自転車キンクリートSTORE「蠅取り紙」(作・脚本 飯島早苗  作・演出 鈴木裕美)

1999年6月25日(金)19:00〜22:00
新潟市民芸術会館「りゅーとぴあ」シアター

 自転車キンクリートSTOREを見てきました。会場は新潟市芸術文化会館通称「りゅーとぴあ」です。

 「りゅーとぴあ」は愛称らしい。新潟市が「柳都」と呼ばれていることから、この愛称に決まったそうですが。
 私は新潟市が「柳都」と呼ばれていることを知らなかったので、「ふーん??」という感じですが。

 ともあれ、コンサートホール、シアター、能楽堂を有する、巨大な芸術施設であります。特に、「東京の良質の演劇を新潟でも上演できるように」というコンセプトもあるようで、去年のオープン事業では「キャラメルボックス」を呼んだり、今年に入ってからはこの「自転車キンクリートSTORE」や、「遊機械・全自動シアター」、「イッセー尾形」と目白押し。いいことですね。なんだかんだいって、東京までお芝居を見に行くのはかなりの労力がいりますから。

 いい演劇を見ることは、演劇をやろう!という人にもよい刺激になると思います。どんどん見て、どんどん演って。

 ということで、今回、初の「りゅーとぴあ」でのかんげきとなります。会場はシアター。とにかく大きくて、キャパは1000人弱??内観はシアターコクーンを模したような、オペラハウスの作り。

 客席は8割、というところ?客層は幅広い!20−30代を中心に、高校生から熟年まで。これにはおどろきました。
 「自転車キンクリート」も今回初見なのですが、80年代の小劇団ブームの旗手であったという印象を持っていたので、老若男女わけへだてなく見に来ているのは予想外でした。

 しかし、開演してみて納得。良質のホームコメディで、誰もが楽しめる公演だと思いました。楽しめる、は語弊があるかな。わはは、と笑いながらもテーマ自体は結構ずしり。どの世代にも共感を呼んだり、いろいろ身につまされるエピソードありといった。

 物語。山田家は男女女女男の5人兄妹。長男(川原和久)は婿入り(!)、次女(歌川椎子)は同棲中、三女(村木よし子)は長男の友人・麻倉(久松信美)と不倫の末結婚。で、それぞれ独立。
長女(柳岡香里)は高校教師でまだまだ独身。末っ子の次男(大倉孝二)は演劇にはまってるプータロー。で、この二人は家に残ってる。

 両親は退職後の生活、子どもも大きくなったし悠々自適と行きたいところ。
今日から二人でハワイに旅行へ、で、5人兄妹が見送りにやってきて久々に勢揃いとか。

 この5人兄妹のやりとりがすごくリアル。長男は弟妹たちが心配で、あれこれ説教。でも、婿入りしてうち出ちゃってるから全然相手にされてない。
 長女は男運悪く、先日もふられたばかり。次女三女はいろいろ問題はあるけど、パートナーはいるので、なんだか態度がでかい。実家に残ったものより出ていったものの方が奔放に振る舞うって、そうそう、そうだよねな感じ。
 末っ子に至っては演劇なんてやってるから、もう一番立場悪し。お決まりのいじめられっこ。
 ともあれ、どの役も現実によくある問題あれこれ抱えた生き方をしているよね。んで、それぞれがキャラクターを社会的スタンスをまじえつつしっかり表現しているので、会話がすんなり、面白い。

 物語は進んで、夜中にハワイよりお電話、母親が旅先で入院!しかも、手術後昏睡しているとか。
 夜が明けると、なんと母親が家にいる!すわ生き霊?魂が帰国しちゃってて、ハワイの本体はからっぽということ。

 そこで兄妹たちは、自分たちが心配で帰ってきたのでは、とか、いろいろ考えたあげく、「とにかく楽しくしてもらって、穏便にハワイに帰っていただこう」とあれこれ画策。みたいな。

 で、最後は宴会のなかで、それぞれが母親に自分たちのこれまでの生き方を詫びてみたり、これからの生き方を話してみたり。

 それぞれが自分の生き方を選べるし、生き方のバリエーションも増えた昨今、それも両親が生きているからこそ?「このままだと死んじゃう」とわかったときに、自分たちの生き方をありのまま受け止めてくれていた母親の偉大さを知るのかなあ。

 うむうむ。身につまされます。この顛末が、「前妻が亡くなってしまった」三女の夫、麻倉のエピソードと相まって、相対的に描かれています。

 麻倉の異常な行動、「前妻に電話をかける」こと。失ってから、その存在の大きさを知るのでは遅すぎるということ。

 そういう意味で、「当然そこにあると思っているものが失われるとき」ということをしみじみ考えました。その一つはこの物語のように、「お母さん」だったりするのよね、やっぱり。むむ〜。

 途中に休憩をはさんで2時間半の長いお芝居でしたが、なかなかどうして、有意義な時間でした。

 役者では、母親役の池田貴美子がいい。生き方楽しむ肝っ玉母さん。池田さんて35歳だけど、貫禄充分、ちゃんと役の年相応に見えて、それってすごい。いい役者さんだっ。

 その他、5人兄妹では末っ子の大倉孝二が楽しかった。すっとぼけ。