■ NEW LOST RAMBLERS |
■ 2003年12月18日(木) |
The Songs Of JIMMIE RODGERS A Tribute (SRCS8240) |
曲目 | |
01. Bono / Dreaming With Tears In My Eyes 02. Alison Krauss and Union Station / Any Old Time 03. Dickey Betts / Waiting For A Train 04. Mary Chapin Carpenters / Somewhere Down Below The Mason Dixon Line 05. David Ball / Miss The Mississippi And You 06. Bob Dylan / My Blue Eyed Jane 07. Willie Nelson / Peach Pickin' Time Down In Georgia 08. Steve Earle & The V-Roys / In The Jailhouse Now 09. Jerry Garcia, David Grisman & John Kahn / Blue Yodel #9 10. Iris DeMent / Hobo Bill's Last Ride 11. John Mellencamp / Gambling Bar Room Blues 12. Van Morrison / Mule Skinner Blues 13. Aaron Neville / Why Should I Be Lonely 14. Dwight Yoakam / T For Texas |
ボブ・ディランがアメリカン・ミュージックへの新たなる想いを走らせるレーベルと噂される<エジプシャン>。ディラン主宰のこの会社からやっとジミー・ロジャースのトリビュート盤が発売された。一昨年から噂された企画盤で、ディランの綜合プロデュースとも捉えられる制作はどうやら96年に終わっていたらしい。発売が延期されたワケは、"カントリーの父"と異名を取った故ジミー・ロジャースの誕生に関わっていた。 |
ジミーは1897年9月8日、ミシシッピ州メリディアン生れだという。つまり1997年9月8日は、生誕100年を迎える。恐らくこれに合わせての発売延期だったのだろう。アメリカン・ミュージックに輝かしい足跡を残し、カントリーの先駆者という評価だけに終わらず、ポピュラー・ミュージック・シーンを切り拓いた歌手としても高い評価を受けているジミー・ロジャースは、20年代後半から30年代初期と大活躍したが惜しくも1933年5月26日、結核にかかり35歳という若さで、この世を去ってしまった。何故か我が国では余り多くを語られないジミー・ロジャースだが、ロック&カントリー・シーンでの大物たちによるカヴァー集発売で、評価される日も近いだろう。 |
少しばかりジミーの歴史について触れておこう。彼が脚光を浴びた時代は、レコード文化がSP全盛、つまり78回転盤表裏2曲収録という型のものだった。ヴィクター、ブルーバードからジミー盤は多く発売され、30年代の南部一般発売では「ジミーの新譜を買ったかい?」という会話が挨拶代わりだったといわれている。その人気がやがて全米に飛び火して、一躍大スターの座を獲得してしまう。 |
ジミーが生れ育ったメリディアンは、全米に網をめぐらす鉄道線の7つが交差する土地だったという。幼少の頃からプロ歌手になる夢を持っていたジミーは、こうした土地育ちで鉄道員として10年余り働きながら、チャンス到来を伺っていたらしい。ラルフ・ピアというプロデューサーが、ブリストルという町でヴィクター社のためのニュー・タレント・オーディションを行う、という噂を聞きとりあえず応募をする。そしてカーター・ファミリーと共に見事に合格。プロ歌手としてデビューを飾った。1927年の初録音は「The Soldier's Sweetheart / Sleep Baby Sleep」の2曲。以降33年のラスト・レコーディングまで110曲余りをヴィクター盤に刻んでいる。 |
今日、ジミー作品に再びスポットが当てられているのは、アメリカン・ポップスの先駆者としての色濃い録音がかなりのインパクトを未だに持ち続けていることだろう。彼の看板は"ブルー・ヨーデル"と呼ばれる愛くるしい裏声。淡い恋愛や、アメリカ人なら誰しもが抱く放浪を題材とした歌づくり。シンガー・ソングライターのルーツマンの資質を持っていた。大甘な歌づくりは、ジェイムス・テイラーにも通じるようだ。何よりも重要なのは、やがて到来するアメリカン・ポップス黄金時代を先取りしたサウンド作りだった。オーケストラ、ハワイアン・バンド、ニューオーリンズ風ジャズ・バンドとの共演、黒人ジャグ・バンドを大胆に起用しての録音、ルイ・アームストロング(有名な黒人トランペッター)との共演も残している。つまりジミーという人物はヒルビリー(20〜30年代のカントリーはこう呼ばれていた)という峡を大きく飛び越えたフレキシブルな感性が素晴らしかったという。こうした点でアメリカン・ポップスの元祖的人物と指摘されているのだ。ボブ・ディランがジミー・ロジャース作品を賞賛するのは、ここら辺りがポイントだろう。 |
01. Dreaming With Tears In My Eyes U2のボノが切々と歌うアルバム冒頭を飾るに相応しいジミーの名曲カヴァー。アイルランド・ダブリンで結成されたU2のメンバーが、ひたむきな姿勢でジミー作品をトリビュートするとは感動的だ。オリジナル録音は1933年5月17日。ジミーの弾き語りのワルツで、ブルーバード7600で発売。 |
02. Any Old Time 新進気鋭の女性ブルーグラッサー、アリスン・クラウスによるカヴァー。この曲は、マリア・マルダー(リプリーズ録音)の妖しいヴォーカルで70年代話題となったこともある。オリジナル録音は1929年2月21日。ジミー作品はオーケストラを配したものだった。ヴィクター22488として発売されていた。 |
