8月1日(木)長い旅行をしていると日付の感覚がなくなってくる。そうか8月か。東京は今頃やりやりの暑さなのだろう。こちらでは、どんなに日差しが強くてもあのムッとくる暑さはない。それはそれで有り難いのだが、ひとつだけ不満があるとすればビールをグッと飲むときの快感もその分少ないということか。アイスコーヒーものみたいよぉ。今日は、ライン川をケルンまで北上し、大聖堂見学後、ブリュッセルに向かう予定。ユースをチェックアウトして、駅へ向かう。今日もなかなか暑い日である。 喉が乾いたというので、バス停近くの売店で水を買う。とにかく炭酸無しの水を手に入れなければ。残念なことに店のおばちゃん英語解せず。それでも、こちらが、ノンガス?、ノーカーボネイト?、ノンスパークリング?と知っている単語を全てならべていいまくると、うんうんとうなずく。やっと手に入ったかと思い、一気に栓を開けると、シュワッと爽快な音をあげた。おばちゃん、うそつき!駅にも水は売っていない。とりあえずはがまんである。ところで、これはドイツだけの話ではないのだが、カフェでも売店でも自動販売機でも、いわゆる清涼飲料の種類が大変すくない。コーラとスプライト、それにオレンジジュースの3種類といったところがほとんどで、あとはファンタとこれまた炭酸入りのアイスティーがちらほら目につく程度である。コカコーラに完全に支配されているのか、子供のうちから酒を飲んでいるのかわからんが、日本の状態に慣れ切った我々にとっては、結構味気ないものだ。
さて、列車は10時7分発だったが、ちょっと遅れて入線。一等車の位置を間違え、前の車両へ必死に走る。この列車はICで皇帝の座を意味する「Kaiserstuh」という愛称がついてるらしい。なんでそんなことがわかったかというと、全座席に列車名、途中停車駅、停車時間、連絡する列車等がかいてあるパンフがおいてあるからである。IC全部でこういうことをしているのであろうか。ご苦労なことである。しかし、内装も立派で快適、さすがはドイツのICといったところか。我々の他はビジネス客っぽい乗客ばかり。まあ普通そうだよね。ちょっと肩身がせまい。車窓はおなじライン川沿いでも昨日と違ってそれほど川岸を通らず、列車はいま風の市街地を通り抜けながら走っていく。一番日本の車窓に近い風景だ。途中、ボン駅に到着。ついこの前までドイツ(西)の首都だったにもかかわらず、たいそう貧弱な駅であった。氷見駅といい勝負である。ボンをでてしばらくたった頃、列車の右前方に、黒い二本の尖塔が見えてきた。あれがケルンに違いあるまい。少し雲がでてきて太陽が隠れ、薄暗くなった空に向かって、大聖堂が聳え立っている。こんなにも遠くからその雄姿が見えるとは思わなかった。大聖堂とは、その存在そのものが信仰であるそうな。妙に納得。
11時ケルンに到着。他の大都市の駅同様、おおきなドームでおおわれていて、一見行き止まり式に見えるが、そうではなく、列車はそのまま、目的地のベルリンへ向かっていくはずである。駅のコインロッカーに荷物を預けて、さあ、大聖堂へ向かいましょう。といっても実は駅のまんまえ。丸井より近い。駅ビルをでたとたん目の前に巨大な姿がとびこんでくる。大きすぎて全貌が見えない。黒ずんでいて、無骨とでも形容したくなるその建造物は、物質としての重量感と迫力をもって神と対峙しているのであろうか。そこにはソーズルベリ大聖堂のもつ敬虔さもなければ、パリの聖堂のもつ繊細さもない。一滴の悲愴感も感じさせないその圧力が、見るものを圧倒するのである。もちろん中にはいれば、ちゃんと教会しているのだけれど。しかし、この大聖堂はあまりにも市街地にあり過ぎて周囲のビルに埋もれてしまっているきらいがある。まわりに空間がないため全景を見渡せないのも痛い。総合評価ではソールズベリが上だ。
