ツール・ド・美ヶ原参戦記

あと少しでゴール

2000年、5月某日。 日本サイクリング協会から「ツール・ド・美ヶ原」への参加の案内が届きました。 今年から始まる大会で第一回大会だそうです。 2000年の区切りに始まる大会から一回目から参加しているとなると ちょっとかっこいいかもしれないと思い、 乗鞍への調整をかねて一発挑戦してみようか。 そんな軽い気持ちからエントリーしてみました。

美ヶ原八ヶ岳乗鞍
参加人数1500人前後500人前後3000人以上
開催時期六月下旬四月末八月末
距離21.6キロ24キロ22キロ
標高差1270メートル1250メートル1400メートル
ゴール標高1870メートル2100メートル2700メートル
視界良好(らしい)悪い良好
勾配非常に変化変化に富むほとんど一定


大会コース案内を見ると松本市野球場より美ヶ原高原駐車場までの21.6キロ、 高低差は1270メートル。 グラフを見るとそんなにきつい坂には思えません。 八ヶ岳よりはきついけど、乗鞍よりは楽そう。 これならチャリンコのセッティングもいじる必要はなさそう。 まあ、気軽にいってみよう。 そうおもって、特別なトレーニングはしないで一路、松本に向かいました。

6月24日。受付と車検を行います。天気は愚図ついているけどなんとか曇り。 日本サイクリング協会主催ということで、 テレビカメラも何台かきていて、イメージギャルも3人ほど来てくれているという 思った以上に大きな大会。 やはり八ヶ岳とは規模が違います。 車検を終えたら今日はもうやることがないので松本市街を散策。 で、BookOFFに入ったのが運のつき。11時までしっかり立ち読みしてしまいました。 慌てて夜食と翌朝分の食糧を買い込み、野球場の駐車場に戻り、 寝に入りました。

スタート前 翌25日。5時ごろ、車の屋根にあたる雨音で目がさめました。 寝ぼけ眼で天気を確認。かなり大粒の雨が降っています。 雨天決行という話だったけど、ひざに爆弾を抱えている自分としては 棄権したほうがよいだろうか… ぼんやりしているうちに6時ごろになり、天気も落ち着いてきたので あわてて朝食を取り、着替えてチャリンコのセッティングを確認、集合場所に向かいます。 選手集合の後、注意事項などを聞いて チャンピオンクラスからスタート。自分たちのCクラスは3番目のスタート。
初めての大会だし、まあ、完走できればいいやと、気軽にしていたので いつものとおり、一番後ろからのスタート。 天候は霧。路面状況は乾きかけ。気温は風が気持ちいいぐらい。 服装は下はレーサーパンツに上はTシャツ。 ウィンドブレーカを上に着ていたので役員の人に選手じゃない人と勘違いされたくらい。 まあ、いいや。アップをまったくしていないのでゆっくりといこう。 そう思い、ゆっくりと集団を追い始めました。
500メートルほど走ると市街地を抜け、登りに入り始めました。 体はそんなに重くない。上からぼろぼろ落ちてくる選手を抜き始めます。 ところが、すぐに道幅が狭くなりすぎて前に出れなくなりました。 集団のスピードもやけに遅い。 使っているギアはすでにインナーロー(一番軽いギア)。 これ以上スピードを落としたくないのだけど、前が詰まってスピードを上げれない。 悪態をついているうちにこのスピードで走っていること自体がつらくなってきた。 インナーロー全力で踏んで上がっていくのだけど、少しでも気を緩めると それだけで失速して止まってしまいそうなぐらい。 何でこんなに体が重いんだ。自分の体に悪態をつきつつ、登っていくと 前の人が大きくふらついた後、停車。こちらもよけることができずにというか、 それを理由に停車。もう、ほとんど体力が限界だった。 路面が濡れているため再スタートは無理と判断、次のゆるいところまで押してあがりました。 まあ、押してあがったといっても、登りを得意とする自分にとって 自転車を降りて押すということはかなりの屈辱なわけで。 もう、半分自暴自棄。 しばらくしてから、ウインドブレーカを脱ぐことを理由に再び停車。 脱いで腰に巻いても、しばらく再スタートを切ることができずに 自分を大勢の選手が抜いていくのを仕方なしに見ていた。
いつまでも休んでいるわけにもいかないので再スタート。 今度は人のペースはまるで気にせず、ひたすら自分のペースであがっていく。 濃い霧の中をあがっていくので腕の産毛に細かい水滴がいっぱいついていく。 あ、きれいだ、写真に撮ったらいい雰囲気になるかもしれない。 そんな、レースとは関係ないことを考えながら走っていきます。

