Go The Limit
…。




 「あ・・・・・っ」

 そんなマヌケな声を出して、それを見つけたのは偶然。
 道を歩いてて、たまたま目が合っちまったってカンジ。
 たまたま通りかかった、普段は絶対に入らないような店の前で俺は立ち止まり、上の棚の上に置かれているぬいぐるみをじーっと見つめる。
 見てんのは、二匹のクマのぬいぐるみなんだけど…、
 クマの足には、それぞれ片足ずつに文字が入ってた。
 黒いクマの方は、右足にK。
 白いクマの方は、同じく右足にT。
 それだけなら、たぶん俺はチラっと見たりしても、立ち止まったりしなかったと思う。だって、二匹のクマの足の文字が俺らの名前の頭文字だっつっても、そんなの、ただの偶然じゃん?
 けど、俺の頭文字を足につけたクマの右手を見た瞬間、思わず足を止めちまうほど…、すっげ驚いた。このクマ…、左手にはなんもしてねぇのに、右手だけに黒い手袋をしてる…。
 なっ、なんでだ?
 つか、こんな偶然ってアリかよ?!
 俺がそう思いながら、ぼーっと突っ立ってっと横から、のほほん…つーより、少し間の抜けた声がする。その声に気づいて俺が横を向くと、久保ちゃんがさっきの俺みたいに上の棚にあるクマをじーっと眺めてた。

 「お前が白で俺が黒…、ん〜、ピッタリだぁね」
 「って、一体何の話だよ?」
 「もちろん、お前が見てたクマの話」
 「色はべっつになんとも思わねぇけど、なんか出来すぎだと思わねぇか? 白い方は右手に手袋…で、良く見ると黒い方は眼鏡かけてんぞっ」
 「あー…、ホントだ」
 「なんつーか、ココまで同じだとアレだよな…」
 「気味悪い?」
 「そーじゃねぇけど、気になる」
 「だぁね」

 俺らを知っているかのようなクマの格好、そしてイニシャル。
 気になって見つめてても、謎は深まってくばかり。いくらじーっと見つめても謎は解けるワケもなくて、眉間のシワまで深くなる。
 もしかして、良くわかんねぇけど…、誰かからの挑戦状とかじゃねぇだろうなって久保ちゃんに言ったら、ポリポリと人差し指で顎を掻きながらドラマの見すぎだって言われたっっ。くそーっ、言われるまでもなく、俺もそう思ってたっての!
 
 「あぁぁっ、なんかワケわかんねぇけど、無性に気になって立ち去れねぇっ」
 「うーん、でも確かに気にはなるけど、いくらクマを見つめてても、この謎は解けないっしょ?」
 「謎は俺が解いてみせるっ、天才で美少年な俺様の名にかけてっっ」
 「…って、ソコはフツーじっちゃんなんでない? セリフ的に」
 「名探偵はじっちゃんじゃなくて、この俺様だっ」
 「どーゆー理屈よ、ソレ?」
 「うっせぇっ、今、考え中だから静かにしろっ」
 「へーい」

 この謎は俺が解いてみせるっ!!
 
 そう心の中で叫び、頭を抱えながら推理を始める。けど、考え始めてから、5秒もしない内に店の中から探偵…じゃなくて、店員が出てくる。
 そして、あっさりと俺が解こうとしていた謎を解いてくれた。
 それを聞いた俺は大げさにガックリと肩を落とし、そんな俺の肩を慰めるように久保ちゃんがポンポンと叩く。クマがこんな風になってる理由は、聞いて見るとなーんだぁ〜ってカンジのコトだった。
 実はあのクマは始めはワゴンで売られてて、色も足の文字も違うのが、もっといっぱいあったらしくて…、
 けど、最後にあの二匹だけ売れ残っちまったらしい。
 そんで、白いクマの手袋が片方だけしかないのは、ワゴンの中で売られている最中に誰かに持っていかれるか、失くしたから…、
 黒い眼鏡の方のクマも、ホントはマフラーをしてたらしいんだけど、それも手袋と同じように失くしちまった。
 だから、あの二匹はあんな棚の上にいる。
 
 「元々、売れ残ってたヤツだし、その上、欠品してるだろ? やっぱり値下げしても、なかなか売れなくてね」

 店員は困った顔で、最後にそう言うと軽く肩をすくめた。
 ・・・・・・・だよな。
 手袋も片方しかなくて、してたマフラーも失くしてたら、フツーだめだよな。
 だから、あの二匹はたぶん、これからも売れなくて…、
 でも、ずっと、ずーっと売れなかったら、どうなっちまうんだろ?
 俺がそう考えかけた時、店に入ってきた女の子二人が、俺らの視線に気づいてクマのいる棚を見る。そして、二人の内の一人がクマを指差して、かわいいーっとかって叫んで騒ぎ始めた。

