☆要注意☆

 このお話は、WA4のCD関連のお話なので聞いてから読んでやって
くださるとうれしいですvvCDのミニドラマ関係のネタバレは少しですが、
コミックの方はネタバレ…というよりも読まなくてはわからない
お話となってますのです(@Д@; 
 な、なので、まだ読んだり聞いたりされていない方は注意ですっ。
 特にCD、コミックどちらもまだの方は要注意ですっっ。
 了解された方のみ、お話のある下へとお進みくださいませですv<(_ _)>

























CLOVER






 『寒かった…、ずっと…』


 そう呟いた声を聞いて、寒空を見上げた。
 そんな…、ちらちらとちらちらと白い雪の舞っていた寒い冬は終った。
 いつの間にか過ぎ去った、その足音さえ聞く事もなく。
 吐く息も白くなくなり、分厚いコートも着なくなった。移りゆく季節をカレンダーを見て知るのか、それとも空の色を咲く花を見て知るのか、それは人それぞれで…、
 けれど、見るのではなく感じるのなら同じかもしれない。
 日差しに向かって伸ばした手で、着てる服から出ている肌で感じる空気の温度。
 冬だった季節を春に変えていくように部屋のエアコンを切って外に出た時任は、いつもと変わらない日々を暖かく包み込むような春の日差しの中、少し遠い場所にある河原で目を閉じて寝転んでいた。
 
 「春…、だよなぁ」

 そんな風に呟いて寝転んだままで、アクビをしながら大きく伸びをする。
 すると、耳に河原を遊ぶように飛び回っていた小鳥の鳴き声が聞こえてきた。
 うっすらと目を開けると、やけに明るい風景が眩しくて目が痛い。
 時任は日差しを防ぐように右手を目の前にかざすと、じーっと日差しではなく右手にはめている黒い手袋を見つめた。
 この手袋は…、人目のある場所では外せない…。
 この手袋の中にあるのは確かに自分の手だけど、そう思えない時もある。
 時任は再び目を細めると、右手の甲を額に押し付けた。

 「手袋してても暑くねぇし寒くもねぇし、そういう意味では何もカンジねぇから、ずっとしてても問題なくていいんだけどな」

 そう言った言葉には…、何か続きがあるようでないようで…、
 時任は額から右手を離すと、両手を頭の後ろで組んで眠る体勢に入る。こんな所で寝ると風邪を引くと久保田が居たら言うかもしれないが、今はここには時任の他には誰もいなかった。
 けれど、別にマンションからここを目指して歩いてきた訳ではなく、ぼんやりと歩いている内に気づいたら河原に来ていたというだけ…。誰もいない部屋にいるのに飽きて出てきたのに、いつものゲーセンやいきつけの本屋ではなく、誰もいない場所に来たのはなぜなのかは自分でもわからない。
 それと同じようにこんな暖かい場所にいるのに、なぜ冬の日の事を思い出したのかもわからない。だが、あの冬の日から時々こんな風にじっと空を見上げる事が多くなったのは確かかもしれなかった。

 「どっから見ても同じ空なのに、ベランダから見るよか広い…」

 閉じかけた目で空を見つめながら、そう呟いて…、
 すると、急に空から何かが降ってくるように時任の顔の上に影が落ちる。その影に驚いた思わず時任が起き上がると、影の主と軽く頭がゴチっと音を立ててぶつかった。
 「痛ってぇぇ…っ」
 「痛ったぁぁぁい…っっ」
 時任と影の主は同時にそう叫ぶと、ぶつかった頭を抱えてうずくまる。起き上がった瞬間に軽くぶつかっただけだが、ぶつかった場所が場所なだけにかなり痛かった。
 それでも時任はすぐに復活したが、ぶつかった相手は今にも泣きそうな顔をして涙ぐんでいる。実は寝転がっていた時任の顔を覗き込んできたのは、小学校低学年くらいの女の子だった。
 「・・・・・」
 「わ、悪りぃっ、痛かったか?」
 「うっ、うっ・・・・・」
 「ゴメン…っ、お、俺が悪かったってっ」
 「うう…っっ」

