Not Friends
第1話 悪魔に乗った王子様
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| サイズから南へ二十キロ程進んだところにヤクドの森がある。ヤクドの森は、世界でもっとも丈夫な木材の材料となる、マーナが群生している森で、その歴史は古く、マーナの木のほとんどが、十メートル以上に成長している。 普段、ここは静かな場所だった。 しかし今は違う。 度重なる爆発音に静寂は破られ、木々はプラズマにより焼けて黒い煙を上げている。複数のSPが駆け回り、激しい戦闘を繰り広げるそこは、戦場としか言い表せない。 戦闘中のSPの中には、あのルシフェルの姿がある。フェイルは背の高い木をうまく利用し、身を隠しながら何とか応戦しているが、戦況は圧倒的不利であった。 「くそっ! ヤマヤB型が4機も出てくるなんて!」 フェイルはモニタを注意深く見ながら独白する。 ヤマヤB型はもっともポピュラーな量産型SP、ヤマヤシリーズの中ではかなりの性能を持つ機体である。 それでもフェイルの乗っているルシフェルの方が、高性能なSPなのだが、四対一ではその性能差もほとんど意味をなさない。 銃声と共にフェイルが身を隠すのに使っていた木が爆発し倒れる。 「見つかった!?」 フェイルはバーニアを噴かし、すぐその場から離脱するが、それを待っていたかのように立ち塞がる二機のヤマヤB型。 プラズマが容赦なく向かってくる。フェイルはバーニアをフル出力で使い、右方向に跳ねてそれを避けようとしたが、避けきれずに二発ほどプラズマをくらってしまう。 「ぐぅぅぅ!」 プラズマが命中したときの、独特の衝撃がコクピットに伝わり、フェイルが苦悶の表情を浮かべた。 しかしルシフェルには損傷は見受けられない。なぜならば、ルシフェルが高性能なバリアを装備しているからだ。 バリアを装備しているのは、ルシフェルだけと言うわけではなく、SPには標準装備されている。しかしルシフェルほどの厚いバリアを装備している機体はなかなか無い。フェイルはこのバリアのおかげで、何とか生き延びることができているのだ。 「このぉぉぉぉ!」 フェイルはこけおどしに両腕に装備されたプラズマガンを乱射しながら、2機のヤマヤB型と間合いを離すために後退していく。2機はプラズマを数発撃つだけで、追撃してくるようなことはなかった。 ルシフェルと2機の距離はすぐに離れていった。 やがてお互いの射程距離圏外まで離れ、視界からも消えていく。 フェイルはその動きを不審に思いながらも、隠れるのに手頃な木を見つけ、再びそこに身を隠した。 そして全モニタをチェックし、敵が接近していないか確認する。その後にレーダーも確認したが、レーダーは機能していなかった。それを見たフェイルはやっと一息ついた。 レーダーが機能していないのは、対レーダー兵器がその役目を果たしているためである。対レーダー兵器の使用は、中距離、至近距離戦を得意とするSPの定石の一手。レーダーを封じてしまえば、遠距離攻撃の命中精度が著しく下がり、有利に戦闘を行えるからだ。 そのため、SP戦で役に立つのはモニタのみで、自機の全モニタに敵が映っていなければ、ほとんど敵が襲ってくることはない。 「ふぅ……」 フェイルは額の汗を拭って深呼吸をする。こんなことをするのは油断が生まれている証拠であり、油断とは戦場で命取りとなるものである。そしてその油断を見逃すほど敵のSP部隊は甘くなかった。 突然起こるプラズマガンの銃声。フェイルが木の陰に潜んでいたSPに気がついたときには、プラズマの雨がルシフェルを襲っていた。 次々とルシフェルに着弾するプラズマ。最初の2発はバリアによって中和されたが、バリアにも限界はある。3発目のプラズマが命中したときバリアは貫かれ、左肩部分に着弾した。 まだ残っていたバリアによって威力は軽減されていたために、軽傷で済んだのだが、それで攻撃が止んでくれるはずもない。4発目のプラズマがほぼ同じ場所に着弾した瞬間、ルシフェルの左肩は爆ぜ、左腕ごと吹っ飛ばされた。 