終章 そばにいたいということで



 俺の名前は黒崎和臣、シヴァ使いと呼ばれる超一流の賞金稼ぎだ。
 ったのだが……。
「コラ、バイト! ボケッとすんな!」
「……はい」
 今やっているのは皿洗い。しかもごく普通の洋食屋のアルバイトだ。
 シヴァ使いが皿洗いとはこれいかに?
 ……虚しくなってきた。
「こら! ちんたらやるな! 皿が足りねぇぞ!」
 店の店長にどやされる。
 ……何で俺がこんな所でこんなことを……。
 その理由は色々ある。ジャンにはほとんど教育関連の仕事場しかない。
 しかし俺は高卒なので教師にはなれない。ミカエル学園に睨まれているから学生にもなれない。
 だから就職先は食べ物屋ぐらいしかないのだが、そこに就職する気はさらさらない。でも講師の仕事をしているエリスだけを働かせる訳にはいかないので、バイトをしてるというわけだ。
 あ、ちなみに俺とエリスは今一緒に暮らしている。お母さまも一緒だが。
 ……せめて仕事屋があればなぁ。平和なジャンにそんなものあるわけないか。
「おい! 聞いてんのかバイト!?」
 ………………。
「てめぇ! 何様のつもりだぁ!」
 俺はシヴァ砲を店長に突き付けて怒鳴り付ける。
 ……あ! またやっちまった。


「で、またクビになったわけね?」
「……すみません」
 俺は頭を下げてエリスに言う。
 ここはエリスの家……じゃなくて俺たちの家。さっきの店はエリスの言うとおりクビになった。
「はぁ……やっぱり和臣にバイトなんて無理なのよ」
「ああ、自分でもそう思う……」
「だったらバイトなんてしなくていいわよ。私とお母さんの稼ぎでやっていけるわ」
「それじゃ男としての俺の面子が……」
「和臣には貯金で家を新築してもらったんだし、そんな無理に働かなくても」
「働かざるもの食うべからず」
「じゃあどうするのよ。ミカエル学園に謝罪文を出して大学に行く?」
「絶対ヤダ」
「………………」
 あ、エリスが呆れてる。ルナとの決別を済ましてから1ヵ月。まだ自分の生き方も決まってないのだから呆れもするよなぁ……。
 でもメリンに抱き込まれて魔女の研究をするような学園なんかに謝罪文なんてだせるか。
「……じゃあ店でも開いたら? 開業資金ぐらいあるんでしょ?」
「うーん……そうだなぁ」
 俺の貯金はあと8000万リクンほどある。小さな店くらいなら十分開けるんだが。
「まぁゆっくり考えなさいよ、しばらくはバイトもしないでさ」
「でもなぁ……」
「でもって言っても、ここら辺の店はぜーんぶクビになってるから働き口なんてないわよ?
 どうしても気が引けるんなら貯金から生活費でも入れてくれればいいから」
「あ、ああ……」
「和臣は和臣らしくやればいいわ。じゃ、私仕事行ってくるね」
「あ、いってらっしゃい」
 俺は部屋を出ていくエリスに手を振る。
 ……な、何か俺って妻に迷惑をかけるダメ亭主みたいじゃないか?
 あ、俺とエリスはまだ籍は入れていない。俺がしっかりするまでは父親に反対されそうだからな。
 エリスの父親は外国で遺跡の調査員をしている。一応交際は認めてもらっているが……。
 このままじゃいかんよなぁこのままじゃ。店を開く……か。
 しかし俺はあんまり資格をもってないからなぁ……塾も開けない。食堂なんてイヤだし……。
 ……賞金稼ぎの仕事は楽しかったなぁ。
 収入も良かったし。
 時給1020リクンなんてやってられねぇよ。ジャンにも仕事屋があればなぁ……。
 ……ん?
 仕事屋……仕事屋! そうだ! 仕事屋だ! そうだそうだ! 仕事屋がないのなら俺が仕事屋を開けばいい!
 それで来た依頼の中でいいのがあれば自分でやって。そうすれば仕事屋の手数料と賞金の両方を貰える。
 うんうん。我ながら名案じゃないかぁ!
 よぉし! いっちょやってみるかぁ!


 仕事屋開業は思ったよりも簡単だった。潰れかけていた酒場を買収した。そして仕事屋に改装した。
 ……もうちょっと開業まで苦労をするだろうと踏んでいた俺は少し気が抜けていた。酒も軽食の材料も前の店の取引先を使う。実質的に俺は何も計画していない。ただ酒場だった場所を仕事屋にし、俺が社長になっただけなのだ。
 ……社長と言っても社員は一人もいない。人件費がもったいないから酒も軽食も俺が用意している。
 開業して二週間。店は繁盛している。しかし仕事の依頼は一つもない。みんな、俺の料理を目的で来てるのだ。
 人気メニューは鴨南蛮。
 ……これじゃあ食い物屋の主人と変わらない。受けると思って色々と軽食をメニューに入れたのがまずかったのかなぁ。しかも客はだいたいが、ミカエル学園時代の友人や先輩後輩。
 さらにエリスの同僚なんかも来たりする。まぁそのおかげで小難しい接客をしなくて済むのだが。
 しかし……いい加減つらくなってきた。満員近くになると(20席ぐらいなのだが)一人ではどうしようもなくなってくる。
 運ぶのと作るのをいっぺんにやっているのだからな。
 そんな時は……。
「先輩。お邪魔します。うわぁ混んでますね」
 きたきた。来店したのは愛すべき後輩博幸くん。
「そうなんだよ博幸くん。手伝ってくれるよねぇ?」
 俺はシヴァ砲をちらつかせながら頼み込む。もとい脅す。
「は、はははは」
 博幸は愛想笑いを浮かべて厨房に入って行く。いい後輩をもつと楽だなぁ……。
 しかも『お手伝い』なので、給料はなし。あとで『ご苦労さま』の一言と特製鴨南蛮でも食べさせれば万事OKなのだ。
 ……しかし、今日も仕事の依頼が一つも来ないのはどういうことなんだぁ!


「ふぅ……ただいまぁ」
 俺は小声でそう言い家に入る。現在午前3時。仕事屋(もう飲み屋と化しているが……)という仕事柄帰りが遅くなってしまうのだ。
「おかえり」
 俺は無いと思っていた返事があったのでビクリとする。
「あ、エリス。ただいま。まだ起きてたのか?」
 俺は靴を脱ぎながら明かりのついた部屋に向かって言った。
「うん、論文の採点してたの」
 俺はエリスの部屋に入る。
「論文か……もう何年も書いてねぇな」
「学生時代が懐かしい?」
「そうでもないかな……」
「旅をしてた頃の方が懐かしいのかな?」
「……まぁな」
 平凡な学生時代なんかよりも旅をしていた頃の方が充実していた。本当に色々あって……、学生時代の思い出が霞んでしまうくらいに……。
「コーヒー飲む?」
「……ああ」
 俺が頷くとエリスはコーヒーを淹れはじめた。
「仕事……うまくやってるみたいね」
「まぁ……ぼちぼち……」
 エリスは入れおわったコーヒーを俺に手渡す。俺はそれを一口含んだ。
「……ルナどうしてるかしら」
 俺はエリスの一言に、コーヒーを戻しそうになるぐらい動揺するが、表情を変えないように努める。
「元気にやってんだろ?」
「心配じゃないの?」
「………………」
 正直に言ってしまうと心配している。が、しかしもう俺はルナと決別した。心配をしてもどうしようもない。
「うまくやってんだろ?」
 俺はもう一度そう言うと、コーヒーを飲みほした。
「俺はもう寝る。エリスはまだ起きてるのか?」
「ええ、この子の論文を読み終わってから寝るわ」
「夜更かしは肌に悪いぜ? あんまり根を詰めるな」
「わかってるわよ、おやすみ和臣」
「ああ、おやすみ」
 俺はエリスの部屋を出て自分の部屋に向かった。


