8月4日(日)帰る日である。飛行機は14時45分発だから午前中はもうひとつ何かできるであろう。今日は日曜日なのでいろいろ市場がたっているらしい。そこいらでもうろつくことにしよう。しかし、その前に王立美術館をのぞくことにする。ユースをチェックアウトして中央駅まで。そこで荷物を預けてから美術館まで歩く。それらしき建物はあるのだが、どこが入口なのかわからず少しウロウロしてしまう。だいたい美術館だろーが、裁判所だろーが、王宮だろーが、博物館だろーが似たような形をしているからわかりにくいのである。日本なんて外観だけで中味が推察できてしまう。それがいいことか悪いことかは趣味の問題であるが。
美術館は日曜日はタダのようで、ラッキーって感じ。はいった所は広いホールで吹き抜けになっており、なかなか味わいがある。しかしここの目玉はなんといってもブリューゲルというわけで、2階に上がる。宗教画がこれでもかとならんでいる小部屋を通り抜けていく。しかしよくこうもおなじテーマ、構図の作品が並んでいることよ。しまいにはうっとおしくなってくる。いくつもの小部屋を通り過ぎて目的のブリューゲルに向かおうとするわけだが、どこからともなく係員らしいオバチャンがやってきて、我々の持っているバッグをクロークに預けてこいという、ヘイヘイと聞き流していたら、またやってきてブツブツ言う。うるさいババアである。しかたなしに、入口脇のクロークに逆戻りである。だめならだめともっとはやく言ってほしい。
荷物を預け、またしても宗教画の小部屋を脇目もくれずくぐりぬけていくのだが、ふと気が付いた。日本人がすげえ多いのだ。どうして美術館にこんなにいるのじゃ。昨日もおとといも街を歩いていたときにはほとんど見かけなかったのに。別にいいんだけどやっぱりよくわからん。ブリューゲルはさすがにこれでもかの宗教画家とはレベルがちがっていて、パワフルであった。時間がおしいので、早足でルーベンスである。よい子のみんなはこんな見方をしてはいけないよ。というわけで、サクサク突っ走っていく。ルーベンスは特大の部屋が与えられており、そこにこれもまた特大の絵が高い天井までとどかんばかりに掲げられている。パワフルである。あとは、近代(ここの美術館は古典美術館と近代美術館にわかれているのだ)の方を見て帰るとしよう。近代にはなんとウォホールやナム・ジュン・パイクなんかもあって少し意外であった。
さて、すでに11時をまわっている。空港へは1時くらいまでにはつきたい。骨董市が開かれているというグラン・サブロン広場まではすぐそこだ。小さい広場に出店が密集している。狭いところを人々がわらわらと歩いている。骨董市といえば「何か掘り出し物があるかもしれませんよ」とかなんとかほざきやがる輩もいるが、トーシロがどうこうできるものでもあるまい。それに銀の食器や燭台、古めかしいブローチなどには興味がない。日本刀らしきものがあったが、手にとって「ふーむ、これは虎鉄か?村雨か?」とでもやってみたら面白かったかもしれない。市の雑踏を抜け出し、坂道を下って駅の方へ向かう。このへんはギャラリーや骨董屋が立ち並んでいる。駅の近くで昼飯。ヨーロッパ最後の食事である。しかし結局その辺のサンドイッチスタンド(しかも、オリエンタル漂う)みたいなところで食ってしまった。
さあ、もう本当におしまいである。ただいま時計は12時半をまわっている。そんなに広い空港ではないから、そう早くいく必要はないと思うが、急がねばなるまい。ガイドブックによると1番線がエアポート行き列車のホームとのことで、確かに飛行機のマークがある。しかし、列車に行き先がエアポートになっていない。あやしい。しかし、他のホームにもそれらしき列車はない。だんだんあせってくる。パリの駅にあったような大きな発着時刻の掲示板がないのだ。ガイドブックによれば列車は20分おきの発車だそうだから、一本のがすとヤバい。入口に小さく掲示してある時刻表を見つけ、ようやく3番線から発車することがわかった。ガイドブックも駅の表示もみんなうそつきじゃあ。
列車はあせる私を尻目にゆっくりゆっくり走り、13時40分頃空港へ到着。空港でも買い物したかったが、あまり時間がない。しかし、ベルギーフランはまだ余っている。使いきらねば!と思う。しかし、本当はそんなことはないはずなのだ。日本で両替すればいいだけなのだ。しかし、これだけ本やなにやらで、「一旦外貨にかえたものをまた円に両替することの愚かしさ」を強調されると、そんな勇気は私にはでてこない。あわててチェックインをすませ、免税ショップで怒涛のように買いまくる。これであなたも立派な日本人ですぢゃ。バッグはもう預けてしまったから、買ったものは機内持ち込みである。手提げ袋をいくつも下げてゲートへと向かう。帰りの便は行きより日本人比率が高そうだ。みんな荷物いっぱい持っている。うんうん。
さて、いよいよ出発である。二週間、長くもあり、短くもあり。特に身体の具合が悪くなるということもなく、無事に旅行を終えることができた。あとはこの飛行機が無事に着陸することを祈るのみである。アラーの神よ、我に幸福と平安をもたらしたまえ。この飛行機は午後に出発して、日本時間の明日の朝に成田到着ということになるので、飛行機のなかで眠らないといけない。しかしやはりなかなか眠れない。寝付かれないので窓際の席へ移り、窓を開ける。雲が輝いている。まぶしくて前方をみることができない。ちょうど夜明けのようである。この飛行機はいま太陽に向かって飛んでいるのだ。はじめ赤くて、それからだんだんと青くなっていく空に向かっているのだ。雲が紅色に染まっている。眠れずにしょぼしょぼした目をこらしてじっと窓の外を見ている。時間が止っているかのような感覚のなかで、東へ東へ、じぇっと機は飛んでいるのである。地球はひろいね。などと感傷にひたりたいわけだが、眠れないので頭はボケボケである。最後くらいはしめたいものだが、なかなかそうはいかない。
8時30分頃、到着。アラーの神よ、ありがとう。飛行機をでたとたん、うだるような空気が襲ってきた。日本の夏である。入国手続きも、なんなく素通りした。果物の検疫がいやで、残っていたリンゴを押しつけてきたスチュワーデスさん、ありがとう。しかし、税関があんなにフリーパスだとは知らなかった。エッチな本でも持ってくればよかった、と思う。さあ、これで全て終了。徹マン明けのような身体と頭でスカイライナーに乗り込む。日本よ、君は暑かった。