パンドラ
届け物 「何でも届けてくれるんだよなっ?」 「はい。私たちは、どんなものでも、きちんと相手様に届くまで努力をし続けます。それが必ず届ける便のモットーですっ!」 「じゃあ……頼むっ!俺のこの胸の奥にしまってある気持ちを、亜由美に届けてくれっ!」 「かしこまりましたっ!」 聞くや否や宅配便屋は勇んで外へ飛び出していった。 ……シャレのつもりで言ったんだんだけど……。 まさか本当に届けにいくとは思わなかった。ヤツはおそらく最近ここら辺に多いという「宅配便の押し売り」。爽やかすぎる笑顔と馬鹿みたいに脳天気な声がむかついて、ちょっとからかっただけだったのに。 ブタのマークの宅配便。聞いたことの無い会社。「必ず届ける便」だったかな。 やべぇ……、変なことになっちまったよ。馬鹿みたいに高い請求が来るんじゃねぇのか? ……いや、いや待てよ。俺は亜由美という名前しか言っていない、住所、電話番号なんかの情報も知らずにどうやって亜由美を探すんだよ。 多分冗談を冗談で返したんだろうな。 それで一応は納得すると俺は自室に戻る。 「……亜由美……。」 実は気持ちを胸の奥にしまってあるのは事実だったりする。 ……もう五年も片思いをやっている。ちょっと性格は悪いけど、そういうところも含めて好きだ。……そしてこの気持ちが言えてないのも事実。 俺とあいつはいわゆる友達。 中一からずっと……友達で……ずっと片思いの相手だ。 このままじゃ……いけないという気がする。でも……多分、この気持ちを伝えたらフラれるだろう。あいつは俺のことをそんな風には思っていないから。つきあいが長いせいで、そんなことまでわかっちまう。 フラれたら……友達でさえもいられなくなる。 そんなのは……イヤだ……。 ピーンポーン! 「毎度〜、必ず届ける便でーす♪」 チャイムとともに、脳天気な声。まさか……、いや、この馬鹿みたいに脳天気な声は間違いなくアイツだ。 「なんだよ、さっき来たばかりじゃ……。」 「失礼しマースッ!」 「なっ!?」 ドウッ。 鋭いパンチが俺の鳩尾にって……こ、こいつ!? もう考えてる場合じゃなくなった。気絶するってこういうことなんだなぁ……。 ***** で?どうしてこういうことになるんだ? 「大丈夫ぅ?いきなり倒れてるんだもん。びっくりしたよ。」 「ああ、全然大丈夫。」 気を失って目覚めたら亜由美がいた。……なんなんだよあの宅配便屋……。 ピルルピルルゥ。 亜由美に適当な言い訳をしているうちに、メール着信音。 「メール?」 「あ、ああ。」 誰だよこんな時に……。 ……差出人……「必ず届ける便」。 「いつの間にアドレス調べたんじゃーっ!」 「ど、どうしたの?」 「あ、いや……ちょ、ちょっとな。」 何だかよくわからんが、メールを読んでみる。 『お腹は大丈夫ですか?さっきはごめんなさい。テヘ。』 ……テヘじゃねぇよ。 『実は、あなたの気持ちは私では届けられないことに気がついたのです。』 あ?なんだよソレ?だからって俺を気絶させる理由には……。 『亜由美さんを好きだという気持ちは、あなた以外に届けられません。だから私にできることは、あなたが想いを届ける舞台つくることだけだったのです。』 ………………。 ……ツッコミどころはたくさんあった。……ワケがわからねぇ、ワケがわからねぇけど……悔しいほど事実だと思った。亜由美と俺以外誰もいない公園。確かに想いを届けるには丁度いいかもしれない……。 『後は貴方次第。届けられるときっと信じてます。』 なんか、よくわからねぇけど。この機会を逃したら俺、一生言えないんじゃないかと思った。 わけわかんないヤツにここまでお膳立てされても言えないようじゃ……俺……。 「あ、亜由美。俺さ……。」 「うん?」 ***** 帰り道。俺の心は清々しかった。 結果?保留だってさ。予想通り俺のことを友達としか思ってなくて、いきなりそんなこと言われてもわからないそうだ。でも、脈が無いワケじゃない。 ツッコミどころはたくさんあったけど、わけがわからなかったけど……。なんか良かった。感謝すべきなのかもしれない。あの宅配便屋に。 ……そう言えば、あのメール。まだ続きがあったような……。 『PS.届け終わったらポケットの中を見てください。』 ポケットの中? メールにあった通りポケットを調べると、一枚の紙切れが出てきた。 『あなたの想いはきっと届きましたよね?あなたならきちんと届けることができると信じ、少し乱暴な手段をとらせていただきました。申し訳ありません。』 少し?……いや、もうそこは何も言うまい。想いを届けることはできたんだから。 『ちなみに今回は初めてのご利用なので無料サービスです。』 はっ、粋じゃないか。少しだけ見直し…… 『尚、当方は届けることだけが目的ですので、結果がどうであろうと一切の責任は持ちません。フラれちゃっても怒らないでね♪』 いいプロ根性だなぁオイ。 ……でも、なんだかんだ言って感謝しとくよ。 だけどまた利用する気はない。次からはおまえに頼まなくても、自分の気持ちは自分で届けられる気がするからな。 |