 「うわぁ…っ、泣くなぁ〜っっ」

 泣き出しそうな女の子の頭を、時任がそう言いながらあわててよしよしと撫でる。すると、女の子は涙ぐんではいるものの、ぐっと泣かずに耐えて立ち上がると両手でゴシゴシと目をこすった。
 そして、少し赤くなった目で頭を撫でている時任を見上げると、あのね…と話し始める。けれど、どうやら女の子はこの河原に一人で来ているらしく、辺り見回しても親らしい人物の姿は見当たらなかった。
 「あのね…、みさきね」
 「…って、お前ってミサキって名前なのか?」
 「うんっ! みさきね、ここに四つ葉のクローバー探しに来たの」
 「ヨツバのクローバー?」
 「四つ葉のクローバーを見つけると、幸せになれるんだよっ。だからね、みさきはクローバーを探さなきゃいけないのっ。お兄ちゃんは四つ葉のクローバー見なかった?」
 「クローバーって、確か地面に生えてるヤツだよな?」
 「お兄ちゃん、クローバー知らないの?」
 「なんとなく…、は知ってるけど…」
 時任がそう言うと、みさきはしゃがみ込んですぐ足元に生えてるクローバーを摘んで時任の目の前に差し出す。けれど、そのクローバーの葉は三枚しかなかった。
 「フツーのはね、葉っぱが三つしかないの。でもね、四つ葉のクローバーは葉っぱが四つあるんだよ」
 「でも、なんで三つだとフツーで四つだと幸せになれんの?」
 「しらなーい」
 「知らねぇのに、ソレの葉っぱの四つのヤツ探してんのか?」
 「しらないけど、四つあると幸せになれるんだもんっ。ぜぇっったいにっ、幸せになれるんだもんっ!!」
 時任が不思議そうな顔をすると、みさきはそう言って地面にしゃがみ込むと四つ葉のクローバーを真剣に探し始める。なぜ四つ葉のクローバーを探しているのかはわからないが、その姿はどこか必死だった。
 幸せになれるという四つ葉のクローバー…。
 そんな話を信じた訳ではないけれど、時任はみさきの隣にしゃがみ込むと同じようにクローバーを探し始める。すると、そんな時任を見たみさきの方が今度は不思議そうな顔をした。
 「ねぇ、お兄ちゃんも四つ葉のクローバーいるの?」
 「別にいらねぇよ。けど、お前はいるんだろ?」
 「…うん」
 「だったら、一人で探すより二人で探した方が早ぇじゃんっ。俺はこっち探すから、お前はあっち探せよ」
 「うんっ!」
 三つ葉のクローバーばかりの河原で、あるかどうかもわからない四つ葉を探して探るように手を伸ばす。けれど、二人で探しても四つ葉は見つからなかった。
 やがて探している内に日が暮れて、自分の手元さえあまり見えなくなってくる。
 そうなってから、やっと視線を地面から上へと上げた時任は暗くなってもまだ探し続けているみさきの方を見た。
 「もう暗くなったし、そろそろウチに帰った方がいいんじゃねぇか?」
 「でも、まだクローバーが…」
 「けど、暗くてクローバーも良く見えねぇし」
 「見えるもんっ」
 「それに、ウチのヤツとか心配するだろ」
 「・・・・・・・」
 時任がそう言っても、みさきはいう事を聞かずに探し続ける。このままでは本当に四つ葉のクローバーが見つかるまで、いつまでも探していそうだった。
 薄暗くなった河原で四つ葉のクローバーを探し続けるみさきは、なぜかクローバーではなく本当の幸せを探しているようにも見える…。小さな手をいっぱいに伸ばして探す姿は、どこか寂しかった…。
 だから、そんなみさきの小さな背中を見ていると帰るウチが…、帰る場所があるのかと少し心配になる。四つ葉を探していた時には気づかなかったが、辺りも暗くなってしまったせいか吹いてくる風も気持ちよさより…、寂しさの方が勝っていた。
 けれど、時任はそんな風を吹き飛ばすように、みさきにニッと笑いかける。
 そして、大きく伸びをするとジーパンについていた草を右手で軽く払った。
 「今日は見つかんなかったけどさ。明日は見つかるかもしんねぇから、明日、また一緒に探そうぜっ」
 「明日も…、明日も一緒に探してくれるの?」
 「おうっ。こうなったら乗りかかった船ってヤツで、見つかるまで一緒に探してやるよ」
 「ほ、本当に?」
 「ホントっ」