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」 フェイルはそれとともに絶叫し、残っていた右腕のプラズマガンをろくに照準もあわせず乱射する。 ルシフェルの左腕を破壊したSPは、それを冷静に避けながらどんどん間合いを離していった。 「に、逃げた?」 フェイルは離れていく敵を呆然と見ながら呟くが、すぐにそんな場合ではないと判断し、急いで損傷度のチェックを始めた。 ルシフェルは左腕を失っており、損傷部分からは今も煙が出ている。この部分から誘爆を起こす可能性もあり得るので、コンピュータの答えを祈るようにして待った。 コンピュータがはじき出した答えは、戦闘能力は40%低下するが、戦闘は続行可能というものだった。最悪な事態だけは免れたフェイルは、一安心をする。 しかしその安心も、次の瞬間うち消されていた。ルシフェルを囲むように接近してくる4機のヤマヤB型の姿を、モニタが捕らえていたからだ。 「くそぉっ!」 フェイルはモニタをドンと叩く。フェイルは自分が油断したことを悔やんだが、実はその前から敵の策略にはまっていた。 最初にフェイルが見つかったときに、二機のSPが追跡しなかったのは、潜んでいるSPの場所に追い込むためであった。そして潜んでいたSPが攻撃を止めて間合いを離したのは、木の陰に身を潜めていたSPの方へと追い込むため。 さらに潜んでいたSPが攻撃をやめて間合いを離したのは、損傷部からの煙から、位置の割り当てが可能になったためだった。 位置の割り当てが可能なら、一対一で勝負をかけるよりも4機で囲むようにフォーメンションを組んだ方が勝算は高い。 このような計算された戦術を、実践で活用できる敵SP部隊は、かなりの実力者であるといえるだろう。 そんな4機に狙われたフェイルが生き残る可能性など、最初からなかったのかもしれない。 手負いのフェイルに容赦なくプラズマガンの砲身を向ける4機。フェイルはその絶望的状況下に、反撃をする気力さえ失っていた。 銃声が鳴り響く。 フェイルはこれから訪れる恐怖に目を固く閉じた。 「それは私の獲物よ! 大人しく引き下がりなさい!」 フェイルが暗闇の中で聞いたものは、聞き覚えのある女性の声。フェイルはその声に反応し固く閉じた瞳をゆっくりと開いた。 「あ、あれは!?」 声の主を知るために開いた瞳が捕らえたのは、見覚えのあるSPだった。 そして同時に気付く。 敵SPのうち1機の頭が無くなっていたことを。 フェイルはその原因が見覚えのあるSPにあると判断し、その姿を映し出しているモニタに視線を映した。 忘れるはずもない。今朝戦ったばかりの二枚の翼型バーニアを持つ鳥型SP。ネイの乗るモーリガンである。 頭部をやられたSPは完全に戦闘能力を失っている。SPのメインエンジンが頭に積んであるためだ。 一機やられた敵SP部隊は、フェイルに接近するのをやめてバラバラに散る。それと同時期に頭部をやられたSPから脱出ポットが射出された。 ネイはそんなことには目もくれず、プラズマガンを撃つ。 「なっ!?」 フェイルの驚きの声と共にルシフェルの頭にプラズマが命中した。 出力を極限まで上げて撃ったのだろう。ルシフェルのバリアをあっさり貫き、ルシフェルの頭は吹き飛ばされた。 「ど、どうして……」 システムダウンするコクピットの中でフェイルが力無く呟く。 ピピッ……。 それに答えるかのように個人回線で通信が来た。フェイルは訝しげに思いながらも通信を受ける。 「……まだ脱出するんじゃないわよ?」 その一言で切れる通信。その声の主はネイだった。 フェイルは通信の意味も、なぜルシフェルを攻撃したのかもわからなかったが、今はネイの言うとおりにするしかないと思い、戦局を見守ることにした。 ネイはルシフェルが完全に動かなくなったことを確認しながら、プラズマガン出力を通常の状態に下げる。 ルシフェルという目標がいなくなった敵SP隊の攻撃の矛先は、当然のことながらネイのモーリガンに向けられていた。 