九月八日。
※八月二十四日を読んでから、見てくださるとうれしいですv
まだ夏って感じだけど、いつの間にか八月から九月になってて…。
思い出したように三日くらいになってカレンダーをめくったら、大きく丸印のついた日が見えるようになった。
九月八日…、時任クンの生まれた日。
そう書かれた走り書きは、間違いなく俺が書いた文字で…。
けど、そんな印なんかつけなくっても、九月八日を忘れたりはしない。
それはたぶん、誕生日でお祝いしなくちゃならないからとかそんなのじゃなくて…。
時任が目の前にいることが、時々不思議に思えてしまうからかもしれなかった。
「朝だっ! 起きろー!!」
時任に叩き起こされて時計を見ると、まだ八時ちょっとすぎで普段の日曜日ならまだ眠っている時間だった。
起こされた理由はなんとなくわかったけど、まだ起きなくてもいい気がする。
昨日は眠ったのが午前四時くらいだったから、まだ四時間しか眠っていない。
それは時任も同じ…、のはずなんだけど、なぜか時任はやたら元気だった。
「さっさと顔洗って来いっ!」
そう言われたから仕方なくベッドから起き上がって、バスルームまで行こうとしたんだけど、なぜか時任が俺の後ろをついてくる。
なんでかなぁなんて思ってたけど、バスルームにある洗面台の前に立ったらすぐにその理由がわかった。
・・・・・俺の頭に赤いリボンがついてる。
それはたぶん、八月二十四日に俺か時任の手首に巻いたリボンだった。
「・・・・・・・・あのねぇ」
「ぶっ…、ぎゃははははは…!!! 似合うっ!めちゃくちゃ似合うぜっ、久保ちゃんっ!!」
「爆笑しながら似合うって言われても、ねぇ?」
「マジですっげぇ似合ってるから、今日はそのまま出かけることに決定だなっ!!」
「それだけはカンベンね」
「いいじゃんかっ! つけるの苦労しからはずすのもったいねぇしっ!」
「・・・・・・そういう問題じゃないっしょ」
「久保ちゃん…、怒ってんの?」
「べつに…」
「眉間に皺よってんじゃんっ!」
「俺のコトこんなにしたんだから、もちろん責任取ってくれるよねぇ?」
「せ、責任って?」
「俺のコトもらってくれるんでしょ?」
「い、今はちょっと…」
「なんで?」
「あ、朝だし…、今から行くトコあんだからっ、んなこと言ってねぇでとっとと用意しろっ!」
「…出かけるのやめにしない?」
「ぜってぇ嫌だっ!!」
時任は二十四日のことを思い出したらしく、顔を真っ赤にして赤いリボンつけた俺を置いてバスルームを出て行った。
うーん…、やっぱ眠ってる間につけられたんだろうなぁ…。
鏡にうつった自分を見ると、頭のリボンが丁寧にぎゅっと結んである。
ああ見えても時任は以外に几帳面だったりするから、リボンの結び方もキレイだった。
苦労したのは認めるけど…、コレつけて町を歩く気にはなれなかったからリボンの端を引っ張って頭からはずす。つけられたことは別に怒ってなかったけど、眠っている間につけられてしまったことが、ちょっとだけ気になった。
いつも眠りが浅いから頭を触られたりしたら目覚めるばすなんだけど、ちゃんと頭にリボンがついてる。
それはつまり起きてる時任の横で、熟睡してしまってたってコトの証拠で…。
時任の前じゃ警戒心ゼロになってるって…、そういうことの証明だった。
「久保ちゃんっ、行くぞっ!」
「はいはい」
腕を引っ張られて玄関を出ると、時任は軽い足取りで歩き出した。
けど、実は外には出たものの俺はこれからドコに行くのか行き先を知らない。
昨日の夜、ベッドに入る前に時任が一日付き合うように言ったから…。
だから俺は、時任の跡を追うように歩き始めた。
「どこに行くの?」
「…どこだと思う?」
「うーん、遊園地とか動物園とか?」
「とりあえず最初は映画館なっ」
「最初?」
「そっ、最初っ!」
映画館でやってたのは時任が好きな感じのアクションもので、前から見たいって言ってたヤツだった。チケット買って入館の列に並ぶと、日曜だから人がたくさんいて列も長い。
その中にデートしてるってカンジなのが何組もいて、それを見ながらなんとなく自分から時任を映画に誘うべきだったことにふと気づいた。
ゴメンねってあやまろうかと思ったけど…、列が長いにも関わらず時任が楽しそうにしてたから言えなくなった。
ゴメンねなんて言ったら、きっと怒るだろうってわかってるから…。
「…久保ちゃん、最悪」
「最悪って言われても、ねぇ?」
「アクション映画で寝るかっ、普通っ!」
「音くらいなら聞こえてたよ?」
「音だけで内容がわかんのかっ」
「最初の五分くらいなら」
「ったく…。つぎ行くぞっ、つぎっ!」
ぶつぶつ文句言ってても、ちゃんと俺の腕を引っ張ってくれてる。
はぐれて離れ離れになってしまわないように…。
