手を伸ばした、その後に…。


※注意・続きになってますので、先に久保誕の「手を伸ばす、その先に…」をお読みください。


 ・・・・・・・おめでとう。

 俺の生まれた日に…、八月二十四日にそう言われた…。けど、言われた後に気づいたのは、おめでとうって言われてもおめでとうって言えないことで…、
 それに気づいたら、うれしそうに笑いながら真っ直ぐ見つめてくると時任の瞳を見つめ返せなくなる。でもそれは俺の誕生日と記憶があって、時任の誕生日と記憶がないからとか、そういうコトとは関係なかった。
 出会った時から、見つけた瞬間から時任の記憶はない…。だから獣化した右手と同じように、俺にとっても時任にとっても記憶がないコトも当たり前だったから…、
 見つめてくる瞳を見つめ返して、おめでとうって伸ばしてくれた手を握りしめるコトも抱きしめるコトも迷ったりはしない。
 けど、あんまりうれしそうに笑うから、おめでとうの次に言った言葉から視線をそらすように…、
 目を閉じたまま時任を強く抱きしめた…。

 「ゴメンね・・・・・」

 その時のことを思い出しながらそう呟いてバイト帰りに九月の空を眺めると、少し雲が秋らしくなってて、まだ暑くないってワケじゃないのに…、
 時が確実に過ぎてくように季節もいつの間にか変わろうとしてる。
 けど、それは空調の効いた部屋にいても、どこにいたとしても同じコトで…、
 そんな当たり前のコトを考えながら空を見上げて、裏路地に倒れていた時任を運んだ時に感じた重さを思い出そうとして拳を握りしめた。

 「・・・・・・・少しだけのはずだったんだけどね」

 あの時に感じた少しの重さは、今はもう感じることができない。でもそれは重さがなくなったからじゃなくて、もっと重くなってるせいだった…。
 強く抱きしめるたびに…、何度も何度もキスを繰返すたびに眩暈がして…、
 だから、前へと進もうとする時任の手を引き止めるように強く握りしめながら…、共犯を誓った唇でウソをつく。一緒に探してるフリしながらしてたことは、見つけた過去の断片を手のひらの中で握りつぶすことだった。
 時任の痛む右手を強く強く…、いつも握りしめてる手で…、

 まるで過去を奪い続けてる犯人みたいに…。

 いつかそれに気づいた時、それに気づかれた時…、当たり前で普通だと思ってた日々が夏みたいに終わってしまうのかもしれないけど…、
 今はまだ、瞳を閉じたままで終わらない夏の中にいたかった…。
 どんなに焼け付くように暑くてたまらなくても、今を抱きしめていたかった…。
 ウソと偽りに塗れた手で夏の終わりを告げる空を見せないように…、じっと真っ直ぐに見つめてくるキレイすぎる瞳に目隠しをしながら…、

 二人きりの世界の中で…。

 けれど、あんなにうるさかった蝉の声もいつの間にか小さくなって、なんとなく立ち止まった花屋の店先の並んでたヒマワリも少しだけ枯れかけてる。確実に終わっていく夏は、どんなに目を耳をふさいでも終わっていくだけだった…。
 どんなに止めようとしても…、止まらない…。終わっていく夏の日差しのまぶしさは、早く来いって言って手を振りながら走ってく時任の背中にも似てて…、気づいたら少しだけ枯れかけたヒマワリの花を俺の手が握りつぶしてた…。

 「あ…、やっちゃった」
 「あ、あのお客様?」
 「すいませんけど、このヒマワリ全部もらえます?」
 「あっ、はいっ、ありがとうございますっ。プレゼント用ですか?」
 「・・・・今日って何日だったっけ?」
 「えっと…、九月八日ですけど?」
 「だったら、プレゼント用にしてくれる?」
 「はいっ」
 
 「ホントは…、なんでもない普通の日なんだけどね」

 九月八日は祝日でも記念日でもなんでもない…、ただありきたりに過ぎてくだけの日だったけれど、プレゼント用かって聞かれた瞬間に思い出したコトがある。でも、たぶん覚えてるのは俺だけだし、思い出したところで今日の日がなんでもない日だってことは変わりないから、ヒマワリの花束を渡す理由なんてどこにもなかった。
 なのに、花束を渡すのは自分のエゴを満たすためなのかもしれない…。
 過ぎていく時が終わっていく夏のように終わらないのなら、せめて同じ時の中にいられるように…、時任におめでとうを言いたかった…。同じように夏の終わりの空を眺めて…、同じように一年が過ぎていくのをカンジたかった…。
 
