バレンタイン殺人事件。





 左手には、なんとなく買ったカカオ99パーセントのチョコ。
 右手にはテレビのリモコン。
 そんで、目の前のテレビではニュースをやってる。
 だから、なんかつまんねぇなーとは思うけど、今の時間帯はニュースとかしかしてなくて、しょうがねぇからボーっと見てた。おまけに晩メシにはまだ早ぇし、風呂に入るのも早ぇ気がするしさ…。
 あ〜…、なんかだりぃ〜…。
 とか思いながら、一口だけチョコを食う。
 
 ・・・・・・うわっ!!にがっっっ!!!!!

 カカオ99パーセントのチョコって、チョコじゃなくてカカオだろっ!!
 どこが究極のビターだよっっ、苦いだけじゃんかっっ!!!
 つーか、残りどーすんだよ…。
 うー…、なんか口直しにウマいもん食いてぇ…。
 そーいや、今日の晩メシって何だろ。
 今日は久保ちゃんが当番だし、久保ちゃんに聞いてみっか…。

 「くぼちゃーん…」
 「ん〜?」
 「今日の晩メシなに?」
 「・・・・・・・」
 「今日のば・ん・め・し〜っ」
 「あー…、うん、晩メシね」
 「…って、だからなに?」
 「何にしよっか?」
 「俺に聞くなよっっ」
 「じゃ、適当に冷蔵庫に入ってるモノで…」
 「・・・・それで何ができるんだよ?」
 「うーん…、なんだろうねぇ?」
 「だあぁぁっ!!もうっ!!! 作る気あんのかっ!?」
 「・・・・・・微妙」
 「ざけんなよっ!!!」
 「・・・・・・・・」

 「つーかっ、話しかけてんのに新聞読んでんじゃねぇっつーのっっ!!」

 さっきから話しかけてんのに、ソファーに座って新聞読んでて生返事しかしねぇ久保ちゃんにムカついた俺は、持ってたリモコンを床に放り出すっ。それから、ズルズルと座ったままで床を滑って移動して久保ちゃんの読んでる新聞を取り上げようとしたけど、ひょいっと簡単にかわされた。
 くそぉぉっ、ムカつく〜〜〜っ!!!
 更にむかついた俺は立ち上がると、今度は久保ちゃんの後ろに回り込む。そしたら、なんとなくニュースに出てるレポーターの女の声が聞こえてきて…、なんかちょっとだけ気になったから、そのままテレビを少し見た。

 『今年のバレンタインの売れ筋は、どんなチョコレートですか?』
 『そうですねぇ…、ここら辺りでしょうか? 最近の傾向で義理チョコが減った分だけ、高いものを買い求めるお客さんがやはり増えているようですね』
 『なるほど、本命か自分用…といった所でしょうか?』
 『友チョコも多いようですよ』

 そんなレポーターと店の店員の話を聞いた瞬間っ!俺の頭の中で何かがひらめいたーーっ!!!  ふははははっ、今から美少年で天才な俺様より新聞を選んだ事を、海よりも深く後悔させてやるっっ!!!

 99パーセントカカオの恐ろしさを思い知るがいいっ!!!
 
 そう心の中で叫んだ俺は99パーセントカカオを右手に持ちかえ、左手で後ろから久保ちゃんの顎を掴みっ!!強引にグキッと上を向かせるっ!!!
 そしてっ、久保ちゃんが何か言おうとした瞬間を狙って、ポキッと四つに折っておいたチョコを全部口の中に放り込んだっ!!
 すると、さすがの久保ちゃんも99パーセントカカオの威力に、少し眉間に皺を寄せて苦そうな顔をする。チョコじゃなくてカカオのねっとりとした感じ、そして舌に広がる苦さ…っっ、俺はもう二度と食いたくねぇっ!!!
 けど、口の中にカカオを入れたまま、久保ちゃんは俺の方を見て微笑むと…、くるりと後ろを向いて、今度は逆に久保ちゃんが俺の顎を掴んだっっ。

 「な、なにすん…っ、ん、んんーーーっ!!!!」

 ぎゃあぁぁぁぁっ!!!!!!
 か、か、カカオが…っ、99パーセントのねっとりとしたカカオがっ!!
 俺の口の中にーーっ!!!
 
 「・・・・・・んぁっ!! や、やめっ!!!」
 「せっかくのバレンタインで俺とお前の仲だし、甘いのも苦いのも一緒に味わわなきゃ…、デショ?」
 「ど、どういうリクツで…、そーなんだよっ!!!」
 「…って、言われても恋はリクツじゃないし?」
 「ふ…っ、ん…っっ、意味不明だっつーの…っ」
 「けど、たぶん恋ってそういうモノかも…、ね?」

 「・・・・・・・良くわかんねぇけど、…そうかもな」

 苦い99パーセントカカオは食いたくない。
 なのに、苦いキスはやめたいのに…、やめられない。
 そういうキモチは、意味不明でわけわかんなくて…、
 けど、苦かったはずのキスも、続けてると甘くなってきて…、
 いつの間にか久保ちゃんの首に腕を回してる俺を、久保ちゃんが小さく笑って抱きしめる。そんな久保ちゃんにムッとしながらも、俺はやっぱりキスと同じで腕を離せなくて、逆に赤くなった顔を隠すように久保ちゃんの胸に顔を埋めた。
 
 「お菓子の販売戦略にハマる気はねぇけど…、バレンタインにチョコを食うのも悪くないかもな…。ま、かなり苦かったけど…」
 「でも、苦いのを食べた後だと、少しの甘さでもすごく甘くカンジるし…」
 「・・・・・・・甘すぎて死にそうだっつーの」

 「だったら…、俺がもっと甘くして殺してあげるよ…。一年に一度のバレンタインの夜に…」

 そう言って…、また久保ちゃんにキスされて…、
 抱きかかえられてソファーに埋められ、甘さに死にそうになりながら…、
 俺は久保ちゃんの口に入れる時にソファーに落ちたひと欠片を、甘さに手に溺れる手で掴んで…、口の中に入れて噛みしめた。



 ミニミニ、バレンタインなのですv
 (●⌒∇⌒●) vv
 題名は…、気にしないでやってください(汗)

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