だから、その手と手をつなぎたくなった。
時任が生まれた日に…。
しっかりと手をつなぎたくなった…。
「く、久保ちゃん…、手ぇ離せって…」
「デートだったら、手くらいつながなきゃね?」
「で、で、デートなんて言ってねぇだろっ!」
「じゃあさ、俺とデートしてくれない?」
「するわきゃねぇだろっ」
「う〜ん、頭にリボン付けて歩くよりいい思うけど?」
「…なんでリボンなんか持ってんだよっ!」
「デートしてくれないなら、せっかく朝つけてくれてたし頭にリボンつけて歩こっかなぁ?」
「マ、マジでやんのかっ?!」
「頭にリボンつけた俺と歩くのと、手つないで歩くのとどっちがいい?」
「・・・・・手」
俺が伸ばした手と時任の伸ばしてくれた手。
たくさんヒトが歩いている道を、二人で手をつないで歩いた。
恋し合っているコイビトみたいに…。
始め時任は顔を赤くして俯いてたけど、しばらくすると慣れたみたいで手をつないだまま笑ってはしゃいでた。
そんな時任と歩きながら、その大きなキレイな瞳が俺の顔を見上げてくるたび、愛しさが込み上げてきて抱きしめたくてたまらなくなる。
無邪気に笑ってる時任を見てると、スゴク好きだって感じるから…。
恋した理由なんてわからなかったし…、この愛しさがどこから来るのかもわからなかったけど、今、この瞬間に時任を想っているのは本当で…。
まぎれもない事実だから…、愛しいキモチも恋する想いも見えないけど確かにあって…。
けれど、だからこそ時任がこうして隣にいることが不思議だった。
恋する気持ちがそこにあることが、不思議でたまらなかった…。
「日曜に来ることになるとは思わなかったなぁ」
「いいじゃんか、べつにっ!」
「悪くはないけど?」
「行くぞ、久保ちゃん」
映画館行って、ゲーセン行って、店で買い物して…。
そうしてる内に日が暮れたけど、時任と俺はまだマンションに帰っていない。
歩きなれた町並みと道と…。
毎日くぐっている門を通って…。
日曜に来ることなどない場所に来ていた。
私立荒磯高等学校。
時任が行きたかった最終目的地はなぜかココだった。
当然ドアは閉まってるから、少し前から壊れたままになっている廊下の端にある窓を開けて中に侵入すると、俺たちは夜の校舎の中を走り出した。
静まり返った暗い校舎の中の階段を足音を立てて上へ上へと登って行くと、俺と時任は屋上へと出る。屋上を吹き渡る風は、夏を少し過ぎたせいか少し涼しくなってきてた。
夜風に髪を乱されながら、時任は俺の手を離して柵から夕闇に沈んでいくグラウンドを眺めている。その顔を横から覗き込むと、時任はふわっと柔らかく微笑んだ。
「なに見てんの?」
「べつになに見てるってワケじゃねぇけど…、俺らってココで会ったんだよなぁって…」
「…うん」
「だからなんかさ…、ここに来たかった」
時任の隣に立って腕を伸ばすと、時任は自分から腕の中に飛び込んできた。
飛び込んできた身体をしっかりと抱きしめながら髪にキスを落とすと、時任が唇にキスをねだるように瞳を閉じて上を向く。
キスしたい…、抱きしめたいって…、時任も想ってくれてたらしかった。
閉じられた瞼に唇を落としてから、何度も何度もキスをした唇に自分の唇を押し付けると、心の中が時任への想いだけで満たさせていくのを感じる。
生まれた日に…、今日のこの日に…。
出会った場所に来たがっていた時任が、愛しくてたまらなかった。
ここで出会って生まれた恋するキモチは形がないから見えなくて…。
けれど、抱きしめている身体やキスしてる唇を感じているように、想いもココロも確かにココにあるから…。
出会ったこの場所でキスしたかった。
愛しさ恋しさに、その想いにキスするように…。
「・・・・・時任」
「ん?」
「時任がいてくれて良かった…」
「・・・・・・・・・」
「ここに…、この場所にいてくれて良かった」
「うん…」
「ここにいてくれて…、ありがとね」
好きだというキモチにキスして、愛しい想いを抱きしめよう。
出会ったことが、恋したことが偶然でしかなくても…。
君がそこにいることと同じように…。
ただそう想えたことが事実で…、それが現実だから…。
その想いを大切に大切に胸に抱いて…。
オメデトウを言うかわりに、好きだよ…、大好きだよって言いながら…。
愛しい君にキスの花束を贈ろう。
や、やはり今回も間に合いませんでした(滝汗)
実は…、ふふふっ、日にちを一日勘違いしてたのです〜〜〜(T_T)
私の中ではまだ七日だったのでした(←バカッ)
時任っ、ゴメンね〜〜〜(号泣)
あらためてっ、時任っ、おたんじょう日おめでとうっ!!!!!!
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