7月31日(水)

 ルクセンブルグに別れをつげ、今日は列車の旅である。ユースをチェックアウト後、バスで中央駅まで。9時40分発の列車でコブレンツに向かう。車両は寝台車で、どうやら南仏からの夜行列車のようである。寝台兼用のやや堅いシートのコンパートメント。かなり古い車両である。今日もいい天気でポカポカとした雰囲気のなか、列車はドイツへと向かっていく。例によっていつ国境を越えたのかはわからない。ちょっとうとうとしてくる。やがて列車はモーゼル川に沿って走り始める。この辺りはまだ山も深く、斜面一面にぶどう畑が拡がっている。こんなに大きい川だというのに川岸は自然のままで、あちこちでテントが張られている。そして、水量豊かな川面を遊覧船やボートが走ってる。列車の窓を開けると、そういった光景がより鮮烈に目に飛び込んでくる。列車は忠実にモーゼルの流れに沿って進む。川幅がだんだん広くなる。山にへばりついて走っていた線路が畑のなかを進むようになる。それから川を渡ったかと思うと山は後退し、町中へと入っていく。11時45分、定刻にコブレンツ到着。さすがはドイツ国鉄。

 コブレンツはソーズルベリのような田舎町だと思っていたが、なかなかどうして大きい町で、さすがはラインの要衝といった感じである。さっそくマルクに両替。駅前にコメルツ銀行があったので、しめたとばかりに両替。ドイツ3大銀行の一つだもん。あこぎなまねはすまい。ところが、手数料を10DMも取りやがった。これまでで最高額である。市中銀行が一番レートがよいということらしいが、他はもっと暴利なのか。それともドイツの銀行は例外なのか。コメルツよ、せこいぜ。さて、DMも手に入れたので、ユースへと向かう。今日泊まるユースは駅からはライン川の対岸にあるエーレンブライトシュタインという要塞のなかとのこと。ガイドブックに従いバスに乗り込む。 ところで私はフランス語は一応第二外国語でもあるというメンツからわかったふりもしなければならないが、ドイツ語に関してはさっぱりである。だいたいドイツ語は文字の通り発音すればよいから、なんて言われているけれど実際問題は大変発音しにく言語であると思う。ドイツでは英語で充分と思っていたので何の準備も特にしてこなかった、バスは大丈夫かしら、と思う。ガイドブックでは、7から10番までのバスと書いてあったので、8番というバスに乗り込む。「エーレンブライトシュタイン」というと、あっちのバスへ行け、と言われる。そこには10番のバスがあった。はいはいとそちら向かって。同じことを繰り返す。すると、またあっちのバスだといわれる。そこには9番のバスがあった。バカにされているのだろうか。煙たがられているのだろうか。ガイドブックが嘘なのだろうか。(後でわかったが、どのバスでもやはりよかった。ただ9、10番の方のバス停がより近いところにある。10番の運ちゃんが9番を指差したのは、出発時間がそっちの方がはやかったからだと良心的に解釈しておこう)とにかく、バスは我々を乗せて出発。

 途中コブレンツの町中をまわってから、ライン川を渡る橋へ出る。視界が拡がり、対岸の崖の上には、中世の古城というか要塞がそびえている。あれがエーレンブライトシュタインだ。ところで、エーレンブライトシュタイン(このままでは寿毛無になるので、以後エーレン)へ行くにはどのバス停でおりるかが、例によってわからない。運ちゃんにオーラを発し続ける。バスが崖の下のほうへ近づいて来たあるバス停で、運ちゃんが振り向いて、うなずく。私もうなずいて、下車。人はこうして言葉の壁を越えるのだろう。

 ここから崖のてっぺんにはリフトがあるようだ。それはそれでいいのだが、このでかいバッグはどうすればよいだろう。リフトはスキー場に普通にある簡単なもので、大きい荷物を持ったまま乗れるしろものではない。係のおっちゃん(英語しゃべる)に、この荷物は大丈夫かと尋ねると大きくうなずき、リフトの座席にバッグをデンと置く。我々は二手に別れ、バッグの乗ったリフトを見上げながら、頂上へ向かっていく。私はリフトはちょっと苦手なのだが、今日に限ってはバッグが落ちないかどうかが心配で、それどころではなかった。しかし、バッグと我々は何事もなく頂上駅に到着。

 エーレンの要塞は上がってしまうととても広い丘のようで、要塞というよりはむしろ山城といった感じである。眼下にはライン川、モーゼル川、コブレンツの町、その向こうに拡がるドイツの大地(原発らしきものも見えたけど)、ぜーんぶが一望できる。ラインの流れは白っぽく、モーゼルの流れは黒っぽい。合流地点でははっきりわかるその違いもいつの間にかまじりあって、ひとつのおおきなうねりとなって下流へと流れていく。絶景。ユースは古城の中にあるだけあって、石造りの重厚な感じのする建物。部屋も大変広く申し分ない。さあ、これからラインめぐりへと出発しましょう。

