NEW LOST RAMBLERS


 ■ NEW LOST RAMBLERS

  2004年6月3日(木)


Three Sisters 『Peggy Seeger with Barbara & Penny Seeger』

スリー・シスターズ / ペギー・シーガー・ウィズ・バーバラ&ペニー・シーガー

Pヴァイン / プレスティッジ PCD-5147


 
曲目
Three Sisters 01. Keokeokolo
02. I'm Troubled
03. I Truly Understand
04. It's A Lie
05. Newlyn Town
06. Billy Barlow
07. My Good Old Man
08. Medley Of Lullabies
09. Little Black Train
10. Henry Lee
11. People Go Mind Your Business
12. The Old Man And Her Little Pig
13. Green Valley
14. Rissolty Rossolty
15. Five Nights Drunk
16. Medley Of Play-Party Songs

  英国やアメリカで50年代中盤から初頭にかけて大きく花咲いたフォーク・リヴァイヴァルは、忘れられない歌手が多く存在した。ウディ・ガスリーランブリング・ジャック・エリオットボブ・ディランジョーン・バエズなどは、わが国でお馴染みのフォーク・ヒーロー&ヒロイン。これらのミュージシャンは、邦盤がリリースされてたが、こうしたチャンスに恵まれない歌手も存在した。女性トラッド歌手のペギー・シーガーはそのひとりで、忘れられない存在だった。
 本盤は、英国とアメリカのフォーク・リヴァイヴァルの橋渡しをしたバンジョー弾き語りのペギー・シーガーと妹たちによるプレシティッジ盤の世界初CD化。60年代フォーク・シーンを語る上で重要な鍵を握るペギーは、1935年6月17日生まれ。母の名は、ルース・クロウフォード。ピアノ教師をしながら一家を支えたという。父親チャールズ・シーガーは、アラン・ロウマックス親子のようにフォーク研究家だった。シーガー家は、フォーク歌手をたくさん輩出したことでも広く知られている。この家族の長男は、ご存知ピート・シーガーウディレッドベリーなどのうた声、生き方に共鳴して大学をやめてフォーク歌手となった人物。アパラチアン・トラッドに深い愛情を示し、バンジョーという楽器を都会の若者に広めたことでも有名。
 ペギーの二番目に当たる兄が、マイク・シーガー。フォーク・ブームを促進したオールド・タイム・ストリング・バンド「ニュー・ロスト・シティ・ランブラーズ」のリーダーを務めた男だ。マンドリン、バンジョー、ギターの名手。余談だが、かのライ・クーダーボブ・ディランは、ニュー・ロストの熱心なファンだった。シーガー家にはまだまだ優れたフォーク歌手がいた。本盤に登場するバーバラ、ペニー・シーガーだ。ふたりは、ペギーの可愛い妹さん。両親の影響で、子供たちはアメリカン・フォークが大好きだった。少なからずアメリカン・フォークの歴史を紐解くときには、シーガー・ファミリーの存在を抜きには語ることはできないようだ。
  ペギーは、マーガレット・シーガーという名を使うこともある。彼女は母の影響でまずピアノを習ったようだ。7歳からレッスンに励み、10歳の頃にはふたりの兄の影響でバンジョー、ギター、オートハープを手にしたという。こうした背景からバンジョーに特別の興味を示し、兄ピートマイクから手ほどきを受けて、みるみる上達していった。いつの間にか兄たちを凌ぐ腕になった。得意技は、ララバイ・バンジョー。トゥ・フィンガー&フレイリング奏法も男勝りだった。ペギーは、ニューヨーク・フォーク・シーンでバンジョーの腕前が高く評価され、教則本を出版したこともあった。
 20歳になったペギーは、オランダの大学に入学、ロシア史や民俗音楽を勉強した。また休暇をとってヨーロッパ各国を旅行、特に英国がお気に入りとなり、住むようになってしまった。夫イワン・マッコールとは1955年頃にロンドンで知り合い、恋に落ちて結婚したという。イワンは、アイリッシュ・バラッド、英国バラッドをうたう歌手でも知られている。50年代後半、イワンペギーは、「ザ・ランブラーズ」というフォーク・グループを組み、ラジオ・TVと活躍した。
 1957年、BBCラジオはふたりの協力で英米に伝わる共通のバラッドを掘り下げる番組を制作、英国フォーク・リヴァイヴァルの下地を作ることとなった。この頃、アメリカン・フォーク研究家のアラン・ロウマックスは、しばしば英国を訪ねてイワン&ペギーの協力を仰いでBBCラジオとTVでフォーク番組制作に没頭したようだ。アランは、ガイ・カラワンというバンジョー名手のフォーク歌手をアシスタントに起用していた。
  アランは英国IMIレコードからフォーク・ミュージック・シリーズの企画を持ちかけられ、数枚のアルバム制作に着手した。そのなかの1枚には、若き日のペギーガイのフォーク・デュオ作品が含まれていた。アランは英国で新しいアシスタントを雇ったこともある。かのウィズ・ジョーンズの盟友、ピーター・ケネディだった。イワン&ペギー夫妻は、多くのアメリカン・フォーク歌手を英国で面倒をみたこともあった。
 ペギーにも勝るとも劣らない女性バンジョー奏者、ヘディ・ウェスト、ニュー・ロストを退団して英国に住み込んだトム・ペイリーなどは、イアン&ペギーにかなりお世話になったとか・・・。この流れから生まれたのが、ペギー&トムのトピック録音。珠玉のフォーク・アルバムとして有名だ。その評判はアメリカに伝わり、この名盤はエレクトラから発売された。
  イワン&ペギーは、TVフォーク番組のパイオニアとしても広く知られている。ふたりがプロデュースした番組は、「In Prison」「Night In The City」「The Way WeLive」「Keeping Their End Up」などは、英国フォーク・リヴァイヴァルの活性を促したといわれている。またふたりの英米トラッドを比較しながらうたうアーゴ・アルバムは、世界的に高い評価を受けている。では収録曲に触れてみよう。その前にここに登場する3人姉妹の持ち楽器を紹介しておこう。ペギーはバンジョー、ギター、オートハープ。バーバラはオートハープ。ペニーはギター。

