八月二十四日。




 もうじき誕生日だなぁってのはちゃんと意識してて、プレゼント何にしよっかってずっと考えてた。
 誕生日だから、やっぱなんかお祝いとかしたかったし…。
 久保ちゃんはあんまそんなの覚えてなさそうだったから、カレンダーに丸印を大きくつけてやった。
 久保ちゃん誕生日ってペンで大きく書いて…。
 そしたら、それを見てた久保ちゃんはセッタ吸いながら、俺の持ってたペンを取ってカレンダーを一枚めくった。

 「うわっ、ハズいから書くなって!」
 「時任だって書いたでしょ?」

 八月に書いた久保ちゃんの誕生日。
 そして、九月に書かれた俺の誕生日。
 俺の誕生日の上には、時任クンの生まれた日って書いてあった。
 誕生日って言ってるけど、生まれた日って言い方に変えたら、ちょっとだけカンジが変わったような気がする。だから、久保ちゃんの手からペンを奪い返して、久保ちゃん誕生日を久保ちゃんの生まれた日に書き直した。

 「生まれた日の方が、めでたい感じするじゃんっ」
 「ん〜、あんま変わんない気するけど?」
 「俺様がめでたいって言ってんだから、めでてぇのっ!」
 「はいはい」



 しっかりハッキリ印つけた、八月二十四日。
 久保ちゃんが生まれた日。
 それはめでたいって言うより、スゴクうれしい日だった。
 だってさ、久保ちゃんが生まれてなかったら、会いたくても会えねぇじゃん…。
 さすがに生まれてないヤツと会う自信なんかねぇし…。
 だから、この日はスゴク大好きな日だって思う。
 カレンダーじゃあ何の記念日でもないし、同じ二十四日でも十二月じゃないからクリスマスでもない。
 けど、なんでもない日でも、俺にとってはどんな日よりも大きく丸つけたいくらい大事。
 八月二十四日は、記念日みたいなのじゃなくて、ただうれしいって感じの日だった。

 「久保ちゃんっ、ケーキ買いに行こうぜっ」
 「う〜ん、やっぱやるの?」
 「当ったり前じゃんっ!」
 「当たり前?」
 「そ、当たり前っ!」

 生まれたワケなんてどうでもいいけど、久保ちゃんがココにいてくれて良かったって思う。
 良かったなぁってそれだけ…。
 だからっ、今日はうれしくて良かった日っ!
 
 「…なに書いてんの?」
 「いいからっ、こっちに来んなっ!」
 「あっ、ハミ出てる…」
 「わっ、見るなっつってんだろっ!!」

 ケーキ買ったら、チョコレートの板に自分でなんか書くかって聞かれた。
 そういうのハズいしやめようかって思ったケド、気の迷いってヤツで久保ちゃんに見られないように注意しながら文字を書いた。 
 一文字ずつ気合入れて…。
 気合い入れすぎてちょっとハミ出ちまったけど、ちゃんと読めるからまあまあってトコ。
 ケーキはパースディ用の一個買ったから、二人で食べ切れるかなぁってカンジだった。
 
 「ショートケーキで良かったんじゃない?」
 「こういう時はでっかいのがいいに決まってんだろっ」
 「ロウソク一杯立てられそうだしねぇ」
 「年の数だけしか立てねぇっつーのっ!」

 まだ夏だから外は暑いけど、今日はまだまだ久保ちゃんと歩いていたかった。
 二人でケーキ買って、お菓子買って…。
 そんなのはなんでもないコトだけど、なんだかスゴク楽しかった。
 久保ちゃんと歩いてるコトが、楽しくてたまらなかった。

 「帰りにスーパー行こうぜっ」
 「なに買うの?」
 「カレーの材料」
 「今日はカレーじゃないの、作ってあげるよ?」
 「カレーでいいっ」
 「どして?」
 「俺様が作るからに決まってんだろっ!」
 「…確かにカレーくらいしか作れそうにないやね」
 「んなこと言ってっと、食わせてやらねぇ」
 「ゴメンナサイ、反省してマス」
 「してねぇくせにっ」
 「してますって」
 
 部屋に戻ってカレーの材料並べて、 いつも久保ちゃんがしてるのマネして野菜の皮むいた。
 おっ、俺様だってやればできるじゃねぇか…。
 なぁんて思ってたけど、げっ、なんか皮がやたら太く…。

 「手伝ってあげよっか?」
 「しっしっ、あっち行ってろっ!」

 うぅ、なんかジャガイモが小さくなった。
 けど、まっいっか…。
 ジャガイモは終了で、次はニンジンとタマネギだよなっ。
 ニンジンは皮むいて適当に切ってっと…。
 …んで、タマネギの皮むいて。

