年賀状。




 コンビニに行った時になんとなく年賀状を買ってきたけど、書くのがメンドいって言えばかなりメンドイ。
 けど、クリスマスカードとかそういうのと違って、年賀状は一年お世話になりましたってコトを書くヤツだから、なんとなく意味が違う気がする。
 一年世話になったとか…、そういうのはべつにあらたまって言わなくてもってカンジだけど…。
 コンビニで年賀状見てたら、一年に一回、年賀状くらいは書いてもいいかもって思った。
 
 「くっそぉっ、なんで今年はヒツジ年なんだよっ」
 「辰年とか、寅年じゃなくて良かったんでない?」
 「ヘビ年がよかったっ!!」
 「だから、ちゃんとイラスト付いてんの買ったらって言ったっしょ?」
 「だってこっちの方が安いじゃんっ」
 「それはそうだけど、ねぇ? パソコンで印刷してみる?」
 「いいっ、自分で書くって決めたから書く」
 「ならいいけどね」
 「うううっ、けど、なんでいくら描いてもヒツジ見えねぇんだっ!」
 「ん〜、ヒツジじゃなくて綿菓子?」
 「うっせぇっ! 見んなっ!!」

 俺は結構なんでもできる方だったりすっけど、料理と絵だけは苦手だった。
 けど、ヒツジくらいはなんとか描そうだったのに、いざ描いてみると身体の部分が妙なカンジになってうまくヒツジにならない。
 さっきから広告の裏に練習して描いてんだけど、まともに一匹も描けてなかった。
 久保ちゃんは見るなっつってんのにっ、さっきから俺の手元見ながら口元笑ってるし…。
 そのせいでますますヘンなヒツジになるし…。
 せっかく書くなら手書きにしようって決めたけど、なんかもうマジでイライラしてきたっ!!

 「だあぁぁっ、やっぱもう年賀状なんか書かねぇっ!!」
 「まあ、そう言わないでさ。せっかく買って来たんだし?」
 「そう言う久保ちゃんは買ってねぇじゃんっ」
 「俺はべつにいらないっしょ?」
 「なんでだよ?」
 「時任が書いてくれるなら、それに俺の含まれてるしね?」
 「勝手に含めてんじゃねぇよっ」
 「だって俺ら相方だし? 俺の分もお礼書いといてくんない?」
 「・・・・・・書いて欲しいなら、ヒツジ描くの手伝えよっ」
 「ヒツジって描いたことないんだけど?」
 「それは俺も同じだっつーのっ!」

 そう言って、久保ちゃんにペンと年賀ハガキをぐいっと押し付けてみる。
 すると久保ちゃんはペンを持ってちょっと考えると、サラサラっとハガキの上にペンを走らせ始めた。
 ぜってぇ、描かないで逃げると思ってたから、なんかスゴク意外。
 そーいや、久保ちゃんの絵なんか見たコトなかったよなぁって思いながら、手元をのぞき込もうとしたけど、久保ちゃんは絵ができるまで見せてくんなかった。

 「うーん、これくらいかなぁ…」
 「できたらさっさと見せろっ」
 「はいはい」

 久保ちゃんがそう言いながら持ってるハガキには、確かにヒツジが描かれてた。
 しかも、コワイくらいやけにリアルすぎるヒツジが…。
 描いてあるのもヒツジの首から上だけだし…、やたらブキミだし…。
 ヒツジの目つきも…なんか…。

 「・・・・・・・・」
 「ちゃんとヒツジに見えるっしょ?」
 「こ、こんなん出せるかぁぁっ!!」
 「なんで?」
 「なんでじゃねぇよっ! リアルすぎだっつーのっ!! そ、それになんで首だけなんだよっ!!」
 「メンドかったから、首だけ描いとけばヒツジってわかるからいいかって思ったんだけど?」
 「わかればいいっつーもんじゃねぇっ!!」
 「そう?」
 「なんかこのヒツジの目つきがやらしいしっ!!」
 「そう言われても、ねぇ?」
 「絵は描くヒトのココロがうつるっての聞いたコトあっからっ、きっとこのヒツジがやらしいのは久保ちゃんがやらしいからだっ!!」
 「うーん…、確かに俺はやらしいっていうより、エッチかも?」
 「うわぁぁっ、ドコさわってんだよっ!!」
 「エッチだから、こういうことしたくなるんだよねぇ」
 「まともなヒツジが描けるようになるまで、俺にさわるの禁止っ!!」
 「禁止されたら、逆に絵に欲求不満がうつっちゃうかもよ?」
 「と、とにかくっ、さっさとヒツジを描きやがれっ!!」
 
 俺は服を脱がそうとしてくる久保ちゃんをゲシゲシと蹴飛ばすと、再び年賀状の製作に取りかかる。
 でもそんなに枚数がないから、すぐにできそうだった。
 年賀状を出すのは桂木とか生徒会のやつらと…、おまけのおまけで藤原。
 そんで不本意だけど、ケガした時だけ世話んなってる五十嵐とあとは三文字の全部で七枚。
 久保ちゃんの描いたやらしいヒツジ付きのハガキは、それからちょっとしてありがちな簡単なセリフを裏に書いて、住所と宛名を書いて完成した。

 「あらためて見ても、やっぱやらしい目つきしてんな」
 「もしかしたら、それって時任のせいかも?」
 「んなワケねぇだろっ。描いたのは久保ちゃんなんだからっ」
 「絵は見るヒトのココロをうつすとも言うんだよねぇ?」
 「そ、そうだっけ?」
 「やらしい気分になってんじゃないの? もしかして欲求不満とか?」
 「な、なに言ってんだよっ!」
 「だったら、欲求不満にさせて悪かったなぁって思って…」
 「なってねぇっつーのっ!!」
 「ホントに? 俺に満足してくれてる?」
 「マジ顔で聞くなっ!!」
 「お互い欲求不満ってコトで今から不満を解消しよっか?」
 「不満じゃねぇっつってんだろっ!!」
 「ならいいけど…、せっかくだしね?」
 「ぎゃあぁぁっ!!なにがせっかくだぁぁっ!」

 結局、年賀状は無事に完成したのに、久保ちゃんにジャマされて出すのが遅くなった。
 だから一月一日に着くかどうかはわかんねぇけど…、ポストの前に立った俺の手には八枚のハガキがある。
 そのハガキの中の一枚には、一番良く知ってる住所と名前が書いてあった。
 久保ちゃんのエッチっぽい目つきのヒツジじゃなくて…、綿菓子みたいな不恰好なヒツジがかいてあるハガキに…、ただ一言だけ書いてあるのが一枚だけ…。
 それは久保ちゃんがまだベッドで寝てる間に、こっそりと書いたヤツだった。
 けど書いたのは去年は世話になったとか…、そういうんじゃなかったから…。
 ただ行く年も来る年も…、一緒にいられたらってそれだけで願って…。
 俺はポストの中に先に落とした七枚の次に、最後の一枚の年賀ハガキをポトンと落とした。


 ミニミニのはずが執行部に…(汗)
 くうっっ、ハガキの手書きって珍しいですよね…。
 って、ダメダメ爆発です〜〜〜(号泣)

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