Not Friends
第6話 蠢く世界
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帝国歴1年6月3日 ビガー海 サガ同盟戦闘潜水母艦「シーサーペント」内 ニックは震える体を抑えつけるように自分の体をグッと抱きしめる。 「あんだおまえ? 怖いのか?」 それを見ていたメカニックのライが、ニックをからかうように言った。 二人はサガ同盟に所属する二十代前半の若い男。彼らは幼い頃からの友人であった。 ニックは小型戦闘潜水艇『アリエス』のパイロットとして、ライは小型潜水艇のメカニックとして、全長200メートルを誇る戦闘潜水母艦『シーサーペント』に搭乗している。 「怖いさ。いくら訓練を積んでるとは言え、海中での実戦は初めてなんだぜ?」 ニックはロッシャル戦争の時はSPのパイロットをしていたのだが、今回は小型潜水艇のパイロットとなった。 潜水艇のライセンスをもっていたのが理由だ。彼にとって海中での実戦は未知の世界。彼が恐怖を覚えるのも無理はない。 「は……訓練所で必ずナンバー三に入ってたヤツの台詞だとは思いたくないね。それ以下だった訓練生の士気が下がっちまうよ」 ライが整備をしながら言うと、ニックは苦笑を浮かべる。 「それに、今回の戦いは負けねぇよ。まず戦力が違う」 ライの言う今回の戦いとは、言うまでも無くロッシャル帝国軍とサガ同盟軍との戦いのことだ。 6月2日にジェダが正式にロッシャル帝国に宣戦布告をし、進軍を始めた。進軍ルートは、レイツ大陸東に広がるビガー海を通って、ロッシャル本国に突入といったものだ。 しかし、ロッシャル帝国が大人しく帝国内にサガ同盟を入れるはずはなく、戦場はこのビガー海になることは誰でもわかることだ。 「本当に情報は確かなのか? あっちの艦隊は、こっちの三分の一しかないって」 「間違いないらしい……。 確認されているのは大型飛行シップ五十。潜水空母三十。戦闘母艦五十」 間髪入れずにライが答える。 「ま、もし情報が違っていてそれ以上の戦力だったとしてもこっちが勝つさ。 このシーサーペントは落ちやしないって。厚いバリアと装甲のおかけで魚雷をほとんど受け付けないんだからな。それに……」 ジリリリリリリリリリリリリリ! ライの言葉が言い終わらないうちにけたたましい警鐘が鳴り響く。 『敵が射程内に入った。直ちに砲撃手は攻撃。アリエスのパイロットは発進して敵の小型潜水艇を破壊せよ!』 シーサーペントの司令官の声が館内に流れるとともに、乗員全員が慌ただしく動き出す。 「んじゃ、行ってくるぜライ」 「ああ、もしもの時は恋人のマリーは俺が慰めてやるよ」 「それを聞いたら死ねなくなっちまったなぁ……」 言葉を交わしながらアリエスのコクピットに乗り込むニック。 (マリー……) コクピットに入ったニックは、ロケットに入っている恋人の写真を見てから操縦桿を握る。 「アリエス15号機! 発進する!」 威勢のいい彼のかけ声とともに、シーサーペントからアリエス15号機が射出された。 海上、上空、海中。それぞれの場所で激しい戦闘が行われていたが、一番激しかったのは海中であった。ロッシャル帝国、サガ同盟とも、海での戦闘になることがわかっていたのだろう。 多くの仲間機と並列して敵のもとを走り続けるニック。 「……そろそろ……射程内に敵がくるはず……来た!」 モニターに射程内に入った敵機の情報が表示される。 その数は10以上。敵機の型はコンピュータの登録に無いものだったが、そんなことを細かく気にしている暇はない。ニックは冷静に、その中で一番狙いやすい機体を選んで魚雷を発射させる。 その時は敵機も味方機も攻撃を始めていたので、凄い数の魚雷が海中を走っていた。 激しい爆発音。今の攻撃で帝国軍の機体も、サガ同盟の機体もいくつやられたかはわからない。ただ確実に数が減っているのは確かだ。 「くっ……これだけの爆発が起こると操縦するのも一苦労だ……」 生き残っていたニックがぼやきながら必死で操縦をする。