三機のヤマヤB型から放たれるプラズマガンが容赦なくモーリガンを襲う。 「引き下がる気はないみたいね。じゃあ、こっちも遠慮はしないわ!」 モーリガンのスピーカからネイの声が響く。その声はかなり拡張されていたので、敵SPのパイロットにも聞こえているはずだった。 しかし反応は無い。 まるで答える舌は持っていないとでもいうように、3機のSPはネイを囲むように接近してくる。ネイはそれをモニタで確認すると、後方に位置していた敵をロックオンする。 その間も距離を縮めてきているSP隊。 そこでモーリガンがかん高い音を鳴らす。 ローラーフットをフル稼働させたときの独特の音だった。 モーリガンが正面にいたSPに向かい、猛スピードで突っ込んでいくように走り出す。正面にいたSPは、奇抜なその行動に慌てて、プラズマを数発撃った。 それを見越していたように、ネイはプラズマが間近に来た瞬間を見計らって、右足を軸にして機体を回転させた。 右足を軸にして回転したため、機体の位置がずれ、正面のSPが撃ったプラズマは、モーリガンからわずかに横にそれる。 高度な技術を必要とする華麗な避け方だった。本来はバーニアを噴かし、横に移動する方が無理なく避けられる。ネイがこの避け方を選んだのは、他に意味があるのだ。 この回転中、ネイはロックオンしていた後方の敵に対し、両腕に装備されているプラズマガンを連続して三発撃った。 後方の敵は、まさか後ろを向いていたモーリガンがそのような方法で攻撃してくるとは思いもよらなかったので、反応が遅れてしまう。 モーリガンが回転していた時間は1秒前後。その1秒の間、前方にしか攻撃できないモーリガンの攻撃範囲に、後方の敵が入る瞬間はさらに短い。そのわずかな瞬間に攻撃してくるとは普通では考えられないし、できるとも思えなかった。 だから反応が遅れてしまうのも仕方の無いことかも知れない。 その結果。モーリガンのプラズマが3発とも後方のSPの頭にクリーンヒットする。 3発のプラズマを受けては、ヤマヤB型のバリアなどほとんど意味がない。先にやられた2機のSPと同様に頭が吹き飛んだ。 避けの動作と攻撃を鮮やかに繋げるその動きは、一種の芸術だと言えるだろう。 360度、回ったところで回転をやめるモーリガン。360度回転したということは、また正面の敵と対峙することになる。正面の敵はプラズマを撃ち続けていたので、プラズマが1発モーリガンに命中する。しかしそれはバリアによって中和され、機体にダメージは残らなかった。 そのことがわかっていたネイは、何事もなかったかのように猛スピードで敵SPに突進を再開する。正面の敵は必死でプラズマを撃ち続けたが、ネイは巧みに避けつつなおも接近をやめない。 そしてとうとうモーリガンの体当たりが、敵SPの右半身に炸裂した。 体当たりを受けた敵SPは、左足を軸にしてクルクルと回転してしまう。 こうなったのは、SPの足に標準装備されているローラーフットが原因だった。右半身に強い衝撃を受けたために、ローラーが勝手に動いてしまったのだ。敵SPのパイロットは急いでローラーフットのブレーキを操作し、体制を整えようとする。しかしその時はすでに、モーリガンから撃たれたプラズマに頭部を撃ち抜かれていた。 残っていた1機だが、モーリガンが今撃破したSPと急激に間合いをつめていたために、プラズマの射程距離から大分離れている場所にいる。 射程内に残りのSPが到達する前に、モーリガンが迎撃体制を整える時間は充分あった。 「すごい……」 フェイルはモニタに釘つけになっていた。メインエンジンが破壊されてシステムダウンしても、予備動力でモニタくらいなら数時間は動かせる。 「どうしてあんな動きができるんだ……」 三機のSPをものの数分で戦闘不能に追いやったネイのモーリガン。その動きは恐ろしく正確で無駄がない。戦闘シミュレータの最高レベルの動きに似ていると言えなくもないが、その機転の効き具合や、相手の意表をつく動きは、シミュレータでは実現不可能だ。 フェイルは戦闘……いやネイのモーリガンの一挙一動を、瞬きをするのも忘れて見ていた。