「ダメだな……俺は……」
 俺はベットに寝そべりながら呟いた。ルナという言葉を耳にしただけであんなに動揺するなんて……。
 後悔している訳じゃない。俺は自分の選んだ道に自信を持っている。ルナはキウジに残るのが当然だし、俺はエリスが好きだ。だからエリスと一緒にジャンに帰る選択をした。
 ……だけど……何で……。
 ……今までずっと保護者としてやってきたのだ。こういう感情が生まれてもおかしくはない。離れて心配するのはしごく当然のことなのだ。だから別に……。
 しかしエリスにこの感情を隠すことはなかったんじゃないのか?
 隠したいってことは……。
 ……こんなことをだらだらと考えるのはよそう。とりあえず仕事もある。やることがあれば時間は早く過ぎていく。時間が過ぎればこの気持ちもなくなるだろうから……。
 それなりに楽しい仕事。帰る家には最愛の人が待っている……。
 何の不満も生まれるはずがない。幸せな日々がこんな気持ちを薄めていってくれるだろうから。
 ……今はこの平穏な日々を楽しもう。
 そうしよう。


 その日、夕方までは平穏な一日だった。心臓を直接殴られるような衝撃的な事件を知らされるまでは……。
 昼の忙しい時間も終わり、外は夕日が出ていた。夕方というのは比較的暇な時間である。俺はグラスを拭いたりして時間を潰していた。
 勢いよく店の扉が開かれる。
 入ってきたのは息を切らせたエリスだった。
「どうしたんだエリス?
 もう講義は終わったのか?」
「それどころじゃないのよ!」
 俺ののんびりとした口調とは逆に、エリスの口調は荒々しい。
「何があったんだ?」
「キウジが……」
 エリスが俺の両肩を両手でつかんで揺さぶる。
「キウジがどうしたんだ?」
「キウジが……消滅したって……」
「なっ……」
 俺の頭のなかが一瞬真っ白になる。
「何だよソレ。消滅したってどういう……」
「シヴァが爆発して……」
 シヴァが爆発した?
 ……キウジに茂っていたシヴァが一つでも爆発すればたちまち誘爆をおこし、そこには何も残らない……。
「嘘だろ?」
「こんなこと嘘で言えるはずないでしょう……」
 エリスは泣き崩れながら言う。
 嘘じゃない……それはつまり、キウジが消滅したって事はそれは……つまり……。
 ……ルナが……ルナが死んだということ……。
 俺の体中に何かが駆け巡る。衝撃とも激痛ともいえないそれのせいで体が震える。
「何で……?」
 声をしぼりだしてエリスに問う。
「……おそらくは……自然発火だって……」
 エリスは泣きながら途切れ途切れに言う。
 自然発火……。
 誰かが原因でそれが起きたなら、その相手を憎めば少しは悲しみが紛れるだろう。
 しかし……それもできない。
 突然すぎる出来事。どこへ向ければいいかわからない感情……。俺たちはただ呆然とするしかなかった。


 その日の夜は長く感じた。もう朝なんてこないかとも思えるほどに。
 俺は暗い部屋でベットに座り込んでいる。何もする気になれなくなった俺は、店を閉めて部屋にこもっている。
 エリスは一緒にいることを望んだが俺は断った。今日はルナのことしか考えられそうもない。
 そんな自分のそばに好きな女を置いておけないのだ。今の俺は冷静さを失っている。だから1人でいることを望んだ。
 もし2人でいれば、エリスを激しく抱くことでルナのことを一瞬でも忘れようとするかもしれない。でもそれはただの現実逃避だし、エリスをそんなことに使うようなことはしたくない。
 母親が死んだときとは違う。もう俺は大人だ。これは1人で乗り越えなければならない。
 ルナに母親の死を受け止めろと偉そうに言った俺なんだから……。
 ……今、俺の頭の中にルナとの思い出が駆け巡っている。その中で最初に出会った時のことが頭に鮮明に思い出されていた。
 あいつは食べ物屋のおやじと討論をしていた。食い逃げだとか、食べさせてくれるとかなんとか。しかし飯代を肩代わりしたのが一緒に旅をする原因になったなんて……。
 まったくルナらしいというかなんというか……。
 ……最初はうざったいとしか思えなかったのにな……。
 いつの間にか、俺の中であいつの存在が大きくなって……。いつからだろうな……今じゃ……。
 ……な、なんだ?
 俺の手のひらに大量の水滴がこぼれ落ちる。涙……俺が泣いてるのか?
 止めどなく目から流れ続けている。
 ……かっこわりぃな……俺……。
 思えば眠れない夜も……、無意識に流れる涙を経験したのも……、あいつと関わってからか……。ルナは俺にとってここまで大きな存在だったってことなのか?
 大きな存在……。
 ……昔こんな言葉を授業で聞いた気がする。
『本当に大事な人間は失ってから気づくことが多い。そうならないためにも自分の気持ちをちゃんと把握しておくべきだ』
 ハゲの現代文の教師が真顔で言った言葉。あの時は『三流の恋愛小説の受け売りか?』とかいって鼻で笑ったんだけどな……。
 何かを笑う者は何かに泣く。昔から使われてることわざじゃねぇか……。
 ……色んなことが頭の中をグルグルと駆け回ってやがる……。
 ……どんなに想ったって、どんなに後悔したって……もうルナは戻ってこないのにな……。
 そう……もう……戻ってこないんだ。
 戻って……こない……。
 ん?
 不意に窓の外に一筋の光が通り過ぎていくのが視界に入った。
 ……流れ星?
 ルナは案外あの星になっているのかもしれないな。
 ……ははは、何でこんなこと考えるんだろ?
 子供じゃあるまいし……星になったなんてな……。
 …………ちくしょう、何でまだ涙が止まらないんだよ……ちくしょう……ちくしょう!
 ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 次の日、俺は店を開いた。何かしていた方が気が紛れる。エリスは講義を休んで俺の仕事を手伝っている。
 今日は人前で偉そうに喋れそうもない……と言って。
 こんな日は忙しければ忙しいほどいい。しかしそんな日に限って客が少ないものだ。俺とエリスは無意味にグラスを拭いていた。
 店のドアがゆっくりと開く。どややらやっと客が来たようだ。
 その客は全身を黒いコートで身を包み、フードをかぶっている。まるで自分の正体を隠しているような感じである。
 外見はどう見ても胡散臭い……。
 しかし、今はこんな客でもありがたい。接客をしていれば少しは時間が早く進むだろう。
「仕事屋があるから来てみれば、これは驚きましたね……」
 これはフードの男の第一声だ。
 ん……この声はどこかで聞いたことがあるような……。
 ……まぁそんなことはどうでもいい、さっきの言葉からして、仕事屋としてのこの店に用があるみたいだが……。
 こんな日に初の依頼なんて皮肉もいいところだ。
「ご依頼……ですか?」
 エリスがフードの男のそばに行き聞く。
「ええ、これはあなたにしかできない依頼です」
 男はそう言ってフードをはずす。
 なっ!?
 その男の顔を見たとたん俺とエリスは言葉をなくした。
「シヴァ使い黒崎和臣さん。ルナの暴走を止めてください」
 その男はキウジにいた科学者。DrMだったのだ。


