競作「パンドラの鐘」

@NODA MAP「パンドラの鐘」(作・演出 野田秀樹)

1999年11月27日(土)19:00〜21:00
世田谷パブリックシアター

ABunkamura10周年記念「パンドラの鐘」(作・野田秀樹 演出・蜷川幸雄)

1999年11月28日(日)14:00〜16:00
渋谷シアター・コクーン

 99年演劇界最大の話題作・「パンドラの鐘」を見てきた。
 一番の話題はなにかというと、野田秀樹と蜷川幸雄が同じ脚本を競演したこと。
 というわけで、二つとも見てきました。まずは二つの「パンドラの鐘」を観劇しての印象から、それぞれの「パンドラ」を見て思ったこと・感じたことなどなど。


 (物語)

 戦前の長崎で発掘された巨大な黒い鐘上の金属塊。それは未来の古代の王国、ヒメ女の統治する時代の遺物。葬儀王「ミズヲ」が死体を埋めるたびに鳴らされた「鐘」。そして、いずれ長崎の空にキノコのような雲と、地上での惨劇をもたらすもの。
 それは「パンドラの鐘」と呼ばれた。
 時空列が錯綜するなか、その「パンドラの鐘」を巡って物語がすすめられていく。


(かんげき後のよしなしごと)

 原子爆弾が現代科学の英知の結晶・大発明であり、同時に恐るべき世界をもたらすものであるということ。人間の作り上げた文化・科学には必ずそういう表裏一体の一面がありますね。
わかってはいるけど、簡単には後戻りできない、そういうことをうむむと考えてしまう戯曲だったです。

 野田さんのリリカルな戯曲はやっぱりくせがあって、「野田さんの世界」として観たほうが、わたしはしっくりきました。

逆に、今回が蜷川初体験。見終えた印象としては、「見る順番が逆だとよかったなあ」でした。
とにかくあの「のだ」の世界をここまでリアルに描いたというのはある意味すごいことだとおもいました。
ふたつを見終えて「やっぱり野田の芝居は野田のものだ」と思った私だけど、よくよく考えると、あの独特の世界を他の演出家が作り上げたプロの舞台をこれまで見たことがなかった。(というか、前例があるのかな?情報求む)

と、いうことは明らかに蜷川版にハンデあり、の状態でかんげきしたということです。そういう意味で、見る順番が逆であったら、また違ったことを思ったかもしれないです。

競作って、そういう風にいろいろな楽しみ方がありそうで、やっぱりいい企画だなあと思いました。プロだけでなく、アマチュアでこういうのをやってみても面白いよねえ。それこそ、「ガラかめ」でおなじみのマヤVS亜弓のあの世界。比較しやすいほうが、ドラマチックであります。見方も広がるしね。おもしろいや。

では、それぞれのパンドラの個人的な印象や感想など。
どうしても二つを比べて観てしまうため、今回はちょっとまとまらなかったですが、ごかんべんを。


NODAMAP「パンドラの鐘」について

野田版の方はなんといってもキャストの妙!いつもながらそれだけでも楽しめるなあ。キャスト一人一人の本来所属している劇団はそれぞれ全然スタンスが違うのに、野田さんのまな板に乗せると、その個性がぶつかり合ってて、なおかつアンサンブルとしても見れてしまう。
特に松尾スズキにはびっくり。大人計画の芝居を見るかぎりは、あんなに動ける役者とは想像もつかない。松尾さんと野田さんのかけあい漫才のエスカレートぶりが楽しい。野田さんはいつ見ても芝居を心から楽しんでるなあというのが伝わってくるんだよね。今の素じゃないの、っていうくらいに相手役のギャグに反応して笑ってたりとか。そういう思いっきり楽しんでる、というのが伝わってきて見ているほうもどんどん楽しくなる。
それから、ヒメ女に関してはわたしは天海祐希に軍配。宝塚ならでは?の高貴なたたずまいにぐっときました。

さらに舞台美術。今回は大きな大きな紙を使っていて、その材質感が気持ちよかった。冒頭の、戦前の発掘現場からヒメ女の時代のシーンへの転換、ばりっと破いてキャストが現れ、一瞬にして移り変わるという風に使っていて、はっと息を呑みました。

遊びの要素をうまく取り入れつつ、スピーディな展開に活かしていて、それは気持ちのいい装置使いでした。


Bunkamura10周年記念「パンドラの鐘」について

蜷川のパンドラは、とにかくリアルな世界観で物語を描いていて、まずはそのことに驚きました。同じ戯曲がこうも違って表現されるんだな。素直な驚き。

ただし、NODAの方を先に見ていたため、あのスピーディさに圧倒された状態で見たのがいけなかったのか、ちょっとだるい印象を受けました。丁寧に世界を描こうとしているのはよくわかるんだけど、これは観る順番が違ったら良かったのかもしれないです。

キャスト。ミズヲに関しては、勝村さんに軍配です。ミズヲがなぜ死体にこだわっていたのかが終盤にあきらかになっていくんだけど、勝村さんのミズヲはその運命のやるせなさ、みたいなものがぐぐっと伝わってきて、引き込まれました。いい役者だなあ。