげるよ」
「…あのなぁ」
茹で上がってく麺を見ながらそんな話をしてると…、ホントに…、なんだか唐突に今日が大晦日でもうじき一年が終わるってカンジがしてきて…。
そしたらちょっと時任がいるかどうかを確認してみたくなって、茹でてる麺から目を離してリビングの方に視線を向けてみる。
すると、そこにちゃんと時任が寝転がってるのが見えた。
そうやって寝転がって猫みたいにカーペットになついてる時任の姿を見てると、腕を伸ばして抱きしめたくなる。
時任を想うたびに息が苦しくなって眩暈がするほどの、愛しさと恋しさだけがそこにあるから…。
過ぎていく時間とこれからの時間と、そして今を…、時任と一緒にいつも抱きしめてたかった。
だから出会ったことが幸運だとか不幸だとか…、そんなことを考える必要なんかない。
出会えたらそれがすべてで、それ以上でも以下でもないから…。
目の前にいる時任に向かって…、手を腕を伸ばすことだけしか考えなかった。
ただひたすら…、時任を抱きしめることだけしか…。
それが間違っていたとしても、それが時任を苦しめることにしかならなくても、俺はそうやって抱きしめてるしかない。抱きしめた腕もつないでいる手ももう離せないから…。
けど、その想いはいつか…、何かを壊してしまうのかもしれなかった。
「く、久保ちゃんっ!!」
「なに?」
「鍋が吹いてるっ!!」
「あ、ホントだ」
「なに落ちついてんだよっ! さっさと火ぃ止めろっ!」
「・・・・・・スープがちょっと蒸発しすぎたかも?」
「蒸発したのは、俺のじゃなくて久保ちゃんのスープっ!」
「時任君ってば冷た〜い」
「気色悪い言い方すんなっ!」
ボーっとしてた久保ちゃんが茹でた茹ですぎの麺に、少し少なくなったスープを注いで、具をのせると年越しソバが完成した。
けど、茹ですぎててもスープが少なくても…、年越しソバはうまかった。
もしかしたらウマイのはそばの味じゃなくて、隣に久保ちゃんがいて…、こうやって一緒にソバ食ってるからなのかもしんねぇけど…。
こうやって目の前に鏡餅とか…、年末のテレビとか…、ソバを作ってる久保ちゃんを見てたらホントに年が変わるんだって気がした。
今日が12月31日だってのは、カレンダー見れば誰でもわかる。
でも、一年が過ぎたんだって実感は…、俺にとってはたぶん日にちとかそんなんじゃなくて…。
久保ちゃんとどんくらい一緒にいたかってことを感じることだった。
何もしなくても当たり前に時間が過ぎて…、一ヶ月も一年も過ぎてくのかもしんない。
でも、一緒にいることを感じながら、実感しながら一年を…、久保ちゃんといる日々をちゃんと部屋の柱でも頭の中の記憶でもなくて…、ココロに刻んでたかった。
なにがあっても、どんなことが起こっても…、忘れないように…。
「年越しソバ…、作ってくれてサンキュー」
「伸びちゃっててゴメンね」
「うまかったからいいじゃんっ、べつに伸びてても…」
「・・・・時任」
「な、なんだよっ」
「べつに…、ただ、好きだなぁって思っただけ」
「なんだそりゃっ」
好きだって言いたかったのは俺の方だったのに…、その前に久保ちゃんに先手を打たれて言えなくなった。
一年がもうじき終わるから、いつも手を握っててくれる久保ちゃんに…、一緒にいてくれてありがとうって言うべきなのかもしんないけど…。
なんとなくありがとうの数だけ、好きって言いたい。
一緒にいた時間も…、想い出になって過ぎてくかもしれないたくさんのことも…。
全部、全部…、その中には好きってキモチがいっぱいに詰まってた。
久保ちゃんに触れられた先から、その想いがこぼれ落ちても…、なくならないくらいに…。
過ぎていく時間も、これからも…、そして今も久保ちゃんが好きで…。
ワケなんかなにもなくて、その理由なんかなにもなくても…、ただ好きだったから…。
ずっとずっと…、ただ一緒にいたかった。
時計の針がだんだんと0時に近づいてきて…、今年の時間が少しになってくる。
だからその時計の針を見てると、なんとなく久保ちゃんにくっつきたくなった。
どうしようかって思ったけど、久保ちゃんの隣に移動して…、肩にコツンと頭を乗せる。
すると久保ちゃんは、腕を伸ばして肩を抱きしめてくれた。
「どしたの?」
「べっつにぃ」
「ま、うれしいからいいけどね?」
「…か、勝手にうれしがってろっ」
憎まれ口を聞いてても…、ホントはそうしてくれてんのがスゴクうれしかった。
今年が去年になって、来年が今年になる瞬間に…、口には出して言えなかった好きを…、触れられてこぼれ落ちていく想いを久保ちゃんに伝えたかったからなのかもしれない。
ありがとうのかわりにたくさん口ずさみたい、好きのキモチを…。
時計の針が残りの一分を切って…、テレビでもカウントダウンのコールが始まる。
すると久保ちゃんは俺の顎に手をかけて、ゆっくりと自分の方に向けさせた。
そしたら優しい久保ちゃんの瞳が目の前にあって…、それを見てると自然に俺の腕が久保ちゃんの首に回る。
けど目は閉じずに、久保ちゃんの瞳を見つめ返した。
「明けましておめでと…、久保ちゃん」
「おめでとう…ね、時任」
おめでとうを言って触れ合った唇は、深く深くキスを繰りかえしていく…。
抱きしめてくる腕の温かさをカンジながら…、想いの熱さを伝え合うみたいに…。
そこには今日も明日も、去年も今年も何もなくて…、ただ恋しさと愛しさだけがあった。
恋するコトに…、愛しいと思うコトに意味なんかなくても…、大切なモノが紡がれていくキスと想いの中に…。
そうしてる内にカーペットの上に押した押されたけど、キスに反応して熱くなっていく身体が、キスじゃ足りないって言ってたから…、されるままにまかせて久保ちゃんの背中を抱きしめる。
そしたら久保ちゃんは、身体の熱をあげようとしてる手を少し休めて、俺の髪を優しく撫でてくれた。
「今日は…、手つないで寝よっか? 夢でも会えるように…」
「・・・・・・うん」
過ぎていく今日も、一年も…、たぶん振り返ったりすることはないかもしれないけど…。
けど、こうして抱きしめ合ってる今は、夢でも幻でもない。
上がっていく熱も…、好きだと叫んでるこの想いもキモチも…。
すべてが時間の上じゃなくて、過ぎていく時の中でもなくて…、大好きなヒトを想うココロの中だけにあるから…。
だからつなげられた身体が…、ココロまで熱くさせてるのかもしれなかった。
「好き…、大好き…」
苦しい息の合間にそう呟きながら、まだ眠ってはなかったけど離れたりしないように…。
一緒にいられるように…、俺は久保ちゃんの手に指をからめてぎゅっと握りしめた。
HAPPY NEW YEARなのです!!!
明けましておめでとうございますです〜〜\(^O^)/vv
昨年はとてもとてもお世話になりましたっっ、ありがとうございます(T.T)vv
今年もよろしくしてやってくださるとうれしいですvv
な、なんて…、ミニミニだったり…(冷汗)←おいっ。
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