 「久保ちゃんっ! 久保ちゃーんっ!!」
 「ん〜、なに?」
 「め、目が見えねぇっ!」
 「あー、派手に泣いちゃってるねぇ」
 「なんか、目ぇ痛い…」
 「手と目を水で洗って、治るまでじっとしてなね。後は俺がやるから」
 「ゴメン、久保ちゃん」
 「ありがとね」
 「…うん」

 涙で何も見えなかったケド、唇の感触で久保ちゃんがキスしたのがわかった。
 今日みたいに、涙の味のするキスしたのは始めてじゃない。
 でも、いつかの日みたいに苦しくも痛くもなくて、ちょっとくすぐったくて笑いたくなるキスだった。
 言われた通り目が見えるようになるのを待ちながら、久保ちゃんがカレー作ってる音聞いてると…。
 久保ちゃんの足音とか、立ててる音だけでなんとなく何してるかがわかった。
 
 「なに笑ってんの?」
 「べっつになんでもねぇよっ」

 そんなカンジで久保ちゃんがカレー作ってると、さっきまで夕方だったのが日が沈んで夜になった。
 今日はずっと外にいたから、一日が過ぎるのが早く感じる。
 二十四日が少なくなってくなぁって思ったら、なんかちょっと寂しくなった。
 
 そんなのは当たり前なのに…。
 
 「時任…、なんでケーキ持って逃げんの?」
 「ちょっ、ちょっと待て…」
 「なんて言って、チョコに書いたヤツ捨てる気っしょ?」
 「ギクッ…」
 「おとなしく渡さないと、どうなっても知らないよ?」
 「どうなってもってどういう意味…って、うわぁっ、ケーキ返せっ!」
 「返せって言われても、ねぇ?」
 「うわぁっ、マジで見んなっ!」

 「…もう見ちゃったけど?」

 久保ちゃんがリボンほどいて開けた箱の中に入ってたケーキの上。
 そこにはちゃんと俺が書いたチョコレートの板が乗ってる。
 板に書いてあんのはちょっとハミ出したカンジなトコがあんまカッコ良くねぇけど、俺が一生懸命書いた文字だった。
 
 「時任…」
 「な、なんだよっ」
 「キスしていい?」
 「・・・・・うん」

 …久保ちゃんと会えてよかった。

 オメデトウでもアリガトウでもない言葉が書かれてるケーキの前で、俺は久保ちゃんとキスした。
 ココにいることを、出会えたことを確認するみたいに…。
 キスして、キスして、いっぱいキスして…。
 久保ちゃんに抱きしめられて、久保ちゃんを抱きしめた。
 
 「久保ちゃん…」
 「ん?」
 「実はなんだけどさ、プレゼント買ってねぇの。けど、忘れてたとかじゃなくて何買っていいかわかんなかったから…」
 「気にしなくていいよ。お祝いしてもらったし、時任からはいつも色々もらってるしね」
 「いろいろって何?」
 「ないしょ」
 「…だったらいらねぇ?」
 「何が?」
 「プレゼント思いつかなかったから、やっぱ久保ちゃんが欲しいモノにしようかって思ったんだけど」
 「俺の欲しいモノ?」
 「…なんかある?」
 
 ライターとか、灰皿とか、ゲームとか色々考えたけど、なんかそれじゃダメだった。
 今までプレゼントとかしたことねぇから、久保ちゃんの欲しいモノをどしてもあげたかった。
 金もねぇし何も持ってねぇケド、あげられるモノがあるなら…、なんかうれしいかもって…。
 なんとなくそう思ったから…。

 「じゃあさ、お言葉に甘えてもらうよ?」
 「欲しいモノって、何?」
 「それはね、コレ…」
 「リボン?」
 「両腕出してくれる?」

 久保ちゃんはケーキにかかってた赤いリボンを手に取ると、俺の手首をそれでしばってケーキにしてあったみたいにリボンを結ぶ。きつくしばってなかったからそれを取るのは簡単だったけど、そうしないでじっと久保ちゃんの顔を眺めた。

 「俺にもらわれちゃってよ、時任」
 「えっ?」
 「欲しいモノ、くれるって言ったよね?」
 「それは言ったけど…」
 「だったら、おとなしくプレゼントにならなきゃ、でしょ?」

 「…九月八日になったら、今度は久保ちゃんがリボンすんだからなっ」

 大切なのはココにいることで…、一緒にいるってそういうことで…。
 それ以上でも以下でもないから、ただ出会えたことを…。
 君を想うこの気持ちを、めいいっぱい抱きしめよう。

 誰よりも愛しくて、大好きな君が生まれたこの日に…。



 うえぇぇん、零時に…、誕生日に間に合いませんでした(号泣)
 なんだかちょっとくやしいです(T_T)
 でも、なんとかアップできるカンジでうれしいデスvv
 あんなに膨大にボツしたのは始めてでした…(涙)

 久保ちゃんっ、ホントにホントにおめでとうっ!!!
 今日のよき日にバンザイですっ!!

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