 ライン川沿いの鉄道はトーマスクックでもヨーロッパの車窓ベスト10にあげられている程だし、当然有名なラインの観光船という手もある。時間的に船はちょっときびしいかもしれないが、乗れるようであれば乗ってみたい。ライン川には両岸に路線(中央駅側が幹線、反対側がローカル線)があり、トマスクックにも両方の時刻表が乗っている。日本でいろいろ考えていたのは、エーレンの要塞のすぐ下に駅があるようなので、ローカル線側を走る列車にはそこから乗ればよかろう。そしてそこからリューデスハイムまで南下して、リューデスハイム観光、それから対岸のビンゲンに渡り、今度は幹線を北上して中央駅まで戻ってくればよいだろう、というものであった。われながら完璧である。トマスクックによれば、そのコブレンツ・エーレンブライトシュタイン駅からは14時10分に列車がでるとのこと。ところが、そのほとんど無人駅のような駅にはってある時刻表にそんな列車は存在していない。ここからの列車はコブレンツ止りばかりである。そうなのだ。列車は川のどちら側を走ろうがコブレンツ中央駅から出発するのだ。丁度Kの文字の線の重なるところが中央駅にあたるのだ。そして今我々がいる駅は上の斜め線に相当する。トマスクックの時刻表では平行線が二本ひかれているし、中央駅でもらった地図でもコンブレンツ付近で川をまたぐ路線はないのだが、そんなことは(やっぱり)なかったのである。地図からはずれたところで線路は大きくUターンし、川を渡って中央駅に逆戻り。おかげで1時間近く次の列車を待つはめになってしまった。トマスクック許さじ!

 このため当初の予定はパーとなり、結局幹線側をビンゲンまで往復するだけとなってしまった。しかもビンゲンでは10分くらいしか時間がない。まあ、ここは車窓風景を愛でるのが主だから、いいか。列車はラインのほとりを走っていく。対岸の山頂には点々と古城が姿を見せている。川にはひっきりなしに観光船や貨物船が行き交い、いまだに川上交通が重要な役割をしめていることを感じさせる。対岸には我々も乗るはずであった路線を列車が走っている。しかし、川がひろすぎる上に、結構市街化が進んでいるため、そんなに風光明媚というほどではない。いわれていることだが、有名なローレライも看板があったからわかったようなもんで、そうでなければただの崖である。川中にたつカウプ城はおもったより小さかった。いかん、スケジュールがうまくいかなかったので、心がすさんでいるようだ。文句ばかり言っている。まあ、とにかくそんなこんなでビンゲン到着。何もない駅であった。ボーッとするひまもなく列車到着。同じ風景を眺めながらコブレンツにもどってくる。

 夕飯はユースで提供されることになっているので、水などを調達して帰りましょう。ミネラルウォーターは炭酸入りと炭酸無しがあるが、入っている方ははきっしいってまずい!涼梓はそもそも炭酸入りが苦手なので、炭酸無しを買いたい、ところがフランスにはどこにでもあったミネラルウォーターがなかなか見つからない。しかもやっとみつけたと思っても全て炭酸入り。結局3本のビン(炭酸入り)をかかえてユースにもどるハメになった。(どうやら、ここでは普通の水は水道からくんでいるみたいで、わざわざミネラルウォーターを買う人などいないのだろう。かんがえてみりゃあ、日本だって田舎ではミネラルウォーターなんてあまりみかけない)ユースに戻り、さて夕飯は6時から。チェックインのときに予約し、ディナーは「warm or cold?」ときかれたので「warm」と答えておいたのだ。ユースだもの、期待はしないけれど、なにがでてくるのだろう。今日も疲れた。ビールがうまいぜ。

 食堂にはいると既に何組かが食事をまっている。ビールもワインも見当たらない。そうなのだ、やっぱり一般的にいってユースでは酒はでないのだ。これまでのユースであまりにも気楽に酒が手に入ったのでそんなもんかいな、と思っていたが、さすがはユース発祥の国。原則を貫いている。(と、思ったら、実は8時から食堂の向かいのバーで飲めることが判明。そんなら食事時にも飲ませてよぉ)夕食がでてきた。大きな皿の上に、厚く切ったハムのようなものと、じゃがいも、豆と人参をゆでたものが山盛りになっている。これが前菜か。いやあ、さすがに量が多いなあ、と思う。後のことも考え、少しセーブしながら食べる。ところが、またしても体内警戒警報のランプがともる。我々の隣の(おそらくアメリカ人)グループは既にたいらげているのだが、次の料理がでてくる気配が全くない。みんなドアの方をみて、じっとオーラを発し続けている。しかし、誰も来ることはないし、次の料理もやってこない。ドイツ人らしきグループは、その皿が空になるとサクサク帰っていく。どうやら、これでザッツオールのようだ。我々もしかたなく、皿の料理をたいらげスゴスゴと引き返す。隣のグループはまだ硬直している。アーメン。

 このユースは山の中なのでチョットそこまで買い物というわけにもいかない。しかも、利用者心得の細かいことといったら。食事がどうとか、掃除がどうとか、確かに他のユースでも同じようなことはいっているが、書き方が違う。たとえば、掃除については、ソールズベリは「掃除機はどこそこにあるよ」とさりげなく書いてあるだけなのに、ここでは「お前が掃除をしないということは、スタッフのだれかがやるということだ。それだからしてなにがしかの料金を徴収する」といった具合である。さすがはドイツである、ということか?8時になったのでビールを飲みにいく。それからシャワーを浴びて、涼梓はおやすみ。やっと日も落ちたので夜景をながめに外へ。コブレンツの町が静かにきらめいている。ドイツ人らしきあんちゃんが「きれいだろう」とかなんとか話しかけてきた。「んだ、んだ」とかなんとか適当にしゃべっていたが、さすがに両者にとっては外国語。そんなに話ははずまない。そんなもんだろう。こうしてドイツの夜はふけていく。




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