魚雷の爆発の衝撃、機体の爆発の衝撃によって海中は激しく動いていた。普通ならば機体が流されないよう姿勢を保つのがやっとだ。 「早いところ魚雷を撃ち尽くしてシーサーペントに戻りたいぜ……」 ニックは衝撃の干渉を受けている海域を離れつつ魚雷を撃ち続ける。 そんなニックのコクピット内に突如鳴り響く通信音。 「なんだこの忙しいときに……。 ん? シーサーペントから?」 アリエスは、シーサーペントからの通信ならば、無条件で受ける設定になっていたので勝手に受信される。 『こちらシーサーペント! 敵の攻撃を受けている! 援護に向かえる機体から至急戻れたし! 繰り返す! 敵の攻撃を受けている! 援護に向かえる機体から至急戻れたし!』 「シーサーペントが攻撃を受けている? でもあのシーサーペントに援護が必要なのか?」 多少の疑問が感じつつも、援護に向かえる状態にあったニックは、アリエスを走らせた。 「……な!?」 シーサーペントのもとに戻ってきたニックは思わず絶句した。すでにシーサーペントが半壊し、機能を停止していたからだ。 「なんだよアレは。 ……何だんだよ……何なんだよぉぉぉ!」 平静を失い魚雷を乱射する。 魚雷以上の攻撃方法が無い海中で、魚雷を受け付けないはずのシーサーペントが半壊している。 海中部隊はこの無敵だと思われたシーサーペントを心の拠り所にしていた。それがたった数分で半壊していたのでは、平静を失ってしまうのも無理はない。 ニックの目標はシーサーペントを破壊したと思われる小型兵器。それはまるで虫のように、無数でシーサーペントに張り付くようにして攻撃を繰り返していた。 その攻撃方法も、ニックの平静を乱す要因となっているのかもしれない。 ニックの放った魚雷は、小型兵器のもとにたどり着く前に爆発する。小型兵器が対ミサイル弾を使ったのだ。 その攻撃で、ニック機に存在に気づいた小型兵器部隊のうち三機が向かってくる。 「なんだありゃ? 潜水艇じゃないぞ? 足と手がついてやがる! ……まさか!」 ニックはその三機を迎撃しようと魚雷を撃つ。しかし、今度は軽くかわされてしまった。 「……水中用SP?」 ガシュッ! ニックが小型兵器の正体に気づいたとき、水中用SPのツメがニックの潜水艇を貫いていた。 「はは……シーサーペントに取りついて格闘戦をしてたわけか……。そりゃバリアも役に立たないな……」 破壊されていくアリエスの中でニックは呟き目を閉じた。 「悪いなマリー」 ニックの最後の台詞は、アリエスの爆発音にかき消された。 同日 ビガー海 ロッシャル帝国帝王用シップ「ソニック」内 軍のリーダーが前線に出て戦うということは少ない。リーダーが死んではいけない立場にあるからだ。 通信機器が発展している今、リーダーは離れたところで指示を出せばいい。 しかし彼は戦闘空域にいる。帝王用空戦シップ「ソニック」のブリッジに立ち、指揮をとっているのだ。 「大した自信ですね帝王様、自ら戦場に赴かれるなんて」 その帝王に、皮肉を含めた言葉をぶつける黒髪の少年がいた。年齢は十四歳。 全体的にでっぷりと太っていて、眼鏡をかけている。帝王に対する視線も、言葉も決して好意的ではない。 小憎たらしい子供。 そんな表現がぴったりと当てはまる少年だった。 「貴様! ジェイル帝王に対して何て口のきき方だ!」 ジェイルの親衛隊の一人がその少年の胸ぐらを掴んで睨みつける。 「ふん……」 少年はそれに臆する様子もなく、鼻で笑って親衛隊をあしらった。 「きっさまぁ!」 自分を馬鹿にするようなその行為を見た親衛隊は、少年に向かって拳を振り上げた。 「ルスキー。子供相手にみっともないぞ?」 ルスキーと呼ばれた親衛隊の拳を止めたのは、ジェイルの言葉。 「……しかしこいつは!」 「大人気ないぞルスキー。我が親衛隊がこんなことで平静を失うとはな……」 「はっ!申し訳ございません!」 