除夜。
今日の日付は12月31日で、今の時刻は11時40分…。
あと20分で日付が変わって、今年が去年になって来年が今年になる。そんな時に俺がなにをしてたかっつーと、目の前に転がった山のような空き缶を眺めながら、また新しい缶ビールのプルトップを開けてた。
山のようにビールを買ってきて飲み始めたのは、たぶん9時くらい。
それから飲んでるってことは、もう三時間くらい飲んでる計算になる。でも、俺も久保ちゃんもまだ飲み足りないってカンジで、いつもと変わんないフツーの会話しながらビール飲んでた。
「なぁ、そー言えばさ」
「ん〜?」
「なんで、飲み始めたんだっけ?」
「さぁ、なんでだったかなぁ〜」
「もしかして、久保ちゃんもわかんねぇのかよ?」
「うん…。けど、そーいうお前だってわかんないでしょ?」
「う…っ、まぁな」
「だったら、打ち上げでいんでない?」
「はぁ? 打ち上げってなんの?」
「今年が終わったって…、そーいう打ち上げ」
「…って、忘年会かよっ!」
「じゃ、一発芸でもする?」
「てめぇはどっかのカイシャのオヤジかっ!!」
「一番、時任稔、今から脱ぎまーすっ」
「だ、誰が脱ぐかぁぁ…って言うかっ、ソレって一発芸じゃねぇだろっ!!」
そう言いながら俺は横にいる久保ちゃんの頭をバシッと叩いたけど、久保ちゃんはダメージを受けてないってカンジでそのままビール飲んでる。それを見てムカッとしながら俺もビールを飲むと、ずっと飲んでるせいで視界がちょっとグラグラしてきた。
でも、俺と同じくらいビール飲んでんのに、久保ちゃんの顔はちっとも赤くなってない。だから、同じだけしか飲んでないのに俺だけ酔って赤くなってんのが不公平な気がして、ムカついてきて…、飲んでたビールを口に含むと、久保ちゃんにぶちゅーっとキスして無理やり口の中に流し込んでやったっ。
「・・・っっ、とき…っ?」
久保ちゃんの肩がビックリしたみたいに震えたのが唇から伝わってきて、それが楽しくて俺はそのままチューを続ける。そしてビールを全部流し込み終わって、久保ちゃんの顔を覗き込むと少しだけ赤くなってた。
それを見てココロん中でざまぁみろって笑ったけど、赤くなってる久保ちゃんの顔をじーっと見てるとなぜか自分の顔まで熱くなってくる。たぶん久保ちゃんが赤くなってんのは酔ってるワケじゃなくて、たぶん息が苦しかったせいなのに…、
俺が熱くなってきたのはそうじゃなかった…。
チューしてる時は飲ませることしか考えてなかったけど、飲ませた後で自分から押し付けた唇と差し込んだ舌の感触がリアルに感じられる。俺はマヌケなことにやっちまった後で、自分が久保ちゃんになにをしたのかに気づいて、まだキスした感触の残ってる唇を手で押さえた。
「…時任」
「な、なんだよっ!」
「カオが真っ赤になってる」
「こ、これは酔ってるからに決まってんだろっ」
「うん…。それは知ってるけど、ホントにそれだけ?」
「ホントにそれだけっ!!」
「ふーん…、俺が赤くなってんのはお前のせいなんだけどなぁ」
「・・・・っ!」
「ねぇ、時任」
「こっち向くなっ、前向いてろっ!」
「イヤ」
「さ、さっきのは酔ってて…、ワケわかんなくなってたってだけだかんなっ!!」
「なら、今は?」
「今もっ!」
「そう…、じゃあそのまま酔っててくんない?」
「えっ?」
「ずっとじゃなくていいから…、せめて日付が代わるまで…」
「く、くぼ・・・・っ!!」
久保ちゃんの腕にゆっくり身体を抱きしめられながら、近づいてきた唇にキスされる。それがわかってたのに、俺は久保ちゃんの腕の中から逃げられなかった。