 俺はDrMが来店したため、店を閉める。そして、少し落ち着いてから話を聞くことにした。
「ルナの暴走を止めろって……つうことはルナは生きてるのか!?」
「はい」
 DrMが深く頷く。
 ルナが生きている……。俺は思わず笑顔になる。
「しかし喜んでもいられません。ルナは今も暴走を続け、大質量のプラズマをまといながらどこかの空を飛び回っています」
「くっ……どうしてそんなことに?
 なぜシヴァが爆発したんだ。そして何でおまえとルナは生き残ってる?」
 俺は興奮気味にDrMに問いただす。
「キウジを消滅させたのはセイリュウです。キウジにルナがいることが知られてしまって……」
「セイリュウはルナを殺そうとしたの?」
 エリスが会話に入ってくる。
「ええ、だから私はルナを地下研究室にかくまいました。
 島全体を異常な爆発音が起き、音がおさまってから外に出てみれば、何もない島にセイリュウが一匹立ちそびえていました。
 見つからないからと言って、まさか島全体を吹き飛ばすとは」
「そのセイリュウがシヴァを爆発させたのか?」
「間違いないでしょう。
 出てきた私たちを見て、『おまえが出てこないからこうなったんだ』と言いましたから……。
 その光景にルナが暴走を始め、プラズマに包まれた状態で飛行してセイリュウめがけて突進、セイリュウの上半身を吹き飛ばしていずこかに飛んで行きました」
 俺とエリスは黙り込む。自分の住む場所を何も存在しない場所にされたルナの気持ちは俺たちにもわからない。
 ただ、途方も無い悲しみや怒りが生まれることは想像できる。
 ……確か暴走は感情が消えるまでエネルギーに変換をし続けるということだった。じゃあ今回の暴走は……今までのよりもどんな時よりも……。
「今回の暴走は、どうなるか私にも予測できません。ただ、ルナが暴走状態のまま町などに突入したら、確実にその町は壊滅します。
 そして9日間以上暴走が続けば、おそらくルナは死んでしまうでしょう」
「なっ!?」
 俺とエリスは再び絶句する。
「プラズマのエネルギー自体は感情がおさまらないかぎり無限に発生します。本体の体力を奪うこともないでしょう。しかし、その間は自分の意志で行動ができません。9日間、水も栄養もとらないと人間はどうなりますか?」
「……!」
「そういうことです。今のルナは体が朽ち果てるまでプラズマを発し続け飛び回る、いわば流星と化しています。体が朽ち果てるまでに何とか暴走を止めなければ……」
「どうすればいいんだ!」
 俺はDrMに迫る。
「あなたが以前やったように説得するか、SCEを破壊することです。」
 そうすれば……ルナが助かる!
「よぉし、やってやる!」
 俺はグリーンのコートに手を延ばす。
「やってやるっていっても具体的にどうするのよ!
 ルナの居場所もわからないし、説得が失敗したときSCEの破壊の方法は? ルナはプラズマをまとっているのよ?
 シヴァ砲でも他の武器でも無理、しかもSCEが体のどこにあるのかもわかってないんでしょう?」
 エリスが俺を止めるように言う。
 確かにその通りだ。しかし、俺はどうにも気持ちを落ち着かせることができない。
「エリスさんの言うとおりです。まぁSCEの場所は知っていますし、破壊の方法はありますが……」
「もったいぶらないで教えろ!!」
「SCEは左手のひらに存在しています。そしてプラズマを貫く武器があるんですよ。
 その名はアブソルート砲。セイリュウを打ち倒した、例の絶対的な力を持っている武器です」
「アブソルート砲……!」
 アブソルート……もっともポピュラーな宗教の絶対神の名前……。
「そいつでSCEを破壊すればいいんだな」
「ええ、しかし他にも問題があります」
「ルナの居場所が確定できないって事ね」
「それが一番の問題ですが、他にも多々あります。一つはルナの場所が確定できたとして、そこが遥か遠い場所だった場合に制限時間内に着けるかという問題。
 もう一つはセイリュウ一族の問題」
「暴走したルナをセイリュウが潰しにかかるかもしれない訳か……」
「はい、そして最後は和臣さんがアブソルート砲を使えこなせるかという問題です」
「おい! 俺を誰だと思ってるんだ! シヴァ使いの……」
「アブソルート砲はシヴァ砲の約1.5倍は衝撃があります。
 両手を使えば撃てるでしょうが、左手にある小さなSCEに狙いを絞ることが果たしてできるのでしょうか?」
「うぐ……」
 俺は何も言えなくなる。確かに実際に何回か使ってみないことにはわからない。
「あせってはいけません。大きな問題というのは、できることを1つ1つ解決していくことが、結局は近道となるのです」
 確かにDrMの言うことは間違っていない。
 今の俺は冷静さを失っている、DrMの言うとおりにしておくのが得策なのだろう。
「……わかった。俺は何をすればいいんだ?」
「そろそろでしょうか……」
 DrMが窓の外を見る。俺たちも続いて窓の外を見た。
 ……ずいぶんと騒がしいな。
 なぁっ!?
 ま、まさか……。俺の目に信じがたい光景が映る。
 大空をはばたくセイリュウの群れ。
「私が呼びました」
「ぬわぁにぃぃぃ!?」
 俺とエリスが絶叫する。
「さぁ、交渉しにいきましょうか?」
 俺は冷静に外に出るDrMに恐怖を覚えた。


