NEW LOST RAMBLERS


 ■ NEW LOST RAMBLERS

  2005年3月22日(火)


George Pegram & Walter 'Red' Perham 『Pickin' and Blowin'』

ジョージ・ペグラム&ウォルター・パーハム 『ピッキン&ブロウイン』

Pヴァイン / Riverside PCD-5225


 
曲目
Pickin' and Blowin' 01. Old Rattler
02. The Wreck Of The Old 97
03. Lost John
04. Georgia Buck
05. Cackling Hen
06. Sourwood Mountain
07. Wildwood Flower
08. Down In The Valley
09. Fly Around My Pretty Little Miss
10. Roll On Buddy
11. Old Joe Clark
12. Downfall Of Paris
13. Will The Circle Be Unbroken
14. Listen To The Mocking Bird
15. Johnson's Old Grey Mule
16. Checken Reel
17. Turkeys In The Straw
18. Foggy Mountain Top

 ジョージ・ペグラムはオールド・タイム系のバンジョー名手。ウォルター・パーハムは「マウスハープ」とも呼ばれるハーモニカの達人だ。伝説的なトラディショナル歌手バスコム・ラマー・ランスフォード主催の“マウンテン・フォーク・ミュージック&ダンス・フェスティバル”(北カロライナ州アッシュヴィルで行なわれている)の常連だったペグラム&パーハムは、フォーク・レコードに早くから理解を示したリヴァーサイド社に、前代未聞のバンジョー&ハーモニカによる火花を散らすバトル録音を遺してくれた。一般的にオールド・タイム系でのバンジョー奏者の相手は、フィドル(ヴァイオリン)か、ギターが務めることが多い。本作品での二人は、こうした常識を打破っての共演。恐らく今日でもバンジョーの相手をハーモニカ奏者が努める、という型はめったに見られないものだろう。
  アルバム制作者ケネス・S・ゴールドステインは50年代半ば、バスコムが主催するフォーク・フェスティヴァルで強烈な個性を放つ素晴らしいオールド・タイマーがステージで大暴れしている、という風の便りの噂話を聞きつけ、直ちにポータブル・テープ・レコーダーを肩にかけ、ニューヨークから北カロライナへ向かったという。異色のコンビのステージに大感激、早速サウス・ターキィ・クリークのバスコム・ラマー・ランスフォードの自宅で、二人の共演をテープに収めたという。録音時は1957年8月のことだった。こうして実現されたのが、リヴァーサイドからアナログ30cmアルバムとして発売された『Pickin' and Blowin'』だった。本作品はこのスーパー・レアなアナログ盤の世界初CD化である。
 アパラチアン地方は、フィドルとバンジョー音楽の宝庫といわれている。前者はアイルランド移民たちが持ち込んだ楽器といわれており、ジグやリールといったダンス・ミュージックのフィドリングが盛んに流行ったという。後者のバンジョーは、アフリカ系黒人たちがアメリカに持ち込んだ楽器といわれており、古くは黒人たちのジャグ・バンドに使われ、顔を黒く塗った白人たちによるミンストレル・ショウにも使用していたというのだ。いつの間にか南部アパラチアン地方の人々に愛され、独自の奏法が多く生まれた。
 ジョージ・ペグラムは北カロライナ、ユニオン・グローヴ出身。‘ダブル・サミング’と呼ばれるバンジョー奏法を得意としていた。この奏法は2本の指で弾くもので、ギターのツウ・フィンガー・スタイルに近い。ケンタッキー生まれのホットなアコースティック・ミュージック‘ブルーグラス’の花形奏法のルーツとも捉えられているアール・スクラッグスが完成させたブルーグラス・バンジョー奏法‘スクラッグス・ピッキング’は、3本の指によるもので、そのルーツが本作品で漂い、その素晴らしさが味わえる。
 パーハムは地元では、ウォルター‘レッド’パーハムと呼ばれたという。恐らく彼のハーモニカ奏法が、火を噴くような芸風なのでこの異名を取ったに違いない。フィドル・リックを応用した迫真プレイは、まさに目を見張らされる。30〜40年代に活躍したフィンガー・ピッキングのギター奏法、サム・マギーも時折ステージでハーモニカを吹くが、そのプレイは残念ながらレッド・パーハムにも及ばなかった。黒人ブルースマン、サニー・テリーのハーモニカを連想することもできる。興味深いことにウォルター・パーハムとサニーは共に北カロライナ州出身。きっと何らかの繋がりがあったに違いない。余談だがサニー・テリーのハーモニカはフィドル・リック応用が多いという事実にも関わらず、こうした指摘をブルース研究家たちがしていないのは残念だ。ハーモニカは戦前から南部ブラック&ホワイトのコモンストック(共有文化)だったという点は見逃す手はないだろう。バンジョーもしかりだ。20〜30年代に活躍した白人スライド・ギターの先駆者フランク・ハチスンもハーモニカが上手だった。50年代のヒルビリー・バップ・シーンで大活躍のウェイン・レイニーは、デルモア・ブラザースとのキング録音で黒人プレイヤーに勝るとも劣らないブルース・ハーモニカを披露してくれたことも忘れてはいけない事実だと思う。

