パンドラ


そんなもんだろ

「なぁ〜。今日も疲れたなぁ。」
「ああ。明日も大変そうだ。」
「うへぇ……。気の滅入るようなこと言うなよ。」
「事実だろ?だから飲みになんて行かないからな。」
「なんで、誘おうとしたの、わかったんだよ?」
「つきあい長いからな。」
「はぁ……こんなこともう十年もやってるのかぁ。」
「ああ。長いよなぁ……。」
「こんなことやってて世界が救えるのか?」
「間違いなく世界は救えてるさ。」
「でもよ。いつまでたってもなくならねぇじゃん。」
「日々、増えてるからな。放っておけばそのうちコイツは世界食いつぶす。」
「無駄な努力じゃないのか?俺たちがいくら頑張ったところでいつかは……。」
「……そうかもしれない。」
「もうさ、いいんじゃないか。やめても。どうせ世界なんて救えないんだ。
 世界最後の日まで楽しく明るく過ごしちゃわないか?」
「……いいんじゃないか。やめちまえば。オレは続ける。」
「………………。」
「他の生き方を見つけられるならそれもいいさ。オレには無理そうだ。
 俺はこのためだけに……世界を救うために生きてきた。」
「……まったく。嫌なヤツだなおまえは。俺が辞められないのを知ってて言ってるな。」
「子供がいるおまえがこの仕事を辞められるはずはないさ。」
「ふん……。」
「……嫌でも、辛くても、やめられないんだよな。どうせ。」
「そんなもんなんじゃないのか?人生って。」
「明日がなくても明日のために……ってヤツかな。」
「プロポーズもそんなクサいセリフだったよな。確か。」
「なっ、テメ。」
「ははははは!じゃ、また明日な。」
「おう。世界を救うためにな。」

*****


「おかえりなさいあなた。」
「おう。今帰った。」
「あーパパおかえりぃ……。」
「おう、まだ起きてたか。」
「………………。」
「どうしたんだ?」
「パパ臭いっ!」
「……………………。」
「しょうがないでしょう、パパはゴミ処理場で働いてるんだから……。」
「でも臭いっ!臭いっ!うわぁあああああん。」
「…………………………。」
「ああ……もう。ごめんねあなた。さっさとお風呂入っちゃって……。」
「……あ、ああ……。」
「臭いよぉ臭いよぉ……。」
「……友よ……。仕事……辞めてもいいかな……。」
「あー、あなた。」
「ん?」
「あなたの洗濯物は専用の蓋付き汚れ物入れに入れてね。臭うから……。」
「……………………友よ……。」


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