ジェイルに反論しようとしていた自分に気づいたルスキーは、少年を解放し、ジェイルに深々と頭を下げた。 「機嫌が悪いのかラザ……。 自分の設計した水中用SPがこんなに戦果を上げているというのに……」 ラザ、それが少年の名前だった。そしてジェイルの言葉通り、サガ同盟のシーサーペントを撃沈した兵器、水中用SPをつくりあげたのが、ラザなのだ。 今まで開発が検討されていた水中用SPだが、実際に戦闘に使えるレベルのものをつくることは困難だった。 それをラザは数ヶ月で完成させたのだ。彼はただならぬメカニックの才能を持っていた。だから帝王に暴言を吐いても許されるほどの存在になっている。 「ふん……そんなことはどうでもいいです! 姉ちゃんをどこへやったんですか!」 「シータには任務をあたえた。今は情報収集に走り回っているだろう」 シータ。ジェイルがNotFriends壊滅の命を下した17歳の少女である。今の会話でもわかるように、ラザとシータは姉弟であった。シータがジェイルと面会ができたのも、ラザがいたからであった。 「なっ! 姉ちゃんを戦場に出したんですか!」 ラザの顔面が瞬時に青くなる。 「彼女にそんな任務は出さんさ」 「くそっ! 姉ちゃん一人じゃ心配です! 俺もその任務に回してください!」 怒鳴るように言うラザ。しかしジェイルはあくまで冷静だった。 「……よかろう。 しかし、その任務中もSPの開発はしてもらう」 「そのぐらいだったらやります! だから今すぐ姉ちゃんのもとに行かせてください!」 ラザは怒りに満ちた表情で怒鳴り続ける。 「ふ……ラザを本国まで送ってやれ」 ラザの感情をむき出しの顔をしばらくじっと見ていたジェイルだが、自嘲じみた笑いを浮かべたかと思うと、すぐに冷静な表情に戻り親衛隊に命令を下した。 ラザは数人の親衛隊とともにブリッジを離れていく。 「戦況はどうだ?」 ラザがブリッジから出ていくのを見守ってからオペレータに尋ねる。 「はい。敵の海中、海上部隊は我が軍の水中用SPの活躍により完全に優勢。敵が撤退するのは時間の問題でしょう。 ですが、空中での戦闘は数の差が出てしまっているせいか、押され気味です」 オペレータの報告が終わるのを待っていたかのようにソニックが敵の攻撃によって大きく揺れる。 「破損状況は?」 「大丈夫です。バリアで防ぎきれました!」 「ソニックに損害はありません!」 オペレータが被害状況を迅速に調べ報告する。 「ジェイル様! もっと水中用SPをこっちに回して対空ミサイルを撃たせはいかがでしょうか?」 「水中用SPに航空機の相手は荷が重い」 オペレータの提案に、首を振ったジェイルは、ゆっくりと立ち上がる。 「私のSPの調整は済んでいたな?」 「ジェイル様自ら出られる必要はありません! 親衛隊が出撃します! このぐらいの敵、我々が出れば充分です!」 ジェイルのその言葉を聞いた親衛隊長のディアンは、顔色を変えて大声で言う。 「もちろんおまえたちにも出撃してもらう。 だが、私も出る。サガ同盟に挨拶をしてやらねばならんからな」 「そんな危険なことをなさらなくても……」 親衛隊の仕事はジェイルを命に代えても護ること。それは危険な場所に赴かせないことでもある。 だから親衛隊がジェイルの出撃を止めるのは当然のことだ。 「おまえたちが私を守ってくれるのだろう?」 「それは……命に代えましても!」 しかしジェイルはその当然さえも一言で覆し、自らの意志を通す。 「では、いくぞ……私たちに楯突く愚か者たちに力の差を見せてやるのだ」 「はい!」 そして新鋭隊の矜持を守りつつ、鼓舞させるのだ。 前線で指揮をとるだけでなくSPで戦場に出る。これだけでもジェイルは普通の帝王ではない。しかし彼が特別な帝王だということが知れ渡るのは、この数分後である。 同日 チェイ国 戦闘用シップ『NotFriends』司令室 ロッシャル帝国とサガ同盟とビガー海での戦闘は、全世界にテレビ中継されていた。この戦いの勝敗によって、まだ双方のどちらかにもついていない国が、どちらに荷担すればよいか、判断するに有力な材料となる違いない。 