 「じゃ、約束っ!」

 みさきは右手の小指をを伸ばして時任の左手の小指と指切りすると、バイバイと手を振って家に帰ろうとする。だから、暗くなってるし送って行こうかと時任が言うと、すぐそこだから大丈夫と言ってみさきは走り出した。
 別に探して欲しいと頼まれた訳ではなかったし、四葉のクローバーを見つけても幸せになれるとは思えない。けれど、明日の約束までしてしまった時任は、みさきと指切りした左手の小指を見た。
 乗りかかった船…。
 そう言えば前に、そんな風に久保田から言われた事を思い出す。
 乗りかかった船だから、最後まで付き合わせなさいと久保田はそう言って…、
 今も乗りかかった船に乗ったまま…、降りないでいた。

 「俺らは指切りしてねぇから、ハリセンボン飲まなくてもいいのにな…」

 そう呟いて三つ葉のクローバーの白い花ばかり咲いている河原の道を風に吹かれながら歩いてマンションを目指す。そのマンションの401号室の表札には時任の名前は書かれていなかったが、そこが時任の帰る場所で、帰る家だった。
 もしかしたら、まだ久保田はバイトから帰っていないかもしれないが、そうしたら帰ってくるまで待っていればいい。それはそこが時任と同じように…、久保田の帰る場所で帰る家だから…、
 晩メシの用意でもして…、部屋に明かりをつけて…。

 「たっだいまー」

 けれど、予想と違ってたどり着いたマンションの401号室には明かりがついている。だから、そう言いながら中に入ってリビングに向かうと次第にカレーのいい匂いがしてきて、リビングのドアを開けると久保田がセッタをくわえながら新聞を読んでいた。
 晩メシの用意でもして…、部屋に明かりをつけて…。
 さっき自分が想った事と同じ事を久保田がしているのを見た時任は、なぜかまだ見つけていない…、四つ葉のクローバーを見つけた気がしてカレーの匂いを胸にいっぱい吸い込む。そしておかえりと言った久保田に近づくと、あの冬の日…、久保田がそうしたように後ろから肩に額をコツンと乗せた…。
 「あったかいな…、ココ…」
 「もう日が暮れてるし、もしかして外寒かった?」
 「うん…」
 「じゃ、カレーでも食って…」
 「…って、そこは鍋物だろ?」
 「なんで? もう春だし鍋物は暑いっしょ?」
 「なーんて、ウソっ。腹減ったし、早くカレー食おうぜ」
 そう言ったのに時任は額をくっつけたまま離れなくて、久保田もそのままの状態で動かずにいる。すると、いつの間にか二人の間で新聞がぐちゃぐちゃになっていた…。
 カレーとタバコの匂いに満ちた部屋の中は暖かくて、ベランダから見る空は河原から見た空よりも狭く見えるけれど…、
 時任はここから、この場所から見る空が好きだった。
 指切りもしないで乗りかかった…、二人で乗り込んだ…、
 下船も乗船もできない船の上…。
 そこには、四つ葉のクローバーは生えていないかもしれないけれど…、
 そこで…、こんな風に感じるぬくもりさえあれば…、

 二人でいるなら…、どこまでも行けるような気がしていた。













 プルルルル…、プルルル・・・・、ガチャ…。



 「もしもし?」


 時任がみさきと四つ葉のクローバー探しを初めて三日目、バイトの入っていなかった久保田は、ある人物に電話で呼び出されて一人で街を歩いている。だが、ずっとぼんやりと何かを考えている様子で、目的地は決まっているのに足取りは少し迷っているようにも見えた。
 今日は自力で起きた上に朝から出かけてしまった時任は、昼になっても帰って来ない。そのせいか、なんとなく何も食べる気が起こらなくて久保田は朝から何も食べていなかった。
 