 いつまでも…、いつまでも繋いだ手を離さないでいられるように…。










 ・・・・・・・九月八日。

 九月になっても八月のままだったカレンダーをめくると、今日の日付が目に飛び込んでくる。けど、それはなにかの記念日とかトクベツな日だからじゃなかった…。
 なのに、九月八日がまるでトクベツな日みたいに思えたのは、少し前に覚えさせられた久保ちゃんの作ったニセモノのプロフィールってヤツが浮かんだせいかもしれない。それはヤバイ教団に潜入するために作ったってだけだったけど、あとで紙に書いて渡されたプロフィールの中には誕生日もあった…。
 それは潜入するのに必要だから決めただけで、当たり前に俺の生まれた日なんかじゃない。でも、なんとなく久保ちゃんが書いてくれた紙を捨てられなくて、覚えた後で読みかけだったマンガの間に挟み込んだ。
 
 「誕生日って書いてあってもニセモノなのに…、なんで捨てらんねぇのかな…」

 そう言いながら開いたマンガのページには今も紙が挟んであって…、そこには見慣れた久保ちゃんの文字で俺の誕生日が九月八日だって書いてある。だから、その紙を眺めながらもっかいカレンダーを見たら、ホントに九月八日が誕生日だったら良かったのにって…、すごく想った…。
 久保ちゃんの決めてくれた日が誕生日で生まれた日だったら、ちゃんと一緒に年を取って一年が過ぎてくカンジがして…、甘いケーキを食べながら胸が苦しくなることもなくなるかもしれないって…、
 そう想ったら裏にはバーゲンセールとか印刷されてる紙だけど捨てられなくて、またマンガの間に挟み込んだ…。

 絶対になくならないように…、なくさないように…。

 そしてケータイをちょっと眺めてから、久保ちゃんの誕生日だった日と同じようにケーキ屋に行くためにサイフを握りしめて玄関に向かう。ケータイを眺めたのはホントは久保ちゃんと一緒に行きたかったからだけど、生まれた日でもなんでもない普通の日だからやめた…。
 久保ちゃんはたぶん…、こんな紙のことなんて忘れてっから…。
 でも生まれた日なんて知らなくても、ちゃんと久保ちゃんと同じように一年が過ぎてんだってカンジたくて…、九月八日にケーキを食いたかった…。誰にもおめでとうって言ってもらえない日でも、九月八日を生まれた日にしたかった…。
 ホントの生まれた日が、ぜんぜん別な日だったとしても…、
 
 久保ちゃんの決めてくれた日だから…、トクベツな日にしたかった…。

 マンションを出ると暑かったけど八月ほど暑くなくて…、空を見上げると雲が前よりも細く長くなってる。その雲を見て初めて、いつの間にか八月が九月になったみたいに夏も終わりに近づいてたんだって気づいた。
 春の終わりに…、夏になりかけた青い空を眺めた時みたいに…。
 そんな空を見て少しだけ涼しくなった風をカンジながら、焼けたアスファルトの上を歩いてバースディソングを口笛で吹いてみる。そしたら、なぜかちょっとだけ寂しくなってきて、立ち止まるとケーキ屋まであとちょっとなのに歩けなくなった…。
 
 「なんか…、バカみてぇかも…」

 そう呟いてみると寂しいのがちょっとだけじゃなくなって、行くつもりだったケーキ屋にくるっと背を向ける。けど、その瞬間に目の端に見慣れた影が見えた気がしてゆっくりとケーキ屋の方を振り返った…。
 そしたらケーキ屋の前には誰もいなくて…、見えたのは気のせいかと思ったけど、なんとなく気になってそのまま歩き始める。さっきまではケーキ屋に行けなかったのに、もしかしたらって思ったら気になってマンションに帰れなくなった。
 だから、絶対に違うとか思ってるはずなのに、こそこそと周りを気にしながらケーキ屋に近寄って植木に隠れながら中をのぞいて見る。すると、ケーキの並んでるウィンドウの前にいる良く知ってる広い背中が見えた…。

 「あれって…、マジで久保ちゃんだよな?」

 知ってる背中を見ながらそう呟いたけど、きっとココにいるのは別に覚えてたからとか、ニセモノの誕生日だからとかじゃない…。なのに、黄色い花の花束を持ってんのはなんでだろうって考えてると、植木の陰に隠れたまま出られなくなった。
 