もちろん勝者の方に多く流れるのは明確だ。 ネイたちもこの運命の初戦を、司令室の大モニターで見ていた。リンだけは調理室で料理をしている。実戦の映像なのだ。少女には耐えられないような場面もある。それを考慮してミルカが料理をするように促したのだった。 この戦場を中継するチャンネルのほとんどにこのSPが映っていることだろう。白銀の鎧を身につけた戦士のようなデザインそのSPは、その美しさだけでも見る者は言葉を失う。しかし、そのSPが戦っている場所が一番問題視するべき場所である。白銀のSPは、空中で戦っていたのだ。 空中戦が可能なSP。水中用SPのように量産化はされていなかったが、それが存在するというだけでも、世界を震撼させる力を持っている。 SPは一時的にバーニアを噴かし、上空に飛ぶことはできるが、このように飛行状態を保つことなど普通はできない。魔石エンジンにスザクを五つ積めば、理論上は可能だと言われていたが、スザクを五つ以上積むと他の能力に支障が出るためと、その出力に耐えられるバーニアが開発されていなかったことから、実現はされていなかった。 水中用SP。空中戦が可能SP。ロッシャルはSPの新しい形を、二つもこの戦いで披露して見せた。それだけでもロッシャルの技術力は計り知れない。 空中戦が可能なSPは確かに特異である。しかしすべてのチャンネルがこのSPの映像を流す理由は、それだけではない。 「……あんたのお弟さん、そうとう派手好きみたいね」 「………………」 ネイの皮肉混じりの一言にフェイルは何も答えられない。そう、空中戦が可能なSPのパイロット。それはフェイルの弟、ロッシャル帝国の帝王、ジェイル・ロッシャル・カイザーズであった。 「こんなSPが存在するなんて……。飛行速度、プラズマの出力、運動性能……。 どれをとっても普通のSPとは比べものにならないわ」 ミルカが放心状態でモニターを見つめている。SPのことをよく知っている者だからこそその驚きは大きい。 「……驚くべきはそれを乗りこなせる存在がいるってことよ。常人では有り余る性能をフルに活かして、まるで手足のように扱っている……。ジェイル・ロッシャル・カイザーズ……ただ者じゃないようね……」 NotFriends内でもっとも操縦能力が高いネイに、ここまで言わせるジェイルは本当にただ者ではない。 モニターに映るジェイルのSPは、サガ同盟の戦闘機を華麗な動きで次々と墜としている。 もちろん彼だけが活躍しているわけではなく、ジェイル機を守るように陣形を組んでいる親衛隊の戦闘機も、多くの戦闘機を墜としている。しかしジェイル機のその外見の美しさと動きの華麗さのせいで、親衛隊たちは完全に黒子になっていた。 空中戦が可能なSPがあると言っても、その形態から言って、元から空中戦を考慮して設計された戦闘機の方が空中戦に向いている。 この空中用SPの開発費用を使い、戦闘機を造ったのならば、このSPよりも遥かに空中戦に向いた高性能機が造れたことであろう。 しかし、今ここでその戦闘機が活躍したとしても、このような効果は得られていない。 手足のついたあくまで『人型』のSPだからこそ、ここまで人を惹きつける。 この空域は、完全にジェイルの独り舞台だと言っても過言ではなかった。 「完全に帝国側の勝利ね……」 独白のようにシリアが呟く。その言葉から数秒と経たない内に、ジェイルの独り舞台は、サガ同盟の撤退によって幕を引かれることになる。 かくして、ロッシャル帝国とサガ同盟の初戦、後に第一次ビガー海上戦と呼ばれる戦いは、帝国軍の圧倒的勝利によって幕を閉じた。 六月三日 バンナ サガ同盟第七SP部隊シップ「ケルベロス」 「隊長……昨日の戦い……無様でしたね。我々が出ていれば……」 「俺たちが出たってどうにもならねぇよ」 サガ同盟第七SP部隊隊長であるロディ・ティスラ−が、副隊長のアオヤマに大袈裟に首を振って言ってから、自分の机の椅子に両足を乗っける。 