3月14日。




 今日は3月14日だからホワイトデーだってコトをなんとなく意識したりするのは、やっぱバレンタインデーに久保ちゃんにチョコをもらったからだけど…。
 それは俺も同じだし…、この場合はどうなんのかなぁなんて…、リビングでカーペットに寝転がって久保ちゃんがゲームしてるの見ながらなんとなく思った。
 朝からゲームしてる久保ちゃんは、ホワイトデーなんか考えてそうにないし…。
 まぁ、べつにいっかぁとは思うけど…、なんか微妙に気になる。
 だからコントローラー握ってる久保ちゃんの手を見ながら、ちょっとだけ考え込んだりしてた。
 なんでホワイトデーが、気になってんのかって…。
 けど、いくら考えて見ても気になるワケはわからなかった。

 「なぁ、そのゲームっておもしれぇの?」
 「うん」
 「ふぅん…。ダンジョン系なカンジだけど、敵を仲間にできたりすんのか…」
 「お話して交渉しないとダメだけど」
 「・・・・なんかソイツ、すっげぇ生意気っ」
 「ん〜、でも仲間にしたいから仲良くしなきゃね?」
 「…って、なんか赤くなってるし怒ってねぇか?」
 「交渉決裂だぁねぇ」
 「戦えっ、久保ちゃんっ!」
 「了解」

 そんな風に話しながら、久保ちゃんがコントローラーをガチャガチャいわせてる横で、寝転がって頬杖ついてゲームを眺めながら目の前にあるクッキーをかじる。
 クッキーに入ってるチョコは、ちょっと苦いカンジだけどうまかった。
 目の前にあるのはチョコチップクッキーとブルーベリーポッキーだったけど、久保ちゃんは期間限定だからポッキー、俺はなんとなくクッキーを開けて食ってる。
 もうじき昼になるけど、菓子食ってたからあんまハラ減ってねぇし…、
 久保ちゃんもゲームに夢中になってっから、このままゲーム続行なカンジだった。
 今日はバイトもなくて、すぐにしなきゃならない用事もない。
 だから一日中ごろごろしながらゲームしてても、べつに問題はなかった。
 けど、夜もこんなカンジでゲーム続行だったら、やっぱ晩メシは食いてぇからイヤかも…。
 なんて思いながら、テレビ画面見てる久保ちゃんのカオを下から見てみたら、
 
 ・・・・・・・少しだけドキッとした。

 そんなカンジに見えんのは、見てる角度がいつもと違うからかもしんねぇけど…、
 画面見つめてる久保ちゃんの横顔が、やけに真剣に見えて…。
 そのカオを見てると…、なぜかホワイトデーが気になってるワケがわかりそうな気がした。
 バレンタインデーにチョコ渡して…、それからチョコもらって…。
 それから、今はホワイトデーで・・・・・。

 そんでホワイトデーってのは…、結局のトコなんの日だったっけ…。

 うー…っと頭の中でうなりながら、そんなことを考えてたら、俺の視線に気づいた久保ちゃんと目が合って…。
 そしたら、その瞬間に自分のカオがすっげぇ赤くなったのがわかった。
 だから俺は赤くなってんのを見られたくなくて、とっさにカーペットにあぐらかいて座ってる久保ちゃんの腰に抱きついて、赤くなってるカオを隠す。
 けど赤くなるのを止めたくて…、ぎゅっと久保ちゃんに抱きつけば抱きつくほど…、
 すごくドキドキしてきて、赤くなったのも治らなかった。
 
 「なにやってんの?」
 「・・・・・・べつになにもしてない」
 「ふーん…。ま、時任から抱きついてくれるのはうれしいからいいけどね」
 「だ、抱きついてんじゃなくて…、しがみついてるだけだってのっ」
 「同じことだと思うけど?」
 「微妙に違うっ」
 「微妙にねぇ?」
 「俺のことはほっといてゲームしてろっ、バカっ!」
 「はいはい」


 昨日買ったゲームしてたら…、横でそれを見てた時任がいきなり腰に抱きついてきた。
 本人はしがみついてるだけだって言ってるけど、しがみつくようなコトが何かあったとは思えない。
 昨日あったコトとか、朝のこととか思い出しても何も思い当たらなかった。
 でも時任はぎゅっと腰に抱きついたまま、離れようとはしない。
 べつに心配する必要はないんだろうけど…。
 こんな風にぎゅっと強く抱きつかれたり、しがみつかれたりするとやっぱり気になる。
 それに、ゲームしてろって言われても時任の体温が伝わってきて…。
 少しずつ…、俺の体温も上がってきていた。
 ゲームはやりたいって思ってたヤツだから、早くクリアしたいって気はあっても…。
 コントローラーから手を離して時任に触りたくなってきて…、ゲームに集中できない。
 ぎゅっとしがみつかれれば、しがみつかれるほど…。
 時任の髪に触れたくて、温かい身体を抱きしめたくて…、柔らかい唇にキスしたくなった。
 