教会前の広場ではいわゆる大道芸人さん達がいる。けっこうお金をあげている人もいるが、あれは、旅行中に余ったコインの整理なのかもしれない。パリで使い残したフランでもあげようかしら。教会にはいるのははフリー。ただ、牧師(神父)がうろうろしていてみんな箱を肩からぶら下げている。あれにお布施するんだろうか。そもそも、我々非キリスト教徒にとって、教会の見物とはその歴史的建造物としての価値をみることにすぎないはずであろう、というかそれにとどめるのが無難である、と思う。難しいところだが、それが宗教であると個人的には思う。まあ、そんなことはどうでもよい。もう昼飯時だ。なにかめぼしい店はないかと人通りの多い通りをあるいて行く。できれば、パンとピザ以外のものにしたいのだが、なかなか見当たらない。結局デパートのカフェテリアで食事。そんなに悪くなかった。ソーセージはさすがにうまかった。さあ、これでドイツもおしまいである。
13時14分ケルン発ブリュッセル行きの列車に乗り込み、いざベルギーへ。車両は一等のコンパートメントでやっぱり快適。本当にユーロッパの列車は乗り心地がよい。あとおもしろいことにそんないガラガラでもなければ立っている人もいない、という列車が多い。この列車も適度の乗車率。JRも見習ってほしい。ブリュッセルまでは約2時間40分。例によっていつのまにか国境越え。家の形、雰囲気が徐々にではなくガラッとかわるのが面白い。やはり陸続きでも国境は存在するということだろう。だいぶ食傷気味になってきたのんべんだらりとした風景が続くなか、すこしうとうと。
16時頃ブリュッセル北駅に到着。7月22日から約10日。またブリュッセルに戻ってきた。もっともあの時は空港だけだったが。ここから、地下鉄でユースへと向かう。回数券を購入しホームへ向かう。ベルギーの地下鉄の改札は自己申告制で、自分で改札口のところにある機械で刻印するシステム。やろうと思えばキセルなぞ楽にできる。こんなんでいいのだろか、と他人事ながら心配になる。(とか言いながら、我々も梓はタダであろうと勝手に解釈して、一回に3人分しか刻印しなかった)ホームに下ると、向こうからチンチン電車がやってくる。これがトラムとかいうやつか。トラムって路面電車のことだったのか。しかし、チンチン電車が地下を走っている光景はなかなかレトロというかロマネスクというか、味わいある風景である。それから普通の地下鉄に乗換え、ユースの最寄り駅に。ここは6差路になっており、地図と実際の場所がなかなリンクせず、方角がわからない。道ゆくおっちゃんにたずねてみたが、こいつがまたよくわからんやつで地図をにらみながら指差した方向は一番そうではなさそうな方角である。ええい、自らの信じる道をいくべし。磁石まで引っ張りだしてなんとか正しい道をゲット。バッグを引きずり歩いていく。
さて、我々はベルギーの首都であるブリュッセルにいるはずであるが、道ゆく人々は、ほとんどがアラブっぽい格好をしている。女性はあのアラブ人特有の頭巾にだぶっとしたワンピースだし、男は髪がちぢれ、口髭をはやしているという具合である。街並自体も、欧州らしさが感じられず、どこかしらイスラムの匂いがただよっている。ユースの地図にアラブ人街の近くと書いてあったが、まさかここまで染まっているとは思わなかった。あやしい雰囲気である。ユースにチェックイン。建物はきれいで、部屋もまずまず。トイレ、シャワー付なのでこれまでのユースのなかでは一番。ただし環境はそういう意味ではいまいち。ちょっと夜に出歩くといった気分になれない。とりあえず夕食。買い出しに出かける。パリと違ってあまり食材屋がない。時間がおそいせい(といっても7時だけど)もあって開いてる店も少ない。結局これまたオリエンタルな雰囲気の漂うカフェのようなところで、あやしい食い物をテイクアウト。店のねえちゃんは英語も解すし、サービスも悪くなかったが、サラダは手でいじるわ、ラップはグシャグシャにするわで、ちょっとあぶない。ま、今日のところはしょうがない。ある程度は覚悟していたことである。部屋で食事後、ユースのバーでビール。ベルギーの一日目はアラーと供にあった。