「隊長、そんな格好はみっともないですよ」 「自分の部屋なんだ。何をしてもいいだろうが」 その様子を見たアオヤマが呆れぎみに注意するが、ロディは気にする様子もない。 「自分の部屋と言っても隊長室なんですよ、もう少し威厳を……」 「そんなもの生まれてから一度として持ったことねぇよ」 さらにアオヤマが続けると、ロディは机からイカの薫製を出し、足の部分をくちゃくちゃやりながらそっぽを向いてしまった。 「……まったく……。 で、どうして我々が出てもどうにもならないんですか?」 注意しても意味がないと判断したアオヤマは、あやふやになっていた会話に再び戻す。 「相手の水中用SPの能力を見ただろう? 水中での運動性、加えて自由な動きができる。簡単にいやぁ海中で格闘戦ができるってわけだな。潜水艇じゃ相手になんねぇよ。 加えて水中用であって水中専用じゃあない。甲板の上でも戦ってやがったヤツもいただろう? 水陸両用と言った方が適切だ……。海での戦いや、港の襲撃にはもってこいのSP。あんなのが量産されてるんだ。海の上じゃ勝ち目はねぇよ。でかくて固いだけのシーサーペントじゃ話にならねぇ。実際、すぐ沈んちまっただろう?」 「はぁ……」 言葉遣いに比例しない正確で丁寧な分析に、言葉を失うアオヤマ。これはロディと関わっていていつも感じることだ。 「空戦SP……あれは、どう思いますか?」 アオヤマはロディの水中用SPの批評を聴いて、あの帝王の乗る空戦SPの批評も聴きたくなった。 量産こそされていないものの、あのSPの戦果は並々ならぬものだったからだ。 「あれか……あれはSPの性能に驚く前に、帝王さんがあれだけの操縦ができることにまず驚くべきだな。 まず本来SPは空中戦に向かないのはわかるな?」 「はい。人型であるSPは、空中戦では空気抵抗に難がありすぎます。無理やり飛ばすこともできるでしょうが、かなり高性能なバランサーでも無い限り実戦では使えないでしょう」 アオヤマはロディの質問に斜め上の方を見つめながら答える。これはアオヤマが考え事をする時の癖だった。 「正解。でな、いくら高性能なバランサーを付けていたって、やっぱり回避行動なんかは航空機と比べれば格段に難しい。 それなのにあの戦闘能力。相当な反応速度。加えて射撃の正確さを持っているんだろうな。例えいいサポートシステムがついていたとしても、尋常じゃねぇ。 そんな戦いをあいつは三時間もぶっ続けでやってみせたんだぜ? 体力、精神力、操縦能力。どれをとっても常人じゃねぇ……。 あんなパイロット今までに見たこと……」 ロディは言いかけた言葉を途中で飲み込む。『あんなパイロット』に匹敵する女パイロットが頭をよぎったからだ。 「どうしたんですか?」 「いや、ちょっとな。とにかくあちらのリーダーは強いってことよ。 指揮官としてもパイロットとしてもな。残念だがジェダ代表じゃかなわねぇな」 「隊長!」 自軍のリーダーを批判する言葉を言った隊長を戒めるために、怒鳴り声を上げるアオヤマ。 「嘘は言ってねぇよ。ジェダ代表もかなりのやり手だがな」 「そんな……我々に勝ち目はないと言いたいんですか?」 ロディはジェダを悪く言った訳ではなく、正当な評価をしている。だからこそアオヤマは意気消沈しかけていた。 「そうは言ってねぇよ。勝算は俺たちのほうがあるんだぜ? なんだかんだ言ったって帝国のやり方が気にくわねぇ国がほとんどだ。数は圧倒的にこっちの方が上になるはず」 「しかし、今回の戦いで多くの国が帝国に流れてしまう可能性は否定できないのでは?」 心配そうな表情で呟くアオヤマに、ロディはイカの薫製を差し出す。アオヤマは最初は遠慮したが、「俺のイカくんが食えないのか?」というロディの一言で、渋々イカの薫製を口に入れた。 「心配ねぇって。今回大敗したのは、戦場が海で、尚かつあっちに水中用SPがあったからだ。陸上ではそんな圧倒的な戦力差はねぇ。