NO予備知識新潟演劇ツアー、そろそろ大円団か?と思っていたのですが、WEBで得られる情報を見る限りは、まだまだ、まだまだ。という感じも。
自分的には今月8本も見たのでいい加減に疲れもたまってきていますね。芝居を見るって、なんだか脳みそをフル稼働する作業だなあと、いつも思います。ということで、8本目は劇団カタコンベの「あなたから逃げてゆく街に漂う煙について」です。カタコンベは新潟では最も古い劇団のひとつのようです。今回は「第34回公演」。すごい!劇団のHPの上演記録を見ると、新潟以外の公演も何回か行っている様子。新潟を代表する劇団と見て間違いないでしょう。
会場は、古町のはずれ?赤坂町というところ。中郵便局からずんずん歩いて15分くらい。「下町の風情を楽しみながら来て下さい」、とのチラシの言葉通り、古い街並みの中にあります。風情は悪くはないけど、近くに目印となるような建物などないし、夜公演ということで辺りは闇に包まれ。(住宅街なので、本当に暗い!)地図を読むのも一苦労。「本当にあるのかなあ…」と、やや不安になったところに、なにやら人だかりが。よかった、無事に到着しました。本当にほっとした。
劇団所有のアトリエは、以前倉庫として使われていた建物のようでした。1Fは駐車スペース、やっぱり予約をして来るのがオーソドックスのようで、受付で「予約はないんですけど…」と話すと、「えっ???どういうこと?」な感じ。受付の人、もうひとりの受付の人に相談したり。言葉遣いもとってもフランク。アットホームな印象。
2Fにあがると、幅5メートルほどのスペース。倉庫を改造したアトリエにしては、かなりしっかりした舞台施設に仕上げているよなあ。と感心。遮光もしっかりしているし、客席の上にブースがあったり。劇場代わりのスペースではなく、小さな劇場に作り替えた、という言葉がしっくりくる。
客席は木製の背のないベンチが4列ほど並んでいる。初日のこの日は20人弱の人が。制服姿の女子高生もちらほら。物語。廃墟のような貧民窟に住む人々の人間模様とか。記憶をなくして倒れた女。見えない心を象徴するように、ホワイトボードを背負い。そして、行き倒れの人の臓器を売って商売している男。男を慕い、彼に自分の臓器を売られたいと望む女。双子の兄とはぐれた男。
登場人物の4人が4人とも、自分の中の「なにか」に飢え渇いている。ホワイトボード女は自分の記憶を求めてボードにこれでもかと自分を仮定し続けているし、臓器売買男はとにかく金が欲しいので、この街に半死人=商品が落ちていないかいつも探してる。臓器売買男を慕う女は、金しか見えない男の心を自分に向けたいと考える。そして、双子の弟は、兄を。
しかし、4人の事情が複雑に絡み合い、それぞれの「満たされない思い」の真相が徐々に明らかになっていく。結局、登場人物たちは互いの欲するものを阻害しあって、結局だれも満たされないのだ、と思った。これも現実によくあることですな。タイトルに「あなたから逃げていく街に漂う煙」というフレーズがあるけど、なるほどな、いい言い回しやな。と思ったり。
と、芝居を思い出しながら以上のように考えるに至るのに、一週間ほど時間を要した。というのは、この芝居、ちょっと冗長な感じを受けてしまったからです。
演出的に暗転が多用されているんだけど、このせいで何度か集中を寸断された感じ。なぞめいたキャラクターにのめり込みそう、と思ったところに暗転、違うシーンが始まったり。あれあれ、とおもっているともう一つのなぞめいたエピソードが語られ始めて。で、またうーんと考え始めると、暗転。ここで疲れてしまいました。
それからところどころ場を和やかにする?意図と思うんだけど、ギャグが挿入されたり。入り組んだ人間関係を読み解こうというスタンスで芝居を見始めていたので、これにも思考を阻害されました。残念。他の観客は結構受けていたけど、私的には「もっとヒントをちょうだいな」と思っていたところにビンゴ!という感じでじゃまされてしまったという感じですっかり気持ちがナナメ。
最も、見に行ったのは初日なので、まだまだこなれていない部分が多かったのかも知れません。
見ていておもしろいな、と思ったのは、役者の心の動きを象徴するいくつかの小道具?使い。ホワイトボードも面白かった。女が「自分は、自分は……」となんどもなんども書き込んでは消していく。その葛藤のさまが視覚的に面白い。
あと、双子の弟の衣装には、ほつれかけた糸が地面まで垂れていて、これを「自分のなかのジレンマを放電するアース」なのだ、と言っているところ。やけに空明るくて、自分を必要以上に抑圧しているキャラクターなんだけど、「俺はアースがついているから大丈夫なのさ」と言い切っているところなんかは身につまされる人多いんじゃないかな。
私の「アース」は、例えば自分と相性の悪い、むかつく奴がいたとしても、その人のよいところを必死で探して、それを口に出すことね。本当は愚痴をこぼしたいけど、あえて「こんないいところがあるんですよ」と自分を説得しちゃう。危険な方法です。以上のような小道具使いでもわかるように、普遍的なテーマをここぞとばかりに抽象的に仕立て上げているなあの印象。作者の戸中井三太さんはかなりの詩人だと思った。野田秀樹系の。だけど、抽象的に過ぎていて、見せ方が難解になっちゃったね。もったいないなあ。と思ったり。
あ、それから、戸中井さんは中村雅俊にそっくりだったなあ。友人は「草刈政雄すよ」だって。役者では臓器売買男に片恋の女を演じた「やとうみきえ」さん(めーるありがとうございました)の目に惹かれました。