12月25日。
朝、何かに叩かれた気がして目を開いて見ると、すぐ近くに時任の顔があった。
メガネかけてなかったし、寝起きだったから良く見えてなかったけど…。
昨日の名残りもあって、俺は反射的に時任に向かって腕を伸ばす。
そして捕まえた身体を自分の方へと引き寄せようとしたんだけど、時任はそれを嫌がってじたばたと暴れ始めた。
昨日は少しも嫌がってなかったのになぁって、そんなコトを思いながらも離さないでいると、時任は俺の頭を叩く。
その叩き方が強かったから、ちょっと頭が痛かった。
「くーぼーちゃんっ、起きろっ!!」
「・・・・・・一緒にもっかい寝てくれたら起きてもいいけど?」
「なんで起きたのに、もっかい寝なきゃなんねぇんだよっ」
「ん〜…、どうせなら朝の運動した方が、すっきり起きられそうだからかなぁ?」
「なっ、なに言ってんだっ! バカッ!」
「・・・・・・・・・・」
「…って、そうしてる間に寝てんじゃねぇっ!!」
「…参考までに聞いとくケド、今何時?」
「五時」
「夕方の?」
「朝のに決まってんだろっ!」
「オヤスミ…」
「寝るなぁぁぁっ!!」
時任はどうしても俺を起こしたいらしいけど…、眠ったのは昨日じゃなくて、今日の三時くらいだった。
今が朝の五時だとすると、眠ってたのは賞味二時間くらい。二人とも眠った時間は似たり寄ったりだったはずなのに、時任は早起きしてやたら元気だった。
いつもは俺が起きてもまだ寝てるはずなのに…。
こんな時間にあんまり起きたくはないんだけど、時任の声がちよっとガッカリした感じになってきたから起きようかどうしようかって悩み始める。
早起きの三文の得はいらなくても、時任をガッカリはさせたくない。
そう思って再び閉じていた目を開けてみると、時任が声だけじゃなくて…。
ホントにガッカリした顔をしてるのが見えた。
「・・・・・時任?」
「もう起きなくていい…」
「なんで?」
「べつにたいしたことじゃねぇから…」
「けど、起こそうとしてくれてたんでしょ?」
「…うん」
「ワケ言ってくれたら、起きるかもしんないよ?」
「どうせクダラナイから、もう言いたくなくなった」
「クダラナイかどうかは、聞いてみなきゃわかんないと思うけど?」
「・・・・・・」
「言ってみてくんない?」
俺がそう言うと時任はうつむいてちょっとだけ、なにか考えてるカンジだった。
けど、俺が見えない目でじーっと見つめてると時任は小さく息を吐いて、起こした理由を小さな声で話し始める。
じっとそれを聞いてたけど、そのワケはくだらなくなんかなかった。
「まだ寝てからそんなたってなかったけど、目ぇ覚めたからなんとなく窓から外見て…」
「うん」
「そしたらたくさん雪が積もっててさ…。それがキレイだったから、久保ちゃんと一緒に公園に雪を見に行きたくなったんだ…。だから、ちょっと起こしてみただけっ」
「ふーん…」
「くっだらねぇだろ?」
「ぜんぜん」
「ウソつくなっ」
「ウソじゃないよ。話し聞いたら目が覚めたしね」
「でもやっぱいい。寒いし、まだ日も昇ってないし…」
「うんけど、時任と雪みたいから…、一緒に公園に行ってくんない?」
「なに頼んでんだよっ、立場が逆だろ?」
「逆じゃないよ。俺からのオネガイだから…」
「久保ちゃん…」
「一緒に行こっか? 公園」
「うんっ」
時任がうれしそうに笑って返事したから、それに微笑み返しながら俺は温かいベッドから出ることにした。
本当に公園は寒いだろうけど、時任を抱きしめていられたら凍えることはない。