ビールの中に含まれてるアルコールが回ってて、視界がグラグラ揺れて…、
でも、触れてる唇やからみ合ってる舌の感触だけが、やけにリアルでキスの合間に漏れる音がやたら大きく聞こえる。なんか久保ちゃんとキスしてんのが信じられなくて…、でもこれは夢じゃなかった…。
久保ちゃんとのキスはニガイけど…、ビール飲んでる時よりも…、
もっと…、ずっと気持ちいい…。
だから、俺がさっきしたみたいに無理やりキスされてるはずなのに、いつの間にか自分から夢中になってキスしてた…。でも、そうしてるとあっという間に時計の針が回って時間切れを告げる音が…、除夜の鐘がテレビから響いてくる…。
すると久保ちゃんの唇が小さく濡れた音を立てて、俺の唇から離れた…。
「くぼ…、ちゃん…」
「年が明けちゃったね」
「うん…」
「新年、あけましておめでとうゴザイマス…」
「・・・・・明けましておめでとう、だな」
「じゃ、今年もヨロシク…ってコトで飲み直しますか?」
「…って、忘年会の続きすんのか?」
「いんや、今度は新年会」
久保ちゃんはそう言うと、何事もなかったみたいに俺の手に新しい缶ビールを渡す。そして、自分も新しい缶ビールを開けて飲み始めた。
だから、俺も久保ちゃんと同じように缶ビールを開けたけど、なぜかどうしても飲めない。キスした感触が唇に残ってて…、今はビールを飲む気にはなれなかった。
でもキスしたのは酔ってただけだし、それは久保ちゃんもたぶん同じだし…、今はドキドキしてても明日になったら酔いが覚めて忘れちまうのかもしれない。けど、ビール飲んでる久保ちゃんの唇が気になって目が離せなくて…、
さっきよりも酔いが覚めてんのに…、俺は酔ったフリして久保ちゃんの肩に頭を乗せた。
そしたら、久保ちゃんの腕が横から伸びてきて俺の肩を抱きしめる。すると、身体がそれに反応してビクッと震えた…。
「ねぇ…」
「なに?」
「もしかして、まだ酔ってるとか?」
「・・・・・・酔ってる」
「だったら、もっかいキスしてもいい?」
「さっきはいきなりしたくせに…、いちいち聞くなっ、バカっ」
「でも、今度はキスだけじゃ終わらないかもしれないけど?」
「・・・っ!」
「やっぱり酔いが覚めた?」
「・・・・・覚めてない」
「ホントに?」
「も、もしも覚めてんなら、こんなコトしてるはずねぇだろっ」
「うん、そうね…」
酔いが覚めてないから、久保ちゃんとキスなんてしてる。唇だけじゃなくて他んトコにもキスされて…、服まで脱がされて恥ずかしくてたまんないのにやめられない…。
カラダが熱くて心臓がドキドキして…、アルコールじゃない何かにカラダと胸ん中が犯されてくのをカンジた…。
「もしかしたら…、もう…、ずっと覚めなくなっちまったかもしんない…」
覚めない夢を見るように抱き合いながら俺がそう言うと、久保ちゃんが床に置いてた缶ビールを口に含んだままでキスしてくる。だから、飲まされるままに俺が久保ちゃんの口からビールを飲むと、久保ちゃんは右手で俺の目を覆いながら…、
まるで、おやすみを言うように額にキスした…。
「ずっと覚めないように…、酔わせ続けてあげるよ…」
アルコールに浸るように、夢を貪るようにカラダと唇を重ねて…、
そうしている内に疲れ果てて眠って…、やがて朝日が昇って朝がきたけど…、
俺のカラダからも久保ちゃんのカラダからもアルコールは抜けなかった…。
うにゅにゅ…( ̄へ ̄|||)
今ごろ除夜の上に、明るく楽しくのはずが…、
みょ、妙なカンジになってしまいました(冷汗)
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