トリのマーク「駝鳥を探す地図の上」(作・演出 山中正哉)

1999年7月10日(土)15:00〜16:00
東中野ギャラリー・パオ

 「トリのマーク」という劇団の公演を見てきた。この劇団は、「印象的なたたずまいの建物を見つけて、その雰囲気を生かした物語を上演している」との評判で、前から気になっていた劇団です。
 (ちなみに、「トリのマーク」というのは通称で、チラシなどではトリの形をあしらったトレードマークが書かれている。呼びようがないので、ちまたでは「トリのマークの劇団」と呼ばれているようです。ニュープリンスのあのマークと同じか。)

 これまで、小さな美術館、青山の美術専門の書店、表参道の洋服店などで上演をしている。「その場所の雰囲気」から生み出される物語、世界観はどんな感じなのか、期待に胸脹らませ。

 今回は東中野にある異国風の店舗がよせ集まったような「パオ」の一角にある、その名も「ギャラリー・パオ」での上演。店内に遊牧民の「包(パオ)」があって、そこでアジア料理を楽しめる飲み屋さんがここのトレードマークで、この店はかなり有名。ミネムラも学生時代に何回かここに遊びに来ています。羊や牛などの肉料理がおいしいんだよね。
 「パオ」はここ数年でどんどん増・改築を繰り返していて、チケット屋、古着屋などいろんなお店が軒を連ねていて、東中野の名物的存在のようです。

 で、ギャラリー・パオはその一角にある画廊。1階はカウンターがあって、飲み屋さんにもなるようです。その奥にはペルシャの絨毯がたくさん置かれていて、ごちゃっとした倉庫のよう。中央の階段を上ると、そこは回廊。階段を囲むようにフロアーが配されています。
 
 毎回小さな店や美術館での上演が多いため、この劇団の公演は原則的に要予約。今回はインターネットで予約をしました。

 受付で名前を告げ、料金を支払うと、予約順に用意された整理券が手渡されました。ところが中にはいると自由に席に座ってよいよう。おや、整理券はなんのため?このなぞはあとで明らかになりましたが。
 カウンターの椅子に座り、待つことしばし。開演を待つ間、辺りを見回す。隣り合ったカフェバーとはカーテン一枚で仕切られていて、バーの客の賑やかな談笑など聞こえ。天井を見上げると、異国風のランプシェードがたくさんゆらゆら。据え付けられた扇風機がゆったりと回って、のほほんな気持ち。そこを時に行き交う場内整理の男性も、アジアンテイストのゆったりした服。なんだか都心であることをわすれるようなゆったりとした時間が流れるところだな、パオって。とか思いながら、開演前には25人ほどの客で一階のフロアーが埋まりました。

 と、それまで場内整理をしていた男性が、客の前へ。もうひとり、ショートヘアのワンピースの女性が小さな宝箱を手渡すと、ゆっくりと音楽が流れ始め、開演。

 無表情で箱の受け渡しをする二人、なんだか不思議な二人。と、そこに大声で入ってくる男性。なんだか昔の相撲取りの話や、自分の祖母のことを話したり、かと思うと「いや、祖父かあれは!!」とかなんだか妙ちきりんなことをまくし立て。それを聞いている男、やっぱり無表情でクールな対応。このやりとりがおかしくてくすす。

 どうやらクールな男はこの建物の主、のような感じ。と、「相撲取り話」の男に、奥の階段の向こうに何があるのかとか聞いたり。「壁」「いや、もっと手前」「洋服が掛かっている」「いや、もっと向こう」とか、「相撲」男をからかうように話を進めたり。
 私の席からは階段の上の方は見えないので、一体何が見えるのか見当もつかず、わくわく。とかしていると、さっきのショートヘアーの女性が2階へ。
 と「相撲」男、「ここからは靴を脱いで2階にお上がり下さい」、なるほど、整理券はここで使うのだったか。ということで、しばし移動タイム。整理番号順に2階へあがる。

 私が見たくてしょうがなかった階段の上の壁には、木の枝に麻紐が結ばれたのようなオブジェ。ショートの女性が紐を結びなおしたりしている中、回廊にぐるっと配置されたクッションに座る。他の客の顔が見渡せるような感じ。
 
 そこにソバージュヘアのゆったりズボンの女の子。ショートヘアーの女性が結んだ結び目をまた直したり、小窓から外をのぞいてみたり、ちょこまか。

 どうやらそのオブジェは「地図」なのだとか。とかしていると、今度は冒険服を着た女性が。「この建物(塔ということになっている)のてっぺんに駝鳥がいますよ?」その駝鳥が見たいので、塔のてっぺんへ案内して欲しいらしく、好奇心に満ちた表情は豊か、ぺらぺら早口でお願いしている。対応する主人は相変わらずクールで、そのやりとりがやっぱりくすくす。

 と、駝鳥がいるのかいないのかとか、「地図」のオブジェの場所が本当にあるらしいとか、なんだかそんなたわいのないことを登場人物たちがあれこれ話している。

 登場人物のキャラクターが多彩で、それぞれのペースでおしゃべりしながら、不思議な世界を作り上げている印象。でも、そこに人物の対立とか、激しい感情はいっさい介入してこない。なにげないこの世界ならではの「日常」を淡々と綴っているような感じでした。
 さらに、観客いじり?とでも言うのだろうか、回廊にぐるっと座っている客は「博物館の陳列物」とか、のほほんななかにも遊びがそこここにあって楽しい。

 結局、駝鳥がいたのかいなかったのか、結末はない。「私たちはここで、駝鳥の話をしました」と冒険服の女性がつぶやいて終演。

 見終わって、なんだか狐につままされたような、でも心地よい時間を過ごしたなという感じ。どこかにありそうで、なさそうな世界に潜り込んだような。
 架空の世界ではあるけど、世界がきちんと見えるってのは、クールからおしゃべりさんまで、いろいろな人がその場に出入りして、その人たちの生活ぶりみたいなものがきちんと表現されているということ。なにげないようで、この世界に必要な要素はきちっと詰まってる。彼らの話すよしなしごとを聞いているだけで、その場にいあわせた登場人物のひとり(いや、陳列物だけど)になったような、そんな気がしました。こういう体験もなかなか楽しいものです。

 この雰囲気を言葉で伝えるのが難しい。とにかく「雰囲気を楽しむ」芝居だなあと思った。物語はあるんだけど、どういう結末なのかとか、そういうところを見に行くんじゃなくて。……ということは、「しゃらくさい、なにがいいたいんでえ」って感じた人もいるかも。好き嫌いがはっきり分かれそうな劇団ですね。私的には楽しいひとときでした。
 「その場に居合わせる」ことを体験しに行ってみるつもりで、一度足を運んでみるといいよ、きっと。