完全に魅せられていたのだった。 4対1の戦闘があっというまに1対1になっていた。 この時点で勝負はついていると言えるだろう。モーリガンとヤマヤB型では、性能面でもモーリガンが勝っているし、パイロットの能力に関しては雲泥の差がある。 残ったヤマヤB型のパイロットはそれがわかっていたのか、モーリガンとの間合いをつめるのをやめて、逆に間合いを離していく。そして充分間合いが離れてから、何かを発射した。 天高く上がって眩い光を放つそれは、上空20メートル程で四散する。味方に自分の位置を知らせるときや、何かの合図をするときに使う照明弾だ。 だが、ネイはそんな敵の行動に気をとられることもなく、バーニアを噴かして接近をし始めている。 が、その途中。 右側の翼型バーニアの出力がガクンと落ちた。そのせいでモーリガンの体勢が崩れ、機体がふらつく。 その突然起こったアクシデントに、戦場の時間が一瞬止まった。 故障。 そのモーリガンの動きは、その言葉を連想させるものだった。 しかし敵SPパイロットは、それを鵜呑みにせず、牽制のプラズマをいくつか撃って様子を見る。 モーリガンはぎこちない動きでそれを避けた。その際右の翼型バーニアは使われていない。 それを確認した瞬間。積極的に攻撃を開始する敵SP。モーリガンはそれに何とか対応した。 圧倒的に有利だったはずの戦況が、一気に急変する。 しかし、右翼の翼型バーニアを使わなくともネイは敵と互角に渡り合っている。そんな二機の戦いは決定的な一撃がなかなか決まらないまましばらく続くことになった。 だがその数分後、また戦況が急変する。 また悪い方への急変だ。大量のプラズマが、ネイに向かって降り注いだのだ。 ネイはそれも何とか避けきり、プラズマの発信源を映しているモニタに目をやった。 そこに映し出されていたのは5機のSP。SPの機種はすべてヤマヤA型。 ヤマヤA型はヤマヤB型よりも性能が劣る機体。もちろん五機もいるとなれば、一機で、しかもリスクを背負って戦っているネイにとっては、驚異的な戦力である。 さっきまで戦闘していたヤマヤB型は、ネイとの戦いを一時やめてその5機と合流する。 6対1。いくらネイがすご腕のパイロットでも切り抜けられる訳がない。 6機に増えた敵SPは、編隊を整えながら一斉に銃口をモーリガンに向ける。 刹那。 激しく鳴り響く轟音。しかしこれは、敵SPの銃声ではなかった 。敵SPのもとに飛来してくる大量の小型ミサイルの発射音だったのだ。 6機は突然のその攻撃に対処するべく、対ミサイル弾を一斉に放った。 対ミサイル弾とはいわゆる拡散弾。SPにダメージを与えることはできないが、ミサイルを迎撃するにはもってこいの兵器である。 多くのミサイルが次々と撃墜されていき、連鎖的に爆発を起こしていく。爆風によってもうもうと巻き上がる砂煙。ほぼ視界がゼロになったといってもいいその状況下、戦場に一時の静寂が訪れる。 この視界でプラズマを命中させるなどほぼ不可能に等しく、同士討ちになる可能性が高いからだ。 「よってたかって私の大事な人に……許せないわ!」 その静寂を破ったのは女性の怒鳴り声だった。 ネイと同じくスピーカを使っているのだろう。静寂の中で響き渡るその声に、敵SPパイロットたちは反射的に声の方に意識を移した。 ネイの乗るモーリガンと同系統のSP。まだ砂煙のせいで視界が悪いため、はっきりとは確認できないが、それが確かに接近してきていた。 その時、敵SPパイロットたちの意識は完全にそのSPに集中していただろう。 それを見計らっていたかのように何かが上空に飛び上がった。 いくら視界が悪いといっても、それに気がつかないほど敵SPパイロットたちは抜けていない。 そしてそれがルシフェルの脱出ポットだったということを確認したとき、6機中2機が脱出ポットを追うために戦線を離れていった。 ネイもその後を追おうと試みるが、残りの4機によって阻まれる。砂煙による視界の遮断の効果が無くなろうとし、プラズマの攻撃が再開されようとしている今、さすがに4機のSPをかいくぐってルシフェルの脱出ポットを追いかけるのは不可能と見たネイは、四機との間合いを離していった。 