「まさか私たちが呼ばれるとは思いもよらなかったぞ」
 ここはミカエル学園小等部の裏山。DrMはセイリュウたちがキウジに来ることを見越して、ここに来いとメッセージを残していたらしい。
「私もまさか20匹も引き連れてくるとは思いませんでしたよ」
 セイリュウ相手でも口調が変わらないDrM。
「あの魔女が暴走したとなればこのくらいの戦力は必要だ」
 ルナの力はセイリュウ20匹に値するのか?
「足りないくらいです」
 た、足りない? 俺はDrMとセイリュウの会話にいちいち衝撃を受けていた。
「……ん? おまえらはこの前の……」
 中心に位置し、DrMと会話をしていたセイリュウが俺とエリスを見て言う。
 ということはあのときのセイリュウか……。
「やはり魔女の暴走は止められなかったようだな。保護者ではなかったのか?」
「……………………」
 俺は何も言えない。自惚れかもしれないが俺が側にいれば……こんなことにはならなかったかもしれない……。
「そんなことより本題に入りましょう、セイリュウの皆さんは魔女に手を出さないでもらいたいのです」
「冗談はよせ、このまま放っておけばこの世界に大きな被害が出るに違いない。
 我々が止めないで誰が止める?」
「暴走させた原因はあなたたちセイリュウにあるのですよ?」
「なればこそだ」
「魔女にむかって20匹のセイリュウが一斉にプラズマブレスをあびせればしとめられるでしょうが、それでは魔女は死んでしまいます」
「もともと生きていてはならぬ存在だったのだ。仕方なかろう?」
 生きていてはならない存在……。
「ふざけるな! ルナが生きてちゃいけないだとぉ!?」
 俺は大声で怒鳴りつける。
「この世界に災いをもたらしている。世界のためには仕方あるまい?」
「何だと!」
 俺は効かないとわかっているシヴァ砲を抜く。
「それではダメです。これを……」
 DrMが俺にシヴァ砲よりも少し大型の銃を手渡す。大きな銃口が特徴のそれは、ずっしりと重みがあった。
「アブソルート砲です」
「何!?」
 DrMの言葉にセイリュウたちがどよめく。
「貴様! 禁断の武器を!」
「私はこの武器をあなたたちに向けるつもりはありませんでした。
 ルナの暴走を止めるために使うつもりだったんです。でも邪魔だてするというのならあなたたちにも向けます」
 DrMはセイリュウを睨み付けて言う。
「うぐ……」
 セイリュウたちはそれに怯む。
「まず1つめの交渉は成立……ということでいいですね?」
「1つめだと?」
 DrM以外が全員驚く。
「ええ、もうひとつは頼みと言ったほうがいいですね」
 DrMは眼鏡を押し上げて言う。
「……我々に何を望むのだ?」
 セイリュウのリーダー格が低い声で言う。
「もし、我々が魔女の暴走を止めるのに失敗したとき、魔女を消してもらいたいのです」
「なっ……!?」
 俺とエリスはDrMの言葉に驚愕する。
「私もシャロンの混沌を望んでいるわけではありません。止めるのを失敗してしまえば魔女はいずれ死んでしまうのです。
 それなら被害は最小限にするべきです」
 信じられない……コイツこんなこと考えて……。
「何を言って……」
「あなたが失敗しなければいいことでしょう?」
 俺の言葉はDrMの強烈な一言にかき消された。
「いかかでしょうか?」
「頼まれなくてもそうするだろう。」
 セイリュウたちが頷く。
「さて、まずは1つ問題を解消しましたね、次に行きましょうか?」
 DrMがこちらを見て言う。俺は……DrMに従うしかなかった。


 ギュゴオオオン!!
 ものすごい衝撃が俺の両腕に走る。それとともにアブソルート砲から、一筋の漆黒が走り抜けていった。
「……なかなかですが、衝撃で照準がずれています。これではピンポイントショットはできません。」
「わかってる!」
 俺は吐き捨てるように言った。
 今俺はアブソルート砲の試し撃ちをしている。DrMの言うとおりその衝撃はシヴァ砲の比ではなかった。慣れない衝撃にどうしても腕がぶれてしまう。
「では、もう一度。撃つまでの手順は覚えてますね」
「ああ」
 俺はそういって、半分消滅しているアブソルート砲の銃口を外しにかかる。
 アブソルートの漆黒が銃口を消滅させたのだ。
 アブソルート砲。原理はシヴァ砲とほとんど同じらしい。アブソルートと言う植物を使っているというだけの違いだが、威力は文字通り絶対的だ。
 アブソルートと言う植物は、シヴァと同じような場所に生息する植物だ。そのため、この植物はシヴァの爆発から身を守るためにこの絶対的な力を身につけた。シヴァが爆発するときの熱に爆発を起こし、科学変化が起きる。化学反応を起こしたアブソルートはありとあらゆるものを消滅させる。もちろんプラズマも例外ではない。
 しかし、そんなものが銃身で爆発したら自滅の道を歩むことになるのではないかと思う人も多いだろう。しかし、幸いアブソルートはシヴァの熱だけでは、爆発はするが化学変化を起こさない。化学変化を起こすには空気が必要なのだ。だから銃口から出てから化学変化を起こす。化学変化を起こしたアブソルートはどうすることもできない。銃口が消滅するのは仕方ないことだ。
 しかしシヴァもアブソルートも、もともとは自分の身を守るために力を身につけたのだ。それを兵器として利用する人間ってやつはまったく……。
「手際が悪いですよ」
 DrMが変わらぬ口調で言い放つ。
 いちいちむかつくヤツだ。
 俺は新しい銃口を取り換え、弾を入れ替える。そして銃を構えた。
 エリスとDrMが俺をじっと見守っている。はずしたらカッコ悪いな……。
 ……よしっ!
 俺は意を決してアブソルート砲のトリガーを引く。

 ギュゴオオオン!

 ぐぅ……。
 俺は必死で衝撃に耐える。な、なんとか照準通りにいったな……。
「……いいでしょう。練習はここまで」
「なっ?
 まだ4発しか撃ってないんだぜ!?」
 俺はDrMに抗議の言葉をもらす。
「我慢してください。弾は6発しか残っていなかったんですよ。」
「……6発? ってことは残り2発ってこと!?」
 エリスが慌てて言う。
「そういうことになりますね……」
「そういうことになるって……」
「アブソルートは貴重な植物です。そうやすやすと手に入るものではありません。
 さぁ次はルナの移動進路の予測です。部屋に戻りましょう。」
 DrMは有無を言わせるスキを与えないほどの勢いで淡々と話し、急ぎ足で俺の店に入っていった。


