この世には、3種類の人間がいるという。
目覚まし時計がなくても起きられる人間と、目覚まし時計があれば起きられる人間。
そして、目覚まし時計があっても起きられない人間である。
目覚まし時計 II
ジリリリリリリ……。
その朝も、目覚まし時計は時間どおりに鳴り出した。
それはごく普通のベル型の目覚ましで、このベルが朝を告げることになる。
彼は自分に与えられた責務を果たすべく、懸命にベルを鳴らし主に告げるが、彼の主人は中々起きてはくれない。
リンリンリン
ピーピーピー
リリリリリ……。
そうこうしている内に、部屋中に並べられた目覚ましが次々に覚醒してゆく。
遠くからでも見やすい、デジタル液晶表示の電子音で知らせる目覚まし。
『10倍音量』というステッカーに負けないよう、ひときわ大きく鳴り響く目覚まし。
部屋中に散らばる数多くの目覚ましの時間調整にも使われる、電波時計タイプの目覚まし。
そして、この音響の中でも安らかに眠り続ける姫君が、なぜか気に入っている蛙をかたどった目覚ましなどが一斉に鳴り始める。
それは泣く子も失神させるような大音響となるので、もしもこの部屋がマンションの中の一室であったとしたら、間違いなく隣室の住民から苦情が来ることになるだろう。
けれど運良く、その部屋は住宅街の中の一軒家の二階にあるので、現在のところ苦情は来ていない。
ただそのことが、近隣の住民に一切迷惑を与えていない証明にはならないので、その家の主人としては多少は気にせざるを得ない。
よって、目覚まし時計が鳴り続けてしばらくすると、起こしにいくのが――残念ながら――常であった。
ドアを開け、母親が部屋に入ると、いつものように大音量が出迎えた。
おそらくこの家を建てた大工さんが良心的だったのだろう、建ててからもう短くない月日が経っているが、柱の歪みなどはなく、遮音性も良好だ。
だからその分、廊下に漏れ出てくる音量との差に驚かされる。
ベットを見ると、やや寝崩れた様子ながらも、娘はすやすやと眠り続けていた。
……この音の中、よく眠れるわね。
かつて自分もそうだったとはいえ、ちゃんと起きられるようになってみると、今さらながら呆れてしまう。
とりあえず今日も、まず目覚ましを止めることから始めることにした。
一つ二つ……と止めていく内に、だんだんと音が小さくなっていく。
そして最後の一つを止め終えた後、娘に声を掛けてみた。
「起きなさい。学校に遅れますよ」
もちろん目覚ましの協奏曲でも起きなかった姫君がこの程度で起きるはずはない。
仕方なく揺すって起こすことになる。
起きなさい、と声を掛けながらしばらく揺するうちに、ようやく眠り姫は目覚めを迎えた。
「うにゅ。……あれ、お母さん?」
眠そうに両目をこすりながら、ゆっくりと答える。
「朝ですよ。早く着替えてらっしゃい」
そう告げると、分かったよ、と小さく答え、いつも一緒に寝ている大きなぬいぐるみを抱えて、寝ぼけ眼をこすりながら洗面所に向かっていく。
頭をふらふらと揺らしながら階段を下りていく姿は、とても危なっかしいが、不思議と階段を踏み外すことはない。
ようやく朝の日課を終えた母親は、ふぅ、と小さくため息をつくと、ドアに向かって呟いた。
「困った子ね。……一体誰に似たのかしら?」
「お前だろ、名雪」
期待していなかった返事が返ってきたので慌てて見てみると、相沢祐一が階段を上がってきていた。
「ううっ、今はちゃんと起きれるもん」
少し拗ねたように言いながらも、嬉しそうに夫の元へ駆け寄っていった。
おしまい
あとがき
……題名にひねりがない。
何か良いタイトルはありませんかね?
ちなみに『II』となっているのは、以前に『目覚まし時計』というのを書いているからです。
<中川 淳さんに感想を書く>
<いろいろの目次に戻る>
<トップに戻る>