うちの量産SP、ノウブルはかなり高性能だからな」 「そうだといいんですが……」 ロディに前向きな推測をされても、まだ立ち直れていない様子のアオヤマ。 「なぁに言ってんだよ! それを証明するためにこのくそ暑い密林地帯を走ってるんだろ? まったく……、副隊長が弱気でどうする!」 それは、これから戦場に赴くに相応しくない。ロディはすかさずアオヤマを鼓舞した。 ロディ率いる第七SP部隊は、アリム南部の国、バンナの帝国軍駐在基地を叩く命を受けて出動していた。 帝国はアリムのあるトイラ大陸や、その南の大陸のベコナにも多くの基地を設けている。 サガ同盟に加わった国内にある基地は、もう五割方占拠したのだが、帝国につく側の国はそうもいかない。だからロディの部隊が駆り出されたのだ。 「はい! すいません隊長!」 大きな返事とともに敬礼をするアオヤマ。 「よーし、いい顔になった! ほれ、そろそろ戦場だ。準備体操でもしておけ」 「はいっ! それでは失礼します」 アオヤマはさらに大きな返事するとともに、隊長室を出ていった。 この戦闘はサガ同盟側の勝利に終わる。戦力に大きな差はなかったが、第七部隊の活躍が大きな勝因であろう。ロディの指揮能力の高さ、そして兵たちの士気を上げる人柄。加えてSPの操縦能力が彼にはあったのだ。 この戦いの5日後、ベコナ大陸は完全にサガ同盟の勢力下となった。ここまで早い進軍は、駐在していた軍が少なかったのも理由だが、ジェダの軍の動かし方が巧妙だったためだと言われている。 サガ同盟、ロッシャル帝国。この二つの勢力図は、土地の広さから言うと、2:1とサガ同盟の方が倍近く優勢であった。 6月10日 ライクス国 ライクス大学戦争学研究室 「あのビガー海上戦で帝国側につく国が一気に増えると思われましたが、そんなことはなかったですね」 リポーターがライクス大学戦争学教授にマイクを向けながら質問をする。 「それはジェダ代表のあの発言があったためでしょう」 机を挟んでリポーターと向かい合うように座っていた教授が資料を見ながら答える。 「ああ、あの『今回の戦いは私の力不足により敗北しました。私たちの敵はあまりにも強大です。しかし私たちに正義がある以上、強大な敵であっても立ち向かわなければなりません。サガをロッシャル帝国の戒めの鎖から解放するために、無力な私に力を貸していください』というやつですね? 私には敗北宣言のように聞こえますが……」 「ははは、普通はそう受け止めるでしょうな。しかしサガ同盟代表のジェダ・シャウェイという男は、ロッシャル戦争で大変な功績を残した同盟軍の指揮官だった男です。 同盟軍の中ではトップの能力者だったんですよ。その彼でも勝てないのです。これは本当に帝国が強すぎるという意味なのですよ。だから多くの力を団結しなければいけない。そういう意味なのです。 それに考えてもみてください。帝国は支配すると言っているのです。帝国に反感を覚えない国など、そう多くありません。だからもともと帝国側につく国は少ないのですよ。 しかも、あの戦いは海上戦。陸上戦ではほぼ優劣の差は無いのが、ここ数日の小競り合いを見ても明確です」 教授はそこまで一気に言ってからやっと一息つく。しかし、まだ言いたいことは終わっていないようなので、リポーターは黙って続きを待った。 「それに、加えてあの発言が効果を出しているのです。あの発言を受けて仲間に加われば、サガ同盟を『助ける』という形になりますよね? つまりサガ同盟が勝利した場合、『助けてあげた』のだから、その国の発言力は当然強くなります。 どう考えてもサガ同盟の方についた方が、勝ったときのメリットが大きいのですよ。 特に発展途上の国は、間違いなくサガ同盟につくでしょうね。先進国の仲間入りをするまたとないチャンスですから」 「ジェダ代表はそこまで考えてあの発言を?」 「考えていたでしょうね……。」 教授はそう答えた後、用意されていた水を飲み。喋りすぎたために乾いてしまった口を潤す。