■2005年アエロフロートの旅
5/3 アエロフロート航空 SU576便。成田空港を定刻出発。天候は薄曇り。
機体はどんな戦闘機なのか?と思いきや、普通にB777。座席はエコノミーだけあって狭いが、乗務員のサービスも悪くない。機内食も問題無し。むしろ量は豊富で味もなかなか美味。出発前の疲れが祟って10時間のフライトの半分くらいは寝て過ごしたが、今回も機内食は完食した。
▼夕飯?
▼朝ご飯?
▼軽食はアエロフロートブランドの「アエロナッツ」
ちなみに前回のアリタリア航空機(機体は同じB777)にはエコノミーでも1人1台の専用モニタがあり、映画やゲームなどが楽しめたのだが、あれはゲーマーにとっては逆に腱鞘炎になる危険性があり、大変疲れたので、旅程のきつい今回は無くて良かったかも知れない。なお、普通の(?)旅客機同様、大型スクリーンもばっちり搭載されているのだが、このモニタには常に航路や飛行データ類が示され…ているだけで、映画の1本、CMの1本すら流れない硬派っぷり。まぁ映画が見たければ今は自分でポータブルDVDでも持ち込めばいいし、あのスクリーンは角度の無い席からだとよく見えないし、それでいて席の値段は変わらない…等という諸事情から鑑みるに、映画を流さないというのはある意味、時代に則し、かつ客に対して公平であるというアエロフロート一流の決断…なのかも知れない。
…決してお金が無いからでは…。
まぁ国際線を4路線も飛んで、羽田・北海道往復よりも安い飛行機に食事とトイレ以上のサービスを求めるのは酷というか何というか。偉大だよアエロフロート。お菓子もジュースも普通に持ってきてくれたし。必ず「です。」「ます。」の「す」が伸びてアクセントも来てしまうロシアン兄さんの面白機内放送も聞けたし、個人的には満足。
そんなこんなで10時間のフライトは暇だったような、あっという間だったような微妙な感覚のうちに過ぎ、モスクワにもほぼ定刻に到着。昼から10時間乗っているのだが、時差の関係でモスクワはまだ夕方5時である。
そう、モスクワはヨーロッパ中央時間とは2時間もの時差があるのだ。だからモスクワでのCLの試合は夜10時45からの放送となるし、実際に試合が行われる際には特例的に他会場よりも開始時間が早められるという措置にも頷ける。
…冬のモスクワで夜10時45分からの試合なんて、想像しただけでも凍りそうだしなぁ…。
ちなみにこの日、5/3はリバプール対チェルシー(1st-legはスコアレスドロー)の2nd-leg開催日である。モスクワ泊にしたため、余裕を持ってリアルタイムでのTV観戦が可能な予定だ。トランジットホテルも一番値の張るノボテルにした(…というか代理店に予約した段階で他が選べなかった)ため、まずeurosportsチャンネルくらいは映るはず。アリタリアでイタリア直行であればかなり苦しい(ミラノ着の時点で19:00頃のため。)が、モスクワ泊にしたことで、余裕を持って見られるわけだ。素晴らしいじゃないかアエロフロート。しょっちゅう遅れる、サービスが悪い、機体がヤバイ、などの恐ろしい前情報を沢山聞かされていたが、飛行機を降りる段階では、かなり見直していた。
正確には飛行機を降りる段階「までは」か。
そう、本当の闘いは飛行機を降りてから始まるということを、私たちはこの後、早々に知ることとなる…。
■ここが変だよシェレメチボ。
ロシア最大の国際空港、シェレメチボ空港に降り立つ。時刻は定刻の17:00。
予定としてはここで一旦トランジット手続きを取り、トランジット専用ホテルで一泊する。そして明日の朝、アムス行きの便に乗り継ぐこととなる。
トランジット専用ホテルというのはロシアへの入国ビザを持たない旅行者のための臨時宿泊用の施設である。本来は入国できない=自由な行動はできず他人との接触も不可能。形としては軽犯罪者の留置場送りみたいなものか?とは言っても、普通のホテルの一部分をそのような形で使用しているだけだし、別に犯罪を犯してるわけでは無いので、そんな酷い扱いを受ける謂われも無い…はずなのだが。