 「ねぇねぇっ、可愛くない? あのクマっ」
 「あーっ、確かに可愛いかも。けど、あのクマって、手袋が片方しかないよ?」
 「違う違う、そっちじゃなくて眼鏡の方っ」
 「黒い方? でも、アンタの頭文字ってKじゃないでしょ?」
 「そんなの、可愛かったら気にしない」
 「アンタって、クマ好きだもんねー」

 そんな女の子達の声を聞いた店員は、クマのマフラーがなくなっている事を説明し始める。けど、女の子は黒いクマが気に入ったみたいで、マフラーが無くても買うって言った。
 そっか…、手袋は言われなくても気づくかもしんねぇけど、マフラーは言わなきゃ気づかねぇし、元からなかったって思えばいいもんな。
 良かったな、久保ちゃんグマ…。
 俺は口に出しては言わないで、心の中でクマにそう話しかける。
 けど、良かったって思ってるはずなのになんか…、笑えねぇ…。
 気分もどんどん沈んでく気がして、なぜか口からため息が出た。
 …ったく、らしくねぇ。
 棚の上にあるのは、ただのぬいぐるみのクマじゃねぇか…。
 なのに、なに落ち込んでんだ。

 「もう行こうぜ…、久保ちゃん」
 
 俺はそう久保ちゃんに声をかけると、店の前を離れて歩き出そうとする。
 でも、今度は俺じゃなくて久保ちゃんが立ち止まったまま動かない。だから、何やってんだって言おうとしたら、久保ちゃんはクマのいる棚に近づき、上に向かって手を伸ばした。
 
 「ごめんね。実はコレ、売約済みだから」

 そう言った久保ちゃんの言葉は、俺じゃなくて女の子達に向けられた言葉。
 なのに、女の子達よりも驚いた俺は、クマと久保ちゃんを交互に見る。すると、久保ちゃんはクマを買おうとした女の子達と少し話してから、俺の頭を軽くポンポンと撫でるように叩いた。

 「じゃ、買ってくるから…」
 「って、マジで?」
 「うん、マジで」
 「なんで? 久保ちゃんてクマ好き…つか、ぬいぐるみ好きだったのか?」
 「いんや…。けど、なんとなくね」
 
 クマのぬいぐるみと久保ちゃん…。
 似合うような、似合わないような…つか、なんとなくで買うなってのっ。
 俺はそう思いながら、店員と一緒にレジに向かう久保ちゃんの背中を眺める。女の子じゃなくて久保ちゃんが買ってくれたコトに、ホッとしながら…。
 けど、なんで、そんな理由でホッとしてんのかわかんなくて、俺は思わず短く…、うー…と唸る。すると、俺が唸ったのが聞こえたのか、久保ちゃんがこちらへ振り返り…、
 お、俺の目の前で白いクマと黒いクマをチューさせやがったっっ!

 「ば…っ! ハズい真似してんじゃねぇよっ」

 俺がそう言うと久保ちゃんは、のほほんとした顔で、それに答えるように黒いクマの手を軽く振る。そんな久保ちゃんの行動のせいで近くにいた客から注目を浴びちまった俺は、久保ちゃんを睨みながら、しっしっと追い払うように手を振った。
 ったくっ、遊んでねぇで早くレジに行きやがれっ!!
 早く行かねぇとっ、白クマパンチをお見舞いすっぞっ!
 そう思ってても口には出さずに、目だけで黙らせるっ。
 すると、俺に睨まれた久保ちゃん…じゃなくて、黒クマが俺に向かってゴメンなさいとお辞儀した。

 ・・・・・・・な、なんか、今のはちょっち可愛かったかも?

 ってっ! 可愛いのは久保ちゃんじゃなくてっっ!
 もちろんクマに決まってんだろーーっ!! 
 なんて、自分で自分にツッコミを入れた俺は一足先に店を出る。けど、三分もしない内に同じように店を出てきた久保ちゃんが、俺の横に並んだ。
 ファンシーなブルーの袋に入った二匹のクマを片手に…。
 そんな久保ちゃんと歩きながら、袋の口の辺りで結ばれた赤いリボンを見た俺は、白クマと黒クマのチューを思い出して引きしめていた口元を緩める。
 店内であんなマネすっから、思わず怒鳴っちまったけど…、
 ホントはちゃんとわかってた…。
 久保ちゃんが、なぜクマにチューさせたのか…。
 二匹のクマはマフラー失くして、手袋も片方失くしてて…、
 だからってんじゃねぇけど、俺はこの二匹を離れ離れにしたくなかった。
 たぶん…、そう思ってたから、落ち込んだ気分になってた。
 そして、そんな俺を見た久保ちゃんがクマを買ってくれて…。
 だから、俺は赤いリボンを見つめながら、帰ったら二匹のクマの右手と左手を、このリボンで結んでやろうか…、なんてコトを考えながら…、
 俺も久保ちゃんのコト言えねぇなぁ…と、心の中で呟いて笑った。

 「マフラー失くして、手袋も片方失くして…。たぶん、これ以上は何も失くしたくないだろうしな、コイツらも」

 心の中ではなく、口に出してはそう呟いて…。
 さっき久保ちゃんが俺の頭を軽く叩いたように、俺もちょっち背伸びして久保ちゃんの頭を撫でるように軽く叩く。すると、久保ちゃんは俺の手を掴んで…、黒クマと白クマにさせたコトと同じコトを俺にした…。

 「実はコレも売約済…なんで、ヨロシク」

 なっ、なっ、なーーーーっっ!!!
 