「今入っている情報をまとめてみると……」
「……統一性があるとは思えないんだけど……」
 俺とエリスが言う。各地の情報を集めると、ルナは不規則的な動きをし、たまにとどまって2時間ほどプラズマを大量に放出しているらしい。
「暴走状態時は、潜在意識によって動かされています。それが何かわかれば移動進路は予測できるはずです。
 例えば、このとどまっている場所を挙げてみましょう。
 とどまるところを予測できれば楽ですからね。今わかっているのは一番近いところでカイトの山。そして、ルカオの村です」
「2つだけじゃなんとも言えないわね」
 エリスが紅茶を口に運びながら言う。
「カイトの山にルカオの村か……」
 俺たちは悩み込む。
「先輩。例の飛行物体の新しい情報です」
 博幸が店に入ってくる。情報収集を博幸に頼んだのだ。
「しかしこの飛行物体は何なんですか?
 プラズマを発しながら飛び回ってるみたいですけど」
「長生きしたかったらあれこれ詮索しない」
 俺は博幸を睨み付けて言う。
「は、はははは。じゃ、ここに資料を置いておきますから……」
 そう言って博幸は店を出ていった。博幸には悪いが詳しいことを教える訳にはいかないからな。
 DrMはそんなやりとりに目もくれず博幸の持ってきた資料に目を通していた。
「……ハナトの町と、それにソロネ学園でもとどまっているみたいですね」
 ソロネ学園?
 ……ソロネ学園っていやぁ確かフィラがいる場所じゃないのか?
 フィラは無事だろうか?
 ……ん?
 カイトの山、ルカオの村、ハナトの町、そしてソロネ学園……。
 これは……これはまさか!
 確かカイトの山はセイリュウと出くわした場所、ルカオの村はエリスと再会した温泉の村、ハナトの町はクワバーと戦った場所、それにソロネ学園は……フィラと会った場所。
 ……まさかこれは……。
 俺は思わず立ち上がる。
「どうしたの?和臣」
 エリスが驚いて言う。
「わかったんだよ……」
「わかったって……まさか統一性が?」
「ああ、ルナが止まった場所は、俺とルナが訪れて思いで深い事件を経験した場所だ」
「つまりそれって……」
「ルナの潜在意識にあるもの、それはつまりあなた。黒崎和臣って訳ですね」
 DrMが俺の言葉を具体化する。
「ルナは和臣を探してるってことなの?」
 ルナが俺を探している……。
「おそらくは……。そうなれば、立ち寄りそうな所は予想できますね。もっと狙いを絞り込めば……。そうすると一番思い出深いところがいいですね。そこならとどまる時間も長そうですし……。
 ……と、なると、和臣さん心当たりはありますか?」
 DrMが俺に問いかける。俺はすぐさまその問いに答えた。
「ルナと初めて出会った場所、トサミの町だ」
 俺はこの予測に絶対の自信があった。ルナが俺を探しているなら必ずそこへ来る!
「しかし困りましたね、トサミの町までどんなに急いでも7日以上かかりますよ。その前にルナが通過してしまうかもしれませんし、何か方法を考えなければいけませんね」
 DrMが言う。
「7日もかかったらルナは……でも方法なんてあるのか?」
 俺は焦りながら言う。DrMはそんな俺とは対照的に落ち着いた口調で喋りだした。
「私に心当たりがあります。あなたたちがキウジに来る前、先に訪れた人物がいるのです」
 俺立ち寄り先にキウジに来た人物?
 ……それってまさか……。
 俺とエリスは顔を見合わせる。
「何かご存じですか?
 彼は空を飛んでキウジに来たのです。彼の技術なら早くキウジにつくことも……」
「空を飛んだ!?」
 俺とエリスの声がハモる。空を飛んだ……。俺は思わず空を飛んでいるヤツのことを思い浮べてしまった。
 ……やるかもしれない……ヤツなら……。
 俺は言い知れぬ恐怖を覚える。
「素晴らしい技術ですよ、かなりの技術者に違いにありません」
 ハハハハ……。
 俺たちは何だかクワバーのことを言い出せなくなっていた。


「何? 私の力を借りたいというのか!?」
 クワバーが例のごとく、大量の唾を飛ばしながら言う。俺たち3人はクワバーの研究室にいた。言い出しにくくても背に腹変えられない。今もルナは暴走を続けているのだ。クワバーの力が必要なら頼みごとをするのも仕方がない。
「なぁ、おまえ空を飛行できる技術を持ってるだろ?」
 まだはっきりとした事実はないが、カマをかけて言ってみる。
「どこでその情報を手に入れたのかは知らんがそのとおり!
 私のバトルスーツ、DKP朱雀百式には飛行機能が搭載されている」
 百式? まさか一式から九十九式まで造ってあるんじゃないだろうな?
「それはどんなに遠くでも飛行可能ですか?」
 俺の隣にいるDrMが口を開く。
「シヴァの量を調節すれば可能だろう。まぁ限界はあるがな」
「ではここからポウロ大陸までは?」
「そんな遠くまでは実験したことがないが、不可能ではないだろう。しかし、かなりのシヴァを使用するので、常人には耐え難いスピードで飛行する。それに耐えられるかはわからんが」
「耐え難いスピードっていうとどのくらいだ?」
 俺が聞くとクワバーが計算を始める。
「簡単に見積もって時速約1500qくらいだ」
「時速1500q……?」
 俺はしばし考える。俺の買った船の時速は100qだったはずだ。だとするとその15倍!?
「スーツも大幅に改良しなければならない。それに約2時間30分も飛行しなければならないからかなりの体力が必要だな」
 体力……自信が無いわけじゃないし、それを使わなければルナはたすけられないんだ。
 やるしかないだろう。
「頼むクワバー!
 そのバトルスーツを俺に貸してくれ!」
「なぜだ?」
「必要だからだ!」
「……だったら『シヴァ使い』の名を今日で取り下げ……」
「んなもん取り下げてやる!
 なんだったらおまえが名乗ってもいい!」
 俺はクワバーが言い終える前に言い放つ。ルナの命と『シヴァ使い』の名、どちらが大切かなんて考えなくてもわかる。
「な……」
 クワバーは俺の返事に目を白黒させている。
「だから頼むクワバー」
 俺は頭を下げて頼み込む。クワバーは少し考えてから眼鏡を押し上げて鼻で笑う。
「フ……わかった。ただし『シヴァ使い』の名はいらん。取り下げる必要もない」
 今度はクワバーの言葉で俺の方が目を白黒させる。クワバーは『シヴァ使い』の名に執着していたはずだ。
 なのになぜ?
「ふん……私をあまり甘く見ないでもらおう。今のおまえは何か重大な事件に巻き込まれている。そして何よりもその解決を望んでいるに違いない。
 つまりおまえにとっての『シヴァ使い』の名の価値も下がっているはずだ。そんな名ならいらん」
 クワバーが続けて言う。
 ……コイツがこんなまともなことも言うなんて……。
「その代わりその事件が解決したとき、私と勝負してもらう。いいな?」
「ああ……わかった……」
 俺は何だか言いあらわせない気持ちになる。
「ふん、じゃあトサミにつくように調整をする。3時間ほど時間をもらおう」
「それなら俺たちも手伝う……。」
「私の研究まで盗むつもりか貴様ぁ!」
 ……まぁ仕方がないな。ここはクワバーに任せるしかない。俺たちは研究室を後にした。


 俺は一人で意味もなくブラブラと歩いていた。
 3時間。短いとはいえないが長すぎる時間でもない。普通なら苦にも思わないだろうが、今は一刻一秒でも時間が惜しい、しかしこれは待ってなければいけない時間だ。だからこそ余計に苦しい。
 俺は1分置きくらいに自分の懐中時計を見ている。秒針が動くのが遅く思える。時計が壊れてるんじゃないかと他の時計を見たりする。
 当然ながら壊れてはいない。気持ちの問題なのだ。ルナのことが一時も頭から離れない。
 早く、早くたすけてやりたい。
 俺の頭のなかはそれでいっぱいだった。
 時計を見た回数が50回目を越したとき、ただうろうろしているのに耐えられなくなり店に戻ることにした。

