六.船長とウソップとヘラクレス
  



「はぁ〜〜〜。ヒマだなぁ〜〜〜〜。」
そう言って息を吐いたルフィは、甲板に寝転んでのっぺりしている。
「いい気なもんよね〜。発作のことなんか覚えちゃいないんだから!!誰かさんのせいで船の修理に余計な時間とったっていうのに!!」

いつまでクスリの効果が続くかわからないルフィの監視役には、チョッパーの指示でゾロがついていた。
っつっても、そばで寝てるだけだからなー。いつもと変わらねぇよなー。
さっきから何分かおきに、ヒマだヒマだとゾロに話しかけているルフィは、返事が一向にないことに少しスネている。オレ様はでかい男だからな!しょうがねぇ、船長様のために、いっちょ腕をふるってやるか!!

「・・・よし。できたぞ。」

息をついてゴーグルを外すと、思わず声がもれた。ルフィの喜ぶ顔が目に浮かぶ。オレは、にひひ、と笑いながらルフィを呼ぶべく甲板へ向かった。

甲板ではいつの間にか移動した船首でまたも寝こけていたのか、ルフィが重ったるいまぶたで、ゾロに首根っこをつかまれている。いや、しかられている。その後ろにロビンのハナハナも見えて、周りのヤツがどんだけこの船長を気にかけてるのか伺える一面だ。分かってんのに自分が思うことを止めないってのは、まったく大物だぜ。

「ったく。てめぇは何回も同じこと言わすんじゃねぇ!!」
「んん。いや、ゾロ!!違うぞ!寝る気はなかったんだ!!それがだな、こう、くーーーーっと、気持ちよく!!」
「それが寝てんじゃねーーか!!」

この何日か結構繰り返された会話を聞きつつ、オレは船首に近づいた。

「ウソップ!!何だ!!?オレが絶対喜ぶものって!!」
「まぁまぁ。そんなにあせるなって。」
とりあえずオレはルフィたちを従えて倉庫に向かっている。

「ルフィ。お前が毎日ヒマだヒマだとゾロに愚痴ってるから、オレ様としても二人を助けるべく、この類まれなる頭脳を使った訳よ!!すっげぇぜ〜〜、今回のは。いやなに、もう自分の器用さに自分で見惚れるっつーか。姿・形はもちろんのこと、その中身の精密さと言ったら、かの有名なトー・・」
「なー、なんだ?ゾロも見にいくのか?」
  「・・しのぐほどの細やかさだ!!まぁ、このオレさ・」
「ああ、・・まぁ、ちょっとな。」
  「・・れば、ちょちょいのちょいだった・・」
「ししし。あ!!でも、ゾロは見るだけだぞ!!やんねぇからな!!」
  「・・とを呼びたきゃ呼んでいいぜ!!その名もキャプテーーーーー」
「・・いや、別にいらねぇけどよ。」
  「ウソップ!!!」
・・・・って、聞いてんのかよ!!お前らっ!!!
「もう、いいよ。早くそのすっげーヤツ見せてくれよーー。」

ったく、説明しがいのねぇヤツらだぜ。ブツブツいいながらもオレは倉庫のなかへと入った。

「おらっ!!これだーーーー!!!」

オレが取り出したのは、ねじ巻き式のヘラクレス。さっきも説明したとおり、姿・形はもちろんのこと、中身の精密さにもかなりの自信をもっておすすめできる一品だ。予想通りルフィは「うほーーーーっ」と目をきらきらさせて釘付けになった。

「すっげぇ!!ウソップ!!これ、どこでつかまえてきたんだ!!?」
「お前はホントに人の話を聞いてねーなー。つかまえたんじゃねぇっつーの。これはなぁ、ここを回すと・・・」

そう言って、ヘラクレスの後ろについているネジを回してやり床に置く。そうすると、ジーコジーコと音をならして前に進み始めた。

「ってな具合になる、オレ様の発明品だーーーーっ!!!」
「おおーーーーー!!!すんげぇっ!!すんげーーー!!!!・・お、止まった。どうやって前に進めりゃいんだ???」
「だから、お前はよ。・・いいかー。ここのケツんとこのネジまわすんだ、こうやってな。」

再度回して、床に置いてやる。

「おおおーーーーーっ!!!」

同じ音をたてて床を動くそれに、またも大げさなくらい感動をしているルフィに満足して、ここ数日間ルフィの相手をしていた(?)ゾロに声をかけた。

「これで、ちっとは静かになんだろ。」
「さぁ。どうだかな。」

半ばあきらめ口調か、ソロが口を開く。

「ここ回せばいいんだな?」
「ああ。オイ、ルフィ。いいか。くれぐれも言っておくが壊したりすんじゃねーぞ?」
「んん?おーこれ以上まわんねぇーぞ??こうか?」



ミシッ   バキッ!!!



「「「・・・・・・・・」」」



「ウソップー、これ歩かんくなったぞーー。」
「……っっ言ってるそばから壊してんじゃねぇーーーー!!!」

ビシィィイイとお馴染みのツッコミを入れて。
ああ、もう。こいつにヒマつぶしもなにもあったもんじゃねーなー。
オレは奪い取ったヘラクレスの腹を開けながらゾロに言う。

「悪ぃ、ゾロ!!やっぱ相手はお前にまかせた!!」

想像通りすぎたのか、肩を震わせ返事もできないゾロを、ルフィはきょとんと見ているのだった。