03. Waiting For A Train サザン・ロックの雄、ディッキー・ベッツによるナイス・カヴァー。いきなりのブルー・ヨーデルが微笑ましいものだ。オリジナル録音は1928年10月22日。ヴィクター40014として発売。ラップ・スティール・ギターとディキシーランド風コロネット、クラリネットが絡む作品で、ディッキーの録音はかなりオリジナルを意識したといえそうだ。 |
04. Somewhere Down Below The Mason Dixon Line 90年代を突っ走るカントリー系シンガー・ソングライター、メアリー・チェイピン・カーペンターによるカヴァー。ジミー・ロジャースが死を直前にした録音として有名な作品。彼のラスト・レコーディングで、1933年5月24日にニューヨークで録音された。オリジナルはアコースティック・セット。ヴィクター社製SP盤23816として発売された。 |
05. Miss The Mississippi And You アメリカで売り出し中のカントリー系歌手デヴィッド・ボールによるカヴァー。ジミーのオリジナル録音は、1932年8月29日。フィドル(ヴァイオリン)、クラリネット、ピアノを配してのものだった。デヴィッドもその辺りを意識してか、ブルーグラス系のトップ・ミュージシャン、ジェリー・ダグラス(ドブロ)、ハンク・シンガー(フィドル)、ピグ・ロビンス(ピアノ)を起用しての録音だ。オリジナルSP盤はヴィクター23736として発売された。余談だが、70年代にこの曲はアーロ・ガスリー(リプリーズ盤)によってカヴァーされ、ロック・シーンで広く知られるようになった。その時のバック・ミュージシャンは、かのライ・クーダーが務めていた。 |
06. My Blue Eyed Jane 真打ちが登場だ。ボブ・ディランのカヴァー。どうやらバックメンは来日コンサートでお馴染みの人たちのようだ。ジミー・ロジャースのオリジナルは、1930年6月30日録音。珍しく西海岸ハリウッドで録られたという。ヴィクター23549として発売された。ジミー作品はブルー・ヨーデル入りの軽快なディキシーランド・ジャズ風録音。ボブ・ソウヤーズ・ジャズ・バンドというバンドとのセッションだった。ディラン・カヴァーはカントリー・ロック・テイスト満点の味わい深い録音。 |
07. Peach Pickin' Time Down In Georgia テキサスのカントリー・ロックを全米に知らしめた人物として有名なウィリー・ネルソンによるカヴァー。ジミー作品は1932年8月15日録音。一世を風靡した名フィドラー・バイロン・バーライン(ザ・バーズ、ザ・ローリング・ストーンズなどと共演)のゲストが嬉しい。オリジナルでのフィドルは、オールドタイムにその名を残す名手クレイトン・マクミチェン。バンジョーはオウディ・マクウィンダーズだった。ヴィクター23781として発売。 |
08. In The Jailhouse Now 90年代ニュー・カントリーのヒーロー、スティーヴ・アールのカヴァー。ギターの弾き語りだったのが、ジミーのオリジナル。ハリウッドで1930年7月12日に行われたという。ジョニー・キャッシュの出世カヴァー曲(サン録音)としても有名。ボブ・ディランのバックメン、バッキー・バクスター(ペダル・スティール)がセッション参加だ。 |
09. Blue Yodel #9 故ジェリー・ガルシアとマンドリン天才奏者デヴィッド・グリスマンによる印象的なカヴァー。ディラン録音と共に、本作品のハイライトだろう。ジミーのオリジナルにはルイ・アームストロングが共演していた。録音は1930年7月16日に行われたという。ヴィクター23580として発売。 |
10. Hobo Bill's Last Ride ジミーのオリジナルは1929年11月13日、ジョージアで行われた。ホーボー・ソングの代表作で、トレイン・ソングとしても捉えることができる。カヴァーはナッシュビル・カントリーの新人アイリス・デメント。フォーク・ロックのプロデューサーとして有名なジム・ルーニィが手掛けた録音。ヴィクターSP盤22421として発売されたのが、この曲のオリジナル・ソースだ。 |
11. Gambling Bar Room Blues ジョン・メレンキャンプによるカヴァー。アコースティック・セットでワイルドな録音だ。オリジナル録音は1932年8月16日。ヴィクター23766として発売。物悲しいフィドルとバンジョーが聞こえる作品で、別名「セイント・ジェイムス病院」としても広く知られるブルース。ボブ・ディランはこの曲のメロディーを借りて、「ブラインド・ウィリー・マクテル」を書いている。 |
12. Mule Skinner Blues 本作品で一番の聴き所といえるヴァン・モリスンのカヴァーだ。ブラック・フィール溢れる傑作で、この曲が見事に現代に甦ってくれた。オリジナル録音は1930年7月11日。ヴィクター23503として発売。「ブルー・ヨーデル#8」としても広く知られている。 |
13. Why Should I Be Lonely アーロン・ネヴィルのカヴァーも捨て難いものだ。ポップスに仕立てた素晴らしく魅力的なトラックだ。オリジナルはハワイアン・ラップ・スティール・ギターの名手ラニ・マッキンタイアとジミー・ロジャースの共演。録音は1930年6月30日。ヴィクター23609として発売。ジミー作品がポップス風味溢れるものだった、とアーロンは熱唱している。 |
14. T For Texas 初期ジミーの代表的作品、90年代型カントリーのヒーロー、ドワイト・ヨーカムのカヴァー。ギター弾き語りで行われた。無骨なカヴァーぶりがインパクトを呼ぶ。オリジナル録音は1927年11月30日。ヴィクター21142として発売、別名「ブルー・ヨーデル#1」としても広く知られている。本作品のCDレーベルは、オリジナル・ブルーバード・デザインを再現したもので、ジミー録音は20~30年代にヴィクター・レーベルからの発売だったが、40年代再びブルーバードでSP復刻され、死後でも人気者となったという。 |
(1997年9月) |
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