シュガーレス。




 ゴミ箱にあふれそうなチョコレートと、二月十四日。
 そして少しにがそうなカオして、甘いチョコレートケーキを食べてた時任。
 コンビニのホワイトデーの文字を見ながら思い出すのはなぜか一ヶ月前のそんな光景だったけど、そんな光景が頭に浮かんだりするのは…、
 もしかしたら、時任の行動が予想外だったせいかもしれなかった。
 チョコケーキを作ってたのは、一緒に買いモノに行った時に時任がバレンタイン用の手作りコーナーでいいなぁって言ってたから作ってみただけで、明日がバレンタインとか時任も俺も意識してなかったし…、
 だから、もらったチョコも単純に二人で食べようって思ったってだけ。
 べつに捨てて帰っても良かったんだけど、その中に手作りっぽいのもなかったから、安全だと思って時任に渡した。
 
 『うっせぇっ、バーカっ!!!!』
 
 チョコを渡したら、時任はそう言って怒ったんだけど…、
 それが嫉妬してくれてたのか、それとも人にもらったものを人にやるのか許せないってイミだったのか…、それともその両方だったのかはわからなかった。
 でも、その次の日に晩メシをいらないって言った時任のカオを見て、次にいっぱいチョコが入ってたゴミ箱が、中身がなくて包み紙だけになってるのを確認した時…、
 ホントのイミで、自分が時任になにをしたのかがわかった。

 『・・・・もう寝る』
 『まだ、九時だけど?』
 『今日、わりと早起きしたから眠いんだって…』
 『そう』
 『そうなんだよ』
 『・・・・・ねぇ、時任』
 『あ?』
 『オヤスミ』

 『・・・・・・・おやすみ』

 時任がリビングからいなくなってから、あらためてゴミ箱を見てみると、食べられてるチョコの数はやっぱりかなりの数で…、
 これだけのチョコを一度に食べれば晩メシもいらないし、気分が悪くなってベッドに行きたくなるのも当たり前だった。
 俺はリビングにある救急箱の中から、腹痛の胃の薬を手に取るとキッチンでコップに水を入れて時任のいる寝室に向かう。そしたら時任は、予想した通り毛布の中にもぐり込んでうなってた。
 
 『時任…』
 『うぅ…』
 『クスリ持ってきたから、毛布から出てきてくんない?』
 『クスリって、なんでそんなもん持ってきてんだよっ』
 『それは、チョコ食いすぎてハラが痛いからでしょ?』
 『・・・・・・べつにハラなんか痛くない』
 『やせ我慢してクスリ飲まないと、もっと痛くなるよ?』
 『・・・・・・・』

 『ごめんね・・・・、悪いのは俺だってちゃんとわかってるから…』

 俺がそう言うと時任は毛布からカオを出してベッドから起き上がると、クスリを受け取ってコップから水を飲む。そして痛そうに眉をしかめながらすぐにまたベッドに横になったけど、今度は毛布の中からカオが出てた。
 時任は細く長く息を吐くと、天井を見つめながら目を細めて額に左手の甲を当てる。それから右手をゆっくりと伸ばして、俺の服のそでをなにかを確かめるように強く握った。

 『久保ちゃん…』
 『ん?』
 『チョコもらった時、やっぱコクられた?』
 『チョコの数だけ、全部ってワケじゃないけどね』
 『ふーん』
 『けど、ちゃんと断ってるから…』
 『・・・・・うん』
 『俺の言ったコト信じてくれてる?』
 『それはちゃんと信じてるけど…、でも…』
 『でも?』
 『自分で捨てさせたクセに、それでいいって想ってたクセに…、捨てられてるチョコ見てるとなんか胸ん中がズキズキしてきて、あのままにできなかったから食った…』
 『うん』

 『久保ちゃんに食わせたくなかったから、一人で全部食ったんだ…』

 時任はそう言ったからサイテーと小さく呟いて、またカオが見えないように起き上がったままの姿勢で毛布の中にもぐり込む。けど、服のそでをつかんでる時任の右手はそのままだった。
 だから、その手の上に手を乗せて握ると、時任はつかんでたそでを放して手の向きを変えて握り返してくる。そして手の感触を確かめるように、ゆっくりと一本ずつ指をからめて…、離れないようにお互いの手を強く握りしめた…。
 だけど、まだそれだけじゃ足りないから、俺は空いている方の手でもぐり込んでる毛布ごと時任を抱きしめると頭に頬を寄せてみる。そしたら毛布ごしに時任の体温が伝わってきて…、その体温がスゴク気持ちよかったから…、
 俺は時任を抱きしめたまま…、眠りに落ちるカンジに似た速度でベッドに寝転がった。