 「ふぁ〜…、ねむ…」

 いつもの少し前屈みの猫背の姿勢のままで一つ大きなあくびをすると、目的地であるファミレスの自動ドアをぐぐる。すると、久保田の方に向かって胡散臭さそうなフリーライターがひらひらと手を振った。
 電話をかけてきたのは元アサニチの記者で、今はフリーライターの滝沢。
 滝沢は時任と二人にではなく、久保田に話があると言って呼び出した。
 しかも…、時任の事で話があると言って…。
 時任の名前を出せば久保田が出ると思っているのか、それとも本当に時任の事で話があるのかはわからないが、そう言われて行かない訳にはいかない。そう思うのはやはり…、自分が例の殺人事件で留置所に入れられている間に、時任が滝沢の所に身を寄せていたせいだった。
 あれから自分では自覚はなさそうだが、時任は滝沢になついている。
 だから、また…、もし何かあったら時任は滝沢の所に行くかもしれない。そう思うと少しだけ、妙な感情がざわざわと胸の奥を侵食するのを久保田は感じていた。
 「・・・・で、何の用?」
 「って、口開一番がソレ? それなりに付き合いも長くなって来たんだしさぁ。たまには愛想のあるアイサツしてくれてもいいんじゃない? くぼっち」
 「ん〜、けど別に天気の話をしに来たワケじゃないっしょ? お互いに」
 「まぁ、そーだけどサ」
 「じゃ、ご用件をどうぞ」

 「・・・・・・・・実はくぼっちって、さりげなく不機嫌?」

 滝沢は額にわざとらしい汗を浮かべてそう言うと、やってきたウェイトレスに注文する。すると、それを聞きながら久保田も愛モクであるセッタを口にくわえて火をつけた。
 目の前には新発売の野いちごのパフェの写真が載った、デザートだけの簡易メニューが置かれていた久保田は何も頼まない。そして、やがて滝沢の頼んだコーヒーをウェイトレスが二つ運んで来たが、それも飲もうとはしなかった。
 「最近、黒い服着たオジサンじゃないけど、ソレ関係らしいオニイさん達がWA関係の情報を探してるらしい。だから、くぼっちに何か心当たりはないかなーって?」
 「心当たりって何が?」
 「そのオニィさん達の所属事務所…、どこだと思う?」
 「ふーん、それで俺?」
 「悪いって思いながらも、調べてるウチにイモずるで出てきちゃってサ」
 「ま、別に隠してるワケじゃないし?」
 「だったら、ずっと前に東京湾であがった身元不明の遺体が、くぼっちの前に年少組のリーダーしてたヤツらしいってコトも?」
 滝沢は少し声のトーンを低く落としてそう言うと、運ばれてきたコーヒーを一口飲んでわずかに立ち昇る湯気の向こうから、何かを探ろうとするかのように久保田をじっと見る。けれど、そんな滝沢の視線を受けても久保田の表情は変わらなかった。
 表情も変わらないし、そこから感じ取れる感情もない…。
 だが、それはいつもの事だった。
 滝沢は軽く肩をすくめると、もうコーヒーをもう一口飲んでカップをソーサーの上に置く。そして、緊張を解くように口元に笑みを浮かべた。
 「関係ないかぁ…、やっぱり」
 「用件はそれだけ?」
 「…と言いたい所だけど、まだあるんだよネ」
 「あっそ」
 「色々と情報を拾ってて思ったんだけど、もしかしたらくぼっちってトッキーと会う前から、WAのコト知ってたんじゃない? だから、トッキーを拾ってたり…、なーんて?」
 「それが本題?」
 「どう?」
 「ノーコメント」
 「トッキーをどうするつもり?」
 「それもノーコメント」
 「まさかとは思うけど、俺もまだくぼっちの事をあまり知らないしなぁ〜」
 「別に知らなくていいし、知る必要もないし?」
 「う〜〜ん〜〜…」
 「なに?」