そうはさせまいと、間合いをつめようとする四機のSP。 しかし、多数のプラズマの弾丸が、ネイと敵SPの間を駆け抜けていったため、4機は追撃の手をゆるめざるを得なくなり、ネイのモーリガンとの間合いは充分離れる。 予測できない方向からの攻撃だったために、敵SPの編隊が乱された。 敵が予想できなかったのは、それがネイのモーリガンからの攻撃ではなかったからだ。 今の攻撃は、先ほどはっきり確認できなかった、ネイと同系統のSPからの攻撃だった。そのSPはネイのモーリガンと同じ機種だったが、ネイの機体よりも明らかに多くの武器を装備している。重装型と呼ばれる機体だ。 ミサイルポットも積んでいたので、先ほどミサイルを撃ったのもこのSPだったのだと予想できる。 重装型モーリガンは敵の側面をつくようにガトリングガンを撃ち続けていた。 激しい戦闘の最中、ネイのもとに通信が来る。送信先は重装型モーリガンだ。 「やっほ〜ネイ。首尾はどう?」 聞き慣れた、明るく間延びした声がネイの耳に入る。 「上々よ、ミルカ。この後も手筈通りに」 ネイは通信の相手、重装型に乗っているミルカに言葉を返した。 「OK」 そこで通信は打ち切られ、二人は敵SP隊と対峙する。敵SPの4機は、編隊を整え終わったらしく、今にも攻撃を再開しようとしていた。 敵SPの戦力はヤマヤB型が1機とヤマヤA型が4機。ネイとミルカは2機で4機と戦わなければならない。 数は敵の方が勝っていたが、ミルカの操縦能力が、ネイと同等かそれ以上のものがあれば、不利な状況とも言えない。 先に仕掛けたのは敵SPだった。4機のSPが一斉にプラズマを乱射する。 単純な撃ち合いであれば、数の勝る方が有利である。そう判断し一気に勝負をかけてきたのだ。 ネイとミルカはそれを器用に避けながら撃ち合いに応じる。もっともミルカの方は器用に避けてるとは言い難いが、ネイの機体よりも厚いバリアのおかげでダメージは受けていない。 双方とも大きなダメージを与えられないまま撃ち合いが続く。 しかし数の差と、ネイのモーリガンの故障のせいで、ネイたちの方が押され気味であった。 そんな中、ミルカが敵の一瞬の隙をついてミサイルポットから多数の小型ミサイルを発射する。それに対してまた対ミサイル弾を使って対処する敵SP。 再び爆発のせいで視界が悪くなると、それを合図にしていたかのように、ネイとミルカの機体が敵SPと反対方向に旋回し、最大出力でバーニアを噴かした。 ネイたちの行動を表現するには、撤退と言う言葉を使うのが的確であろう。 敵SPたちはネイたちをしばらく追ってきたが、ネイたちが完全に撤退しているのだと判断すると、追撃をやめて逆方向に飛んでいった。 おそらくはフェイルを追っていった2機の所へ戻ったのだろう。彼らの目的はフェイルの命を奪うこと。目の前の敵が撤退するのなら、深追いなどせずに任務に戻るのが正しい選択なのだ。 ネイとミルカは、敵SPが遠ざかっていくのを確認すると、少しバーニアの出力を落とした。四枚の翼が控えめに火を噴く。 三枚ではない。 四枚の翼型バーニアだ。 「うまくいったわね。ネイ」 映像入りの通信で会話を始める二人。ウィンクをして気さくに声をかけるミルカに対し、ネイは「そうね」と素っ気なく答えた。 「それにしても相変わらずすごいわねぇ……。右のバーニアを使わないで戦闘なんて普通できないわよ」 「普通じゃないんでしょ?」 そんな誉め言葉も同じ口調で軽く受け流す。 そうなのだ。 ミルカが今言ったとおり、ネイは先の戦闘で、あたかも右の翼型バーニアが故障しているかのように見せながら戦闘をしていたのだ。 「えぇっ!? あれ演技だったんですか!?」 女性二人の会話に、突然男の声が入る。それと同時に、ミルカの通信モニタが、ネイの後ろから出てきたフェイルの姿を映した。 「鬱陶しい。大人しくしといて」 ネイが低い声でいうと、フェイルは怒られた子供のように、再び座席の後ろに引っ込んだ。 