だから俺は服を着替えてコートを来て、時任と一緒に公園に向かった。
まだ薄暗い夜明け前の道を二人でたどりながら…。
そんなカンジで行くことになった朝の公園は、行ってみると昨日から降り出した雪で一面覆われていた。公園の雪は薄暗くても、誰の足跡もついていないことがわかる。
ひっそりと静まり返った公園は、そうやってやがて日が昇って朝が来るのを待っているようにも見えた。
「すっげぇ、キレイに積もってんな…」
「そうだね…」
「こんなキレイなのにすぐになくなるなんて、もったいない気ぃする」
「けど、日が昇らないと温かくなんないよ?」
「だよな、やっぱ…」
「残念?」
「ちょっとだけ…」
時任はそう言うと雪の上にゆっくりと一歩だけ足を踏み入れる。
そうしてから、その足をゆっくりとあげてその跡を見た。
すると、そこには時任の靴底の模様がくっきり見事にうつっている。
だから俺もそれと同じように、時任の足跡の隣に自分の足跡をつけてみた。
すると、時任のよりも大きな俺の足跡がくっきりとつく。
その足跡と自分の足跡を見比べた時任は、少しムッとした顔になった。
「久保ちゃんって、結構足でかいよな?」
「身長のせいじゃないの?」
「・・・・・・なんかムカツクっ。足ぐらい俺が大きくたっていいじゃねぇかっ」
「それ以上は伸びないカンジなのに、足だけでかくなったらヘンでしょ?」
「俺様はまだ育ちざかりだっつーのっ! いつか久保ちゃんの身長を越えてやるから覚悟しとけよっ」
「はいはい、楽しみに待ってまーす」
「くっそぉっ、ムカツク〜〜っっ!」
時任はそう言いながら下にしゃがみ込むと、そこに積もってた雪をいきなり俺の顔に向かってぶつけてくる。
それをうまくかわしたら、時任がますますムッとした顔して雪をぶつけてきた。
まだ日が昇ってなくて…、雪が地面を覆い尽くしているのに…。
時任はその冷たい雪を手に持って、逃げる俺に向かって投げながら追いかけてくる。
しばらくそれをかわしてたけど、その中の一つが俺の顔に命中した。
「ぎゃはははっ、顔に当たってやんのっ!!」
「冷たいんですけど…」
「そんなの雪だから、当たり前じゃんっ」
「当たり前、ねぇ?」
また雪玉を作ってる時任は、すごく楽しそうな顔して俺を見てる。
しかもその雪玉は硬く握られていて、今度は当たったらかなり痛そうだった。
このままやられてるのはさすがにイヤだなぁって思った俺は、時任と同じように雪玉を製造し始める。
まだ辺りは薄暗くて…、夜は完全に明けていないのに…、時任と俺は公園で雪合戦を始めるはめになった。
「な、なに雪玉つくってんだよっ!」
「やられてるだけってのは、性に合わないんだよねぇ」
「当てられるもんなら、当ててみやがれっ!」
「その言葉、後悔させてあげるよ」
まだ日の昇らない公園で始まった雪合戦は、俺が最初に投げたのが原因だったけど、ここまでマジでやるつもりなんかなかった。
けど、久保ちゃんは雪玉をつくって、つぎつぎ俺に向かって投げてくる。
しかも、その雪玉の速度はハンパじゃないくらい早かった。
あんまこういうこととかしそうにねぇのに、なぜか雪合戦がウマイ。
こんなのありかよって思ってると、久保ちゃんの雪玉が顔にバシッと当たった。
「うあっっ!!」
「うーん、冷たそうだなぁ…」
「自分でぶつけといて、しみじみつぶやいてんだよっ!!」
「なんとなく」
「なくとなくで言ってんじゃねぇっ!」
「あっ、あそこにペンギン」
「えっ?!」
バシッ!!!
