マ●ドナ●ドというハンバーガーチェーン店がある。
日本全国制覇を目指しているという噂を、かつて何度か耳にしたが、さすがに馬鹿ではないらしい。
夏休みの昼間だというのに、道を歩く子供の姿すら見えないこの商店街には、出店の噂すらなかった。



ポテト



真夏の昼下がり、エアコンの効いた部屋の中で、国崎往人は夢を見ていた。

黄色と赤に彩られた、ケバケバしい店内。
スピーカーからたれ流される音楽。
恥ずかしげもなく掲げられる『スマイル 0円』の表示。
そして何より、店内を駆け回る小うるさいガキの声。
何度小突き回そうと思ったことか、数知れない。
その衝動を抑えてくれたのは、大道芸人としての最低限のモラルと、ハンバーガーの値段だった。

いつの頃からか、このチェーン店では『平日ハンバーガー半額』なるキャンペーンが始まっていた。
女の所に厄介になっている時期――残念ながら、あまり多くはなかった――を除けば常に財布の中身は氷河期だった往人にとって、何度このキャンペーンのお陰で命拾いをしたか分からない。
往人にとって、命の恩人とも言えよう。

だが、さすがに食べ飽きた。
3日続けてハンバーガーだけを食ったときには、もう二度と食わん、と堅く心に誓ったものだ。





「こら、眠っているんじゃない」

そんな往人の安眠は、霧島聖によって妨げられた。

「……痛いな。馬鹿になったらどうする?」

聖に小突かれた頭をさすりながら、軽く伸びをした。

「安心したまえ。それ以上馬鹿になるのは、学術的に非常に困難だ」

聖はトレードマークの通天閣Tシャツに白衣を羽織ったいつもの格好で立っていた。

「それに……万が一馬鹿になったとしたら、私が責任を持って手術に当たろう」

白衣の中から、シャキーーンと数本のメスを取り出す。

「……私が悪うございました」

往人は即座に非を認めた。
この霧島診療所に来て学んだことは、『泣く子と医者には敵わない』ということだった。

「それよりも、昼飯を買ってきた。一緒に食べないか?」

聖は抱えていた袋をテーブルに下ろした。
その袋には、黄色と赤に彩られたケバケバしいマークが入っていた。

「これが昼飯か?」
「そうだ」

聖は袋を開けて取り出す。
ゴロゴロとハンバーガーが出てきた。

「平日は半額でお得なんだ。遠慮せず食べて良いぞ」

……あの夢は正夢だったのか……。
久しぶりに叶った夢がこれとは、俺はなんて安上がりなんだ。
往人は深く嘆息した。
とはいえ、確かに久しぶりでもあるので、その匂いは懐かしくはあった。

一つ手にとって食べてみる。
……モグモグモグ。

「……何処で食っても味は同じだな」
「むろんそうだ。これはもはや工業製品といっても良いものだからな」

聖は早くも3つ目に取りかかっていた。

「ところで、佳乃はいないのか?」
「ああ、今日は学校で補習だそうだ」

3つ目をコーヒーで流し込みながら答える。

「佳乃の分は残しておかなくていいのか?」
「こんなジャンクフードを大事な佳乃に食べさせられるか! 佳乃には私特製の弁当を渡してある。むろん無農薬の野菜や遺伝子組み替えでない食肉を使っているものだ」

そう言いつつ、4つ目に取りかかった。

「……俺やアンタはいいのか?」
「君が死んでも代わりはいる。それに……私は医者だから大丈夫だ」
「……医者の不養生」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も」
「ぴこ〜」

何度聞いても心臓に悪いけったいな声がしたので見てみると、いつの間にかポテトがいた。
ハンバーガーを一つ手にとり、訊いてみる。

「お前も食うか?」
「ぴっこり」

ハンバーガーを一つ渡すと、両手で受け取り食べ始めた。
それを見て、往人も食事を再開する。
……ハグハグハグ

「……ちょっと待て!」
「どうした?」
「ぴこ?」

もう一度ポテトをよく見る。
聖もそれにつられてポテトを覗き込んだ。
ポテトは2人に見られ、恥ずかしそうに急いで前足を使ってハンバーガーを押し込んだ。

「……今、前足を使って食べていたな……」
「……気にするな、そんなことでは大物になれんぞ」

聖は何事もなかったように食事を再開すると、ポテトに最後に残ったハンバーガーを渡した。
お尻を床に下ろし、前足で器用に受け取ると、ハグハグと食べ始める。
……どう見ても“両手で”受け取ってるよな……。
『法力』などという尋常でない力を持つ往人が見ても不思議な光景だった。

自分の力といい、ポテトといい、この世には意外と不思議なことは多いらしい。
……佳乃の魔法も、あるのかも知れないな。
往人は包み紙を丸めると、法力を使って投げ捨てた。

おしまい



あとがき

久〜しぶりに書いてみました。
うぬぬ、うまく落ちない。

それはさておき、文中に出てくる某m社ですが、本作はフィクションであり、実在の団体、個人とは一切関係がありません。
また、某m社には、個人的に含むところは一切ありません。
それどころか、残業時の夜食として、特に活用させていただいております。

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