 店にはエリス一人しかいなかった。DrMの姿は見えない。
「DrMは?」
「クワバーの様子を見にいったわ」
「そうか……」
 俺はそう相づちを打ってカウンターに座った。俺も様子を見にいこうかとも思ったが、クワバーの邪魔をすることにもなりえないので我慢する。
 しばらく何も言わない二人。相変わらずゆっくりと流れていく時間。
「ねぇ和臣……」
 エリスが俺のすぐ隣の椅子に座って声をかけてくる。
 俺はエリスの方に顔を向けると、エリスは思い悩んでいるように下を向いていた。
「和臣は……ルナの暴走を止めた後どうするの?」
 俺はエリスの一言にハッとする。これと同じような質問を前にも受けたことがあったからだ。
「俺は……」
 俺は前と同じようにはっきりと答えることができない。
 何でだ……?
 はっきりと決めたはずなのに……。
「ルナの暴走を止めた後、家族も故郷もなくなったルナを和臣はほうっておける?」
 おそらくはほうっておけない。
 しかし俺はそれを言葉にできない。
 それはすなわち……。
「ほうっておけないよね……それは情が移ったから?
 それとも……ルナが好きだからから……?」
 ルナが好き……。確かに好きだ。しかし、それは俺がエリスに抱いているような感情ではないはずだ。
「ルナは確かに好きだけどそれは愛情じゃない。俺が好きなのはエリスだ」
「本当に?」
 俺はエリスのその一言に対してすぐに返事ができなかった。
 何でできないんだ?
「自分の気持ちがわからないんじゃないの?」
 自分の気持ちがわからない?
 そんなことはない!
 俺の気持ち……。俺の気持ちは……。
「……俺はエリスが好きだ……」
 俺は自分に言い聞かせるように呟く。
「……いつから私こと好きでいてくれたの?」
「……正確にはわからない……。だけどきっと俺のおふくろが死んだ夜、そばにいてくれたあの時からずっと……」
 そうだ。俺はずっとエリスを想い続けたはずだ。
「ずっと? 今も? これからも?」
「……ああ……」
「じゃあルナは?」
「ルナは……」
「ルナのこともこれからずっと想い続けるんじゃない?」
 ルナのこともずっと想い続ける?俺は2人とも好きだということなのか?
 いや、俺はあの時はっきり選択をした。俺はエリスが……エリスのことが……。
「ルナのそばにいてあげたいんでしょ?」
「その気持ちはある……でも……」
「今までルナを子供とか魔女とか、そういう目でしか見たことがないんじゃないの?
 ルナを一人の女として見てみたことがある?」
 一人の女として……確かにそんなことは無い。いつも、まだ子供だと思ってそんなふうに考えたことはなかった。
 ……もしかしたら故意的に否定していたのかもしれない。何かに気がつくのを恐れて……。
「……私は和臣が好き、でも和臣が苦しみながら私を愛してくれるなんていうのはイヤ」
「苦しみながらなんて……」
「わかっちゃうのよ……私、昔からずっと一緒だったもの」
「………………」
「私がルナの話を持ち出すとき、決まって和臣は興味のないフリをしてたわ。
 まだルナのことが気に掛かることを私に気づかせないために、私が余計な心配しないようにって……」
 俺はエリスの言葉を否定できない。なぜならそれが事実だから。
「和臣は私のことが一番好きだって思い込んでるんだよ」
 エリスが好きだと思い込んでいる?
 そんな馬鹿な……。
「確かに昔は私のことを好きでいてくれたかもしれない、でも今は…………。
 和臣は自分の気持ちが変わらないと信じ込んでるんだよ……」
 信じ込んでいる?
 昔エリスが好きだったから今もそうだと思い込んでいるってことなのか……そんな……。
「そんなことない!」
 俺は立ち上がって大声で怒鳴る。
「だったら……だったら何でルナをたすけた後必ず私のもとに帰ってくるの一言くらい言ってくれないのよ!」
 それに対してエリスも立ち上がって怒鳴り返す。
「和臣はルナを放っておけないくらいわかるわよ!
 それも和臣のいいところだから……私が好きなところだからいいの……。
 でも……おかしいじゃない……、ルナをたすけても私のもとに帰ってきてもいいじゃない……。
 私はルナと3人で暮らしてもいいとおもってるのに……。和臣が私のことを好きだっていってくれたから……それを信じてるから……ルナが和臣の側にいても平気なのに……」
 俺はエリスのその言葉に対して何も言えない。
 確かに……そうだ……。
 何でそういう発想が出来ないんだ。
「さっき苦しみながら愛してくれるのはイヤなんて言ったけど……本当は私が苦しいのよ!
 和臣は私と話すときも……見つめるときも……どこかルナのことを考えてるように感じる。それが苦しくてたまらないのよ!
 私のことが本当に好きなら私だけを見て!
 ……私のことが……本当に……好き……なら……」
 エリスは言葉を途中で詰まらせ涙を流す。
 また……俺は……。
 俺は何回エリスを泣かせれば気が済むんだろう。
 ……俺が、自分の気持ちをはっきりさせないからなのか?
 俺が自分の気持ちがわからないからいけないのか?
 わかろうとしないからいけないないのか?
 俺は……もうエリスを泣かせたくない。
 ……俺は……。
「……俺はルナのそばにいてやりたい。
 ゴメン……これが俺の本当の気持ちみたいだ」
 俺はこの言葉を口にしたとき気分が少し楽になった。いままではっきりと具体化できなかった物が形になった感じだった。
 これが……俺の本当の気持ち……ってこと……なのか……?
「……和臣は和臣の思うようにやればいい……私、そう言ったよね?」
 エリスは涙で濡れた顔で笑顔をつくる。
「それが、私の願いだから……大丈夫。和臣がそばにいなくても……」
 俺はエリスに何を言えばいいのかわからない。いや、かける言葉なんて無いんだ。きっと。
「もうそろそろ2時間経つわよ?
 そろそろ研究室にいかないと……」
 エリスが顔を伏せながら言う。俺は黙って頷き店の出口に向かった。
「和臣……」
 俺は呼び止めるエリスの声に振り返る。
「このリボン……もうしばらくつけてていいよね?」
 エリスがリボンに結び直しながら言う。
「俺はこのバンダナをはずす気はないぜ?
 これは俺がエリスを好きだった証だからな」
 俺はエリスの問いに答える代わりに、自分の気持ちをはっきりと言ってバンダナを締め直した。
「ありがとう……じゃあね和臣」
 エリスは涙を拭って笑顔をつくる。
 最高にいい笑顔。
 やっぱりエリスは……いい女だ。
「ああ、じゃあなエリス。いってくる」
 俺は力強い返事をして店を出た。


「いいタイミングですね。」
 ミカエル学園へ行く道の途中でDrMとバッタリと出くわす。
「できたのか? 例のモノは?」
「おや?」
 俺がそう尋ねるとDrMは少し驚いたような表情を見せる。
「どうした?」
「いや……いい顔になった……そんな気がしたもので……。
 ……ふふ、柄にも無いことでした。気にしないでください」
 何が言いたいんだろうか?
「……例のモノでしたよね?
 できてますよ。さて、いきましょうか……」
 DrMは前の言葉をかき消すように話をもとに戻し、研究室に向かうように促す。
 いよいよ……か。
 俺は拳にグッと力を入れ、DrMの後に続いた。