 「もしかして…、くぼっちって実は思ったより悪いヒト?」

 滝沢ににそう言われた久保田は、何も言わずに目を細めて口元に薄い笑みを浮かべる。すると、その笑みを見た滝沢は背中にゾクゾクと冷たい恐怖に似た何かが…、走るのを感じた…。
 時任と二人でいる時には会った事が何度もあるが、久保田と滝沢が二人きりで会うのは初めてかもしれない。初めて久保田と二人きりで話した滝沢は、時任といる時との違いを…、周囲を包む空気の冷たさを感じながら…、
 額に滲んだ本物の汗を右手で軽く拭って、それ以上の質問は断念した。
 そして、さっきとは違う別の話を久保田にする。それは、時任と小学校低学年くらいの女の子と二人で河原を歩いていた話だった。
 「あ…、そう言えばトッキーがオンナと歩いてるの見たけど、アレってどういう知り合い? 手なんか繋いじまってて、かなり仲良さそうだったけどサ」
 「へぇ、時任がオンナとね」
 「もしかして知らなかった? ここに来る前に近くの河原で見たんだけど…、なんかマズいこと言っちゃったかな〜」
 「別に? 一緒に暮らしてても別に監視してるワケじゃないし、時任が誰とどこで会おうと俺には関係ないし?」
 「だったら、いいんだけどねェ」

 「そ?」

 久保田の素っ気無い返事に、滝沢がわざとらしくガックリと肩を落とす。
 そして、もう用件は終ったとばかりに座っていたイスから立ち上がった久保田を、来た時と同じようにヒラヒラと見送ろうとした。
 けれど、そうするために少し手を上げた瞬間、ガツッという音がしてコーヒーが乗っている机がガタガタと音を立てて揺れる。滝沢はそれを地震かと思い上げかけた手で、慌てて机を押さえたが…、
 次の瞬間にちょっと眉間に眉を寄せながら、立ち上がって机の角の辺りで固まっている久保田を見て、いきなり腹を抱えて笑い出した。
 「くくく…っ、ああもう…っ、ホントたまんないねぇ…っっ」
 「…って、何が?」
 「いや…、疑って悪かったってハナシだって…っ、くくく…っ」
 「笑いながら、そう言われてもねぇ」
 「どういう関係なのかってさ、気にはなってたけど…。顔に出てなくても、らしくなく机の角に腰をぶつけちまうくらいの衝撃はあったワケだ…っ」
 「はぁ?」
 「もういいや、どうでも…っ、ホントお宅らって最高…っ!」

 「そりゃ、どうも?」

 時任いわく見かけによらずいい人の滝沢は、色々とWAの事を探る内に久保田の過去をほんの少し知る事になり…、時任の事を心配してファミレスに久保田を呼び出してみたのだが、その成果は肝心な部分ではなく余分な部分に現れた。
 その事がおかしくてたまらないらしく、良くわからない礼を言って今度こそ本当に久保田が店を出て言った後も滝沢は楽しそうに笑っていた。
 楽しそうな滝沢を背にファミレスを出た久保田の頭の中には、すでに…というよりも最初から滝沢の事は頭にない。ファミレスに向かう途中も向かう前も、誰かと待ち合わせでもしているのか楽しそうに出かけていく時任の事だけを考えていた。
 
 「まさかとは思ってたけど…、オンナねぇ?」

 時任と女…、で心当たりがあるのはアンナか沙織…。
 だが、滝沢にも言ったように監視したりする気もないし、した覚えもないので他に知り合いの女がいないとは限らない。好奇心の強い猫を入れておくには、マンションの401号室は狭すぎた。
 最初はあの部屋の中のコトだけしか知らなかったのに、いつの間にか久保田が教えてもいない色んな事を知っている。それは当たり前の事で、別になんでもない事なのになぜか…、久保田の口から長いため息がセッタの煙と一緒に出た。
 