さて、飛行機を降りた私たちの目前には、長蛇の列。どうやらトランジットのカウンターが激混みのようである。まぁうちらは今日の便に乗り継ぐワケでもないし、CLの放送までもあと5時間以上もあるので、悠長に構えることにする。ただし、同じ列に並んでいた人の中には1時間後のパリ行きの便へ乗り継がなくてはならない人々がかなり居た模様。こういう人たちは急がなくてはいけないはずなのだが、いかんせん列が進まない。どうやら空港職員の人手が足りないのか、この飛行機に乗ってきた数百人の乗客をたった2人のカウンターで捌いている模様。そりゃ遅いわな、と呆れながら並んでいる横を、空港職員のお姉さんたちが
「ベリィーズ!ベーリィィィズ」
と何やら大声で叫んでいる。こんな時にベリーズちゃんが迷子なのか?大変だなぁ〜。とか何とか思っていたら。どうやらそれは「Paris」の事だったらしい。聞き返して確認している人がいて、初めて分かったのだが、要するに時間のないパリへのトランジット客を先に行かせるために呼んでいたらしい。でもその発音で分かる日本人はいない…いや、フランス人だって分かんないだろ多分。一発目から濁ってるし。それでいて地名しか言わないし。そこは普通、現地語+英語放送で「パリへ向かう方はお早めにカウンターへ来て下さい」くらい言うところだろうと思うのだが。職員数名が地名だけを叫ぶという、とても効率が良いとは思えない方法での案内であった。館内放送はちゃんとあるんだけどね…。そして叫ぶだけの職員が3人もいるならカウンターに1人くらい回せよ、と思わずにはいられない光景でもあった。
そんな職員らの姿を横目で眺めること2〜30分ほど。ようやく自分たちの順番が回ってきた。カウンターのお姉さんに明日の便だと伝えると、明日は7時にココ(出発ロビー)へ来いという。明日の飛行機、10:45なんですけど…?出発ロビーに7時って。思わず聞き返したものの、やっぱり7時らしい。えらい早いなぁ…と思いつつ、処理を済ませてもらい免税店などが並ぶ、出発ロビーへと抜ける。
…ここから先はどうすればいいのかサッパリ分からない。とりあえずビザが無いので、出発ロビーからは出られないはず。アエロフロートでのトランジット体験者である会社の先輩の話によると、3時間ほどここで待たされたらしいが…。どこで待てば良いんだ?とウロウロしていると。「トランジットホテルはこちら」な掲示を発見。そしてその矢印の方向にあったものとは。
▼これ。
がらーんとした空間に「MEETINGPOINT」の看板。写真には写っていないが、一応手前に4人くらいしか座れないイスは置いてある。それ以外は、何も無し。
…いや、私たち同様、どうしていいのか分からない人々が数名いたわけだが…。
▼途方に暮れる人々
とりあえず、その辺の人たちから情報収集。困った時は人に話を聞いて情報収集。RPGの基本ですね。でも残念ながらここでは誰も詳しいことは知らないらしい。空港内も巡ってみたが、とにかく歩ける範囲は出発ロビーだけ。これがやたら狭い。大荷物なのにうっかり2周してしまったくらいの広さ。
▼これがシェレメチボ空港だ!
図には書かれていないが、一部中2階になっており、トイレも3カ所ほどある(でもペーパーは無い)。そして省エネに徹しているのか、館内は大変薄暗い。今は日の長い季節だから9時くらいまで日本の夕方並みに明るいのだが、冬場はどうなってしまうのだろう…。ここはロシア最大の空港…のはず…。
免税店もそれなりにあるものの、使用通貨が統一されていないため、大変使いにくい。EUROしか使えない店、ドルしか使えない店や、ルーブルとカードしか使えない店もある。ここでの買い物のためだけにドルやルーブルに両替するのもバカらしいので、成田で両替したEUROの使える店で分厚いロシアンチョコレートを購入。MEETINGPOINTに戻って食す。事前情報によるとホテルでの夕飯は取れないらしいし、CLを見てから寝ることになるので、多少お腹に入れておいても良いだろうという判断だ。一応成田でも夕食用のパンは買ってきたが…。
そんな分厚いチョコを半分くらい消費した頃。
…時間にして約2時間半後。
やる気の全く感じられないホテル係のお姉ちゃんが登場。MEETINGPOINTでホテル名を数回連呼した後、速攻で去ろうとする。慌てて後を追う人々。ようやくパスポートコントロールへと進んだ。長い道のりだった…と安堵しかけたところでこの日最大のピンチが到来。
パスポートとチケットを出せと言われたので出した…つもりが、
明日の飛行機のチケットが無い。
無い…っていうか、千切られてる。
それを見た職員に「チケットが無きゃ通せないわよ」と素っ気なく言われる。そりゃそうだろうけど…おいおいおい!
