パンドラ


知ってるかい?

つまらない。人生つまらない。
学校も、家も、テレビもつまらない。
きっとこれからもつまらないんだろう。

何のために生きてるんだろう。
生きていて意味なんかあるんだろうか?

いつもの帰り道。
いつもの橋の上を私は歩く。

その日、川は昨日の雨で増水していた。
うねりながら暴れている。

そう言えば私は泳げない。
飛び降りたら死んじゃうだろう。

いっそ死んじゃうか。つまんないし。
終わらせちゃおうかな。人生。

私はよいしょと、一メートルほどの高さの欄干に足をかけた。
「おいおいおい。そりゃないだろ。」
すると若いお兄さんに声をかけられる。
結構いい男だった。
「邪魔しないでよ。」
あっけなく、簡単に死ねるものだと思ったけど、
思わぬ邪魔が入ってしまった。
面倒くさいことになりそうだ。
「おまえな。人が死ぬのがどういうことか知ってるか?」
「そんなの知らないわよ。」
興味もない。
「じゃ、教えてやるよ。」
お兄さんは、そう言ったかと思うと、
欄干を飛び越え、颯爽と飛び降りた。

私は腰を抜かした。
今話していたお兄さんが川から飛び降りた。

お兄さんの身体が宙に舞って……
バシャンと大きな音が鳴って……
水しぶきが上がって……
増水した川に飲み込まれて……
そして……
川のうねりに飲み込まれ、見えなくなった。

あれじゃもう助からない。
死んじゃう……。
……死んじゃう……死んじゃう……死んじゃう。

ガチガチという音が聞こえた。
私の歯と歯がぶつかり合う音だった。
震えていた。全身が震えていた。

怖い。

……私は川に飛び降りれなくなっていた。


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