東京芝居行脚第3弾。「母を逃がす」。
大人計画はミネムラ初見。身体障害者、近親相姦、新興宗教、社会のタブーを切り口に、ぴりりとお笑いを絡ませて。というのが周囲の評判。
とはいえ、「おもしろい」「どぎつい」など、他人の観劇話聞いてもいまいちイメージの沸かない劇団。
「見てみないとわからない」ということかな、と今回は念願の観劇と相成った。なにせ急仕込みの芝居行脚、これも当日券を目指して下北沢へ。発売開始30分前に劇場へ。すでに20〜30人の行列が。並んでいるうちに行列は倍の長さに。
はたして全員は入れたのかはわからないが、とりあえずチケット購入に成功。よかった〜。こうしてみると、当日券でも、席にこだわらなければけっこうなんでも見れちゃうなあ。おのぼりさんはぴあ片手に突発的芝居ツアーも悪くないかも。
客席は最後方、舞台正面。かなり高いところから舞台を見下ろす感じ。まあ当日券ですから。
装置。「ヤマギシズム」のような共同生活体(コミュニティ)の牧場の広場。
中央にテレビとスピーカーのくくりつけられた電信柱状の宣伝塔らしきもの。
「自給自足自己自立」のスローガンの書かれた看板もあり。
上手にはこの牧場で暮らす人の宿泊所。下手には作業小屋。
マチエールまでかなりリアルな装置。リアルな装置に対して、リアルなのかでたらめなのかよくわかんない世界観と登場人 物。
東北のある地方で、自給自足の生活を送るコミュニティ。コミュニティの創始者である父親は病の床、正当な後継者であった兄は犯罪者として刑務所に。
なし崩し的にコミュニティのリーダーとなった地介(阿部サダヲ)。父や兄へのコンプレックスに、リーダーとして感じる周囲からの重圧感。「自分はリーダーとして望まれているのか?」自信のもてない地介。
地介はコミュニティの構成員に強制的に自分にかけられた生命保険に金を出させ、その高額の保険金によって、自分がリーダーとして必要されていることを確認するしかない。さらに、強固な掟を守らせ、独裁者として君臨することでアイデンティティを保とうとする。
自分をここまで不安にさせるコミュニティ自体を、地介は憎んでいる。憎んでいるが、リーダーとしての自分の存在を感じたいがために、部外者を排除し、ここに暮らす人たちを締め付けている、そんな感じ。そもそもこのコミュニティには、そういう自己矛盾をかかえた人ばかりが暮らしている。
コミュニティを嫌い、都会へ思いをはせる妹、リク(池津祥子)。
女であることに違和感を感じる女警備係、山木(伊勢志摩)。
子供は欲しいが嫁さんの来手がないタチ政(顔田顔彦)、ブタ吉(宮崎吐夢)。
修学旅行中にはぐれ、このコミュニティにたどり着いてリーダーの嫁となった蝶子(猫背椿)。
捨て子としてこのコミュニティに拾われたトビラ(田村たがめ)。ホントに、「なんでここに住んでいるのか」とつっこみたくなるような人たち。
では、「なぜ出ていかないのか」と聞かれたら、「ここしか生きる場所がない」、この一点に尽きるのだろう。
そう、私が
「しごとつらい〜けど、やめたらくってけない」
「しばいしたい〜けど、したらくってけない」
と、いつもいつも(笑)言っているのと変わらない訳で。そういう視点では、一見おかしなコミュニティの物語、実は普遍的な、どこにでもある話と思われる。「酒屋の跡継ぎ」でも同じようなシチュエーション、ありそうだもんね。根源的。
そこで、それぞれがコミュニティのなかで自己矛盾を何とかしようとして、空回りしている、そんな物語。
うーん、身につまされる。ただし、物語の展開は破天荒なのだ。
ハル子とリクは互いの体を慰め合い、「私たちだけは、互いを理解し合ってる」と言う。
蝶子は子供を望まれながらも不妊のため、とにかく食べまくって便を貯め、妊娠を装う(!!!!)
タチ政、ブタ吉は地介の許可を得て、トビラの初潮を待って嫁を共有して子供を作らせることにする。とまあ、そんなこんな。勿論、そのどれもが破綻に向かうしかない。
手持ちの材料だけでなんとかしようなんて甘い、甘い。とあざ笑うかのように。そこで、「母を逃がす」になるわけだ。
コミュニティに疑問を持ちながらもそこにしがみつく人から見ると、なんの疑問も持たずに天真爛漫に暮らす人にはある種の憧れ(あるいは憎しみもあるだろうが、この物語ではとりあえず)を抱いてしまう、そして、感情移入してしまう。この物語では前者が地介、後者が母リク。ンで、地介は「どうにかして母だけでもここから逃がさなければ」と思うに至る、と。
でも、母は生活になんの疑問も持っていないのだから、結局地介の思惑も徒労に終わって。ま、ゆってみれば「小さな親切 大きなお世話」的だよね。
うーん、身につまされる(笑)。
と、やっぱりまとまらなかったけど、要は、切り口は破天荒だけど、そこに描かれている世界は日常となんら変わりがない。と言うことだ。そこがいい。
私なんかは地介に、「兄弟の悩み事を自分のことのように悩んで、助言するけど結局空回りしている」知り合いを見た。
「渡る世間は鬼ばかり」を見るより大人計画で、自分の生活を慰めよう(笑)。
物語はこの他にも隣村から移り住んできた二人の男(この二人、かなり楽しかった。けど、それはまた別の話にしとく)や、生命保険の積立金を毎月受け取りに来る男、一本なんかが絡んだり、刑務所に行っていた兄が戻ってきたりと、複雑怪奇。
また、脳みそをくすぐられる独特のディティール描写がそこここにあって、それも興味深いんだけど、とても書ききれないのでやめときます。悔しかったら見て下さい。劇中、登場人物は総じて東北弁で切れまくってて、いい感じ。役者、阿部サダヲ、母役の山本密、山木役の伊勢志摩の切れ具合が特によし。切れ具合ではどの役者も負けてないけど、個人的な好みで。
終演後、観客へのプレゼントコーナー。松尾スズキ著書、グルーブ魂CDなどを、「いちばん遠いところから見に来た人」(北海道の人だった。やっぱ新潟じゃ駄目か)「いちばん若い人」「今日お誕生日の人」にプレゼント。それぞれ、ちなんだ歌のコーラスを出演者全員でサービス。こういうのいいなあ。今度もやらないかなあ。もらいたいよなあ。