パンドラ


老成

「『枯れ木に花を咲かせましょう。』
 おじいさんが灰をまくとあら不思議。
 つぼみさえ付いていない桜の木が、
 あっという間に咲き乱れるではありませんか。」
「どうしてそんなことするんだろうね?」
「え?」
「いや……さ。
 春になったら桜は咲くでしょう?
 それなのになぜ枯れ木に花を咲かせようとするんだろうねってさ。
 そりゃあ桜はキレイだよ。いつでも見たいと思うよ。
 でもさ。春だから見られるって言うのも桜の価値だと思うんだ。
 それにさ。桜だって辛いと思うよ。
 本来咲かない季節に、無理やり咲かせられるんだからさ。」
「そ、そうね……。」
「……確かにキレイかもしれないけどさ。
 季節外れの満開の桜って少し怖いと思わない?
 凍えるような風が吹く季節。
 枯れ木ばかりの街路樹の中で、
 人の欲望が作り出した魔法の灰で咲き乱れる桜。
 寒い中で無理に花を咲かせて……、
 植物は何も言えないけど、きっと言葉が喋れたら言うよ。
 『苦しいよ。苦しいよ。』って。」
「そう……、そうかもしれないわね。で、でもね……。」
「何?」
「幼稚園ではそういうこと言わない方がいいわよ。ノリ君。」
「わかってるよ。ママ。」
「…………。」
「さ、続きを読んでよ。」
「え、ええ……。えーと……。」


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