NODAMAP「半神」(原作・萩尾望都 脚本・萩尾望都、野田秀樹)

1999年5月2日(日) 13:00開演
渋谷・シアターコクーン


 東京芝居行脚第1弾は、「半神」。
 劇団夢の遊民社時代の戯曲の再演。実は、さかのぼること9年前、90年シアターアプルでの公演を見ている。あのころ私も若かった、土曜日、高校の授業もそこそこに鈍行で東京へ。芝居を見てその日の夜行で帰ってくる、というハード・スケジュールだったんだよね。
 演劇の面白さに目覚めた頃で、そうした東京芝居行脚を他にも何回か。劇団健康とか、ラジカル・ガジベリビンバとか。
 というわけで、自分の演劇好きの原点を見るようで、なんだか思い入れのある作品。

 場所は渋谷・シアターコクーン。席は一番下手寄り、最後列。舞台に対して垂直な、オペラハウスのような作りのコクーンならではの席。コクーンは天井も高くて、そのせいかセリフが良く聞き取れなかったり。

 ただでさえ連日満員だろうと思われるNODAMAP、この日は東京公演最終日で、当日券組をすべて立ち見で入れていた。楽日だけはできる限り客を入れるという方針と、以前聞いたことがある。最後列で通路ぎわの席だったため、後ろにずらっと当日券組。「前のお客さんには触らないように!」案内係のヒステリックな声。それを聞いて、正規の席のわたしがかえって萎縮。いや、いや、案内係も大変そうだ。

 物語。ちょっと錯綜した話で書きづらし。要点だけ。腰の辺りから互いの体がつながっているシャムの双子。醜くかしこいシュラ、美しく頭の弱いマリア。マリアは何も知らない天使のような少女。シュラは、マリアとつながっていることで自分が不幸になっていると思う。
 両親に乞われ、彼女たちのもとにやって来た家庭教師。双子を自分たちの世界へ連れ去ろうとする異形の精霊たち。
つ ながった双子は1/2と1/2、「 1/2 + 1/2 = 2/4 」という老数学者の螺旋方程式の解を求めながら、それぞれの思惑が行き交う。
 双子は次第に衰弱し、互いを切り離す手術を受けなければいけなくなる。しかし生き残るのはただ一人。シュラ、マリア、生き残ったのは─?

とまあ、ざっと書くとこんなような。

 装置は、開場の時から役者が舞台上でアップしていたりと、コクーンの稽古場をそのまま再現。T「半神」の稽古Uをしている風景から始まる。「鷲尾さん、背中、柱につけないで」とか、野田さんの指導入ったり。かと思うと、いつからか「半神」の世界に切り替わり、かと思うとまた稽古場に戻ったり。パラレルワールド。

 螺旋方程式をはじめとした言葉遊びもしかり。1つの言葉からどんどんイメージが拡散し、再び1つの言葉に戻るような。こういう遊びは大好きだ。子供の時やったよなー。

 ともあれ、野田さんの芝居は言葉をきっかけに、どんどん世界が脹らんでいく。それゆえ役者もスピーディ、ダイナミック。一度見ただけでは、あれよあれよと終わってしまうなり。そういえば、9年前も言葉に圧倒されたり、動きに圧倒されたり、ほえーと見ているうちに終わってしまって。内容すっかり忘れていたくらい。つまり、見るべきポイントが多いと言うこと。役者に的を絞ったり、言葉遊びを堪能したり、焦点を絞って何度も見てみたくなる芝居の作り。うまいなあ。

 役者。シュラ・深津絵里、マリア・加藤貴子、どちらも美しい。特に声。澄んでいて、良く通る声。つながっている衣装でくっついたり、離れたり。「半神」アイディア賞はやっぱり双子の衣装。ふたりのチームワークの良さに双子を感じる。
他の気鋭の役者たちが双子の引き立て役に徹していると思えるくらい、この二人は良かった。深津絵里の罵詈雑言、これがまた。
 精霊では、右近健一。「風呂太郎」のお尻丸出し、ずるくて楽しい。山下裕子・明星真由美、双子の叔母、右子左子。威勢の良さが気持ちよし。父・母とビデオカメラに向かっての不幸自慢、大笑い。
 野田さん。本当に良く動く。老数学者と実の孫の家庭教師勝村政信とのかけあいでの、ボケっぷりが良かった。

 とはいえ、どの役者もキラリ。さすが、さすがと感心しきり。他の舞台を踏んでいるところが見たいと思う人ばかりでした。