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布施の話
 
 昔、オーストリアにある、水の都ウイーンでのこと。美しいこの都にも、貧民街があり、貧しい子ども達は貧民街の一角にある小さな 公園で遊んでいる。 それをじっと見ている一人の老人がいた。その老人は、辺りをきょろきょろ見渡しながら、座っては何かを拾い、 ポケットに入れていた。そしてまた、場所をかえ何かを拾い、ポケットに入れていた。
 貧民街をパトロールする警察官が、この老人の行為を見ていたが、ずかずかとこの老人に近づくと、 「お前は、今何を拾った!!」と詰め寄った。老人は「いえ、何も」「……とは言わせないぞ。たった今、俺はお前が何かを拾って ポケットに入れているのを見たばかりだ。」「いえ、とても見せるような物ではないですので」という老人の手を振り払い、 「お前は、拾得物は警察に届けることを知らないのか。」と言って、老人のポケットから、無理矢理老人が拾っていた物を出させました。
 きっとお金か何か出てくるものだと思っていたのに、老人のポケットから出てきた物は、錆びた釘やガラスの破片がごろごろと 出てきました。
 「何でお前はこんな物を拾っていたのか。」不思議に思った警察官は老人に尋ねました。 「ごらんなさい。あんなに楽しげに遊んでいる子ども達を。家が貧しい故、みんな靴を買ってもらえず、裸足で飛び回っているでは ありませんか。怪我をさせたらかわいそうですからねえ。」
 気まずくなった警察官はこそこそとその場を立ち去ったそうです。
 仏教の教えの中に、六波羅蜜といって、6つの修行がある。

 @布施 A持戒 B忍辱 C精進 D禅定 E智慧

 その第1番目に「布施」があります。
 布施は、お金や品物で施しをするのも、「布施」ですが、財のない人でも「布施」はできます。この老人は、決してたくさんのお金や、 品物を子ども達に与えたわけではありません。真心の行いが「布施」になっています。
 この老人は教育者の父といわれるペスタロッチだということです。