01. Old Rattler
 やや荒削りなペグラムのヴォーカルが、アルバム全体にアメリカ地方文化の味わい深い雰囲気作りを漂わしてくれる。この曲は黒人たちに伝わるチェイン・ギャング・ソングだという。50年代カントリー歌手のグランパ・ジョーンズのヒット作としてもお馴染み。
02. The Wreck Of The Old 97
 カントリーの大御所ロイ・エイカフのヒット曲としても広く知られる曲だ。ヴァージニア州モンロー〜スペンサー間を突っ走る機関車を歌ったもので、アメリカン・フォーク・シーンでは「トレイン・ソング」と呼ばれている。ルーツは「The Ship That Never Returned」という古い曲らしい。
03. Lost John
 ウォルター‘レッド’パーハムの文字どおり熱いハーモニカ・プレイを徹底的にフィーチャーした作品。ルイジアナ州のチェイン・ギャングたちに伝わる曲だったという。余談だが、この曲はアメリカ南部黒人・白人ハーモニカ奏者たちの定番で、前出のサニー・テリーウェイン・レイニーなどの素晴らしい録音も残っている。こうしたバンジョー&ハーモニカのインストゥルメンタルは、フォーク史上でも珍しい作品といえそうだ。
04. Georgia Buck
 ジョージ・ペグラムのワイルドなヴォーカルがたまらない作品。もちろんバンジョーも捨て難い。アパラチアンに古くから伝承されている「Old Reuben , And Keep My Skillet And Greasy」という曲を巧みに散りばめた曲だ。
05. Cackling Hen
 レッド・パーハムのアグレッシヴなハーモニカが聴きどころ。驚異のインストゥルメンタル。ニワトリの鳴き声を模写するハーモニカ・プレイが聴きどころだろう。バーンダンス・ショウ(納屋でのダンス・パーティ)には欠かせないレパートリィだったとか・・・。
06. Sourwood Mountain
 スクウェア・ダンスによく用いられるブレイクダウン曲。つまりダンス用のインスト。といっても、ここではペグラムの歌入り。ブルーグラス・シーンではフィドルをフィーチャーする速弾き曲としても知られている。
07. Wildwood Flower
 お馴染みザ・カーター・ファミリーが十八番とした曲。ペグラムの豪快なダブル・サミング・バンジョーを前面に押し出した作品。この曲のルーツは、東海岸の上流階級で19世紀に栄えた「パーラー・ミュージック」だという。余談だが、センスの良いギターを得意とした戦前黒人ブルースマン、ロバート・ジョンソンも、パーラー・ミュージックの影響があった、と最近指摘されている。
08. Down In The Valley
 わが国で最もよく知られたアメリカン・フォークだろう。トレイン・ソングの一種ともいわれている。朴訥としたペグラムのヴォーカルが印象的な作品。
09. Fly Around My Pretty Little Miss
 レッド・バーハムのヴォーカルが味わえる作品。アメリカ南部の子供たちに伝わるプレイ・パーティ(遊戯)・ソングだという。ルーツは「Pretty Little Pink And Shady Grove」だという。ジョージのハーモニー・コーラスが南部風情のうた心を漂わせている。
10. Roll On Buddy
 オリジナル・アナログ盤ではB面冒頭曲に当たる曲だ。ブルーグラスの創始者ビル・モンロー、ギャロッピング・ギターのパイオニア、マール・トラヴィス録音でも広く知られている。古くから伝承されてきた「Mole In The Ground And Honey , Where You Been , So Long」と深い関係がある、といわれている。
11. Old Joe Clark
 バーンダンス・ショウを沸かせたバンジョー・ソングとして有名な曲だ。プレイ・パーティ・ソングだった、とも指摘されている。一般的にはインストゥルメンタルとして取り挙げられることが多い。60年代フォーク・リヴァイヴァルでは、ピート・シーガーが十八番としていた。
12. Downfall Of Paris
 アイリッシュのフィドル・チューンがルーツのこのトラックは、レッド・パーハムの渾身ハーモニカ・プレイをフィーチャーしたインストゥルメンタル。
13. Will The Circle Be Unbroken
 わが国でのタイトルは「永遠の絆」カーター・ファミリーの古い録音でもお馴染みだろう。ヒルビリーと呼ばれていた頃のカントリー・バンドは、その殆どがアパラチアン地方出身のアマチュア・フォーク出身だった。ということでヒット曲には、トラディショナル・ソングが多く見られた。
14. Listen To The Mocking Bird
 ルーツはパーラー・ミュージック(ボストンのティー・パーティが有名)で、1855年頃の流行り歌だったといわれている。いつの間にかアパラチアンのフィドル弾きたちが十八番とするようになる。レッド・パーハムのハーモニカをフィーチャーしたインスト。
15. Johnson’s Old Grey Mule
 古くから歌われてきたバンジョー・ソング。黒人と白人たちに伝わる曲で「ジョン・ヘンリー」のようにコモンストックとして有名。
16. Checken Reel
 アイルランドに伝わるフィドル・チューン。南部各地で行なわれるフォーク・フェスティヴァルでは、その年のフィドル奏者ナンバーワンをコンテストすることが多い。本作はその課題曲となることが多い。レッド・パーハムの迫真ハーモニカ・プレイが聴きどころのインスト。
17. Turkeys In The Straw
 ミンストレル・ショウでよく歌われたコミック・ソング「Old Zip Coon」がルーツだという。ここではペグラムのヴォーカル入りのトラックだが、本来はスクウェア・ダンスに用いられるフィドル・チューンとして有名。
18. Foggy Mountain Top
 オザーク地方に伝わる古謡。カーター・ファミリー録音も広く知られている。リード・ヴォーカルは、レッド・パーハム。最近では「Rocky Mountain Top」というタイトルでも歌われているようだ。
(1992年 / 2005年3月加筆)



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