「うっ…!! 姑息な手をっ!」
「あれって姑息? 普通、ペンギンがいるなんて誰も思わないよねぇ?」
「うるせぇっ!!」
まだまだ雪合戦は続いてたけど…、ホントはそれよりも気になってることがある。
それは俺のコートの中に入ってるモンを、どうやって久保ちゃんに渡すかだった。
朝早く起きたのは…、ホントは雪を見るためなんかじゃなくて…。
昨日、ケーキと一緒に買ったプレゼントを枕元に準備するためだった。
けど、眠ってる久保ちゃんの枕元にプレゼントを置いても、ちゃんとわかってくれるかどうかわかんなくて、結局、手に持ったままになってて…。
どうしようかって思ってる内に、なんとなく昨日から雪が降ってるのを思い出した。
だから、ちょっとだけ外の様子を眺めて見たら…。
本当になにもかもが白だけに染まってて…、すごくキレイだった。
ホワイトクリスマスって言葉が浮かんでくるぐらいに…。
プレゼントはまだ手のひらの中にあったけど、あの雪が溶けない内に…、白い雪が白いままの内に見せかったから…。
そのキレイな一面の白を見せたかったから久保ちゃんを叩き起こした。
それが雪合戦になったのは予定外だったけど…、久保ちゃんと始めてする雪合戦は形勢不利でも楽しかった。
「ぜんぜん、当たらねぇ…」
「さっきからあんまり動いてないんだけど?」
「くそぉっ、なんでだっ!!」
「さぁ?」
俺と久保ちゃんの足跡でいっぱいになっていく公園は、始め見たときみたいなカンジじゃなくなってきてる。
でも二人分の足跡が増えていくのを見るのは、なんとなく楽しかった。
走ってるのとか歩いてるのとか一杯あって…、でもその中でも一番好きな足跡は始めに公園に向かって歩いて来た足跡。
その足跡は、公園の入り口から二人分ずっと並んで付いてた。
歩調も歩幅も違うのに…、同じ道をたどりながら…。
久保ちゃんの足跡も…、俺の足跡も同じ方向を目指していた。
「久保ちゃーんっ!!」
大声で名前を呼んで、そして雪玉じゃなくてポケットにしまい込んでたプレゼントを持つと、俺はそれを久保ちゃんに向かって思い切り投げた。
そのプレゼントが雪玉に間違えられて、さけられないように願いながら…。
すると、ようやく赤く染まり始めた空が雪も同じ色に染め始める。
まだ夜は明けないと思っていたのに…、当たり前のように朝はやってきていた。
投げたクリスマスプレゼントは辺りが明るくなったおかげで、よけられずに久保ちゃんの手の中に無事に収まる。
サンタクロースになれなかった俺のプレゼントは、夜の暗闇じゃなくて朝の光の中にあった。
「それさ…、ホントは枕元に置きたかったけど…」
「サンタクロースみたいに?」
「うん…。でも、なりそこねたってカンジ」
「それじゃ、もしかしたら俺もかもね?」
「え?」
「ちょっとコートについてるフードの中見てくれる?」
そう言われてフードの中をのぞいたら、俺のと同じカンジの赤い包装紙でラッピングされた小さな箱が入ってるのが見える。
けど、それをいつ入れられたのかはぜんぜんわからなかった。
靴下じゃなくてフードに入ってたプレゼントは、サンタクロースじゃなくて…、久保ちゃんがくれたプレゼントだけど…プレゼントをもらたいのは、サンタクロースじゃないからよかったって思った。
久保ちゃんがなりそこねでよかったって…。
サンタクロースみたいに、いい子とか悪い子とかそんな理由でもらいたくなかったから、そんな風に思った。
「サンキュー、久保ちゃん」
「時任もアリガトね」
「…でも、なんでコートのフードなんだよっ」
「大きな靴下はなかったし…、普通の靴下に入れるのはちょっと、ねぇ?」
「うっ、確かに…」
手にはさっきまで持ってた自分のじゃなくて、久保ちゃんからもらったプレゼントが乗ってる。
それを持ってると…、朝日が公園を照らし始めて…。
赤くなりかかっていた空が、今度は青さを取り戻していく。
そんな夜から朝へと変わっていく空を見ながらすうっと後ろに向かって倒れると、俺が倒れた形が雪の上に残った。
大きく両手を広げて…、まるでクリスマスの空を見上げているように…。
そしたら久保ちゃんが俺から少し離れた場所で、俺と同じように雪の上に倒れる。
すると、久保ちゃんの倒れた跡がそこに残った。
空を見上げてる俺の伸ばした手と、まるで手をつないだみたいに…。
すぐに消えてしまう跡だったけど、雪の上の俺らがしてるように手を伸ばしたら久保ちゃんが手をゆっくりと握ってくれる。
その手は雪合戦したせいで少し冷たかったけど、握っていると温かさが戻ってきた。
「そろそろ帰ろうぜ、久保ちゃん」
「もしかして、腹が減ったとか?」
「当たりっ!」
「じゃ、帰って朝メシにしますか?」
「おうっ!」
次第に消えていく朝焼けの空は、やがて完全な青になって空を覆い尽くしていく。
その空の青さを眺めながら、ただ好きな想いだけを詰め込んだ小さな箱だけを持って…、俺は久保ちゃんとマンションに帰った。
持ってるプレゼントの中身は気になるけど…、俺が久保ちゃんのプレゼントに詰めたように…。
その中に詰められた目では見えない何かを…、大事にポケットじゃなくて胸に抱きしめてたい気がした。
く、く、クリスマスが過ぎてるのに25日…(汗)
やっぱり私は終わってますデス〜〜〜(T.T)
うううっ、どうしましょう?(号泣)
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