冷蔵庫。

並べれらた卵にゆっくりと手がのびる。






目玉焼き




朝、朝食のテーブルで響くアスカの声。

「ちょっと、シンジ。私の目玉焼き、黄身がよってるじゃないの」

目玉焼き。

半熟が好きとか、固焼きが好きとか、さらに両面焼きとか好みがあるものですが、

アスカの場合は、ちょっと形にこだわって、

『黄身は中心、形は円く』

なのが好み。

要するに、見かけが重要なようで・・。

そこに、遠慮ぎみな主夫の言い訳。

「しょうがないだろ、・・・少しくっついちゃったんだから」

良く見ると確かに、白身の縁にはヘラで分けたギザギザ跡。

「なによ、これー。信じらんなーい」

どうでもいい、どうでもいい事だが、こういう事にむきになるのがアスカ。

主夫、すっかりむくれて。

「無理言うなよ、1つのフライパンで3つ一度に作るんだから。気に入らないなら、ミサトさんのと変えればいいだろ!」

もう1人の同居人、もとい保護者は現在、寝坊中。

その空の席の皿の上には、これだけ上手くできた『黄身は中心、形は丸く』の目玉焼き。

「言われなくてもそうするわよ」

丸い目玉焼きと少し歪んだ目玉焼き、アスカの手がくるっとそれを入れ替えた。





朝。

「・・・・・・」

目覚めがいいのか悪いのか黙って起き上がる、綾波 レイ。

黙って立ち上がり、黙って制服を着る。

目玉焼き?

食べもの自体、こだわりのない彼女。肉以外なら何でもいい。

と、いうより食べなくても平気のよう。

でも、

「朝ご飯は食べた方がいいと思うよ。綾波」

なんとなく、これまた主夫の言葉を思い出して、少しだけカロリー食を口にする。

「・・・ごちそうさま」

なんとなく、食後の挨拶をして、学校に向かい、

「・・・いってきます」

なんとなく、挨拶を残してパタンと閉まるドア。





それで、学校。

いろいろはしょって家庭科の時間。

調理実習。

エプロンと三角巾の生徒達が並ぶ実習室の隅に、これまたエプロンと三角巾のシンジ、レイ、アスカ。

『地球を守る』仕事の関係上、欠席の多い三人組。

学校としても、こういときはひとくくりである。

トウジやケンスケ、ヒカリなんかにひやかされながら、

方や不機嫌そうに、方やぼーっと表情を変えぬまま、シンジを挟んで立っている。

で、シンジの手には当然の様に握らせれたフライパン。

やっぱり主夫。

シンジ、ちょっとアスカの方を見て、

・・・アスカって、本当に料理できないのかな?聞いたことないけど。

シンジの視線に気づいたアスカ。

「よそ見してないで、さっさとやりなさいよ」

「うん」

シンジ、反対側のレイを見て、

・・・綾波が料理、しないだろうな。

シンジに視線を傾けて、レイ。

「・・・・何?」

「ううん、なんでもない」

はあ、と一息つくシンジ。

今日の第一のお題、『目玉焼き』にとりかかる。

そして、

3つの卵が、1つのフライパンに落ちた。





試食。

「ちょっと、シンジ」

「しょうがないだろ、3つ一度に作るんだから」

今朝と同じ会話をくり返すシンジとアスカの下には、今朝よりもずいぶんと傾いた目玉焼き。

白身どころか、黄身までくっつき合った跡がくっきりと残る。

ぶうたれるアスカ。

「じゃあ、どうしてファーストにはきれいなやつを渡してるのよ」

そう、くっついたのは2つの目玉焼き。

これが、シンジとアスカの下に。

1つはきれいに、円く出来上がった目玉焼き。

これが、レイの下に。

「そ、それは・・」

返答に困るシンジと、フンと横を向くアスカ。

すると、1人、自分の目玉焼きを見ていたレイが黙って自分とアスカの皿を入れ替える。

突然のことに驚く2人にレイ。

「・・私、こっちの方がいいから」

そして、自分とシンジの目玉焼きを見てもう一度。

「こっちの方がいいから」





『いただきます』教室に響く、中学生達の声。

「やっぱり円くないとね」

きれいな目玉焼きに満足げにアスカ。

すかっり使いなれた箸で、ひょいっとそれを口に運ぶ。

・・・美味しいじゃない。

いつものように、言葉にしない感想を押し込めシンジを見る。

すると、そのシンジの隣でレイの声。

「・・・おいしい」

そして、嬉しそうなシンジの顔。

「本当!?綾波」

肯くレイと、さらに喜ぶシンジ。

見れば、2人の口に運ばれるのは傾いた目玉焼き。

微笑みあう2人の下で、対に置かれる目玉焼き。

1人、黙って、1つだけ円い目玉焼きを見下ろすアスカ。

急に、美味しくなくなる目玉焼き。


「どうしたのアスカ?」

「・・・べつに、なんでもないわよ]





帰宅後。

冷蔵庫を開け、今日の夕食を考えるシンジ。

卵が3つ残っているが、

「今日は、卵が続いたからな」

と、悩むシンジ。

「目玉焼きにすれば」

突然の声に振り向くシンジ。

そこには恥ずかしげに横を向く、アスカ。

「・・・目玉焼き、作ってよ」





帰宅後。

ぼーっと、コンビニの中に立つレイ。

「夕食も食べた方がいいよ」

また、思い出す声。

「携帯食も、あまり良くないと思うよ」

それも声。

「綾波だって作れるよ、目玉焼き]

声。

「・・・・」

卵のパックにレイの手がのびた。





そして、

アスカの前に並ぶ3つの目玉焼き。

1つは円く、アスカの席に。

2つは傾き、シンジとミサトの席に。

「ミサトさん、今日も遅くなるって」

「ふーん」

キッチンから聞こえるシンジの声を聞きつつ、アスカの手がくるっと皿を入れ替えた。





丸い目玉焼きと少し歪んだ目玉焼き。

今日もどこかで冷蔵庫にねむる卵に、手がのびる。




久しぶりの短編。

しかも、いつもながらの展開。

いいのかな、こんなので。

感想お待ちしています。


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