 『ハラが痛くなくなるまで、ずっとこうしてる…』
 『うん…』
 『もし、ハラが痛くてガマンできなかったら、噛み付いても蹴飛ばしてくれていいから…』
 『・・・・・・バーカ、そんなコトするワケねぇだろ』
 『時任のハラを痛くしてる原因を、俺が作ったのに?』
 『・・・・・・・・・』
 『もしかしたら、ホントは時任を痛くしたかったから、チョコを持って帰ったのかもしれない…。捨てるのがもったいないからだって、自分に言い訳して気づかないフリして…』
 『久保ちゃん…』

 『痛いくらい強く抱きしめてるのも、手を握りしめてるのも…、こんな風にお前を痛くさせたいからかもね…』

 俺はそう言って、腕の中の細い身体をもっと強く抱きしめたけど、時任は逃げないで同じくらい強く抱き返してくる。そして…、隠れてた毛布から顔を出すと、時任の赤い唇が俺の唇にそっと触れて離れた…。
 だから、その唇を追うようにキスして…、キスして…、
 痛みがなくなるおまじないでもしているかのように、浅いキスを何回も繰り返す。それから、いつの間にか二人でそのまま深い眠りについていた。

 『好きだよ…、この胸の痛みよりも深く…』

 そんな風に呟いたバレンタインデーの次の日も、すぐに過ぎてゴミ箱のチョコの包み紙も燃えるゴミ日に回収されていった。
 けど、一ヶ月後のホワイトデーに過ぎた日のことを少しだけ想いだしたのは、もしかしたらホワイトデーの文字を見たからってだけじゃないのかもしれない。なんとなく嫌な予感を覚えながら、マンションの部屋に戻ってリビングに行くと…、
 そこのテーブルの上には、色んな種類の飴が山のように積まれていた。
 
 「ねぇ、時任」
 「なんだよ?」
 「コレってなに?」
 「なにって、見たまんまのアメに決まってんだろっ」
 「ま、それはそうかもしれないけど…、もしかしてコレって…」
 「ホワイトデーだから、バレンタインのお返し」
 「・・・・・・・・お返しじゃなくて、仕返しの間違いじゃないの?」
 「なら、返せよっ」
 「なーんて嫌だなぁ、ジョーダンに決まってるデショ。けど、コレ全部食ったらさすがに太るかもねぇ?」
 「大丈夫だって、ちゃんとシュガーレスのヤツにしてあるし…」

 「ふーん、けどシュガーレスでもかなり甘いけど?」
 
 俺はシュガーレスと書かれたアメの中から一つ取り出すと、包み紙を空けて口の中に放り込む。そして、そんなことを言いながら時任に近づくと、口にシュガーレスのアメを入れたままキスをした。
 キスされて少し驚いた様子だったけど、その隙をついて時任の口の中に舌でアメを押し入れる。それからキスを繰り返してると、時任の唇まで甘くなった。

 「このアメってマジで甘い…って、いきなりなにすんだよっ!」
 「バレンタインデーのイチゴポッキーのお返しに決まってるっしょ?」
 「お返しじゃなくて、仕返しの間違いだろっ!」
 「ふーん、なら仕返し風にもう一個食べてみる?」
 「食うんだったらフツーに自分で食うっ!!」
 「遠慮しなくてもいいのに、ねぇ?」
 「く、口の中も甘いし一個で十分だっつーのっ!」
 「ま、このアメはシュガーレスでも、それを補うために色々入ってるみたいだしね?」
 「なんか、これだけ甘いと砂糖ナシなカンジしねぇよな」
 「ま、どんなアメでも甘かったかもしれないけど」
 「なんでだよ?」

 「・・・・さぁね?」

 どんなに胸の奥のこの想いが、君に痛みを作るだけのシュガーレスな想いでしかなくても…、抱きしめてキスすれば甘く甘くなって…、
 痛みをカンジながらも、その唇の甘さに酔いしれていく…。
 醜い嫉妬と独占欲がキスの合間にカオを出すのは、いくら甘くカンジてもそれが砂糖の甘さじゃないからで…、
 けれど、君を抱きしめてキスしてる間だけは甘さだけをカンジてたかった。
 
 それが…、シュガーレスな恋だったとしても…。




や、や、やっとホワイトデーなのです(_TдT)
しかも…、甘くなくシュガーレスに…(冷汗)
未だのろのろ中なのですが、なんとか立ち直りたいです…(>_<、)


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