 「なんだかなぁ…」

 そう呟いてさっき机で打ち付けてしまった腰を軽く右手で撫でから、逆の方向にある河原の方へと歩き出す。そうして、やがてたどり着いた久保田が見たのは、確かに時任と女だった。
 だが・・・・、二人はかなり年の差がありそうである。
 しかも、二人は河原で何かを探していた。
 そんな二人の姿をぼんやりと見た久保田は、カリカリと右手の人差し指でこめかみを掻くとふーっと口から煙を吐き出す。それから、ぼんやりしたまま、のほほんとした口調でハメられたかなぁ…と呟いて苦笑した。
 愛があれば年の差なんて…、という言葉があるにはあるが相手はどう見ても小学生。久保田はぼんやりとセッタをふかしながら時任に近づくと、その肩をポンッと軽く叩いた。
 「キモチはわかるけど、それって犯罪だから…」
 「…って、うわぁぁぁっ!! な、なんで久保ちゃんがココにいんだよっ!!」
 「ん〜、ちょっと散歩」
 「てかっ、犯罪って何だよっ、犯罪ってっ! もしかして、河原でクローバー探すと犯罪になんのか?」
 「クローバー?」
 「そ、四つ葉のクローバー…。あいつの母親が病院に入院してて、それでどうしてもソレを渡したいらしくてさっ」
 「それで三日間、ずっとココで四つ葉のクローバー探し?」
 久保田がそう聞くと、時任はクローバーを探しながらコクコクとうなづく。
 時任の話ではここで昼寝をしていたら、あの小学生の女の子がやってきて四つ葉のクローバーがなかったかどうか聞いてきたらしい。それがきっかけで時任は女の子と一緒に探す事になったようだが…、今の様子からするとまだ四つ葉のクローバーは見つかっていないようだった。
 けれど、久保田がじっと足元に生えているクローバーを見つめると…、そこに一本だけ三つ葉ではなく四つ葉が見える。だから、それを指差して時任に教えたが、時任はそれを母親に渡すために探している女の子には教えなかった。
 教えなかったけれど…、自分があっちを探すからこっちを探してくれと女の子に頼む。そして、違う場所で四つ葉のクローバーを探しながら、女の子に在りかを言わないように久保田に口止めをした。
 「ぜっったいに言うなよっ。言ったら、ハリセンボンだかんなっ」
 「ハリセンボンって指切り?」
 「俺はみさきと、一緒に四つ葉のクローバーを探すって指切りしたんだ。けどさ…、なんとなくだけど…」
 「うん?」
 「こーいうのって、自分で見つけなきゃイミねぇだろ? 自分で見つけて渡して…、その方がいいだろ、絶対…」
 時任はそう言うと、またクローバーを探し始める。
 けれど、それは演技ではなく本当に探している様子だった。
 だから、久保田はなぜかと尋ねようとしたが、そうする前に女の子の…、みさきの声が辺りに響く。どうやら、四つ葉のクローバーを見つけたらしかった。

 「お兄ちゃんっ、見つけたっ!! 四つ葉のクローバーあったよっ!!!」

 そう叫んだみさきはとてもうれしそうで、笑顔で時任に向かって手を振る。
 すると、それに答えるように時任も良かったなと言って笑った。
 みさきの母親はガンで…、明後日、手術するという…。だから、みさきは幸せになれるという四つ葉のクローバーを見つければ、きっと手術が成功すると思って探していた。
 けれど…、四つ葉のクローバーが見つかっても見つからなくても手術には関係ない。幸せになれるというのは、ただの迷信で言い伝え…。
 でも、見つけた四つ葉のクローバーを握りしめてありがとうと礼を言いながら、母親の元へと走り出すみさきの後ろ姿を、時任は何も言わずに手を振りながら見送った。
 「なぁ…、久保ちゃん」
 「なに?」
 「四つ葉を見つけたら幸せになれるなんて信じてねぇし、どんなのが幸せなのか俺には良くわかんねぇけど…」
 「・・・うん」
 「クローバーを見つけたコトとか、それを渡したいって想ったコトとか…、そういうのは絶対にムダなんかじゃないよな…」
 
