聖なる夜に。
12月24日…、水曜日…。
なんとなく、カレンダーの日付を見てからベランダのある窓の前に立ったけど…、
ココで暮らすようになったばっかの頃は部屋の中にこもってばっかりだったし、寝るのが明け方で起きるのが夕方だったりしたから…、外の景色はあんま見なかったような気もする。
けど、いつだったのか忘れちまったけど、ココに来て始めてベランダから外を見た時…、
なんとなく…、見上げた空が明るくて青かったのが意外だったのを今も覚えてた。
その時、このマンションに来る前の記憶なんてなにもないばすなのになぜか街も空ももっともっと灰色だった気がして…、俺の後ろに立ってセッタを吹かしてた久保ちゃんを振り返ったたけど…、
思ってたのをそのまんま言ったら…、
『街も空もオンナジで変わってないよ…、たぶんね』
って言って、久保ちゃんは俺の頭を軽く撫でてから口から灰色のケムリを吐き出した。
久保ちゃんに頭を撫でられるとコドモあつかいされてるカンジでムカつくけど…、ちょっとだけうれしくて…、なんかスゴクほっとする…。
街とか空とか昔と同じかどうかなんてわらなくても、たぶんこれでいいんだって…、
頭を撫でながら空を見上げてると、そんな風に想えた…。
けど、今日の空はその時と違ってたぶん晴れてなくて曇りで、窓までくもってて外はあんま見えない。だからどうってワケじゃねぇけど、さっきからくもった窓の前で座ってた。
久保ちゃんはバイトで出かけてていねぇし、やってたゲームはさっきクリアしたし…、
でも、そうじとか洗濯とかそういうのをするのもなんかメンドい。
どうせなら雪でも降んねぇかなぁって思いながら、曇ったガラスに指で落書きしながら歌を歌うと、自然にクリスマスソングのメロディーが口から出た。
「ジングルベール、ジングルベール…、鈴が鳴るぅ……」
歌いながらキュッキュッと音を立てて、俺様天才って書いてみる。
そしたら、なんとなーくそこらヘンの壁にある落書きみたいなカンジだったから、すぐにぐちゃぐちゃにして消した。今さら、そんなの書かなくったって当たり前ってヤツだし…、
けど、それを消したら書くコトが急になくなって、くもったガラスの上で指が止まる。
そして指を止めたままでちょっとだけ考えてから…、もっとべつのコトを書くコトにした。
久保ちゃんのバーカ、アホっ! エロ親父っ!
たまには禁煙しやがれっ!
新聞読みながら、トイレにこもるなっ!
新発売だからって、マズいもん買ってくんなっ!
それから…、クリスマスくらい・・・・・・
最後に書いたヤツは…、途中で文字じゃなくてただの線になった…。
長く長く横に伸びてく線は、窓枠に指が当たって止まる。
真っ直ぐに引いた線の中にある景色は、いつの間にか薄暗くて良くわからなくなってた。
ずっと同じトコばっか繰り返し歌ってた歌も、冷たいガラスから指を離すと歌う気分じゃなくなる。だから、黙ったままで文字を書いてた指先を見たら、ガラスと同じように冷たくなって少し赤かった…。
「トナカイの鼻が赤いのって、ただ単に寒いだけだったりしてな…」
べつにどーでもいいコトとか呟いて、それから窓からソファーの方に移動する。そしたら、誰もいないはずなのにキッチンの方で音がしたから、驚いてそっちの方を見たら…、
いつの間にかパイトに行ってたはずの久保ちゃんがいた。
「い、い、いつの間に帰ったんだよっ!!」
「ん〜、三分前くらいだけど?」
「ちゃんと帰ったんなら、帰ったって言えよなっ」
「ただいまって言ったのに、ぼーっとしててお前が気付かなかっただけデショ?」
「べ、べつにぼーっとしてなんか…」
「ま、いいけどね」
俺があわててガラスの文字を消すと久保ちゃんはそれ以上はなにも言わずに、買ってきた材料で晩メシを作り始める。けど、それはいつものカレーじゃなくてチャーハンだった。
チャーハンとクリスマスはなんの関係もないし、久保ちゃんが帰ってきたのだって…、
たぶん早くバイトが終わっただけで、きっと関係ない…。
でも、まあいっかって…、
あの日、空を見上げた時のように想った…。
そういうのはあきらめとかそういうんじゃなくて、それでいいってホントに想ってて…、
だからあきらめじゃないなら、これでいいんだと想う。
空を見上げながら空がなんで青いんだって悩むより、ただキレイだって眺めてる方がいい時だってあるから…、それでいいんだって…。
チャーハンを作ろうとしてる久保ちゃんの背中を見てホントにそう想った…。
俺はいつものインスタントじゃなくてコーヒーメーカをセットしながら、昨日コーヒーを飲もうとした時に牛乳が切れてたことに気付く。だから、もしかしたらって思って久保ちゃんに聞いたら、やっぱなんにも言ってなかったのに買ってきてくれてた。
「久保ちゃんって、牛乳飲まないのに牛乳なくなるとすぐ気付くよな?」