01. Keokeokolo
 兄マイクから教わったアフリカ民謡だというのだ。3人のコーラスが可愛い作品。ペギーのトゥ・フィンガー・バンジョーも聴きどころ。
02. I'm Troubled
 アラン・ロウマックスが採譜したものを取り上げたという。今度はペギーのギター弾き語り。
03. I Truly Understand
 早くもアルバム前半のハイライトだ。ペギーな小気味よいフレイリング・バンジョー。シーガー・ファミリーのアット・ホームな雰囲気が漂うトラック。それもそれ、3人のコーラスに父チャールズ・シーガーが参加。
04. It's A Lie
 アパラチアン山岳地方に伝わるバラッド。バスコム・ラマー・ランスフォードでお馴染み「The Derby Ram」の別ヴァージョンで船乗りのうただという。
05. Newlyn Town
 ペギーのバンジョーが素晴らしく、口笛入りという微笑ましい録音。なんだかこうした清楚なうた声を聴くと、こころが洗われるようだ。
06. Billy Barlow
 英国で古くからうたわれてきたという。3人の可愛いコーラスに注目。
07. My Good Old Man
 英国に伝わるプレイ・パーティ・ソング(子供たちの遊戯うた)。ペギーの華麗なフレイリング・バンジョーが」聴きどころ。
08. Medley Of Lullabies
 ペギーがギターを手にして、英米に伝わるララバイ(子守うた)を朗々とうたってくれる。
09. Little Black Train
 ケンタッキーに伝わる伝承歌。見事といか言いようのない3人のチームワーク。
10. Henry Lee
 チャイルド・バラッド♯68「Young Hunting」として広く英国で知られている古謡。ペギーのギター弾き語り。
11. People Go Mind Your Business
 ここでも兄マイクから学んだアフリカのフォークを取り上げている。トゥ・フィンガー・ギターが味わえる。おそらくシーガー・ファミリーのお手伝いさんで、ギター名手のエリザベス・コットンに学んだのだろう。
12. The Old Man And Her Little Pig
 ペギーの見事なバンジョーがやはり目を引く。コミック・ソングのように聴こえる。
13. Green Valley
 マイナー調の美しいアメリカン・バラッド。ペギーはギターを。
14. Rissolty Rossolty
 チャイルド・バラッド♯277「The Wite Wrap In Weather's Skin」の流れを汲むものだというのだ。3人姉妹の息のあったハーモニーが素晴らしい。
15. Five Nights Drunk
 チャイルド・バラッド♯274「Our Goodman」のアメリカン・ヴァージョンだという。ペギーのバンジョー、妹ペニーの愛くるしいヴォーカルが印象的。
16. Medley Of Play-Party Songs
 アルバム・ラストは、ペギーの素晴らしいバンジョー弾き語りがたっぷりと味わえる作品。英米に伝わる子供のうたを微笑ましくメドレーでうたってくれる。
(1997年3月 / 2004年5月加筆)



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