 「うん…、そうね」

 四つ葉のクローバーは、ただの迷信で言い伝え…。けれど、クローバーと一緒に渡した想いも込めた想いは…、きっと、その四つの葉の上にある。
 久保田は少し屈み込んで自分が見つけた四つ葉のクローバーを手折ると、すぐそばに立っている時任の耳に飾るようにはせる。すると、時任は手で触って自分の耳にかけられているのが、クローバーで四つ葉だと知るとぷうっと少し頬を膨らませた。
 「なんで、久保ちゃんばっか四つ葉見つけんだよっ。俺はぜんっぜんっ、見つかんねぇのに…っ」
 「さぁ、なんでだろうねぇ? けど、ソレは新しく見つけたんじゃなくて、さっき見つけてたヤツ」
 「…ってコトは、ホントにアイツ自力で?」
 「見つけたってコトだぁね」
 久保田がそう言うと、みさきが本当に自力で四つ葉のクローバーを見つけたのを知ると時任はうれしそうな顔でそっか…とだけ答えてクローバーのたくさん生えている河原を眺める。そして、大きく伸びをすると耳にかけられた四つ葉のクローバに手を伸ばしかけたが…、途中でやめるとそのままマンションの方に向かって歩き出した。
 「なんか腹へって来たし、帰る途中でファミレス寄らねぇ?」
 「了解」
 「けど、パフェなんか食うなよっ。メシ食ってる時に、横で甘ったるいモン食われると胸焼けするっ」
 「えー…、野いちごのパフェが新発売なんだけど?」
 「…って、なんでそんなコト知ってんだよ?」
 「さぁねぇ?」
 「だ、誰と行ったんだよっ、ファミレスっっ」
 「うーん…、誰だったっけなぁ?」
 「もしかして、あのオンナとか…っっ!!」
 「あのオンナって?」
 「アンナ…」
 「さぁ…、どうだったっけ?」
 「なにぃぃいぃぃ…っっ」
 「なーんてね、相手は見かけによらずいい人なカンジのオジサン」
 「はぁ?誰だソレっっ」

 ハーーーックションっ!!!!

 そんな会話を二人がしていた頃、どう見ても20台半ばか後半にしか見えない久保田に、オジサン呼ばわりされた見かけによらずいい人のフリーライターが盛大にクシャミをする。けれど、そのクシャミは久保田のせいではなく風邪だと思ったようで、ウチに薬あったっけなとか呟きながら近くの薬局に入った。
 時任と久保田の手で耳にかけられた四つ葉のクローバーと…、
 河原のたくさんの三つ葉のクローバー…。
 横でしつこくファミレスに一緒に行った相手を聞いてくる時任の声を聞きながら、久保田は河原を吹く風にセッタの煙をなびかせながら歩く。その顔は優しく微笑んでいて…、吹いてくる風のように穏やかで…、
 その表情を見ていると幸せになれる四つ葉のクローバーをもらったのは時任の方なのに…、まるで久保田の方がクローバーをもらったように見えた…。
 

 四つ葉のクローバーを見つけたら…、
 それを君に贈ろう…。
 小さな四つ葉にありったけの想いを乗せて…、
 両手いっぱいの花束を贈るように、君にクローバーを贈ろう。
 三つ葉のクローバーだらけの…、そんな場所で見つけた…、



 たった一本の…、四つ葉のクローバーのような君に…。







 企画お題の一つ目はCLOVERなのですvvvv
 せっかくのネタバレでCDお祝いなのでっ、CDもしくは4巻を聞いたり読んで
 いなけれぱ、わからないお話になっておりますです(-ω☆)キラリvv
 ずっと、4巻の関係のお話は書いてみたいなぁって想っていたので、
 お題は、たぶん同じカンジのお話を書いていくと想いますvvvv
 のろのろですが、ラブパワーで頑張りたいですっ!!!
 (。-_-。)ノ☆・゜:*:゜久保時□∨Εvv
                                    2006.4.30 鳴木沢
                  
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