手紙 〜レイ編〜



朝日がさしこむ中学の下駄箱。
がやがやと登校して来る生徒達に混じって、レイがゆっくりと静かに入ってくる。
レイは、無駄の無いしぐさで扉を開けて上履きを取り出した。

・・ヒラッ。

・・?。
レイの目に一瞬、上履きといっしょになって引き出された紙切れがとまる。
手のひらほどそれは、床に向かってひらひらと宙を降りていく。
手紙?
だと、レイが気づくと同時に床につく封筒。
綾波さんへ、表に記された宛名。
淡い水色のそれをレイは、拾い上げるでもなく、無視するでもなく、ただ黙って見下ろす。
「おはよう、綾波さん」
長い時間ではなかったが、下を向いたままのレイの横で良く知った声がして、下駄箱が開く音がした。
「どうかしたの?」
レイの様子に気がつき、顔をのぞかせたのは洞木 ヒカリ、レイのクラスの委員長であった。
「・・・あ、手紙」
レイの視線をたどって、床に降りるヒカリの頭。
レイの足元にある手紙とその宛名を見て、やや驚いた声をだす。
「これって、どこにあったの」
「私の下駄箱」
「じゃあ、やっぱり綾波さんへの・・」
ラブレターだ。
中学生の少女らしく、頬をあかくするヒカリ。
「どうするの、綾波さん」
「・・どう?」
「読まないの?」
「・・・・・」
ヒカリにそう問われ、レイは再び床の上の手紙を見たまま動きをとめる。
「・・・朝からなにしてんの」
そこに登校してきた新たなクラスメート。
「あ、おはようアスカ」
「おはよう、ヒカリ」
ヒカリはその少女に挨拶をし、少女もまた挨拶を返す。
「・・で、なにしてんの、優等生と2人して」
「うん、これなんだけど」
アスカはヒカリが指し示す手紙にをレイの肩越しから一瞥した。
「なんだ、ただのラブレターじゃない」
いかにもつまらなさそうなアスカの一言。
それきり手紙には興味を無くすと、そそくさと自分の下駄箱の扉に手をかける。
アスカらしい、そう思うヒカリであったが、自分ではそう簡単に割り切れない。
それと、手紙とは別に気になったことがある。
「今日は、碇君はいっしょじゃないの」
ピクッ。
わずかの間だけ、とまるアスカの動き。
「関係ないわよ、あんなバカ!」
明後日の方向をむいて、誰にでもなく吐き捨てる。
「碇君と、また喧嘩したんだ」
「ふん、あいつがバカせいよ!」
音が聞こえるほど鼻息をならし、乱暴に上履きを引き抜く。

・・・バラバラバラ。

同時に落ちてくるラブレターの束。
「もう、どうして男っていうのはこうなのかしら!」
アスカは腹ただしげに手紙の束を拾い上げ、このために自分の下駄箱の側まで移動させてあるごみ箱に投げ捨てる。
「読まなくていいの、アスカ」
ヒカリは、その行為にやや罪を感じ聞いてみる。
「興味ないもの」
パンパンっと、手を鳴らして答えるアスカ。
一点のくもりもない。
そのくもりのない姿勢でアスカはレイを見た。
「あんたも、いつまでも眺めてないで、読むなら読む、読まないなら捨てる」
一般に近い感覚、
だと思うヒカリの感覚では無茶な、まるでレイの事を知りぬいているような言い方である。
レイにも反応はない。
「・・やれやれね」
手の甲を上下に振って、あきれるアスカ。
仕方なさそうな顔をつくると、校舎の入り口に向かって声をあげた。
「こら、バカシンジ!」
えっ?
意表をつかれてヒカリが振り向くと、そこには頬に手の平の跡をつけたシンジの姿。
「あんた、最近、手紙なんか書いたの!」
「・・・・なんだよ、それ、手紙なんか書かないよ。それより、今朝の・・・」
「と、言うことよ。あのバカにそんな甲斐性があるわけないでしょ」
アスカは、入り口でなにか文句を言いかけるシンジを無視してレイとヒカリにそう告げると、
「じゃ、先に行くわ。バカの顔みてるとイライラするから」
教室に向かって姿を消した。
「たくっ、アスカのやつ・・」
代わって、ぶつぶつ言いながら入ってくるシンジ。
「おはよう、綾波。・・・あれ?」
レイの横にたち上履きを拾い上げると、床の上の紙切れに気づく。
「なんだろ、これ?」
シンジが腰をかがめて拾い上げようとすると、横から伸びたレイの手がそれをさらった。
そして、そのまま真っ直ぐごみ箱に捨てる。
「いいの、綾波」
シンジはレイの行動に少し驚く。
「・・ええ」


「・・私も、興味ないから」
朝日がさしこむ中学の下駄箱。
その言葉の意味と声を、ヒカリは静かにはっきりと聞いていた。


「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」

・・・世界はこれからにぎやかになっていく。





『手紙』は最初に出した短編ですが、
レイ編ということで1年8ヶ月ぶりにリテイクしてみました。
ですが、奇麗にまとまりませんでした。
うーん、しゃべんないレイは難しいです。
某所の「未来への・・・」シリーズで再トライか!?


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