林の中、ゴール後に撮影

約3.5キロ地点で高度計の表示がスタートからの標高差が350メートルになってるのに 気がつきました。 スタートしてしばらくは平地だったから平均勾配は 実質11%ぐらい?、瞬間では13%ぐらいある? にわかには信じられないほどの急勾配です。 自分の感覚では5%を超えると普通の人のかなりの割合が押します。 7%を超えると自分みたいな自称クライマーもかなり気合が必要になります。 10%を超えるとほとんど壁。 普通の国道では10%を超える坂というのはまずありません。 幹線道路だと7%ぐらい、峠道でも9%あれば急なほうです。 日本最大のヒルクライムレース、乗鞍でもある程度距離が続く坂の 最大勾配はせいぜい9%ほどでしょう。 平均勾配11%というのはそれほど急な坂です。 しかも、それがスタートしてからせいぜい500メートルほどで始まってしまう。 これは体調が悪いんじゃなく、想像以上に美ヶ原のコースが難コースみたいだ。 先ほど半分投げやりになって立ち止まってしまったのが悔やまれる。 コース全体の平均勾配が7%ほどなのでこんな急な勾配がいつまでも続くわけはない。 そう、自分を励まします。

14%勾配の標識

そして、林の中の曲がりくねった道から広い幹線道路に出ました。 これで楽になるって思ったのですが、そうは問屋がおろしません。 美鈴湖のそばでで一回楽な思いをさせてもらったのですが、それも500メートルほど、 美ヶ原スカイラインに入ったとたんまた急な登り。 こんな坂がいつまでも続く訳は無いと思いながらも坂は続いていきます。 しまいには久しぶりに勾配14%の看板まで立っていました。 14%の標識なんか過去に一度きり、北海道の十勝岳温泉に行ったとき体験したことがあるだけです。 それでも、体があったまってきたのか、それとも最初のほうが さらに急な坂だったのかわからないですが、なんとか ある程度のペースを保って登ることができました。

武石峠のそば

ふと腕時計のアラームがなってるのに気づきました。 一応、ゴールの目安である1900メートルにアラームをセットしておいたのです。 あれ、もう?、怪訝におもって距離計を見ると15キロ過ぎ。 あと6キロほどあります。 高度計に誤差があるとしてもせいぜい30メートルは無いはずです。 いやな予感がしました。そのとおり、 武石峠を越えてしばらくすると道はほぼ平らになり、集団のペースが 一気に加速。 そしてゆるいアップダウンが少しあった後、一気にダウンヒル。 十分長いくだりなのでギアをアウター(前のギアの大きいほう)にかけ、 リヤもシフトアップして下りに入ります。

このような霧の中でのレースでした

濃い霧のため、視界がよくありません。それでも、せっかくの下り、 女子クラスの蛍光ピンクのゼッケンを目安に加速していきます。 時速、54キロ。十分怖いです。 「トップクラスの選手なら80キロ以上は出すぞ、こんな急な下り坂、 コースに入れるな」と思いながら下っていくと転倒して前輪を大きく曲げた 自転車を押してゴールを目指してる人がいました。 怪我はなさそう。とりあえずほっと一息。 で、やはり、下った分登らなければなりません。 最後であろう登りにさしかかりました。体力に少々の余力があったので スピードを殺さないためにギアをインナーに落とすだけで リヤはそのまま。 そして懸命のラストスパートに入ります。 惰性をうまく利用して距離を稼ぎます。 でも勾配にじわじわとスピードを食われていきます。時速20キロを切った時点で ギブアップ、一気にシフトダウンして呼吸を整えます。 テレビカメラを持ったカメラマンが撮影しています。 ゴールはもうほんの少しのはず。気合を入れて最後のラストスプリント。 なんとか順位を最後にひとつ上げてゴールイン。 お疲れ様でした。

ゴール後のひととき ゴールしてから聞いた話。 ツール・ド・美ヶ原、今年が初めてという話だったけど、 実は何年か前にこのコースを使って自転車レースをやっていたそうです。 その人は乗鞍、八ヶ岳、旧美ヶ原に出ていたそうですが、 登りの勾配では美ヶ原が一番きついといっていました。 その人の自転車、登りにかなりカスタムされた自転車でしたが、 乗鞍より軽めのギアをチャリンコにセットアップして参加すると いっていました。 それに引き換え、自分は乗鞍より勾配は低いと勘違いし、 乗鞍ですらアップアップのギアで参加するとは。 完全な情報収集不足でした…

正式リザルト
名前タイムクラス別順位総合順位
金澤 鉱樹01:47:35146430

追記
家に帰ったら乗鞍は定員オーバーにつき、参加申込書を受理できませんという付箋を 貼られた封筒が戻ってきていました。 この借りは乗鞍で返そうと思っていただけに一気に気合が抜けました。 ああ、悲しすぎ…