彼女は小さな手で、早々と弾を使い切った銃を遠ざけるように置いた。
ため息まじりにつぶやく。
「射撃訓練なんて、嫌いだな」
それは、NERVに入って間もないころ、銃を握るたびに繰り返された光景だった。
俺は、一度だけ言ったっけ。
「そんな適当にやってると、いざって時困るぜ、マヤ」
すると、彼女は眉を寄せ、語気を強めた。。
「いざって何、人に銃を向けることなんて私たちにはないはずよ」
この後の言葉が結構効いたんだよな。
「どうして男の人ってこういう野蛮なことが好きなのかしら、・・・青葉君もそうなの」
その時の汚れを見るような顔を見るのが恐くて、
それ以来、銃を撃つ姿を彼女に見せたことはない。
Air前夜
最後の使徒が消えた。
発令室。
マヤとマコトと俺、何名かのサブオペレターがいる。
本部内での待機時間、いわゆる休憩時間になる。
交代要員のオペレターがやって来る。
「青葉、待機に入ります」
発令室から出ようとする。
「青葉君」
振り向くと、マヤがこちらを向いている。
「最近、本部待機中の間、姿を見ないけどどこに居るの」
興味津々の、純粋に知りたいだけの裏のない表情。
「歌の練習、俺の歌評判よくないんでね、隠れてしてるのさ」
「いつものギターは持たないの」
「ああ、そうだな」
俺は、椅子の下に置いてあるギターを取り、背中に担ぐ。
「うん、青葉君て感じ。そのギター、青葉君のシンボルなんだから忘れないであげてね」
マヤの微笑み。
「ああ」
俺も笑ってドアを抜ける。
マコトの交代要員がすれ違うように入っていく。
「日向、待機に入ります」
開閉するドアの間からマコトの声が聞こえた。
無人の通路。
後からマコトが並びかける。
向かうところは同じだ。
しばらくして、マコトと俺は目的のドアの前に立つ。
−射撃訓練室−
マコトがひじで突つく。
「何が歌の練習だよ」
「べつにここでも歌えるぜ、聞かせてやろうか」
ドアを開け、先に進む。
数歩遅れてマコト。
「俺なんかよりもっと聞かせるべき相手がいるだろう」
「言ったろ、評判悪いんだよ。嫌われたくないな」
マコトが苛ついたように言う。
「おまえもここがどうなるか分かってるはずだ」
「・・・・・・」
俺は、副指令からの指令の内容からこれからNERVが迎える事態を予想している。
マコトは、別ルートで確認しているのだろう。
具体的なそれについては互いに何も言わない。言葉にしていいものではないと思う。
マコトが銃を手に取る。
「彼女には言わなくて良いのか、これが必要になるって」
俺は、黒光りする銃を遠巻きに見下ろす。
「嫌われたくないからな」
「自分の気持ちも伝えないで何を」
声を張り上げるマコト。
じっと俺を見据える。
「すまん、汚したくないんだ」
「シゲル・・・」
俺は銃を取り、標的の前に立った。
マヤのあの目で、汚れたものを見る目でマヤ自身を見せたくない。
これを使えば必ずこうなる。
俺は両腕を持ち上げ、引き金を引いた。
・・・弾丸が人型の標的を貫き、遠くでギターが倒れた。