リポーターの方はその仕草を見守りながら、次の質問をしようと身構えている。 「……それでは最後に。今回のこの戦争ですが、どちらに軍配が上がるとお考えですか?」 リポーターの最後の質問。これを受けて教授は黙ってしまう。 「それは何とも言えませんな……」 ようやく絞り出した答えは、不明確なものだった。もちろんこんな答えでは、リポーターは納得しない。 「それはどうしてでしょう? 数はサガ同盟が圧倒的に有利。それは実証して頂いたじゃないですか」 「はい。戦争において、兵の数は重要なものです。 しかしリーダーの能力もまた重要。ロッシャル帝王ジェイルはSP操縦能力、指揮能力、加えて外見。言動。カリスマ性の強さは並々ならぬものがあります。今まで現われたどんな独裁者よりもね」 「かつてのダグス帝王をも凌ぐと?」 「それは間違いないでしょう。これは私見ですがね」 「では、数が圧倒的不利だったかつてのロッシャル帝国が世界を征したように、今回もロッシャル帝国が勝つと?」 「そうも言い切れません。前回の戦いはロッシャル帝国が唯一の、SP……魔石エンジンの所有国であったからだとも考えられますので」 「……つまり、結局答えは出せないと?」 「そうです。戦争は何が起こるかわかりません。 突如新しい勢力が発生し、そこが勝利してしまう可能性だってあるのですから」 「行く末を見守るしかないと?」 「はい」 そこまで一気にインタビューをすると、リポーターも一息つく。 ふと時計を見ると、インタビュー終了予定時刻は大幅に過ぎてしまっていた。 「わかりました。今日は貴重なお時間をさいていただき、ありがとうございました」 「いえ、こちらこそお役に立てましたかどうか……」 「充分参考になりました。このインタビュー内容は、今日の午後十一時から当局で放送するのでよろしかったら……」 「ええ、うまく話せていたかどうかも気になりますから拝見させていただきますよ」 「ありがとうございます。それでは失礼します」 深々とお辞儀をしてから教授の部屋を退出するテレビ局のスタッフ一同。 独り残った教授は、残っていた水を一気に飲み干す。 「戦争が起こったことによって仕事が増える……。 私はこうならないために戦争を研究してきたつもりなのだがな。 ……まったく……」 教授は自分を戒める独白をすると、細かい資料をまとめ始めた。 六月八日 コーホ国 陸用シップ『NotFriends』 寝室A 午前一時。自動操縦で走り続けるそのシップ内の、暗闇に包まれたガランとした寝室。不必要なものがないその殺風景な闇の空間に、注意しなければ聞き取れないほどの小さな声が響く。 「どうなるのかしらね?」 日の光があるときでも闇の世界にいようとする少女が聴く。 「わからない……」 何者にも負けないような強さをもった、弱い女が答える。 「でも世界は動いている……。 何かしないと生き残ることなんてできない」 「生き残れるかな?」 再び少女が聴く。 「わからない。でも私は生き残るために生きてる」 「……そうね」 ベッドに横たわり目を閉じたまま交わされた会話。その会話も、闇の空間に飲まれ静寂が訪れる。 「できれば、一緒に生き残りたい……」 その闇の中に再び声が生まれる。どちらが言ったかわからないその言葉は、すぐ闇に飲まれてしまったが、2人の心に強く刻まれていた。 様々な場所で様々に蠢く世界。これだけの場所でもこれだけの動きがある。しかも今回記したのは、サガ全体のほんの一部でしかいない。サガ全体はこれ以上に大きく蠢いているのだ。 大きな蠢きを続けているサガの歴史は、着実に大きな動きをしていたと言えよう。 第6話 蠢く世界 完 ……ネイよ。強さ……弱さ……。そんなものは他人が決めればいい。私は生きるために、生き残るために強くなった。強いといわれる存在になった。でも私は弱いから求め続ける。強さを。独りで生きることができる強さを。次回Not Friends、第七話「強き弱者」。 Not Friendsの意味?読んで字のごとくよ。 |