 「アレ、固まっちゃってるけど、どうしたの?」
 「ど・・・・・・、どうしたってそんなの・・・っっ」
 「ん?」
 「て、て、てめぇのせいに決まってんだろっ!! なにすんだ…っつか、人を勝手に予約ってんじゃねぇっっ!!!」
 「えー…、もしかして予約効かない?」
 「俺は売りモンじゃねぇしっ、そんなの効くワケねぇしっ、それにいっつも一緒に居るのに予約なんか必要あるはずねぇだろっっ!」

 ・・・・・・・・って、アレ?

 なんとなくだけど、俺って今何かとんでもないコト…、口走ったりしちまったよな気ぃすんだけど…、き、気のせいだよな? 俺のセリフを聞いた久保ちゃんが何か怪しい目つきで俺を見てんのも、気のせいだよ…、な?
 っていうより、気のせいだと激しく思いたいっっっ!!

 「ふーん…、俺だと予約ナシで大丈夫なんだ?」
 「う、あ…、えっ?」
 「さっきから、何じりじり離れながら発音の練習してんの?」
 「あははは…、な、なんでかなぁ〜。俺にもわかんね」
 「ふーん…、そう」
 「それよか、は、早く帰ろうぜっ。な、なんか腹へっちまったし…」
 「けど、別にそんなに急ぐコトないっしょ?」
 「そーいう久保ちゃんは、なんで俺のコト、ものスゴイ勢いで追っかけてくんだよっ!」
 「ん〜? それは同じ部屋に住んでるからじゃないの?」
 「それはそうだけどっっ、なんか…っっ」
 「なんか?」

 「うわぁぁぁっっ、誰か助けてくれーーっ!」
 
 俺がそう叫んで逃げると、久保ちゃんが本格的に俺を追いかけて走り出し…、 そうして、俺達はクリスマスが近づいてきて、少しずつ…、少しずつ冬の色に染まっていく街並みを二人で駆け抜ける。
 久保ちゃんが俺を追いかけ、けれど…、
 次第に距離が縮まって、二人で笑いながら並んで家路を急いだ。
 そして、そんな俺達の間には、あの二匹のクマがいて…、
 たぶん、そいつらも俺らと同じように、二人で顔を見合わせて笑ってんだろうって思ったら、身体だけじゃなくて心の奥が温かくなっていくのを感じた。
 
 「きっと、ずっと一緒だよな…」

 そう呟いた俺の視線の先には、二匹のクマの入った袋…。
 でも、俺の呟きを聞いて、瞳を閉じて頷いた久保ちゃんには、きっと俺の考えてるコトがわかってたに違いなくて…、
 なのに、閉じた瞳を開けた久保ちゃんは俺と同じようにクマの入った袋を眺めて、部屋に並べて飾ってやらきゃね…と言って微笑む。だから、俺もそーだなと答えて微笑み返した…。
 そんな俺らは明日なんて見えないから、たとえ手は伸ばしても…、
 絡み合った指先で指切りはできないけど、どこまでも行ける所まで二人で歩いていくコトを、歩き続けていくコトだけを…、それだけを…、
 片方の手袋とマフラーを失くしたクマじゃなくて、袋の中で二人きりで寄り添うクマを眺めながら…、たぶん願ってた…。

 手のひらの中に今を閉じ込めるように、お互いの手を握りしめ合いながら…。

 そして、俺らはいつものように二人で部屋に帰り…。
 その日から、俺らの住む部屋には二匹のクマが寄り添って座るようになった。けど、それから何かを俺に予約しようとしてた久保ちゃんが、欲しかったモノを手に入れたかどうかだけは・・・・、誰に聞かれても…、


 絶対に秘密だっっ。




 祝!!!!Go The Limit !!!!!vvvv
 久保時ライブ開催っ!!!!!!!
 という事で、お祝いのお話を書いてみましたvvvv(///ω///)
 お話の中のクマは、もちろんライブで販売されるグッズのvv
 二匹のクマですvvvv時任グマと久保ちゃんグマ〜vvvv
 (〃д〃)きゃ〜♪vv
 行く事はできませんでしたのですが、心は横浜ですっっvv
 久保時バンザイっ!!!!!!!!vvvv

 バンザーイ \(≧∇≦)/\(≧∇≦)/\(≧∇≦)/\(≧∇≦)/ キャァ♪vv
  

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