バイオプラントの調査
野田尚
持続可能な社会の実現のために何が必要なのか? そこにはいろいろな要因があり、ソフト面・ハード面を合わせてあらゆる取り組みが必要であろう。しかし、十勝での「ESDワークショップ」に参加させていただいた微力な私たちが総論を語ってもあまり意味がない。そこで私たちのグループでは「持続可能な十勝の実現に必要なものは食料とエネルギーの自給である」という大胆な仮説を立て、十勝の農業の現状と未来について調査してみることにした。
さて、日本の食料自給率の低さについては周知の事実であろうが、カロリーベースで約四〇%、穀物の自給率に限って見れば三〇%を割り込んでいるのが現状である。ところが北海道だけに限って言えば、食料自給率が約二〇〇%、更に十勝に絞り込むと(驚くなかれ)なんと一一〇〇%、文句なしに日本一の自給率である(二〇〇六年・十勝支庁調べ)。しかしこれは広大な畑作地帯に対して人口が少ないからで、当然と言えば当然の数字ではある。
一方エネルギーの自給はと言えばほとんどゼロに近いのが現状であろう、そんな中で十勝では家畜ふん尿を利用してメタンガスを発生させ、エネルギーとして利用する「バイオガスプラント」が既に十一基導入され、エネルギー自給への第一歩がはじまっている。私たちのグループでは、まずこれについて調査し、持続可能な十勝をデザインする―その足がかりとすることにした。
実際には『家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律』(家畜排せつ物法)が一九九九年(平成十一)に制定され、十勝でも酪農家が家畜ふん尿の処理に頭を悩ませていたという現実を背景に、エネルギーを取り出すというより、ふん尿を再利用するという目的で導入が進んだというのが実態ではあるが、ふん尿から発生させたメタンガスを燃料に発電した電力を畜舎のあらゆる電源に利用してもまだ余るエネルギー、それだけではなくガスでボイラーを焚き温水を供給できることや、メタンガスを発生させた後の液体(消化液という)がすぐれた液肥であることに注目したい。
二〇〇六年 十一月十九日、十勝北部に位置する士幌町の「房谷牧場」を訪れた。牧場に対するこれまでの印象を覆すほどのクリーンな牧場であり、牧舎であり、臭いもほとんどない。ここで稼働するバイオガスプラントはドイツ製、ふん尿の回収から攪拌、発酵まで機械化されており、人の手を煩わすことはない。発生させたガスでディーゼルエンジンを回し、発電している。発電能力は四〇キロワット/時、牧場施設の電気消費をまかなっても半分近くが余り電力会社に売電している。夏場はそれでもまだガスが余り、保存してはおけないので、ただ燃やして捨てているという、なんともったいない。
ここでハード面にすこしふれておこう、ここ房谷牧場のプラント導入にかかった費用は一億円弱。実際には士幌町の事業として導入。牧場は毎月士幌町に施設使用料を納めるだけらしいが、全十勝規模でのエネルギー自給をこのバイオガスプラントで目指すとすれば、個人の酪農家が簡単に捻出できる額ではない。
何らかの方法でバイオガスプラントの導入を後押しする手だてはないかと考えて、注目したのが消化液と呼ばれる廃液、これは大変上質の液肥である。この「液肥」の商品化を具体的な課題に掲げて「ESD十勝」は引き続き活動を継続して行きたい。
但し、まだ思いつき程度のアイデアでしかない。今後@液肥を商品化するための具体的な方法と手段を調べる。A実際に商品化が可能だとして、どのくらいの規模でどの程度の収益が見込めるのかを調査する。まずはこの二点を二〇〇七年の実行可能な課題として掲げたい。
最後に、房谷牧場のプラント脇の小さな煙突からは時々炎が吹き上がる。使い切れないメタンガスを燃やす炎だ。「もったいない」素直にそう思った。牧場主が「隣に銭湯でも作れば有効利用出来るんだけどねぇー」と語っていたのが印象的だった。