 黄色いヒマワリの花束を持って、そのまま帰っても良かったけど…、お祝いするのにケーキは必需品だから帰る途中にあるケーキ屋に入る。そして、ちゃんと誕生日なんだってわかるようにバースディ用の大きなケーキを買った。
 誕生日でもなんでもない普通の日に…、おめでとうを言うために…。
 それからケーキの白い箱とヒマワリの花束を持って店を出ようとしたけど、ふと植木の影からのこっちをのぞいてる視線に気づく。でも、その視線の主は俺が気づいたことを知らないみたいだった。
 だから、よそ見している隙をついて店の外に出て、なぜかいつもより少し元気のないカオの前に黄色いヒマワリの花束を差し出す。そして花束を差し出したイミを教えるために…、まるで本当に生まれた日のように九月八日におめでとうを言った。

 「たんじょう日おめでとう…、時任…」
 「・・・うん」
 「もしかして、今日のコト覚えてた?」
 「だってさ、忘れないように二人で何回も暗唱したじゃん…。けど、たぶん今日で一生忘れられなくなったかも…」
 「なら、来年もその次もまたケーキ買ってくるから…」
 「・・・・・・・・・」
 「時任?」
 「俺も来年もその次もまた買ってくっから、一緒にケーキ食おうぜ…」
 「うん…」

 「・・・・・・・・だから一緒に」

 何かを言いかけた時任の声は最後まで聞こえなかったけど、声で伝える代わりに何かを伝えようとしてくる唇が俺の唇にそっとキスしてきた。すると二人の間にあるヒマワリの花束が少しだけつぶれて、それに気づいた時任が笑いながらキスをやめる。
 でも俺は過ぎていく夏を、終わっていく夏をカンジながら…、まるで名残りを惜しむように時任とヒマワリと抱きしめて強引にキスした…。
 ウソばかりを付き続けてる唇で…、呼吸も何もかもを奪うように…。そしたら、時任は長い長いキスの後に、俺にバカって言って真っ赤になりながらヒマワリの花束とケーキを持って歩き出した。
 けど、俺は後を追わずに眩しい日差しの中にある時任の背中をじっと見つめる。すると、その背中は遠くなって行けば行くほど、なぜかキレイに見えて思わず目を細めた。
 それは鳥が羽ばたいていくのにも似ていて、見ていると追いつける気がしない。
 でも、飛び立ちかけていた鳥は立ち止まってる俺に気づくと、ムッととした表情でこっちに戻ってきた。

 「せっかくケーキ買ったって、一緒に食わなきゃイミねぇじゃんっ。だから、ぼーっと突っ立ってないで早く来いってのっ!」

 そう言いながら時任に腕を引っ張られて、俺は前へと歩き出す。
 ココに立ち止まりたかったはずなのに…、時任と一緒に歩き出すと…、
 このまま二人で夏の終わりの空を眺めながら、ずっと立ち止まらないで歩き続けたい気がした…。


 大好きな君と手を繋いで…。




 こんばんわvvいらっしゃいませですっ。
 久保時誕生日祭にお越しくださってありがとうございますvv
 真昼の月という久保時小説サイトをしている鳴木沢ともうしますです<(_ _)>
 時任誕生日にお話をアップする予定でしたのですが、
 久保ちゃん誕生日に続いて…、ま、またしても遅れに遅れてしまいました(号泣)
 反省の色がなくて、本当にごめんなさいですっっ(/□≦、)
 けれど、無事にお祝いのお話を書き上げることができました…(涙)
 こうして後書きを書くことが出来て、お祝いを言うことができて良かったです。
 時任っ、お誕生日おめでとうなのですっ!!!

 そしてそして、お話を読んでくださった方vv本当ありがとうございますです<(_ _)>v

 suzu様vv
 この度はお忙しい中、素敵な祭を企画してくださってありがとうございますvv
 いつもリンクも素早く貼って頂いてしまって、とてもとても感謝です(涙)
 なのに、不義理モノの私は今回もこんなな感じで…(T△T)
 本当にごめんなさいです(泣)
 素敵な祭に参加させて頂けて、皆様とお祝いさせていただくことが出来て、
 とっても幸せですvvv

 本当に、とてもとても感謝ですっっv<(_ _)>

                                  
                               2003.9.13 真昼の月*鳴木沢