「そりゃあ、誰かサンが牛乳ないとコーヒー飲めないからじゃないの?」
「わ、悪かったなっ、お子様味覚でっ」
「うーん、オコサマって言うよりドーブツって感じだけど?」
「…って、そーいう久保ちゃんだってドーブツじゃんかっ!」
「確かに、ベッドの上ではそーかもね」
「妙なトコで認めてんじゃねぇよっ、エロじじぃっ」
「せめてオヤジにしといてくんない?」
「やだっ」
久保ちゃんの足を軽くガツッと蹴って、それから牛乳を取るために冷蔵庫を開ける。そしたら冷蔵庫の中に牛乳はちゃんと入ってたけど…、それともう一つ買ってきて入れられてるモノがあった…。
入れられてたのは四角い箱で、ちょっとだけ箱を開けてのぞいてみたら…、その中には大きな丸いケーキが入ってて…、
その上に乗ってるチョコレートの板には、Merry Christmasって書いてある。
久保ちゃんはこういうのって忘れてそうだったし、今日はクリスマスだからとかそんな話もぜんっぜんしてなかったし…、だから俺もなにかしようとか考えてなかった。
なのに…、俺の目の前にはクリスマスケーキがある。
さっきまでガラスにラクガキしながら、ガキじゃねぇからべつにクリスマスとかなくってもべつにいいって想ってたけど…、ケーキを見たらどうでも良くなくなって…、
俺はチャーハン作ってる久保ちゃんの背中に…、まるでガキみたいにくっついた。
「どしたの?」
「べっつになんでもねぇよ…」
「ふーん」
「・・・・・こうしてるとジャマ?」
「ん〜、ジャマじゃないけど、どうせならコレ作るの止めて正面からにして欲しいかも?」
「だ、誰がするかよっ。それにこうやってんのは、チャーハン作ってる間だけの限定だっつーのっ」
「なら、ずっと作ってよっかなぁ〜」
「チャーハンこがしたら、俺様一人でケーキを食ってやるっ」
「・・・・・・それはないんでない?」
そう言ってても、ケーキを一人で食うのは当たり前にジョーダンでホンキじゃない。
冷蔵庫の中のケーキを見てちょっとだけ…、でもホントはすごく久保ちゃんに抱き付きたくなったのはクリスマスだからケーキを食いたかったんじゃなくて、ただ久保ちゃんにケーキを買って来て欲しかったからだった。
だから、このケーキは久保ちゃんと二人で食わなきゃおいしくない。
俺はぎゅっと強く背中から腕を回して、久保ちゃんを強く抱きしめながら…、なんで空があんなに明るく見えたのか…、青く見えたのか…、
今になってやっとわかった気がした…。
まぁいいかってそう想うのは、もういいってあきらめなんかじゃない…。
わからないコトがあったら知りたくなるけど、ワケなんてわからなくて言葉にならなくても…、ちゃんとわかってるコトだってたくさんあるから…、
だから、言葉にするよりもソレをカンジてたくなるのかもしれなかった。
ちゃんと形にならなくてもそこにあるだけで十分で、こんな風に抱きしめていられれば…、
それだけで腕の中にあるモノがなんなのかって…、ココロの中にあるモノがなんなのかってちゃんとわかってくる。
だから、空が青い理由なんて悩まなくても良かった…。
「なぁ…、久保ちゃん」
「ん?」
「今日は久々に二人で飲まねぇか?」
「ま、今日はクリスマスだし、酔いつぶれるまで飲むのもいいかもね?」
「…って、いくら飲んでも酔わねぇクセにっ」
「カオに出ないだけっしょ?」
「・・・・・なら、今日はぜってぇっ久保ちゃんよか先につぶれねぇかんなっ」
「じゃ、負けた方が後片付けってコトで」
「げっ…」
クリスマスとかお正月とかそういう日はべつになくても困らねぇし…、そんなもんなくったってたぶん時間も月日もちゃんとすぎてくけど…、
そういう日は、不思議と一番一緒にいたいヤツと一緒にいたくなる…。
だから、なくても困らなくても、なくなればいいなんて想わなかった。
クリスマスにはケーキ、大晦日には年越しソバ食って…、きっとそういうのが一緒に暮らしてるってコトだから…、
一緒にいるってそういうコトだから…。
来年は俺がケーキを買って来ようって…、そう想った。
いつまでも離れない俺のコトを声を出さずに笑ってる久保ちゃんみたいに…、
・・・・・・当たり前のカオして。
メリークリスマス…。
聖なる夜はケーキを食べるためでも…、プレゼントをもらうためにあるのでもなく…、
大好きな君と一緒にいるためにある。
メリークリスマスvvなのです〜っっvv
ミニミニなのですが、やっとクリスマスすることができましたっvヽ(*^^*)ノ
えへへ、やっぱりクリスマスになるとうきうきしますですよねv
今年もクリスマスを無事に迎えることができて、とってもほんやりですv
のろのろなのですが、これからもがんばってまいりたいですっv(*^-^)
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