 セイリュウが来ていた裏山に例のモノはあった。
 それを見たとき、先ほど入れた力が抜けてしまった。
「フハハハハハ! 待っていたぞ!
 どうだ! このDKP朱雀百式改は!」
 どうだと言われても……本当に俺にこんなものを着ろと?
 訳のわからない飾りは少なくなっているが……。相変わらず真っ赤で、その外観はバトルスーツの域を脱している。
 羽のついた車と言ったところか?スザクのくちばしで作られたスザク。と表現するのが適当かもしれない。
「どうだ!
 あまりの美しさに声もでまい?
 フハハハハハ!」
 あ、頭痛い。
「では操作方法を説明しましょうか?」
 DrMが会話に入ってくる。
「何で、おまえがそんなもの知ってるんだ?」
「私もDrクワバー様の手伝いをして製作に携わりましたから」
 ド、Drクワバー様の手伝い?
「フハハハハ、Mは非常に優秀な助手だ!」
 助手……、DrMは何を考えてるんだが。
 いや、クワバーとうまくやっていけるのは一種の才能だ。
「説明をさせていただきます。まずこのスーツを装着してもらい、飛行に適した姿勢に固定します。
 そして、バーニアを噴射。それから目的地付近に着くまで操作は必要ありません。目的地に近づくとアラームが鳴ります。
 鳴りましたら右腰のレバーを引いてください。すると着陸体制になります。そして最後に自分の判断で左腰のボタンを押してください。
 最終的に自動でスーツが外れ、落下傘が開きます」
 俺はDrMの説明を頭の中にたたき込む。
「もう一度説明しましょうか?」
「いいや」
 俺はDrMの申し出を拒否する。一刻も早くルナの暴走を止めたい。俺はバトルスーツの装着を始めた。そのさい、ショルダーガードのついたグリーンのコートは脱ぐ。そうでもしなければとてもじゃないがこのスーツは装着できない。バトルスーツを装着するのは結構大変で、DrMとクワバーに手伝ってもらってやっと装着が完了した。
「視界は?」
 DrMが聞く。サングラスごしに見える景色と大して変わらない。
「問題ない」
「温度と酸素濃度は?」
 DrMがバトルスーツの最終チェックをしながら聞く。熱くも寒くもないし、息も苦しくはない。
「大丈夫だ」
「では姿勢の固定に取り掛かる」
 クワバーとDrMが俺のスーツを固定し始める。2人の言う姿勢とは直立のことだ。俺は手首から先以外を完全に拘束された。
「レバー操作、ボタン操作は可能か?」
 俺は手を動かし、それが可能かやってみる。問題ないようだ。
「OKだ」
 俺のその言葉を聞くと2人はバーニアの操作を始める。
「よし、すべて問題ない。
 シヴァ使い、死ぬのは許さんからな……」
 クワバーが俺の顔を見据えて言う。その顔は今までに見たことの無い表情だ。
 な、何だよ……。
「……ああ、わかってる」
 それに釣られてか俺もらしくない顔と口調で答えてしまう。
「和臣……」
 クワバーの態度に呆然とした俺を、さらに呆然とさせる声が耳に届く。
 ……この声はDrMの声だ。しかし、今までの声と違う。
 感情というか……心がこもった声だった。しかもDrMは俺をさん付けで呼ぶはずなのに……。
 ……聞き間違いか?
「DrM?」
「健闘を祈りますよ」
 俺が、聞き直すように言うと、DrMはいつもの口調に戻っていた。
 やっぱり聞き間違えか?
 いや……そんなことは気にしてられない。
「ああ……」
 釈然とはしなかったが、2人とのそんな言葉のやりとりは、俺の背中を強く押してくれたよう気がした。
「心の準備はいいな?」
 クワバーの問いに力強く頷く。
「それではカウントダウンに入ります!10、9、8、7」
 DrMがカウントダウンを開始する。
「6、5、4、3」
 ……待ってろよルナ。
「2、1」
 ドォォォォォォォォ!
 物凄い轟音が鳴り響く。
「0!」
 ゴォォォォォォォォ!
 その時俺の体は勢い良く空に飛び立った。


 ぐぅ……。
 猛スピードで俺は空を突き進む。雲を突き破り風を切り。もちろん衝撃はあるが、耐えられないほどではない。この姿勢とこのスーツの性能のおかげか?
 ……景色?
 そんなものは俺の動体視力をもってしてもとらえられない。ただ、異常なスピードで何かが通り過ぎていくだけだ。 それに景色をのんびり見ているような気分にはなれない。
 俺の頭の大半はルナのことで支配されている。ルナは今も暴走を続けている。俺を探しながら……。
 ルナ、俺も今空を飛んでるんだぜ?
 おまえのそばにいてやるために。俺はおまえのそばにいてやりたい。
 …………いや、そばにいたいんだ!
 ピピピピピ!
 アラーム音が鼓膜を刺激する。俺は右腰のレバーを引いた。シュウン……。バーニアが停止する。俺は放物線を描くように落下した。
 ……って、おい。大丈夫なのか。頭から落ちないようにバランサーが働いているみたいだが、地面がどんどん近づいてくる。この分だと200mぐらい先の森に突っ込んじまうぞ?
 俺の全身からイヤな汗が出てくる。
 くっ……ぶつかる!
 ゴォォア!
 俺が木への激突を覚悟したと同時に逆噴射が起きる。落下速度が急激に落ちた。このくらいのスピードなら……!
 俺は左腰のボタンを押した。
 バシュン!
 体を拘束していたバトルスーツが一瞬で外れ、落下傘が開く。
 そこからは、ただ落下する形になった。
 ガサガサガサ……。
 落下地点にあった常緑樹の木がクッション代わりになって落下速度を落とし、落下傘はズタズタに引き裂かれた。
 ドスン!
 木に辛うじてひっかかっていた落下傘を外すと、重力にひかれ体が地面に落ちて行く。
 少し着地には失敗したが、体は思ったよりも痛みがない。
 どうやら成功したみたいだな。とはいえ長時間の飛行からくる疲労と、落下時の多少の痛みが体を走っている。
 体はしばらく横になっていたいと言っていたが、それに応えるわけにはいかない。
 俺はゆっくりと立ち上がり、服の汚れを払いながら現在位置の確認を急いだ。
 ……ここは、俺がゲンブを仕留めた場所か……?
 そう、偶然にもそこはルナに初めて会う前にやった仕事の現場だったのだ。
 ……ここから始まり……ここで終わるのか?
 俺はそんなことを考えながらトサミの町へと急いだ。


