老教師
副司令などという肩書きは、休みの使い方も忘れさせてしまうらしい。
半日という休暇の時間を漠然と過ごしていた私が流れ着いたのは、
何処にでもあるような書店であった。
うろうろと店内を歩くと、
セカンドインパクトの書籍が集めらた一角が、
店の奥に隠されるようにあった。
小さな空間に、黙って並ぶ書籍。
一冊一冊それらの背表紙を追う。
無論、私の知る真実を記したものなどあるはずも無い。
真実を語れぬもの。
私と同じだな。
「失礼します」
棚の前に立つ私の隣に、小柄な初老の男が並んだ。
私より十ほど上だろうか。
何処か見覚えがある。
記憶の縁がささやく。
男は私と同じく、棚の中の本を見つめる。
しばらく、男と私は並んで本を眺める形になった。
「こうした本も少なくなりましたな」
不意に、声がかけられる。
私は目線だけを降ろす。
男は棚の中の一冊に手をかけ、誰にでもなく話しはじめる。
「このころ私は根府川の近くに住んでましてね・・・」
「今は、中学の教師をしていますが・・・」
私の頭に、以前に目を通した一枚の資料が浮かんでくる。
第3新東京市立第壱中学 2年A組 。
適格者の集められた教室の担任か。
「今まで、真実を求めて生徒に語ってきたつもりなのですが、」
男は初めて私の目を捕らえた。
「自分を含めてですな。誰も真実など語っておらんように思えるのですわ」
「そう・・、ですか」
真実を語れぬもの。
この男も、そうか。
仲間意識、同情といった感情。
しかし、初老の男は私の目を更に捕らえた。
「失礼ですが」
「はい」
「冬月先生ですかな」
いくばくの時間
私が持っていた、語るべき真実。
「・・・・いや、人違いです」
やがて、
棚からはみ出した本だけが残る。
真実を語らぬもの。
私の事か・・・。
著者 ・ 冬月 コウゾウ
うつむいた背表紙に記された名前を、私は力無く押し込んだ。
誰のためでもなく。