ANY OLD TIME IN AMERICA


 ■ ANY OLD TIME IN AMERICA


昭和洋楽アンソロジー

♯03 〜ポール・アンカのSP盤コレクション〜

ポール・アンカ
 1970年代の初め、SP(78回転盤)に凝ったことがあった。その切っ掛けは、古道具屋巡りだった。デザイン関係で生計を立てていて、ノスタルジックなポスター制作のため、それに似合う小物を探し、都内を歩き回ったことがあった。銀座4丁目から近い京橋に「古典屋」という古物商店があった。懐中時計や柱時計を物色中に、SPレコードの山(ヤマ)が目に飛び込んできた。
 時代はLPレコードが主力商品と生まれ変っていたが、レコード蒐集魂はまだまだ健在だった。さっそく掘ってみた。最初は歌謡曲が多く、洋楽にぶつからなかった。ひと山、ふた山と掘ったのだが、期待の日本発売洋楽SP盤は出てこなかった。諦めかかった矢先、何とエルヴィス・プレスリーのビクター盤が目の前に現れた。エルヴィスは、ドーナツ盤をかなり持っていたが、SPは1枚も持っていなかった。しかもピンサラ(新品同様)だった。これは買いだ!と直感した。購入したSPは、「忘れじのひと(I Forgot To Remember To Forgot)/ ミステリー・トレイン(Mystery Train)」だった。規格番号は日本ビクター、S-235だった。エルヴィスのサン録音の音源が日本盤化されていたとは驚きだった。
 高まる胸を押さえて、何とか六つの山を全て制覇した。エルヴィス以外の収穫は、日本キングから発売されたポール・アンカのABCパラマウント盤「ダイアナ(Diana) / 恋に賭けるな(Don't Gamble With Love)」、東芝から発売されていたキャピトル・カントリーのスター歌手、ハンク・トンプソン、テネシー・アーニー・フォード、マール・トラヴィスなどのSPだった。その後、宝の山を当てた興奮は、もう一度自宅で味わう羽目となった。
  家に帰り、電蓄でエルヴィスの「Mystery Train」に針を落とした瞬間、ドーナツ盤やLPとは違った音圧が耳に迫ってきた。まるで目の前でエルヴィスがうたっているようだった。音が太い。臨場感がある。これにはたまげた。SPをゲットした時と同じような興奮が再び体の中を流れた。30歳を迎えて40歳まで、SPコレクションがぼくの日常生活の中で重要な位置を占めるようになっていった。SPをないがしろにしてきた罰だった。中学後半から高校卒業まで、ラジオのヒット番組から流れるヒット曲をせっせとドーナツ盤(EP)で集めてきたが、ついついレコード革命といわれたドーナツ盤に溺れ、SPを購入しなくなってしまった。これが拙かった。
 エルヴィスでSPに音のよさに気が付き、その後購入したポール・アンカのヒット作「ダイアナ」が収録されたSPで、完全に「78回転の世界」にのめりこんでしまった。高校時代に流行った「ダイアナ」は、ウクレレ弾き語りで楽しんだものだった。ニール・セダカの「オー・キャロル」と共に、ぼくの愛唱歌だった。リアル・タイムで買った「ダイアナ」は、ドーナツ盤だった。SPの姿がレコード店から消えてしまった頃だから仕方なかったともいえる。1958年(昭和33年)、ポール・アンカが来日。高校生だった。浅草の国際劇場でライヴが行われた。築地から地下鉄に乗って観にいった記憶がある。ぼくにとって初の来日ミュージシャン・ライヴ体験だった。想い出の「ダイアナ」をSPとドーナツ盤で聞き比べてみた。いうまでもなくSPが勝っていた。音圧感に圧倒されてしまう。
 こうした経緯からドーナツ盤でコレクションしていたアンカのレコードを再び集めるハメとなった。つまりダブってしまうのを覚悟で集め始めた。それも30歳を迎えてからのSP盤蒐集だった。それだけSPの存在感=音に魅了されてしまったというわけだ。ゲットしたアンカの日本盤SPを紹介しておこう。
 発売元は日本キング・レコード(原盤はいずれもABCパラマウント)

P-1 ダイアナ / Diana
      恋に賭けるな / Don't Gamble With Love

P-3 君はわが運命 / You Are My Destiny
      恋の落ちる日 / When I Stop Loving You

P-4 クレイジー・ラヴ / Crazy Love
      ロマンスの鐘は鳴る / Lets The Bell Keep Ringing

P-6 ピティ・ピティ / Pity Pity
      ウェイティング・フォー・ユー / Wating For You
 最近、1940年から42年生まれの歌手が、ロックの時代を築いたことに気が付いた。ザ・ビートルズのジョン・レノンは、1940年10月生まれ。大学時代のマイ・ヒーロー、ボブ・ディランは41年の5月生まれ。サイモン&ガーファンクルのサイモンは、同41年10月生まれ。ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンは、42年の6月生まれ。もちろんポール・アンカの生まれは、41年7月だった。これって単なる偶然ですかね?



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