なぜここにフェイルがいるかの説明は、ミルカの最初のミサイル攻撃時まで話を戻さなければならない。 すべては6機のSPが対ミサイル弾を使ってミサイルを対処した時から始まった。 大爆発が起こって視界がゼロになった瞬間、ネイは行動を起こす。このタイミングはあらかじめミルカと打ち合わせていたためにわかっていたのだ。 ネイは防塵マスクを付け、モーリガンを降りてルシフェルの元へと向かう。そしてフェイルを救出。その後脱出ポットに、森に着くまでに作ったプログラムを入力し、無人で脱出ポットが飛べるスピードと距離で脱出させる。 そして何食わぬ顔でフェイルを連れてモーリガンに戻ったのだ。 ルシフェルに向かうときは爆風。戻るときは脱出ポットと、いずれも敵の注意を他に引きつけながら行動を起こすという巧妙な手口だ。 そしてモーリガンが故障を装ったのは敵の増援を待つため。増援があるとわかった理由は、敵が特殊部隊だと考えたためだ。 特殊部隊は、いくつかに分かれて行動し、何かあったときに合流するのが普通なのである。 しかし増援を待つといっても、3体を一気に倒したネイの戦闘能力を見ている敵に対し、ダラダラと戦闘を続けては何かあると感づかれてしまう。 今回の最大の目的はフェイルが脱出ポットで逃げたと思わせることにある。そのためには、増援の存在とミルカの不意をついたミサイル攻撃が必要となった。バーニア故障の演技は、そのための時間稼ぎだったという訳だ。 さらに言えば、最初にスピーカを使ってフェイルを狙っているということを仄めかしたのも、自分たちがフェイルの仲間だと思わせないため。 ネイたちはあくまでフェイルを賞金首として襲った賞金稼ぎ。そしてその戦闘中に、形成が不利と見て逃げ出した。 少なくとも戦闘を行っていたSPたちはおそらくそう思ったことだろう。 自分たちがフェイルに関わっていたことを明かさずに、彼を保護しつつフェイルは脱出ポットで逃げたと思わせる。 すべてはネイの思惑通りに事は運んだ。しかし、こんなことを実際に実行できる人間はそうはいない。 彼女たちは非凡としか言いようがなく、これだけでも特殊な存在であると表現できるだろう。 「でも助けに来てくれるなんて思いませんでしたよ。ありがとうございます」 フェイルが深々と頭を下げて言う。 「感謝するならリンにすることね。あんたを助けたいって言ったのはあの子なんだから……」 ネイの言葉を受けて、フェイルはリンの顔を思い出しながら『あの子が……。』と言った感じで相づちを打った。 「それにしてもお二人ともすごい腕前ですよね……。戦闘でのチームワークも完璧でしたし……。 なんだかとっても強い絆で結ばれているような気がします。 こういうのって……友情……っていうんですか?」 フェイルがニッコリと笑って訊く。 ネイはフェイルのその無邪気な笑顔が苦手だったため、顔をそらしたまま何も答えなかった。 しかし、代わりにミルカが怒鳴り始める。 「友情じゃなくて愛情よ! 私とおネイ様はあつ〜い……」 ネイはミルカの言葉の途中で通信を切った。フェイルは後ろで目を白黒させている。 「……愛情?」 「違うわ」 ネイはあきれたように、ため息混じりで否定する。 「……でもね。私たちは友達って訳でもないわ。 ……ミルカだけじゃない。リンも……シリアも……」 「え?」 フェイルはネイの独白のような言葉に首を傾げる。意味が理解できないのだ。 「トレーラーの看板。見てなかったみたいね。……ほら」 モニタに映っていたトレーラーの看板を見るように促すネイ。フェイルは言われたとおりモニタを凝視した。 「……Not……Friends?」 「そ、私たちのチームネーム。We are not friends.アリムの言葉で私たちは友達ではないって意味よ」 |
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第1話 悪魔に乗った王子様 完 こんにちは。フェイルです。城を出るとき、自分では何かできると思っていました。今の状況変えることができると思っていました。 |