 トサミの町は異常に静まり返っている。町人を隣町まで非難させたから当たり前なのだが。俺は町を背にして、以前ルナとともにスザクと戦った草原に立っていた。アブソルート砲の弾丸と銃口がちゃんと装着されているか何度も確認をしながら。
 待つこと1時間。冬の風が俺の体に容赦なく吹きつける。町で新調したグリーンのコート(ショルダーガードはついていない)を着込んでいるが、寒いことこの上ない。
 その寒さが、もしかしたらここには来ないかもしれないという気持ちを生み出すが、ルナと過ごした日々がその気持ちを打ち消す。
 俺はもう一度アブソルート砲の弾丸と銃口の確認しようとアブソルート砲を取り出す。
 その刹那!
 流星のごときプラズマが遠い空からこっちに向かってくるのが、俺の視界に入る。
 ルナだ間違いない!
「ルナァァァァァァァァァァ!」
 俺は限界まで大きな声でルナの名を叫ぶ。その声が届いたのかどうかはわからないが、ルナだと思われる流星が飛行速度を上げ、さらにこちらに向かってくる。
 そして俺より30m程離れた地点で動きを止めた。5m程の高さから2m程の高さまでゆっくりと降りてくる。
 プラズマに包まれているのが何なのか確認するには十分な距離だ。
 俺は目を凝らしてプラズマを見つめる。
 ……間違いない。ルナだ!
 プラズマの中にいるルナは、神々しく、天使のようにも見えた。その表情は俺の知っているルナからは想像できないような、感情のこもっていない表情をしている。
 俺の目には表情がつくれなくて苦しんでいるようにも見えた。左手の一部分が異常に発光しているのも確認できる。SCEはあそこか……。SCEの破壊は最後の手段だ。何とかルナが俺の言葉で目を醒ましてくれればいいのだが。
「ルナァァァァァ! 目を醒ませ俺はここにいる!」
 俺はゆっくりとルナに近づきながら大声で語りかける。
 バチバチバチィ!
 それとともにルナから大量のプラズマの放出される。俺は素早く反応して後に跳ねた。俺のさっきまでいた場所が吹き飛ぶ。
「俺がわからないのか?
 それともわかっていて攻撃をしているのか!」
 ルナは俺の声にまったく反応せずにプラズマの放出を続けている。
「ルナァァァ!
 もう悲しまなくていい! これからはずっと俺がそばにいる! ずっとそばにいたいんだ! だから目を醒ましてくれぇぇぇぇ!」
 俺は自分の想いを必死に叫ぶ。しかし声が届いている様子はまったく無い。
 それから何度もルナに語りかけたが、反応は無かった。
 くそっ……もう俺の言葉は届かないのか……?
 俺の気持ち、俺の思いはすべてルナに伝えたはずだ……。
 ……やっぱりSCEを破壊するしかないのか?
 ……距離は30m。この距離なら外さない自信はある。
 今なら……。俺はゆっくりとアブソルート砲を構えてルナの左手の発光している部分に照準を合わせた。
 心臓の音が大きくなる。
 ……これを外したら……。もし体にでも当たったりでもしたら。
 ルナは……。
 俺の心の中で迷いが生まれる。
 ……迷っている暇はないはずだ。しかし、震えが止まらない。
 迷っている暇は無い! 迷っている暇は無いんだ!
「すぅ……」
 俺は大きく息を吸い込む。その時、震えが一瞬だが止まった。俺はアブソルート砲のトリガーを引く。

 ギュゴオオン!

 一筋の漆黒がアブソルート砲から放たれる。
グシュア……。
 銃口が虚無によって歪み、かき消されて行く。
 まるでスローモーションのようにゆっくりと流れる時間。俺が放った一筋の漆黒はルナに向かってゆっくりと走っている。

 当たれぇぇぇぇぇぇぇ!

 俺は心の中でそう願いながら漆黒の行方を見つめる。

 ………………!

 ルナの左手のすぐ横を通り抜ける漆黒。

 外……れた……外した……。俺の体に脱力感が通り抜ける。
「あぁぁあぁあぁあぁあああぁぁぁ!」
  ルナが俺の放った漆黒に反応し、人とは思えないような声で発狂しながらプラズマの放出量を激増させる。

 ドォォォン!

 俺の10m程先にあった岩がプラズマを受け爆ぜる。
「ぐぅわぁ!」
 俺は脱力感があったためすぐ反応できず、その爆風によって15m程吹っ飛ばされた。
 俺の体は地面に叩きつけられ、余った衝撃が俺の体を転がす。俺は激痛を堪えながら、体勢を立てなおし、ルナの方を見た。
 ルナの放出しているプラズマは半径40mは悠に越している。吹っ飛ばされなきゃ、プラズマに巻き込まれてたようだ。
 まだ……悪運はあるようだな。俺はボロボロになってしまったコートからアブソルート砲の銃口と弾丸を取り出し、半分消滅している銃口を外しにかかった。
「うぐっ!?」
 不意に左腕に走る激痛。俺は反射的に痛みの発信源に目をやった。
 鮮血が流れだしている左上腕部。他の部分は打ち身や擦り傷、切傷などの軽傷ですんでいるが、左腕だけは明らかに深い傷を負っていた。
 なんて……ことた。
 アブソルート砲は両腕でしか撃てる自信がない。こんな傷を負ってしまったとなると……。
 ……考えるのは後だ。俺は取り敢えず痛みを堪えながらアブソルート砲の銃口と弾丸をセットする。
 その間も力を入れる度に左腕に激痛が走っていた。
「よし……これで……」
 アブソルート砲のセットが完了したときには痛みによって、涙が出てきていた。
 ……やるしかないんだ。やるしか……ない。
 俺は自分に何度もそう言い聞かせ、アブソルート砲を構える。
 左腕は今も激しい痛みを訴えている。距離は45m、しかも左腕負傷……。
こんなので左手をピンポイントショットなんてできるのか?
 さっきは30mの距離で外したんだぞ?
 しかもこれは最後の弾だ。外したらそれで終わり。
 いや……最悪の場合、照準がずれて、ルナの心臓を撃ち抜いてしまう可能性だってある。
 そんな考えが浮かんだ時、俺の体に大きな恐怖感が走り抜けた。

 ルナを殺してしまうってことか? この俺の手で……?

 イヤだ……そんなのはイヤだ!
 そんなのは……絶対に……。
 ……それならいっそ撃たない方が……でも、ここで撃たなかったら失敗したことになってセイリュウがルナを殺す。
 どっちにしろルナは……。

 ……やるしかない、わかってる!
 ……………………でも!

 さっきよりも体が大きく震える。もう成功する可能性なんてないに等しい。
 やってもやらなくても同じじゃないのか? だったら……俺はルナを殺す可能性があることなんて……したくない。
 俺はアブソルート砲を下ろした。それとともにきつく締めていたはずのバンダナが俺の頭からハラリと落ちる。
 ……エリス……。
 ……ハハハ……俺を見捨てたのか?
 そうだよな、こんな……こんな情けない男……。
 ……ルナもエリスも何で俺のことなんか……俺のことなんかを好きだなんて言ったんだ?
 こんな情けない男なんかを……。
 俺はもう一度落ちたバンダナを見る。
 ……まだ、間に合うか?
 もう一度ルナのそばにいられるような男に戻れるか?
 愛される価値のある男に!
 俺はバンダナを拾い左腕の負傷部分をきつく縛る。
 このままじゃ、俺を慕い頼ってくれていたルナにも、今でもリボンを付けてくれているエリスにも、そして今までの俺自身にも申し訳が立たない。
 俺は誰だ?
 俺はアブソルート砲を構え直す。バンダナで縛ったせいか左腕の痛みも少しは抑えられている。
 俺は……黒崎和臣!
 シヴァ使いと呼ばれる超一流の賞金稼ぎ!
 どんなこともやりとげてきた! ルナのそばにいた男はそんな男だったはずだ!
 ……これからもそばにいられる男なら絶対に外さないはずだ!
 そして俺はそんな男になりたい! いや! なるんだ!
 俺は力強くアブソルート砲のトリガーを引く。
 それとともに一筋の漆黒が真っすぐとルナのもとへ走っていった。
 まるで俺の想いのごとく真っすぐと……。



終章 そばにいたいということで 完

魔女の飼い方へ