 「時任」
 「・・・・・・なんだよ」
 「できれば、腕離して欲しいんだけど?」
 「やっぱジャマ?」
 「その逆」
 「ぎゃく?」
 「俺にもさせて欲しいなぁって思って…」
 「なにを?」
 「しがみついたり、抱きついたり…、いろいろ…」
 「誰がさせるかっ!」
 「じゃあさ。そのままでもいいから、顔見せてくんない?」
 「イヤ」
 「なんで?」
 「か、考えゴトしてっからっ」
 「ふーん…」

 抱きしめたいし、キスしたくなってるのはホントのことで…、
 強引に腰から腕をはずさせて、カーペットに押さえつけたい気分になってたけど…。
 考え事してるって言ってぎゅっとしがみついてくる時任のつむじを見てたら、もう少しだけこのままでいたい気がした。
 さっきまで夢中になってたゲームの音がうるさくなってきて、セーブもしてないのに電源を切る。
 そして手を伸ばしてゆっくり時任の頭を撫でながら窓の外を眺めると、そこから見える日差しが眩しくて少し目を細めた。
 穏やかすぎるぐらい穏やかで…、静かすぎるぐらい静かだけど…。
 そのカンジが、なぜかスゴク気持ちいい。
 だからこのまま眠ってしまおうかと思って、しがみついてる時任の方を見たら…、少しだけ顔を上げてこっちを見てた時任と眼が合った。
 するとやっと見ることのできた時任の顔は、なぜかスゴク赤くなってて…。
 だからそれにちょっとだけ驚いて…、それから少しホッとした。
 泣いてないことなんて最初からわかってたし、べつに心配する必要はないってわかってる。
 なのにそんな風にホッとしてる自分に苦笑しながら、俺は置いてあったポッキーを一つ指でつまんで…、赤い顔してこっち見てる時任の口元に持っていった。

 「口開けてくれる?」
 「…って、なにやってんだよっ。ポッキーぐらい自分で食うっ」
 「しがみついてて、手がつかえないっしょ?」
 「は、離せば食えるってっ」
 「それはそうかもだけど…、もう少しそうしててくんない?」
 「なんで?」

 「一応、今日がホワイトデーだからかもね?」


 そう言った久保ちゃんは俺が持ってたポッキーをパクッとくわえると…、少しだけ微笑んでからまるで眠るみたいにゆっくりと目を閉じる。
 そして俺ごと後ろにあるソファーにゆっくりと倒れかかって、ふーっと息を吐いた。
 ぎゅっとしがみついたままでいるから、その呼吸の音がスゴク良く聞こえてきて…、
 それを聞いてると、なんでかわかんねぇけど眠くなってくる。
 しがみついてんのとホワイトデーは何も関係ねぇじゃんって、そう言い返してやろうって思ったけど…、なんか眠いし…、
 目を閉じてる久保ちゃんのカオが、スゴク優しかったからそうするのをやめた。
 ホワイトデーが口実でしかなくっても…、二人でこんな風にぼんやりして…、
 抱きしめ合って眠るみたいに目を閉じてる…、こんな日があってもいいかもってそう思ったから…。
 静かすぎるくらい静かな部屋で…、口にくわえたポッキーをくわえたまましがみついた手を離して、久保ちゃんのひざに頭を乗っけて目を閉じる。
 そしたらホワイトデーが気になってたワケが、なんとなくわかった気がした。
 それはたぶん激しくじゃなくて…、穏やかすぎるくらい穏やかに…、
 すごく自然すぎるくらい…、自然に…、

 ・・・・・・・好きだなぁって、そう想ったせいかもしれない。

 だから、バレンタインデーに言わなかった好きを…。寝言みたいに小さな声で久保ちゃんに向かって言った。
 ホワイトデーだから…って、心の中で自分で自分に言いわけしながら…。
 そしたら久保ちゃんに、くわえてたポッキーを上から半分くらい食われた。
 
 「ポッキー横取りすんなっ、袋から出して新しいの食えっ」
 「お前がいつまでもくわえたままで、食わないからっしょ?」
 「いつ食おうと俺の勝手じゃんっ」
 「うーん、それはそうだけど…」
 「なんだよ?」

 「ポッキーくわえたままじゃ、キスできないから…」

 
 時任は俺に負けないようにがんばって食おうとしてたけど、結局、俺の方が勝ってブルーベリーのポッキーは半分以上が俺の口の中に入った。
 静かすぎるほど静かで、穏やかすぎるほど穏やかな空気を感じながら…、
 ひざの上に頭乗っけてる時任とブルーベリーの味のするキスをして…、腕を伸ばし合って抱きしめあって目を閉じた。
 まだ外は明るくて昼間だったけど…、抱きしめてくれてる時任の腕の温かさも柔らかい唇の感触も…、気持ち良すぎて眠くなる。
 胸の奥にある想いは…、こんな風に穏やかじゃないけど…。
 今だけは何事もない穏やかな日のように…、
 優しすぎるくらい優しい想いだけを抱いて…、抱きしめてる身体の温かさをカンジてたかった。



 うわぁぁんっっ(号泣)
 結局、ミニミニになって…。゜(T^T)゜。もうダメダメ爆発なのですっっ(涙)
 うううっ、泣きそうです〜〜(/□≦、)
 
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