どうやらチケットは最初のトランジットカウンターでお姉ちゃんが千切ったらしい。あまりにもナチュラルに千切られたため、これまで全然気づかなかったのだった。焦ってパスポートケースの中を探ると、何気なく受け取っていた半券が残っており、そこにはトランジットカウンターのお姉ちゃんの「明日は7時」というメモが残されていた。それを突き出し
「コレ、あんたんトコの人が千切ったんですけど!」
と強く訴える。MEETINGPOINTで仲良くなっていた皆さんも加勢してくれた事もあり、やる気のないお姉ちゃんも渋々カウンターに確認を入れ、ようやく通れる運びとなった。良かった…危うく初日から半野宿になるところだったよ…と安心しかけたのもつかの間。更に罠が。目と鼻の先の入国チェックカウンターで止められる。
…さすがロシア。この周到っぷりは侮れない。…だから今度は何なんだよ?!とキレ気味でツッコんだところ、先のカウンターで貰えるはずの「一時入国許可証」みたいな物が無いとここは通れないらしい。数メートル引き返すと、慌ててさっきのホテル係姉さんが入国チェック姉さんに紙を渡していた。
…どう見ても新人には見えないし、1日に何百回、何千回と同じ事をやっているはずなのに、この人たちの有り得ないほどの段取りの悪さは何なんだ…??
ていうか業務マニュアルくらい作れ。
…とにかく全てにおいて手際の悪さと対応の無気力っぷりが凄まじいシェレメチボ空港。
これで空港内にオリンピック招致の看板とかあるのは…もはやギャグにしか見えないんですが。
ちなみに全てのチェックを終えた後、私たちを待っていたのは「8時に来るバス待ち」だった。結局8時…3時間待ちか!…先輩の言葉は正しかった。
バスはきっかり8時にやってきて、乗って3分後くらいにホテルに到着。3時間待ってバス3分。だってノボテル、空港から見えてるし。多分、新宿駅西口から都庁くらいの距離。日本人だったら動く歩道付きで連絡通路を作るとこ。それなのに3時間待ちでバス3分。あの無意味な3時間は何だったんだ…。強いて言えば、共産主義時代の伝統ってとこか?
▼この距離。(ホテルより撮影)
なお、バスには空港内から乗せられ、ホテルの裏口に横付けされ、荷物運搬用のエレベーターにて部屋まで連行された。ずっと護衛(監視)つき。ホテルの廊下にも看守…じゃなかった監視員が。気が滅入る環境だ…。しかしMEETINGPOINTでずっと一緒だったハンガリー人のお兄さん(英語・日本語ペラペラ)が隣の部屋になったのが心強い。何かあったら呼んでくれ、とのこと。その頼もしさに涙が出そうになったモスクワの夜だった。
ほとほと疲れたが、とにかく一応ここまで辿り着いたことをペプシコーラ(アエロフロート機内で貰ってきた)で乾杯。風呂に入りリバプールvsチェルシーを観戦した。
個人的にダメモトでリバプール、特にルイスガルシアには注目して応援していたので、下馬評を覆しての勝利には超感動。モスクワのテレビで、何故かフランス語実況で見ていてもあのアンフィールドの雰囲気にはグッと来た。最高。
…明日もまた無事に飛行機が飛んで、そして何よりも勝利に感動できるよう、強く祈りつつ、就寝。