雪の降る街



僕がはじめてみた雪は、
冷凍便で送られた小さな箱づめの雪で、
はじめてみたそれを、
僕に雪だと教えてくれたのはアスカだった。


・・あんた、雪も知らないの。
・・知らないよ、初めてみたんだから。
・・あ、そ。


ずっと夏がつづくこの街のように、
ずっと冬がつづく街があるのだと、


・・そう、ずっと冬、雪ばっかり。


アスカがいた街は、
ずっと雪が降りつづく、そいうところだったと、
一緒に送られてきた手紙を置いて、
アスカはつまらなそうに僕にいう。


・・でも、どうして雪を?
・・さあね。こっちは暑くて暑くて、セミがうるさい毎日ですって手紙に書いたからじゃない?
・・手紙?
・・・・・・。


冷気の染み付いた発泡ポリスチレンの箱。
送り先には、
ローマ字で書かれたここの住所。
送り元には、
僕の知らない文字が混じった僕の知らない言葉で、
たぶん、アスカが暮らしていた国のアスカが暮らしてた街の名前。


それは、ずっと遠いところ。
アスカがいた、僕の知らない遠い街。
ときおり、そこから送られてくる手紙と贈り物は、
アスカの家族がアスカにあてたもの。


ただ、送られたプレゼントを前に、アスカが喜ぶ顔を僕はみたことがない。
今日も白く輝く贈りものを、つまらなそうに見ている。


・・なによ?
・・あんまり嬉しそうじゃないね、アスカ。
・・あたりまえでしょ。ただの雪で、どうやって喜ぶのよ。


アスカは、
青い瞳を斜めに僕をにらむ。


・・だって、ほら、こっちじゃ珍しいし。
・・欲しいならあげるわよ。
・・え、そんなダメだよ。アスカの家の人がアスカにって送ってきたんだろ。
・・別に、いいわよ。そんなの。


反対側に傾くアスカの目。
しばらく、何処か違うところを見て、
すぐに、目じりで僕を見る。


・・雪なんて、向こうじゃ、くさるほど見てきたんだから。アンタにあげる。
・・でも。
・・いいの、決定。うだうだ考えるひまがあったら、夕飯のしたく早くしてよね。
・・え、あ、うん。
・・言っとくけど、またピーマン入れたら殺すからね。


そう言って、
アスカは、手紙だけを手にして立ち上がり、
僕がはじめてみた雪は、僕のものになった。


・・アスカ。
・・なに?
・・雪って、冷蔵庫にしまっておけばいいのかな?
・・ばーか、そんなものとっといてどうすんのよ?
・・だって、このままじゃ溶けてなくなっちゃうだろ。
・・別にいいじゃない。
・・でも。
・・でも、なによ。
・・せっかく、アスカからもらったんだから。


ここは、
ずっと夏がつづく街。


・・もったいない、かなって。


送られた雪は、早くも水に変わりはじめ、


・・ばーか。


僕をみるアスカは、


・・たく、貧乏性ね。


いつものように、こばかにした顔で、
手のひら一つ分の雪をすくって雪の玉を作ると、
ごく当たり前の動作で、
僕にぶつけた。


・・ほらっ。
・・うわっ。なにするんだよ!
・・雪の使い方を教えてあげたのよ、バカシンジに。ほらっ。
・・うわ!
・・ふふふって、きゃあ!
・・おかえしだよ、アスカ。
・・うう、この〜。


そうして、
僕がはじめてみた雪は、すぐに消えてなくなった。


・・雪、なくなったね。
・・欲しかったら、また送ってもらうわよ。
・・いらない、床の掃除がたいへんそうだから。
・・あ、そ。


そして、
それは僕の気のせいかもしれないけれど、
このときのアスカは、今日はじめて楽しそうな顔をしていた。


・・掃除手伝えよ。
・・アンタにあげた雪だから、アンタが掃除しなさい。






それから、ずっと先。
僕が2度目にみた雪は、
ずっと遠いところの、
僕の知らない遠い街の雪。


・・さ、寒い。
・・まったく、アンタがどうしてもって言うから連れてきたのに。
・・うう。
・・ばかね、だから言ってたでしょ。


どこまでも白い世界の中で、
どこまでも白くおおわれた土地の上に、
どこまでも白くひろがる空から雪の粒が降り続く。


・・雪ばっかりで、つまんないところだって。


僕が2度目に見た雪の中で、
アスカは僕にそう言いいながら、
アスカが暮らしていた街で、うれしそうに振り向く。

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