バニラ…。〜9月8日〜




 ・・・・・・・・・冷たい。

 目が覚めた瞬間、何かが頬に伝う感触があって…、
 汗かと思って手を伸ばしたら…、なぜか涙だった…。
 べつに泣くコトも泣きたくなるコトもないはずなのに流れ落ちる涙は、なんかすごく不思議で、涙に濡れた手を上にかざして眺めてみる。すると、また少しも哀しくないのに、自分の目から涙が零れ落ちてくのをカンジた。
 なんか…、怖い夢でも見ちまったのかな…。
 目をゴシゴシこすりながら、俺にわかる涙の原因はソレくらい。
 まだ眠くて大きくアクビをすると夢で流れた涙は、生理的な涙と混じってわからなくなった。
 
 「ふぁぁ…、ねむ…」

 見たかもしれない夢が、どんな夢だったかなんて覚えてない。目覚めた瞬間に、まるでココに来る前の俺の記憶みたいに綺麗さっぱり消えちまう。
 うなされてたみたいで、一緒に寝てた久保ちゃんに起こされたりするコトもあったりするけど、それでも何も覚えてた試しがなかった。
 いつも早く鳴りすぎてる鼓動とか、涙とか汗とか…、
 握りしめた手とか、食いしばった歯とか…、
 そんなモノが名残りみたいに残ってるだけで、何もわからない。
 けれど、涙を拭った反対側の手を右手を目の前にかざすと、何もわからないはずなのに何かが見えてくるかもしれない気がして…、
 ベッドに寝転んだままで、じっと右手を見つめる。
 すると、突然、ドアの辺りから声がした。

 「何か見える?」

 その声に驚いたせいで、ビクっとカラダが震える。
 でも、少しも驚く必要なんてない…、入ってきたのは久保ちゃんだ。
 だから、俺はじっと右手を見つめたまま笑った。
 「何って…、見たまんま右手」
 俺がそう答えると、久保ちゃんも俺の右手を見つめる。
 そして、どれくらい見つめてたのかわかんねぇけど、しばらく二人で右手を見つめた後、上から久保ちゃんの右手が俺の右手を握りしめた。
 でも、痛みしかカンジない俺の右手は、何もカンジてくれない。
 暖かいのも冷たいのも、何も伝えてはくれない。
 それはたぶん夢で流した涙の記憶と一緒に…、失ったモノ…。
 右手が獣化したまま戻らないように、失ったまま戻らない現実。
 けれど、それでも久保ちゃんの手をあったかいって想うのは、ずっと想像してるせいかもしれない。久保ちゃんの手の温度とか、感触とか…、右手じゃなくて左手に触れた時のカンジを思い出して想像して…、
 何がなんでも、右手でカンジようとしてるからかもしれない。
 そして、それはたぶん…、この右手を自分の右手だと認めた時から、初めて久保ちゃんの手が、俺の右手を握りしめた日から始まっていた。

 『お前が握りしめても、この手は絶対に壊れない…。けど、もしかしたら…、その逆はあるかもしれないけどね』

 俺の右手を初めて握りしめながら、久保ちゃんがそんなコトを言う。
 だから、俺も初めて右手で久保ちゃんの手を握りしめた…。
 ゆっくりとゆっくりと…、でも確実に指を曲げて…、
 久保ちゃんの手を握りしめて…、ゆっくりと息を吐いた。
 その瞬間に、ちょっとだけ涙が出そうになったのはたぶん…、ホッとしたせいかもしれない。壊したり傷つけたりするだけだと想ってた右手が、久保ちゃんの手を握りしめてるのを見たら…、なんかすごくホッとして…、

 なんか…、すごくうれしかった…。

 その時と同じように、俺がゆっくりとゆっくりと確実に指を曲げて右手を握りしめてる手を握り返すと、ベッドの端に座りながら久保ちゃんが微笑む。
 そして、反対側の手を俺の頬に伸ばすと、何かを拭うように軽く撫でた。
 その感触がくすぐったくて俺が少し首を縮めると、のほほんとした調子の歌が耳に届いて…、思わず頬が緩む。9月8日に…、俺の記憶の中にある一番古い記憶のある場所、401号室のベッドの上で聞いた歌はバースディソングだった。

 「はっぴばーすでぃ、とぅーゆ〜、はっぴばーすでぃ、とぅーゆ〜…♪」

 のほほんとした調子の久保ちゃんの歌は、調子は外れてないのになんかおかしくて笑いたくなる。俺はその歌と右手を握りしめてくれてる久保ちゃんの手のぬくもりをカンジながら、その記憶が一番新しい記憶として温かく…、その温かさが染みていくように胸の奥に刻まれていくのをカンジた。

 「・・・・・・サンキュ」

 温かさが染みた分だけ、胸に何かが詰まってて短くソレだけ言う。そして、伸ばした左手で久保ちゃんの襟首を掴んで引き寄せると、着てるワイシャツのいつもと違う甘い匂いを嗅いだ…。
 久保ちゃんのシャツからは、セッタじゃなくてバニラの匂いがする。
 生クリームなカンジのおいしそうな匂い…。
 その匂いを嗅ぎながら目を閉じると、柔らかい感触が額に当たった。

 「いただきまーす…」
 「…って、何食う気だっっ」

 握りしめられた…、握りしめた右手。
 温かく優しく香る…、バニラの匂い…。
 さっきかざしても何も見えなかった右手は、二人の手を重ね合わせても何も見えなかったけれど、重ね合わせた手のひらの中から何かが生まれてくる気がする。甘いバニラの匂いに似た…、甘い何かが生まれかけて…、
 胸焼けしそうになったけど、俺は自分から手を伸ばして、その中に溺れるようにゆっくりと目を閉じた…。



 時任っっvvお誕生日おめでとうっ!!!!!vvv
 …と言っても、もう何日も過ぎてしまいました(涙)
 しかも、激しくミニミニなのに…(/_<。)ビェェン
 けれど、久保ちゃんの時と同じように、
 どうしても、お祝いしたくて書いてしまいましたっっ!!vv

 ☆゚+.オメデトウ(○ゝω・○)ノ゚+.☆
 

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